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『さあさあ遂に決勝戦! この戦いで今年最強の小隊が決まります!』
国際選抜戦4日目。
駿馬の如くあっという間に駆け上った。
今日の戦いで今年最強、いやそれだけじゃない。
暫定ながら、この世代の最強が決まるんだ。
『改めてそれぞれの小隊の説明を致します! まずはアメリカ代表のカエサル小隊!』
もう頭に穴が開くんじゃないかって。
お馴染みの情報だ。
曰く隊長はS級の『歩く核弾頭』クラーク・カヴィル。
それに付き添うは同じくS級2人、『無拳銃』のロビン・マズレール、そして『閃光』キャナリー・ホワイト。
残るメンバーもAAA級と、まさにオールスター小隊となっている。
『彼らに相対するはイタリア代表、フォード小隊!』
移り変わる。
これも何度目か、自分のことだ、わかりきっている。
『よもやこの隊に常識の言葉無し! 『脳筋』エイラ・X・フォード! そして『変幻』四道 夕のたった2人のみ! まさに生きる伝説!』
わかっているがそこまで持ち上げなくてもいい。
確実に音は存在する。
実況の甲高い声が、右から左へ吹き抜ける。
それは心に貫通、俺たちを記憶へを収納する。
『それでは入場です! 皆さま盛大な拍手をお願いします————!』
「私たちを呼んでいる」
「そうだな」
「負ける気は毛頭ない」
「当たり前」
「掴むのは勝利。成るのは最強だ」
「その通り」
これは既に分かりきった問いかけである。
ブルーライト照らせば既に回答欄に記入済み。
それと同じで周知、もう脳裏には焼き付いている。
「やっと、やっと『全力』を出せるな」
「本当はレネの力も使いまくりたかったんだが……」
「なに大した問題ではない」
「まあ無いもん気にしてもしょうがないか」
身体は快調に。
むしろいつもより調子がいいくらい。
神刀は頼れないが、いよいよ強化同調、そして明日を考えなくていい解放感。
もはやネタバレも消耗も恐れるに足らず。
全力全開、全速力のパワーファイトが臨める。
「にしても生きる伝説とは、随分カッコよく言ってくれるな」
「うむ! 伝説として恥じぬ戦いをしないとな!」
ハードル上げるなら飛び越える。
下を潜るなんてトンチはしない。
あくまで正攻法、あくまでこのスタンスで。
この身をもって証明するのだ。
「さあ行くぞ相棒!」
輝きの入り口、その先に待つはアメリカ産の戦士たち。
それをたいらげる。
相棒が手を差し伸べる。
その手を取る。
解けないよう、強く結ぶ————
「————宜しく頼むぞ!」
「————こちらこそ、いい試合をしよう!」
隊長同士が手を交わす。
そこに狂気的感情は一切なく、まさに純粋純白なトレード。
「そして変幻よ」
「ん?」
「昨日使った、いや神降ろしだが……」
「それについてはノーコメントで」
「はっはっは。それもそうだな。試合が終わったら聞くとしよう」
クラークが相変わらず漢気な笑み。
レネの詮索は止めたよう。
(あんまり焦ってる様子はない。案外俺が使えないってことがバレてんのかもな)
そりゃそう。
神降ろしは、選ばれし者にしか出来ぬ大儀の法。
一回一回が重いのだ。
更にはリスクも伴う。
普通に考えれば昨日今日と連発できるとは到底考えられない。
(まあ俺たちも初手で銀世界を使おうなんて思ってないけど————)
「お喋りはここまでだな」
「ああ! 本気で行くぞ爆弾男!」
「こちらもそのつもりだ」
背を翻す。
相手に反発、己が足を決まりの場へと運ぶ。
離れていく距離と距離、真ん中空白に、しかして流れるのは闘気が生み出す見えない電撃。
高ぶる感情が生み出した無機質エネルギー。
仮にいま試合開始してもすぐ動ける、そんな臨戦態勢な気の持ちよう。
『それではこのカウントも最後の最後! 10カウントのスタートです!』
10、9、8、7、6、観客の声も合わさった大音量ノック。
乱れることない、心地よく刻まれる心拍数。
血流は正常、相手を見据える。
頭、腕、足、腹部、装備、その気概に至るまで、全てを睨むように。
「ユウ」
「わかってる。全力で飛ばす」
「ふっふっふ。まさに原点回帰だな」
カウントに挟み入るこれらの言葉たち。
再確認する。
俺たちは上へと登る、そして更に上へとも登る。
「————ようやく暴れられる!」
「————やり過ぎは、いや今回はやり過ぎるくらいが丁度いいか」
3つ、2つ、1つ、嬉々として。
観客が買い手なら俺たちは豪華な食事か食材か。
立場は逆転だ。
俺たちは見世物でもなんでもない。
むしろ人の性を飲み込むビッグ・イーター。
最後の宴、開幕である。
『怒涛の決勝戦! いざ開始です!!』
ゼロカウントで流れ出す戦いの音楽。
音程を無視した独奏曲、いやいやチーム戦だ。
アメリカ漢たち、すぐさま動き出す。
5人が5人全員特攻、俺たちが動く間も無く、しかして隙は一切ない。
(やっぱ初接触での全力カウンター狙ってんな)
乱れないその連鎖、天才集まったこの世代最強の小隊連中だ。
迷うことない一直線上、当たれば爆破喰らうは免れない。
それを例え避けられたところで他4人の追撃が来る。
まさに袋のネズミ。
俺たちは2人、これを打開するには強化同調しかない。
そこに至るまの時間は、『空』で稼ぐ。
「ユウ! もう爆弾が来るぞ!」
「わかってる————」
目前に勝つには個ではなく2つで、編み出した究極体、強化同調へとなるのみ。
その時間が地上で稼げぬというのなら、遥か空、その向こうで。
「大気同調! 最高の嵐を呼び起こせ!」
風は世界を周る。
周るべきその全体性がここに集約していく。
タイフーン、鋼色の切り裂く嵐が俺たちを渦巻く。
「ロビン!」
「おう! 無弾!」
無拳銃から放たれる無限弾数。
ジャムることもなく千火舞う。
嵐が防ぎきれなかった弾が頬を掠る。
「魔槍! 最凶の嵐を呼び起こせ!」
それでもこの言葉は止まらない。
ひたすらに届ける。
そして嵐は鋼より黒き姿へと進化する。
足元集中、まさに足元に爆弾、溜めに溜められた風の装置がいまここに。
「クラーク! 風が強すぎて弾が曲がっちまうぞ!」
「しかも神性まで混じってるよこれ!」
「……わかっているとも! しかし例えハリケーンだろうと爆発で————」
安全装置は無し。
かつてはこの身一つでやり遂げた。
そして今回も己が力で解決する。
「飛ぶぞユウ!」
「ああ! 今回限り! ぶっ飛び装置発動だ————!」
轟轟轟。
ここに人間ロケットが。
足元、狭い範囲にとてつもない風の爆弾が爆発する。
強化材質が砕け散る、大気を切り裂く、風が俺たちを天へと押し上げる。
「おい飛んだぞ!」
「く、クラーク」
「あの2人、一体何をするつもり————」
途絶え気味に流れてくる言葉の音たち。
骨身に染みる風の抵抗。
GGG。
(シンクロしててもかなりキツイぞ……)
俺たちは空を飛ぶ、正確には一直線に上昇している。
雲上へ、空へと到達する。
見下ろす先には人は米つぶ、照り輝く小さな会場の姿。
「これぞ妙案! 第2回バンジーで特攻大作戦!」
「前は逃亡だったけどな! もう落下が始まるぞ!」
「やっぱり空は気持ちいいなあ」
「俺は最悪だ! ていうかほら身体が落ち始め————」
シンクロで繋ぐはエイラとの会話だ。
相変わらず呑気なことで。
ここ高度は数千、天高くに飛翔した。
そして待ち受けるのは落下、重力の概念が存在を現す。
「————私の能力はあらゆるモノを強くする!」
別にただバンジーをしに来たわけではない。
そもそも俺たちが完成された5人に挑むにはそれを超える力が必要だ。
ならばこそ、この力で。
エイラは堂々と、風にその叫びを散らす。
狼煙が弾ける。
「————俺の能力は万物の真価を発揮させる!」
それに続く俺の人生観、魂の声を。
落ちゆくは流星の輝きの如く。
俺たちを包む黄金と青き粒子たち。
それらは互いに干渉、そして混じっていく。
新たな色彩を放ち始める。
「————決めるのは力だ! 私は物理攻撃が大好きだ!」
「————俺はそんなエイラを肯定する! 信じた新たな道を征く!」
ここに実証する。
相棒と生み出した。
俺たち2人の王道にして奥義、その名も————
「「強化同調!!」」
稲妻走る。
嵐の雷の如きスピード降下、すぐに迫ってくる。
鮮明に、段々と拡大化していく、下界のものたちが。
弾けるマッハの衝撃波。
落下にかかる衝撃の重さ、しかしこの足は耐えきる、着地点は月面クレーター状に。
偉い物理学者が考えただろう法則を完全淘汰。
異常にして異形、異端極めし究極体なのだ。
その完成した、その真価をいま世界に顕現す。
「————ほら成功しただろう?」
「————でもミスったらミンチだからな。俺はやりたくなかった」
「————もしの話は無しだ! それに」
「————カッコよく再登場できたからオッケーてか?」
「————その通り!」
アイコンタクトはどこかに去った。
脳と脳の接続、エイラの感情、そして力が俺の全身を駆け巡る。
衝撃生み出した砂塵が散り終わる。
生み出したデカい穴から原線へと立つ。
「俺の隊はどこよりも強い自信があったんだがな————」
クラークの嘆きめいた声明がどこかへ消える。
彼らは数秒上を見上げているだけだったのだ。
太陽でよく見えやしないだろうに。
安心してくれ、この姿隠すことなし。
嫌というほどその身に刻んでやろう。
「ロビン、キャナリー、グレイ、マイク」
「わかってるつーの」
「うんうんうん」
「こりゃ試合ってか怪物退治ですね」
「笑えないジョークだぜグレイ」
クラークは伝達、注意せよ災害の接近である。
クサいアメリカンジョーク、あながち間違いでもない。
「————これが私たちの全力! さあ戦いを始めよう!」
はたから見れば俺たちは災いか。
それでも結構。
俺たちは突然降って来た強い奴、それで十分だ。