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「二重強化!」
エイラが飛び出す。
烈火の如し、生み出される電光石火。
破壊の脚力、蹴った大地にクレーターを。
まさに神がかりの脳筋プレー。
「大気同調! 風を生め!」
後続する。
その身に加速を宿す。
色彩ならば無色、異色にされど心地よく。
運ぶ、俺の身体を前へと突き動かす。
「————来ますわよ!」
「「「「はいお嬢様」」」」
「シルヴィ!」
「心得ております! 変幻は私の手で仕留めます!」
長い距離が一瞬で詰まる。
エイラが先行、それに数歩間隔空けて繋がる。
(陣形はほぼ定石通り、ただ主への道のりは異常なまでの堅いガード性、エイラには是非ともぶっ壊してほしんで————)
「エイラ!」
「任せる!」
「大地同調!」
動かぬ敵に、待ち伏せる彼女らの牙城を崩す。
迫る、接触までもう僅か。
その刹那なタイミング、駆ける足元に同調を。
特大だ。
この大会で一番の広範囲で会場中を覆う。
奔る電流の如き情報量と素材の冷たさ。
支配する青き粒子群。
「幾千槍!」
これは新技?
いやいや似たようなことはよくやっていた。
つまりは足元いじって、地面から尖った槍のようなモノを飛びだたせる。
ただ、それを数百倍単位でやっただけのこと————
「後転!」
嘘ついたら針1000本。
これまた完成する前に、言葉ひとつ一瞬でだ。
まるで俺の能力が大嘘だったかのように地に帰る。
それこそ時間が巻き戻ったかのように。
「シルヴィ……!」
「さて、お前の相手は私がしてやろう!」
ぶつかった。
俺のエイラへのフォロー、目隠しの意味合いもあったが不発で失敗。
「宝石城!」
しかもマリー・エトワールの能力がここで発動する。
煌めくサファイヤの城壁。
エイラの侵害を阻む、そこに放たれるは姫の護衛達だ。
恰好がメイド服なだけの、殺しを学んだ戦士たちが。
「工程流転!」
「来い! テンペスト!」
俺もエイラのことばかり見てはいられない。
目の前には地獄の入り口が形を成す。
そして『歩く工程』という事象をスキップ、瞬間移動するかのようにシルヴィが目前に。
その接近は予知していた。
この槍が細い、だが首狩る剣を何とか防ぐ。
「短刀……!」
「その槍は大きすぎる。私との相性は良くないだろう!」
シルヴィの標準武器装備、それは短刀だ。
しかも1つや2つじゃない。
身体中に数えきれない、あり得ないほど仕込まれている。
一本一本は極限まで研がれた究極体。
手数がどうしても足りない。
「……重力同調!」
「能力後転!」
「っげ! 今度は能力を戻すのかよ!」
「お前ほど範囲は広くない。だがな————」
能力が起きるという事象を飛ばされ不発する。
いや放てはするがしっかりタイミングをズラされた。
体勢読まれ、ぶち込まれるクロスカウンター。
テンペストは空を切るのだ。
そこに加わるは細く、だが研ぎ澄まされた幾つもの刃たち。
俺の身体が悲鳴を、流す涙の代わりのこの血液を晒す。
「————この間合いは、私の領域だ」
短刀が俺の身体を貫くまでの工程をスキップする。
開いた距離埋める、接近するという工程をスキップする。
俺の能力を発動前へとバックさせる。
動いたはずのこの足が何故か後退してる、バックさせられている。
(距離を取らせてくれない……! このままだと……)
「————聖剣!」
悪い空気、持ってかれたムードを力が覆す。
俺たちを遮る、文字通りの一刀両断で。
「ユウ!」
「悪いな……!」
エイラは抜けてきた。
それに追撃してくる他のメイドたち。
目に走る達成への曇りなき新年。
俺は追い払う。
大地に流す青の粒子、しかしその効果は————
「能力後退!」
「またかよ……!」
発動するには発動する。
しかし巻き戻されたせいで、俺が放ちたいタイミングより数秒遅れでだ。
無論訓練されたメイドさんたちが避けられぬ訳がない。
大地の侵害を華麗に回避する。
「————宝石城」
(これも厄介な……!)
マリーの城壁が俺たちを攻撃する。
まるで石壁が倒れてくるような。
巨大なコンクリートそのままぶつけられるような衝撃が。
「ほらほらユウ! 私がいるのを忘れるな!」
「こんの……! 俺ばっかり、ストーカーかよ!」
「違うな! 私はメイドだ!」
一旦エイラがリセットしてくれたから、空気感は再構築していく。
悪い流れを断ち切りたい。
時たまに即興で連携をしつつも、流される、それぞれの相手へ。
エイラは善戦だろうか、いや城が厳しい。
俺も宝石城に隙を見てはシンクロかけるが。
「動作後転!」
「っ!」
完成する前に持ってかれる。
既に身体は自らの血で真っ赤に染まる。
服を切り裂き生まれた生傷、切り口から流れる赤い水流。
だが焦ってはいけない。
焦ったら負ける。
自分に正直に、本能の感じる正しい選択を、相棒を見る、その目に問いかける。
(エイラ! そっちどうにかなりそうか!?)
(いや、あのドリル頭が厄介。他のメイドもかなりの手練れだ)
(だろうな。俺なんてシルヴィ単体に苦戦、てか負けそうだわ)
(はっはっは。それはマズな)
(笑い事じゃねえ。エイラのフォローに入ってやりたいんだが————)
「ほらどうした! 動きが鈍くなっているぞ!」
「調子にのんなよ……!」
轟。
一層強く槍を振るう。
一瞬動きを戻されたがなんとかタイミング調整、シルヴィを防御態勢取らせる。
そしてそのまま力勢いに任せ弾く。
空けさせる少しの距離感を。
「……ふう。やはり私はお前と相性がいいようだ」
「俺にとっては最悪だ」
「しかし私と近接戦でここまで耐えるとは。やはり脳筋の相棒、一筋縄にはいかないな」
「そう簡単にダウンしちゃ、相棒に申し訳ないんでね」
「だが、結末はもう見えたな————」
その通り。
俺にはこのまま行った時のビジョンは予測できている。
つまりは俺の敗北だ。
エイラはAAA級を4人相手に未だ張り合い続けている。
なのにだ、俺はたかが、たかがS級1人このありさま。
「自慢の魔槍も当たらなくては意味がないな」
「……」
「大人しく降参するという手もあるぞ」
「……ふふ」
降参する?
何を言っている。
腹の奥底からの笑い声が。
しかしこれは俺の声ではない。
脳内に住むもう一人の住人、いや神の嘲笑。
「なにが可笑しい?」
「いやさ、魔王より苦戦してると思うとな」
「そんなことか。なに最近の魔王は雑魚が多いらしいからな」
「それでもだ。こんなにも強い奴らが同世代にいるってのは————」
少しずつ、少しずつ。
青は変化していく。
大地から蛍のように、真夏の空に昇る銀の粒子が生まれだす。
一面を、まるで星空のように、俺の周りを覆い出す。
「これは英戦の世界浸食か、しかし発動遅らせ仕留めるだけのこと」
「戦を愛し、銀を愛し、王道をゆく。不倶戴天が神の姿を今ここに」
「方は戻るのみだ! 能力後————」
「さあ、お披露目だ」
かつては政府に尋問されても答えなかった銀の正体。
しかしレネは今、戦いを望んでいる。
この女を、そしてこの後続く彼らと剣を交えたいと。
俺も打開を望む。
ならばこそ、隠れた生活は終わりにしよう。
チェンジ、世界如きを銀で覆うのではない、征服するのだ。
死んだとまで噂れる、天上天下唯我独尊、戦を司る美しい銀神の姿を顕す。
「————顕現しろ! 闘神エレネーガ!」
より強く銀の嵐が渦巻く。
能力は後転しない。
荒ぶる御霊が神力を増幅、巻き戻しテープを粉砕する。
神を殺し、天使を千切る、暴君いま天上より舞い降りる。
「っくっくっく! 現界は久しぶりじゃのう!」
現れたのは美しい、いや美しすぎる女性。
伸びた乱れなき銀の髪色。
控えめな身長に合わさる着崩しの和服、生み出す妖艶さ。
そしてそれを凌駕する圧倒的闘気。
すべては言葉を失う、その存在に魅入られ畏怖する。
「お前は、お前は一体なにをしているんだ……」
シルヴィが疑問を露わに。
弱い魔王など、よもや話にならず。
晒して教えるこの王道を。
シンクロ、テンペスト、相棒、そして銀の戦神。
俺が持ち得し四つの道がいまここに。
「我が名はエレネーガ! 戦の大神なり!」
「え、エレネーガ、だと……?」
「女よ、我が名を気安く呼ぶ出ないぞ」
その一言は全てを黙らせる。
響く、震える。
実況さえもそのマイクに声届られぬ。
誕生した者の名を叫べない。
「悪いなレネ、もう降臨になっちまった」
「構わぬ構わぬ。この後は爆竹小僧もおろう、我も混ざりたかったところじゃ」
「じゃあ隠れ身は終わりと」
「うむ。といっても我が直接参加しては決着は容易、ということじゃ嵐の槍、その役目我が代わろう」
そういうとテンペストは風を纏わせ右の腕へと消える。
いや消えるというより腕に集約する。
今この腕には神を殺す、魔風の力が宿ったのだ。
そして同時に、この手に得物は無くなった。
「ユウ、神力を回せ」
「了解」
「我が身を刀身へ。銀の契りを経て形を成す」
俺の両眼が輝く。
星の誕生。
スーパーノヴァ、アトモスフィア。
神の力が変形する。
「シルヴィ! 今すぐ! 今すぐ仕留めなさい!」
「……っ」
「超高位の神降ろしですわよ! 早く止めなければ手遅れに————」
いち早く思考戻したのは隊長マリー・エトワール。
だが遅い、城壁に関してもエイラがしっかり防いでくれる。
最早手出し不可能。
もう、上へは登った。
「————武装変幻。神刀『銀』」
レネは現した姿を更に変化させる。
脳から現実へ、現実から幻へ。
夢物語でしか語られぬ、数多を屠った銀神の愛刀、その姿へと。
細身の刀、手に握る、ズッシリと。
良く馴染む、いつも以上の同調感度。
『神力の回転は十分。触れたものすべて銀に変えようぞ』
「ああ————」
『我を使いこなしてみよ』
この声は脳内へじゃない。
万民に告げる。
それは自分もちろん、あらゆる生物へと伝播する。
そして伝わって一目散に来るのは————
「エレネーガ様! お久しぶりです!」
『おおう。聖剣使い、おぬしは相変わらず元気じゃのう』
「はい! しかし美しい刀身ですね! 是非私にも————」
『戯け。ぬしには聖剣があるじゃろうに』
「そんなこと言ったらユウにだって既に魔槍が……」
聞こえるようになればこうなることも。
殆どが言葉なくす中で、エイラだけは。
「……ミスター変幻。貴方は何者ですか?」
「何者って言われてもな。ただちょっと運が無いだけの男だよ」
「……この技量、巫女姫を超えますわよ」
巫女姫、確か旧神スサノオを手なずけている能力者。
スサノオもなかなか有名だが、それ以上にエレネーガがビッグネームすぎる。
姿を消した、最凶の伝説。
それがこんな学生の大会に、しかも俺の背後から現れたのだ。
そりゃ驚くわ。
「シルヴィ」
「はいお嬢様」
「勝てる見込みは?」
「半分ほどかと」
「はあ。正直に言いなさいな」
「……2割、あるかないかだと」
この俺が持つ神刀『銀』
能力はシンプルだ。
触れたモノ、そして振りかざした空間、いや世界を『銀』に変える。
それだけだ。
今までは世界だけを飾った、それに加え生物さえも可能に。
さらにはこの神刀型になったことで、その効果範囲はより拡大。
銀に浸食されれば最期だ。
そこはあらゆる効果失い無に、ただの物質へと、能力なしのフィールドやモノへ。
「————震え。銀世界」
こうしている間に刀を一振り。
神の御業いまここに。
足元から津波のように広がる銀の支配。
瞬く間に覆う。
ここは銀世界だ。
「……お嬢様、能力後転が発動しません」
「この銀の仕業ですわね、他の方は?」
「私もダメですね」
「同じくです」
「一切干渉できません」
「やはりあらゆる能力を無効化、そしてここからは————」
(あらゆる能力っていうか、自己に関すること以外なんだけど)
このフィールドは自分自身に対しての強化、硬化、高速化は使える。
それ以外、俺も含めて世界に超上を起こすことはできないわけだ。
そしてそんな場所で雌雄を決する方法はただ一つ。
「————開闢強化!」
「————経験同調」
エイラがその身に稲妻の如き力を流す。
俺はその手に握るレネの意識をより同調化させる。
「————ここからは、ただの殴り合いだ」
脳筋オブ脳筋。
あまりに明快単純、考えることなど必要なし。
本能赴くままに剣を振るだけの場所だ。
脳筋プレーに最も適した領域である。
「さあシルヴィ、この傷の借りは返させてもらう」
「……本当は、私が返すつもりだったんだがな」
「はっはっは! 始めよう! これが私たちの戦い方だ!」
「本当に、常識外れな方々ですわね……!」
着々とその足を進める。
リタイヤ、いやいや彼女たちはしないだろう。
まだその眼に絶望も敗北も宿ってはいない。
構えなおす。
これよりは自らが持つ『武』の技のみ。
「————第2ラウンド、スタートだ」
本日も晴天。
大気同調失い、暑さがこの身に降り注ぐ。
流れるは汗、そして傷口からの鮮血。
はたして冥土送りになるのはどちらだろうか。
刀と剣、そして意思が交差する。
形変えた力と力のぶつかり合いが、再び始まる。