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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 4 -International Convention 2117《紅白に集いし者》-
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 「二重強化ダブル・ミラータ!」


 エイラが飛び出す。

 烈火の如し、生み出される電光石火。

 破壊の脚力、蹴った大地にクレーターを。

 まさに神がかりの脳筋プレー。


 「大気同調アトモス・シンクロ! 風を生め!」


 後続する。

 その身に加速を宿す。

 色彩ならば無色、異色にされど心地よく。

 運ぶ、俺の身体を前へと突き動かす。


 「————来ますわよ!」

 「「「「はいお嬢様」」」」

 「シルヴィ!」

 「心得ております! 変幻ユウは私の手で仕留めます!」


 長い距離が一瞬で詰まる。

 エイラが先行、それに数歩間隔空けて繋がる。


 (陣形はほぼ定石通り、ただマリーへの道のりは異常なまでの堅いガード性、エイラには是非ともぶっ壊してほしんで————)


 「エイラ!」

 「任せる!」

 「大地同調アース・シンクロ!」


 動かぬ敵に、待ち伏せる彼女らの牙城を崩す。

 迫る、接触までもう僅か。

 その刹那なタイミング、駆ける足元に同調を。

 特大だ。

 この大会で一番の広範囲で会場中を覆う。

 奔る電流の如き情報量と素材の冷たさ。

 支配する青き粒子群。


 「幾千槍ランスロット!」


 これは新技? 

 いやいや似たようなことはよくやっていた。

 つまりは足元いじって、地面から尖った槍のようなモノを飛びだたせる。

 ただ、それを数百倍単位でやっただけのこと————


 「後転バック!」


 嘘ついたら針1000本。

 これまた完成する前に、言葉ひとつ一瞬でだ。

 まるで俺の能力が大嘘だったかのように地に帰る。

 それこそ時間が巻き戻ったかのように。


 「シルヴィ……!」

 「さて、お前の相手は私がしてやろう!」


 ぶつかった。

 俺のエイラへのフォロー、目隠しの意味合いもあったが不発で失敗。

 

 「宝石城ザ・ラビリンス!」


 しかもマリー・エトワールの能力がここで発動する。

 煌めくサファイヤの城壁。

 エイラの侵害を阻む、そこに放たれるは姫の護衛達だ。

 恰好がメイド服なだけの、殺しを学んだ戦士たちが。


 「工程流転スキップ!」

 「来い! テンペスト!」


 俺もエイラのことばかり見てはいられない。

 目の前には地獄の入り口が形を成す。

 そして『歩く工程』という事象をスキップ、瞬間移動するかのようにシルヴィが目前に。

 その接近は予知していた。

 この槍が細い、だが首狩る剣を何とか防ぐ。


 「短刀……!」

 「その槍は大きすぎる。私との相性は良くないだろう!」


 シルヴィの標準武器装備、それは短刀だ。

 しかも1つや2つじゃない。

 身体中に数えきれない、あり得ないほど仕込まれている。

 一本一本は極限まで研がれた究極体。

 手数がどうしても足りない。


 「……重力同調アビリティ・シンクロ!」

 「能力後転バック!」

 「っげ! 今度は能力を戻すのかよ!」

 「お前ほど範囲は広くない。だがな————」


 能力が起きるという事象を飛ばされ不発する。

 いや放てはするがしっかりタイミングをズラされた。 

 体勢読まれ、ぶち込まれるクロスカウンター。

 テンペストは空を切るのだ。

 そこに加わるは細く、だが研ぎ澄まされた幾つもの刃たち。

 俺の身体が悲鳴を、流す涙の代わりのこの血液を晒す。


 「————この間合いは、私の領域だ」


 短刀が俺の身体を貫くまでの工程をスキップする。

 開いた距離埋める、接近するという工程をスキップする。

 俺の能力を発動前へとバックさせる。

 動いたはずのこの足が何故か後退してる、バックさせられている。


 (距離を取らせてくれない……! このままだと……)


 「————聖剣カリヴァーン!」


 悪い空気、持ってかれたムードを力が覆す。

 俺たちを遮る、文字通りの一刀両断で。


 「ユウ!」

 「悪いな……!」


 エイラは抜けてきた。

 それに追撃してくる他のメイドたち。

 目に走る達成への曇りなき新年。

 俺は追い払う。

 大地に流す青の粒子、しかしその効果は————


 「能力後退バック!」

 「またかよ……!」

 

 発動するには発動する。

 しかし巻き戻されたせいで、俺が放ちたいタイミングより数秒遅れでだ。

 無論訓練されたメイドさんたちが避けられぬ訳がない。

 大地の侵害を華麗に回避する。


 「————宝石城ザ・ラビリンス


 (これも厄介な……!)


 マリーの城壁が俺たちを攻撃する。

 まるで石壁が倒れてくるような。

 巨大なコンクリートそのままぶつけられるような衝撃が。

 

 「ほらほらユウ! 私がいるのを忘れるな!」

 「こんの……! 俺ばっかり、ストーカーかよ!」

 「違うな! 私はメイドだ!」

 

 一旦エイラがリセットしてくれたから、空気感は再構築していく。

 悪い流れを断ち切りたい。

 時たまに即興で連携をしつつも、流される、それぞれの相手へ。

 エイラは善戦だろうか、いや城が厳しい。

 俺も宝石城に隙を見てはシンクロかけるが。


 「動作後転バック!」

 「っ!」


 完成する前に持ってかれる。

 既に身体は自らの血で真っ赤に染まる。

 服を切り裂き生まれた生傷、切り口から流れる赤い水流。

 だが焦ってはいけない。

 焦ったら負ける。

 自分に正直に、本能の感じる正しい選択を、相棒を見る、その目に問いかける。


 (エイラ! そっちどうにかなりそうか!?)

 (いや、あのドリル頭が厄介。他のメイドもかなりの手練れだ)

 (だろうな。俺なんてシルヴィ単体に苦戦、てか負けそうだわ)

 (はっはっは。それはマズな)

 (笑い事じゃねえ。エイラのフォローに入ってやりたいんだが————)


 「ほらどうした! 動きが鈍くなっているぞ!」

 「調子にのんなよ……!」


 轟。

 一層強く槍を振るう。

 一瞬動きを戻されたがなんとかタイミング調整、シルヴィを防御態勢取らせる。

 そしてそのまま力勢いに任せ弾く。

 空けさせる少しの距離感を。


 「……ふう。やはり私はお前と相性がいいようだ」

 「俺にとっては最悪だ」

 「しかし私と近接戦でここまで耐えるとは。やはり脳筋の相棒、一筋縄にはいかないな」

 「そう簡単にダウンしちゃ、相棒エイラに申し訳ないんでね」

 「だが、結末はもう見えたな————」


 その通り。

 俺にはこのまま行った時のビジョンは予測できている。

 つまりは俺の敗北だ。 

 エイラはAAA級を4人相手に未だ張り合い続けている。

 なのにだ、俺はたかが、たかがS級1人このありさま。

 

 「自慢の魔槍テンペストも当たらなくては意味がないな」

 「……」

 「大人しく降参するという手もあるぞ」

 「……ふふ」


 降参する?

 何を言っている。

 腹の奥底からの笑い声が。

 しかしこれは俺の声ではない。

 脳内に住むもう一人の住人、いや神の嘲笑。


 「なにが可笑しい?」

 「いやさ、魔王より苦戦してると思うとな」

 「そんなことか。なに最近の魔王は雑魚が多いらしいからな」

 「それでもだ。こんなにも強い奴らが同世代にいるってのは————」


 少しずつ、少しずつ。

 青は変化していく。

 大地から蛍のように、真夏の空に昇る銀の粒子が生まれだす。

 一面を、まるで星空のように、俺の周りを覆い出す。


 「これはイギリス戦の世界浸食か、しかし発動遅らせ仕留めるだけのこと」

 「戦を愛し、銀を愛し、王道をゆく。不倶戴天が神の姿を今ここに」

 「方は戻るのみだ! 能力後————」

 「さあ、お披露目だ」


 かつては政府に尋問されても答えなかった銀の正体。

 しかしレネは今、戦いを望んでいる。

 この女を、そしてこの後続く彼らと剣を交えたいと。

 俺も打開を望む。

 ならばこそ、隠れた生活は終わりにしよう。

 チェンジ、世界如きを銀で覆うのではない、征服するのだ。

 死んだとまで噂れる、天上天下唯我独尊、戦を司る美しい銀神の姿を顕す。


 「————顕現しろ! 闘神エレネーガ!」


 より強く銀の嵐が渦巻く。

 能力は後転しない。

 荒ぶる御霊が神力を増幅、巻き戻しテープを粉砕する。

 神を殺し、天使を千切る、暴君いま天上より舞い降りる。


 「っくっくっく! 現界は久しぶりじゃのう!」


 現れたのは美しい、いや美しすぎる女性。

 伸びた乱れなき銀の髪色。

 控えめな身長に合わさる着崩しの和服、生み出す妖艶さ。

 そしてそれを凌駕する圧倒的闘気。

 すべては言葉を失う、その存在に魅入られ畏怖する。


 「お前は、お前は一体なにをしているんだ……」

 

 シルヴィが疑問を露わに。

 弱い魔王など、よもや話にならず。

 晒して教えるこの王道を。

 シンクロ、テンペスト、相棒エイラ、そして銀の戦神。

 俺が持ち得し四つの道がいまここに。

 

 「我が名はエレネーガ! 戦の大神なり!」

 「え、エレネーガ、だと……?」

 「おなごよ、我が名を気安く呼ぶ出ないぞ」

 

 その一言は全てを黙らせる。

 響く、震える。

 実況さえもそのマイクに声届られぬ。

 誕生した者の名を叫べない。


 「悪いなレネ、もう降臨になっちまった」

 「構わぬ構わぬ。この後は爆竹小僧もおろう、我も混ざりたかったところじゃ」

 「じゃあ隠れ身は終わりと」

 「うむ。といっても我が直接参加しては決着は容易、ということじゃ嵐の槍、その役目我が代わろう」


 そういうとテンペストは風を纏わせ右の腕へと消える。

 いや消えるというより腕に集約する。

 今この腕には神を殺す、魔風の力が宿ったのだ。

 そして同時に、この手に得物は無くなった。

 

 「ユウ、神力を回せ」

 「了解」

 「我が身を刀身へ。銀の契りを経て形を成す」


 俺の両眼が輝く。

 星の誕生。

 スーパーノヴァ、アトモスフィア。

 神の力が変形する。


 「シルヴィ! 今すぐ! 今すぐ仕留めなさい!」

 「……っ」

 「超高位の神降ろしですわよ! 早く止めなければ手遅れに————」

 

 いち早く思考戻したのは隊長マリー・エトワール。

 だが遅い、城壁に関してもエイラがしっかり防いでくれる。

 最早手出し不可能。

 もう、上へは登った。


 「————武装変幻。神刀『銀』」


 レネは現した姿を更に変化させる。

 脳から現実へ、現実から幻へ。

 夢物語でしか語られぬ、数多を屠った銀神エレネーガの愛刀、その姿へと。

 細身の刀、手に握る、ズッシリと。

 良く馴染む、いつも以上の同調感度。

 

 『神力の回転は十分。触れたものすべて銀に変えようぞ』

 「ああ————」

 『我を使いこなしてみよ』

 

 この声は脳内へじゃない。

 万民に告げる。

 それは自分もちろん、あらゆる生物へと伝播する。

 そして伝わって一目散に来るのは————


 「エレネーガ様! お久しぶりです!」

 『おおう。聖剣使い、おぬしは相変わらず元気じゃのう』

 「はい! しかし美しい刀身ですね! 是非私にも————」

 『戯け。ぬしには聖剣があるじゃろうに』

 「そんなこと言ったらユウにだって既に魔槍が……」


 聞こえるようになればこうなることも。

 殆どが言葉なくす中で、エイラだけは。

 

 「……ミスター変幻。貴方は何者ですか?」

 「何者って言われてもな。ただちょっと運が無いだけの男だよ」

 「……この技量、巫女姫を超えますわよ」

 

 巫女姫、確か旧神スサノオを手なずけている能力者。

 スサノオもなかなか有名だが、それ以上にエレネーガがビッグネームすぎる。 

 姿を消した、最凶の伝説。

 それがこんな学生の大会に、しかも俺の背後から現れたのだ。

 そりゃ驚くわ。


 「シルヴィ」

 「はいお嬢様」

 「勝てる見込みは?」

 「半分ほどかと」

 「はあ。正直に言いなさいな」

 「……2割、あるかないかだと」


 この俺が持つ神刀『銀』

 能力はシンプルだ。

 触れたモノ、そして振りかざした空間、いや世界を『銀』に変える。

 それだけだ。

 今までは世界だけを飾った、それに加え生物さえも可能に。

 さらにはこの神刀型になったことで、その効果範囲はより拡大。

 銀に浸食されれば最期だ。

 そこはあらゆる効果失い無に、ただの物質へと、能力なしのフィールドやモノへ。


 「————震え。銀世界シルバー・レイ


 こうしている間に刀を一振り。

 神の御業いまここに。

 足元から津波のように広がる銀の支配。

 瞬く間に覆う。

 ここは銀世界だ。


 「……お嬢様、能力後転が発動しません」

 「この銀の仕業ですわね、他の方は?」

 「私もダメですね」

 「同じくです」

 「一切干渉できません」

 「やはりあらゆる能力を無効化、そしてここからは————」


 (あらゆる能力っていうか、自己に関すること以外なんだけど)


 このフィールドは自分自身に対しての強化、硬化、高速化は使える。

 それ以外、俺も含めて世界に超上を起こすことはできないわけだ。

 そしてそんな場所で雌雄を決する方法はただ一つ。


 「————開闢強化カルマ・ミラータ!」

 「————経験同調エクス・シンクロ


 エイラがその身に稲妻の如き力を流す。

 俺はその手に握るレネの意識をより同調化させる。


 「————ここからは、ただの殴り合いだ」


 脳筋オブ脳筋。

 あまりに明快単純、考えることなど必要なし。

 本能赴くままに剣を振るだけの場所だ。

 脳筋プレーに最も適した領域である。


 「さあシルヴィ、この傷の借りは返させてもらう」

 「……本当は、私が返すつもりだったんだがな」

 「はっはっは! 始めよう! これが私たちの戦い方だ!」

 「本当に、常識外れな方々ですわね……!」


 着々とその足を進める。

 リタイヤ、いやいや彼女たちはしないだろう。

 まだその眼に絶望も敗北も宿ってはいない。

 構えなおす。

 これよりは自らが持つ『武』の技のみ。

 

 「————第2ラウンド、スタートだ」


 本日も晴天。

 大気同調失い、暑さがこの身に降り注ぐ。

 流れるは汗、そして傷口からの鮮血。

 はたして冥土送りになるのはどちらだろうか。

 刀と剣、そして意思が交差する。

 形変えた力と力のぶつかり合いが、再び始まる。

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