46
『白熱の今大会! 激闘の1回戦を経て今日! 2回戦が始まります!』
一回りして今日この時。
真夏、太陽が照らす。
大気操れなければ汗が湯水の如く流れる環境だ。
『改めまして2回戦に進んだ小隊を紹介————』
昨日の1回戦の勝者たち。
それのほとんどがS級いる小隊だ。
S級はS級を潰し、いないのならば蹂躙する。
そういうスタンス。
生き残っているのは日本のみである。
『本日行われます試合は順に、イタリア対日本、ドイツ対フランス、中国対ロシア、スペイン対アメリカ、どれも好カードとなっています!』
国被りは無し。
乱れぬことのない放物線のように出揃う。
俺たちは初っ端、祖国日本、もとい光太郎と朱里がいる小隊が相手である。
そしてそれに勝ったならば————
(ドイツの『鎖』、もしくはフランスの『冥土送り』が相手ってことか)
どちらも強く厄介。
しかしまずは先ではなく正面を倒さねばならない。
「難しい顔をしているな」
「そうか?」
「うむ。もっと気楽にだ」
『そうじゃ。いざとなったら我もおる』
「有難いね……」
体に装填されたエネルギーを回し始める。
熱を生み出す。
機関車のように蒸気生み出し回転する。
回転数がじわじわと上昇する。
意識が研がれる。
「さてルチア達のやり残し、終わらせてやるか」
「地獄逝きに!」
『仇討ちじゃ』
「いや2人とも物騒過ぎるだろ……」
もう少し言い方ってもんがある。
この目的は付随した、俺たちの勝つという目的に。
別に振り払ったりはしない、一緒に連れていくくらいの余裕はある。
ゲート入口にて時を待つ。
無言の間。
エイラと先を見つめている。
観客ボルテージは既に最高潮、針の動きがまだかまだかと。
「ユウっち!」
「ん、ザック……」
無言に入る聞き慣れた声。
奥から現るのはルチア隊全員である。
「もしかして集中してるのに、水差しちゃったかしら」
「いや特にそういうわけでもない」
「ボーっとしていただけだ!」
「そ、そうですか……」
意識が遊ぶ。
戯れに等しい、心臓はバクバクもしない普段通り。
汗は気温心情関係なく。
「激励に来たんだけど」
「わざわざ悪いな」
「い、いいのよ。お、同じイタリア代表なんだし……」
『それでは初戦! 日本代表の榊小隊! そしてイタリア代表、フォード小隊の入場です!』
実況告げる。
開幕の序章。
しおりを挟むことは叶わない、今この時を綴るだけ。
「頼むっすよ!」
「頑張ってね」
「……応援してます」
「同じくだ」
次々と言ってくれる。
まさか俺たちが、自分を応援してくれる奴が親以外にいようとは。
「が、頑張って」
紅も揺れる。
もうトゲトゲしさはない。
原点回帰する。
来いと言うなら赴く。
見たいと言うなら見せる。
勝てと言うなら勝つ。
「行くぞユウ!」
「おう!」
脚は物理的に、声は心を運ぶ。
いつもより増した浮遊感。
同胞たちへ。
俺たちはその熱気溢れる死地へと入場した。
「————久しぶりだな」
「————ああ」
試合前、挨拶を交わす。
それはもちろん榊小隊と、そして含まれる隊員、光太郎と朱里とも。
「朱里も、全然変わってないな」
「夕こそ。強いて言うならその瞳、もしかしてカラコン?」
「そうだ」
「気持ちよく嘘つくのね。イギリス戦で使った銀の能力に関係するんでしょ」
「分かっているなら聞くなよ」
相変わらずのキツイ冗談飛ばす。
朱里は昔からそんな感じ。
久しぶりにあっても見た目ともども変化はなさそうだ。
「————お前がコウシロウだな」
「「「「コウシロウ?」」」」」
エイラが光太郎へと向く。
しかし間違い。
(エイラ! コウタロウだ!)
(し、しまった! 間違えたぞ!)
素で間違える。
いやそりゃ欧米人からしたら呼びにくいかもしれないけど。
「訂正する。コウタロウだ」
「……俺ですか?」
「そうだ」
軽く和みそうだった空気を反転させる。
それはエイラの覇気と殺気の突然発生故に。
俺除き、目の前の連中一気に引き締まる。
再確認させられたのだ。
今日の敵は怪物であると。
「後輩達の借りは返させてもらう。一応だが覚悟しておいてくれ」
「……へ、へえ、かの脳筋さんでもそんな事思うんですね」
「光太朗あんた……!」
エイラの宣告にも挑発で返す。
だがその体面は軽くハリボテ、エイラの闘気が一点したせいで、暑さとは違う理由で汗をかいている。
光太郎に、朱里や榊隊長なる者もマズいと思ったか。
だが光太郎はエイラの視線から視線を外さない。
そこで俺も付け加える。
「忘れるなよ光太郎。お前の相手はエイラだけじゃない、俺もだ」
「っわ、わかってる!」
固まった空気を少し外す。
硬化したままだが、動かぬものよりマシだろう。
「あんたが隊長、確か榊さんだったよな」
「……そうだ」
また向き直る。
今度は隊長へ。
黒い短髪、AAA級の能力者だ。
ここの隊長、試合を観た感じじゃ中距離型得意な能力だった。
「俺は手加減しない。それが日本でも、幼馴染がいたとしても————」
俺は、俺たちは。
上まで進む。
様々な事柄経て軌跡を描く。
「あんたたちをぶっ潰すよ」
「……夕! お前!」
「光太郎、朱里、悪いが勝たせてもらう」
「……っ」
『すいませーん! 早く定位置に移動をお願いします!』
「行くぞユウ」
「ああ」
これぐらい言って丁度いい。
昔から光太郎は頭に血が上りやすい。
今の挑発、少しはチームの動きに効いてくるかと思う。
(まあ朱里が上手いこと抑え込むだろうけど————)
俺たち3人揃ってうまく緩和する。
そういう関係だった。
何度も助けられたこともある。
別に憎いとかっていうマイナスな感情は持っていない。
むしろ今までのこと感謝している。
あくまで挑発したのは俺の純粋な闘気があってこそ。
(言葉は語らないなら、俺の数か月、この戦いで伝えるのみだ————)
いつもの僅かな時間の減少。
始まる。
3回戦進出をかけた戦いが、ルチア達の借りを返す戦いが、俺の成長を伝える戦いが。
開始の狼煙が直ぐに。
天上高く。
響く、右から左、全ての者へ伝える。
『2回戦第1試合! 開始です————!』
『おおーっとフォード小隊! 珍しく今回は突っ込んでいかないぞお!』
みんな疑問視する。
いつの間にか定着したか特攻スタイル。
裏切る、いやそもそもこういう戦い方もあるだろう。
俺たちが突撃するしか能のないバカだと思われていたとは心外である。
「相手、教科書通りの陣形展開だな」
「そうか?」
「まあエイラは教科書なんて読んでないだろうから、知らないのは当然か」
「失礼な。私だって高2だ」
「……とりあえず、近づいてきたところを迎撃だ」
「うむ!」
今回もいたってシンプルな。
攻めから受けへと転換しただけ。
向かってくる障害を叩く、それだけだ。
「久しぶりに拳で戦うとしよう! 拳強化!」
エイラの拳に強化の呪いが。
その細い手に、殴ればコンクリートを軽々粉砕する鉄拳へ。
「エイラに重点置いてる陣形。仕事増えるが頼むぞ」
「任せてくれ!」
エイラの方が強いんだから、隊長なんだから、そりゃそっち狙うわな。
ただ俺たちは離れない。
俺とエイラには1メールの間隔も無し。
2人で突っ立てる。
普通に考えれば的以外のなんでもない。
「————貫け! 剣残!」
動かぬならば遠距離銃撃。
予想通りの予想通りで刀を振った衝撃破? 的なのが飛んでくる。
たくさんだ、ただしそこそこの速さ。
例えるならボウリング、ピンまで転がる玉のスピードみたいな感覚。
「大気同調」
すべての残像を捉える。
そして消える。
大気が拒むのだ、これ以上は行かせないと、ここからは俺の領域であると。
『光太郎は作戦通り脳筋の方を相手してくれ』
『……うっす!』
『朱里は四道にフェイクをかけて、光太郎に合流』
『はい』
『あとは適時俺の指示で動いてくれ』
『『了解!』』
————なんて会話が接近、遠方より風に運ばれる。
(まあどうせそれすらフェイクなんだろうけど)
幼い頃より共に過ごした奴が2人もいる。
俺が風で言葉を捉えているぐらい存知も存知。
「やっぱどいつが来るかは分からんわ」
「問題ない。誰が来ようとやることは変わらん」
「それもそうか」
「それもそうだ!」
(接近まであと6秒くらい、ただ俺たちが動かない限り、正面衝突以外の選択肢は無いだろう————)
しっかし刀剣類を事前に装備していいとか。
俺も何か槍以外の武器を選んでも良かったかもしれない。
今日のエイラは拳で語ると言うし、聖剣という————
「エイラ」
「なんだ」
「聖剣貸してくんね?」
「そんなことか。ほら」
「そんなことって、軽く言うな……」
まるで筆箱忘れて、隣の奴がペン貸してくれるような気軽さ。
重厚な一点張り、聖剣が渡される。
『面白いこと思いついたのう』
「やっぱそう思うよな」
『どれどれ。ほうほう、あの神めトンデモない力を付与して————』
俺の脳内にいる小さな住人が解析する。
なにやら盛り上がって色々言ってるが俺の理解は及ばない。
「武器同調」
聖剣に新たな輝き。
持ち主の変化、伝わる、この剣身に刻まれたエイラの記憶、そして太陽の意志を。
『こ、これは! なんとフォード選手、聖剣を四道選手に渡してしまったぞ!?』
敵は近づいた。
入れ違う。
交差し目下に現る幻影の数。
「夕!」
「なんだ朱里が来るのか」
「私で悪かったわね!」
「いやそんなことない————」
エイラの方には光太郎含め3人の敵影接近する。
俺の相手は朱里と名も知らぬ男か。
どちらも武器は刀、能力については問題ない。
朱里が自己修復、もう片方はさっき衝撃を飛ばしてきたから、まあそんな脅威でもない。
(動きもスキルも、やっぱアーサー達が別格すぎるな)
改めて分かる。
客観性、やはり怪物たちに遠く及ばない力量。
努力しただろうさ。
俺がいない間に強くなったと思う、進歩だ。
だが友として、怪物の端くれとして、最強の相棒として、その全てを否定しよう。
「————応えろ聖剣」
一瞬爆発するかのように、円形に広がる光の衝撃。
その刀身から迸る、青が混ざった新たな煌めき。
強い風が俺の髪を逆立てる。
経験と歴史、神の意志は混沌する。
力が吠える
制圧するは神の聖遺物、太陽神の理。
「————死ぬなよ朱里」
分かってしまうのだ、自分がいま手に入れた強大さを。
阿修羅の如く増幅、錯覚する程の手数。
俺はずっと立ってるだけだ。
それだけで目の前の相手がアタフタ動く、逃げ回る。
「千に生まれ無に至る、行きつく先は日の終わり、これは悪しきを断罪する————」
なぜだ、口から知らない言葉が滝のように流れ出る。
そして腕は気付くと振っている。
言葉を吐けば吐くほど磨きがかかる、加速するんだ。
もはや動体視力は話にならず、気付けば終わってる。
攻撃したいという思考のプロセスを経ずとも実行に。
それが重なる、青と光がより交わる。
自分の意志先行、閃光するのだ。
まさに神の剣。
数秒という間に生み出される数百数千振り。
「……っく!」
「……なんなんだよこれは!」
俺は目の前の人間という生物を相手にしている。
それは肉が形作った意志を内包せし。
切り裂く、鮮血散る。
深く貫く、肉を抉る。
「自己修復……!」
「そんな回復速度じゃ話になんないな」
「夕……!」
「これは、神の言葉」
思うように意識が。
手放したわけではない。
だがどこか、未知の精神が介入したよう。
ひたすらに剣を。
相手の表情は消えた。
苦痛も笑みも、このまま殺して。
『しっかりせい!』
バシンと。
強烈な平手が俺の脳みそをぶった叩く。
『太陽の剣に、使い手たるおぬしが乗っ取られてどうするよ』
「……乗っ取られる?」
なんだったか。
しかし惨状、この手には輝く聖剣が。
特殊な防刃繊維さえ打破、誰かの血が塗られている。
「夕、ほんと手加減無しだね」
「朱里……」
「いいよ。それくらいが良い。私は、ようやく本気のアンタと戦えてるんだから!」
「お前が幼馴染で、ホント良かったよ————」
意識を戻す。
戦闘再開いや続行する。
情けない、どうやらシンクロ領域を深めすぎた、あまりに深くて飲み込まれそうになった。
レネがいなかったらとっくに聖剣に乗っ取られている。
それは阿修羅、だがそれすら人は肯定。
四肢も意思も折ることなく朱里たちは向かって来てくれる。
「自己高速修復!」
「剣残……!」
ラストスパートかけてきてる。
賭けに出てる。
余力なんてもは無さそう。
俺も明確化した、もう心は崩さない、一点集中する。
よもや隙は与えぬ。
心を自我で埋める。
聖剣は物、俺に使われるのみ。
「てことだ! いい感じで力くれよ聖剣!」
『そうじゃ! 剣とはまず己あってこそ! もっと神力を高めい! 勝利を我らが手中に!』
今度は違う浮遊だ。
心地いいぐらい。
明確になった意識、レネが支えてくれている。
とめどなく流れ出る神力、それは俺をある種神へと近づけていくほどの————
「どうしたどうした! そんな遅い動きでは私には一生当たらないぞ!」
「くっそ何で……!」
「落ち着け光太郎! まずは陣形を立て直す! 一気に攻めるぞ!」
私を囲むは3人の男たち。
どれもがユウと同じ黒い髪色、ただその本質は残念その一言。
まさに、なんちゃら海よりも深く、なんちゃら山より高しの言葉通り。
(ん? 結局私は何を言いたかった……? まあいいか)
聖剣をユウに渡したことで少し増したスピード。
もう慣れたが、あの剣は果たして何キロ、いやそもそもキロって————
「考え事してんんじゃねーよ……!」
「ほう。よくわかったな」
「バカは顔に出るんだ」
「顔に出る? 何を言っている? お前はバカか?」
「……くっそがああああああ!」
わけのわからんことを。
しかしてこの3人つまらん。
試合を観て実力をザックリながら把握したが、予想は敵中だ。
つまらん。
己の腕に物言わせる。
殴り書くようにガサツに。
一殴り、二殴り、三殴り、直ぐに数を数えきれないほどの乱打の嵐に。
そしてこの拳は大体なんでも貫くのだ!
「適切行為……!」
「さて幾つ避けられるかな」
乱打乱打乱打乱打乱打。
降り注ぐ拳の雨あられ。
360度、四方八方、全ての敵に殴りこむ。
「拳強化。筋力強化。神経強化。意志強化。強化。強化。強化————」
聖剣使う時と同じ、何も考えない。
別に何かが己が精神蝕みにこようとも無視をする。
それでも襲ってこようものなら、力で叩きつぶすのみ。
「そして捉えたぞ!」
複数相手に。
強化してすぐ、まずはよくわからんモブっぽい奴の腹を抉る。
拳が食い込む。
私の脳が言っている、そのまま飛ばせと、宇宙の果てまでも。
すべてが限界突破。
そもそも私に限界などいう枷はないのだ。
それは現実に映る、重力を無視、男の身体はくの字を描いて遥か後方へとブッ飛んで行く。
「ぬあ! 観客席にはシールドがあったか!」
観客席には半透明なバリアが。
それがあらゆる攻撃、それによる飛び火を防ぐのだ。
場外ホームランの一球はそれに弾かれ落下、トマトを潰した時のような音立てる。
だがそこで異変。
すぐ傍で、私の勘が大音量で知らせを届ける。
(凄まじい気の放出! これほどの使い手が————)
戦闘最中でよそ見を。
いやそもそもよそ見させるような実力持たぬコイツらが悪い。
震源を探す。
(なんだ、この気の元はユウだったか)
安堵する。
さすがに今の気の量となると聖剣無しではちと厳しい。
圧勝は消え、激しい戦いになるのは必須。
だがそれはユウだった。
ちょっと目が逝った様子だったが、徐々に、自然と、身体に銀が細かい雪のように漂い出していた。
(きっとエレネーガ様がなんとかしてくださったんだな————)
まだまだユウも甘いな。
聖剣などぶんぶん振り回していれば十分。
アイツは考えすぎなんだ。
「適切行————」
「もう飽きた!」
いかせんその機械行動、うんざりだ。
戦っている気にならん。
ロボットが相手、まるでランク認定するための試験のようだ。
私は別にランクを更新をしに来たわけではない。
ここで勝つために来たのだ。
「神よ! 我が拳に力を!」
良くわからずに崇拝する神様。
しかしこんな言葉を吐くとなんだか力が湧いてくる、そんな気がする。
そしてどうだ。
私のこの手に、無限大の力が集約したではないか。
力の重さが時空を捻じ曲げる。
世界を抉る、己の身体。
(ソウタかコウタかなんだったか、まあロボット能力者と隊長が重なったタイミングで……あ! 今だ!)
伺うつもりが。
連携かなんだかわからんが身体を交差してくる。
ポジション変更か?
錯乱するためか?
私には好都合だ。
「中心穿つ! 力拳!!」
身体重なる一瞬の時を逃さず。
2人まとめてあの世へ送ってやる……いや殺してはルール違反か。
力量軽く調整。
それでも止まることない。
螺旋描く。
「適切が働かな————」
「武器よりも、まずは自分を磨くのだな」
「ま、まじかよ————」
もろとも。
刹那の言葉で、一瞬の超高速インパクト波。
どんな優れたロボットであろうとも、人の域を越えた私を止めることはできん。
まさに飛行機、ジェットと化すのは2人の相手。
拳が捉えた時にはあまりの衝撃で大地が割れた。
私の足が衝撃を吸収、拳にすべてを乗せ、天上高くへと誘う。
「私の、大勝利!」
弾丸となって彼らは飛んでいく。
止まらない止まらない。
大気は抵抗することもなく観客席へまっしぐら、いや当たりはしない、方向角度がもっと上だし、なにせ特殊バリアが————
『と、特殊防壁が……! な、なんとフォード選手ぶち破ったああああああ!』
「場外ホームラン、いや貫通ホームランか。上手いこと言ってしまったな」
バリンとガラスが割れたような音。
不格好な穴が開いた。
きっと殴り飛ばされた2人はどこかに————
(ま、まさかバリアを破ってレッドカードとかは無い、無いはずだ……)
相手よりもこっちを心配している。
もしこれで罰金、失格にでもなったらユウに何を言われるか。
怒られるか、いやご飯抜きなんてことも。
『で、では! フォード選手が隊長撃破したことにより! この試合、イタリア代表! フォード小隊の勝利です!』
真っ赤な太陽だ。
イタリアの方が暑いと思っていたが、日本、侮れぬ。
「おーいエイラ」
「ユウか」
「俺だ」
「どうだった聖剣は」
「ちょっと意識持ってかれた」
「ふふ、頭だ、頭が足りんのだ」
「…………」
そう頭を空っぽにすることが秘訣なのだ。
それで聖剣は十分扱える。
「はあ、まったく、あの防壁を破るだななんて」
「む! 誰だ!?」
「清水 朱里。 夕の幼馴染です」
「なんだ幼馴染なる奴は私が場外に……」
「それは光太郎。朱里はもう1人の幼馴染だ、てかこのこと話したばかりだよな?」
「そ、そうか。よろしくだ!」
まあ大体わかった。
わかったんだ、本当だぞ。
「流石は脳筋と名高いフォード卿ですね」
「そんなに褒めても何もでないが……」
「いや脳筋は誉め言葉じゃねーぞ」
ユウは意外に試合前よりも良い感じ。
そこの女とも仲直りしたのだろう。
いや喧嘩していたのか?
良くわからんが仲が良いのはいいことだ。
(だが、なんだか不思議な気持ちもあるな————)
それは今に限ったことではない。
あの紅の女と、今は黒と話している状況も、それは私にナニカを感じさせる。
正体不明。
そして放棄しようとも、何故かいつもみたいに手放せない。
『それでは両小隊に拍手を! 退場です!』
降り注がれる拍手喝采。
ウルサイくらいに。
そして普段通り、ユウの横へと舞い戻る。
ここが一番心地いい。
ここが私のいる場所だ。
「フォード卿は、本当に夕とずっと一緒にいるんですね」
「私たちは相棒同士なのでな!」
「相棒、ですか」
「うむ!」
「それは————」
黒髪の女は続くかと思われた。
何かを発しようとしたが時間がそれを遮る。
「エイラそろそろ帰るぞ」
「あ、ああ」
「どうかしたか?」
「いや何でもないぞ!
「後で光太郎の見舞いに行かなきゃなあ————」
私は相棒。
そしてユウは私の相棒だ。
その関係図。
しかし浮かない表情だった、一体何を言いたかったのか。
いつもだったらすぐ忘れる。
だが靄模様。
(とりあえず、ご飯を食ってからとするか)
こんなものでもカロリーは消費する。
早く帰ってユウの母様が作ったご飯を食べたい。
私は気になったこの感情。
忘れられないと言いつつも。
ご飯思えばそっくりそのまま、スカスカの脳内箱へとしまってしまうのだった。