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4月2日。
花咲く春この頃。
日本と違ってサクラが迎えてくれることはない。
だけどこのイタリアの地で新たな生活が始まろうとしていた。
「日本からの特待生だ。みんな仲良くするように」
「ユウ・ヨンミチです。よろしくお願いします」
担任のエイガー先生の紹介とともに自己紹介をする。
イタリア唯一の能力者育成機関、セント・テレーネ学園。
俺が編入するクラスの人数は男女合わせ10人。
えらく人数が少ないと感じる、がこのクラスはAクラス。
エイガー先生の話じゃ、イタリア全土で選抜された10人しかは入れられないらしい。
俺が入って既定の人数より多くなってしまったわけなんだけど。
「せんせー質問いいですかー?」
「いいぞアリーナ・ベルデル」
俺の簡単な挨拶が終わった後は質問コーナーらしい。
第1手はアリーナと呼ばれた女生徒。
小学生にも似つかわしい見た目で、 俺と同い年には少なくとも見えない。
だがこのクラスにいる時点で実力は確かなんだろう。
見た目で判断するのは尚早か。
「ユウ君はなんでわざわざイタリアに来たんですかー?」
「……えっと」
(島1つブッ飛ばしてその代償で来ました、なんて言えないぞ)
「……理由はいろいろあるかな」
「えー答えになってないよー」
「あんまり言えないんだよね」
「そっかー…… じゃあしょうがないっかー」
アリーナはこれ以上の詮索をやめたらしい。
もしかしたら見た目と言動に似合わず、よく空気を読めるのかもしれない。
「あとは質問ないかー?」
「あります」
いやいや終わらせてくれー
エイガー先生に応えたのは、 うっすらと赤く染まった髪を持つ少女。
「ルチア・バレンデッリと申します。質問をさせてください」
「……どうぞー」
赤髪の少女はルチアというらしい。
髪が目立つのもあるけど、 プロポーションもよく、 顔も整っていて、 まさしく美少女と呼ばれるにふさわしい見た目。
まあ、 胸が残念だけど——
「率直に聞きます。あなたの能力はなんですか?」
確かに率直。
なおかつ即効な質問だ。
能力は1人1人違う。
オンリーワンだ。
バレれば対策を打たれるし、 弱点にもなりうる。
良いことはないけど。
(そうはいっても実技授業の時点でバレるし、早いか遅いかなんだよな)
「能力はシンクロです」
「シンクロ?」
「簡単に言えば何かと同調する。 そして操るってとこかな」
「なるほど操作系の類ですか……」
操作系、ね。
少し前にアイツにも言われたな。
「ちなみに能力階位はおいくつなんですか?」
「いまSかな」
「「「「「Sランク!?」」」」」
クラス中の声が重なる。
俺に興味が無く寝てたやつもランクを聞いて飛び起きている。
能力階位、通称ランク。
オンリーワンな能力が、世界に対しどれほどの力を持っているかを表す、一種のレベルみたいなものだ。
下から順に。
E、D、C、B、A、AA、AAA。
Eが最低で、そこから段々と上がっていく。
AAAまで行けたら大したもので、辿りつけば一流と呼ばれる能力者だ。
だがAAAの上にはまだ階級が存在する。
それがSランクとSSランク。
最後には、伝説級認定のSSSランク。
ちなみに俺はSSランクからは同じ人間ではない、なにか違う生物だと認識してる。
正直なところAAAランクまでは自分の努力次第で到達できる。
ただしSランクからは話が違う。
火力、応用性、適用範囲、何かしらの突出した能力を持たなければそこにはいけない。
実際、いま確認されているSランク以上の能力者は世界でも400人に満たない。
そのことを考えれば高校生の俺がSランクであることに驚きを抱くのは当然だ。
でもよく考えれば、あの脳筋はSSランクなわけで、規格外であることがハッキリわかる。
そもそも同年代であいつより上のランク者はいないわけだし。
「Sランクだってよ……」
「フォード先輩に次ぐってことだよね?」
「ユウ・ヨンミチなんて聞いたことないぞ」
「操作系でSランクとなると効果範囲が気になるな」
質問やら自答やら、聞いた本人、ルチア・バレンデッリですらブツブツ呟いてるし。
意外とイタリア人も日本人も反応は変わらないな。
幼馴染たちに最初Sランクになったことを言ったらすごい反応だったのを思い出す。
「もう質問いいですか?」
「え、は、はい」
「じゃあ自己紹介及び質問タイムは終わりだ。お前の席は一番後ろ、トニー・モーガスの隣だ」
「わかりました」
エイガー先生に言われた席は一番後ろの窓際。
おそらく教室で好まれる席トップ3には入る席だ。
「よろしくな!」
「よろしく。 えーっと……」
「トニーでいいぜ!」
「わかった。 俺もユウって呼んでくれ」
隣人は金の短髪似合うトニー。
気さくそうな感じ?
話しやすそうなことこの上ない。
「にしてもユウ、Sランクってのはマジなのか?」
「認定されたのは最近だけどね」
「それでもすげーよ。俺なんてAランクだし」
まあ1つ上にSSランクの脳筋がいるけど。
トニーはAランクで惜しんでるが、 年齢を考えればすごい方だ。
一生かかってもCとかDの能力者もいるくらいだし。
「ところでチームはどうするんだ?」
「チーム?」
「再来月には国体戦の予選が始まるんだぞ」
「それって————」
ホームルームの終了を知らせる鐘がなる。
エイガー先生の話だと1限目は実技のようで、女子は移動を始めている。
「話はあとにしようぜ。 遅刻したらペナルティあるからな」
「まじか……」
「さっさと着替えて行くべしってな」
「だな」
向かうは校内練習場B、高校生活初の実技授業の始まりだ。