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「くっそ悔しいっす!」
「まあ良い試合だったとは思うよ」
「軽く言ってくれるわね……」
「いやいやホントだって」
「おにぎり美味し!」
ここは参加国ごとに与えられる特別観客席。
俺たちは穢祓者との激闘に終止符を。
エイラの聖剣が隊長たるアーサーを仕留めた。
つまりは勝利治めて今ここに。
(腹部の損傷がちょっと響くけど……)
神力任せの強引修復。
後になって効いてくる。
そんなこんな、戦場、治療室、移りに移ってこの場はイタリア専用ルーム。
もう一組、ルチアの小隊もここにいる。
「俺もまさかザックたち初戦の相手、それが日本だとは思ってなかったよ」
「確かあの腹刺し、コウタ……」
「光太郎か」
「そっす。あの能力滅茶苦茶ウザかったっすね」
イギリス戦後に行われるはイタリアのルチア小隊と榊という小隊長率いる日本勢。
結果はザックの言葉でお察し。
宣言通り、ルチア達を倒し光太郎と朱里がいる榊小隊が2回戦進出。
俺たちの次の相手となったわけだ。
「アリエルも、精霊出せなかったのが痛いよな」
「ははは、なんかハイルンは忙しくて来れないって」
「……平等な契約だったのか心配になってくるぞ」
盾の精霊ハイルンとの。
レネにこの目を渡した俺が言うのもなんだが、契約を結んだのに忙しくて来れないとか。
これがバイト契約だったら即クビだ。
(ただあいつのアリエルに対する狂信性は確かだし、本当に何かあったんだろうけど————)
「なら貴方も次はやりにくいんじゃない?」
ルチアが問いかける。
疑問のマークを現実に。
ビジョンを想像してその頭に。
「だって幼馴染、しかも2人もいるでしょ?」
「確かにいるけど言ったろ、倒すって」
「まあ……」
「気長に待っててくれ」
こうして会話するも先は見てる。
そして軽くなったのは会話だけは無く、その関係性も。
「でもルチアっちも丸くなったっすねえ」
「そうそう、ユウ君とそんな話しててさあ」
「な、なによ! く、クラスメイトと話すことが何かおかしいわけ?」
「「怪しいなあ」」
「だ、黙りなさい!」
紅軍は敗戦味わってもそのムードはオレンジ色。
なんだかんだと、今日はあと一歩、光太郎たちに後れを取った。
だが成長真っ最中、あと数年、大きく化ける日が来るのかもしれない。
「おにぎりは美味いなあ! イタリアでも売れるぞ!」
「お前はさっきから……一体どこで調達してきたんだ?」
エイラ手にするは光り輝く粒の結晶たち。
黒い帯を巻き、その内に様々な色彩を内包する食べ物。
日本じゃ当たり前のおにぎり。
それをこれでもかってくらい食っている、今横で、現在進行形で。
「これはお母様に作って頂いた!」
「……母さんの仕業か」
業者確認。
気をつかってか、いやエイラの大食いは存知、試合前日にテンション高かったわけだ。
なんせ母さんはエイラの世話をするのが大好き。
手はかかるがストレートな感情で返してくるエイラ、母さんは俺がイタリア行く前よりも若返ったような気さえする。
「え、フォード先輩、そのお母さまって……」
「俺の母さんだ」
「「「「え!?」」」」
「ん? なぜ皆そんな驚くのだ?」
ルチア軟化、それと同時にエイラも受け入れ態勢。
大分馴染んできた、そんな空間に俺とエイラ以外の驚愕飛ぶ。
「いや、ユウっちの親とまで仲いいんで驚いたっす」
「うむ! だがタダで泊まっているだけでは無い! ちゃんと手伝いも……」
「「「「泊まる!?」」」」
(余計な事を……)
本来、各国代表たる俺たちには、それ相応の宿舎が与えられる。
ただ母さんもエイラを気に入り、若葉も良く話すように。
そんなこんなで数週間、毎日俺の家での宿泊は続いていた。
「てっきり個人で予約、ホテルに泊まってると思ってたよ」
「……驚き」
「いやーユウっちも隅に置けないっすねえ……ってルチアっちが昇天してるっす!」
なぜかやりきったボクサーの眼をするルチア。
確かにビックリしたかもしれないが、その紅を天国に持って行くのは時期尚早だ。
「なんだかややこしい事になってききたな」
「まったくだ!」
「お前が余計なことを言わなければ……」
秘密の開示。
漏れ出す。
そしたらどうだ眼下の観客が湧き出した。
別にエイラが泊まっていることにじゃない。
透明な強化ガラスが人を捉える。
「————来たな」
降臨する。
ようやくだ。
一回戦の最終試合。
俺たちの真逆の時に。
全大会覇者そのままに、アメリカの登場だ。
「いよいよね」
「S級が3人も、恐ろしいっす」
「3人足せばSSS級だな!」
「さ、流石フォード先輩、計算早いっすね!」
「ふっふっふ!」
厳しい返しだな。
それに得意げになるエイラもエイラだが。
(歩く核弾頭、その力、見せてもらおうか————)
『凄まじい! 凄まじいぞ! クラーク・カヴィルが突き進むうううう!!』
アメリカと相対するはオーストラリア。
5人集まればどうちゃらという小隊だ。
確かに連携は見事、しかしそれを圧倒的な力が押しつぶす。
「やばいな……!」
そもそもアメリカ全体の空気が違う。
弱者を寄せ付けない力の嵐、もっと現実的にいうなら爆発の嵐。
カエサルが起こす。
あらゆる障害を身体に受け、傷つく、だが止まらない、それでも進む。
(破裂の能力、ここまでの力か……)
結論。
簡単だ3文字で表せる。
『つよい』
「やはりアイツのドッカンドッカンはすごいな」
「……エイラは戦ったことあるのか?」
「ないな。しかしこれは————」
エイラが珍しく。
心に浮き出る未知との出会い。
事前には知っている。
動画で文章で、その力の正体は心得ていた。
『真ん中の金髪、あれは英雄の器じゃ』
(クラーク・カエサルだろ?)
『能力も強力じゃが、何よりはその精神力、これは手強いのう』
レネの高評価物語る。
あいつは強いと。
頭の中の非常ベルが点灯する。
遭遇するな。
隙を伺え。
闇から倒せ。
(1発1発の火力、それから戦闘能力はエイラの方が上、ただ応用性がえらく高い)
俺らの世代で、エイラの次に強い人間。
なるほど納得。
その力は本物、SS級になるというのも夢物語ではなさそう。
「しかもあの2人もやばいっすね……」
「ああ」
爆発の陰に隠れる2つの影。
『無拳銃』のマズレール、そして『閃光』のホワイト。
この男と女。
クラークばかりが目立ってるが、きっちり、いや完璧すぎる仕事ぶり。
そんな連中集合、これが乱れることなく和を成す
「個々の能力ばかりと思いきや連携も抜群、すごいわ」
「しかも残る2人、AAA級だろうけどしっかり馴染んでる」
「もうチートっす……!」
これこそが小隊の鏡。
完璧である。
王道も王道、とことん突き詰め生まれた姿。
(大会史上、こいつらが最強の小隊といっても過言じゃないな)
動きやメンバーの構成。
賛否両論?
こんなんどんな批判家も形無し、賛成一択だろう。
だがしかし。
ここに否定する者あり。
「エイラ、お前だったらどこから攻める?」
「なんだ作戦立てるのか?」
「ザックリだ。流石にただ突っ込んじゃ爆破の餌食になる」
「ふーむ……」
いつもだったら罠あろうとも突撃する。
しかし今回の地雷はいかせん威力がネック、応用あってその隙に追撃喰らうのも確定。
今もオーストラリア勢は、うまいこと動かされ、エースの的となる。
しっかり作戦練らなくとも、その後のことは即興でも、流石に初手はなんとかしたい。
「————閃いたぞ!」
俺が尋ねすぐ応える。
考えなしであろうが、エイラの勘は当たる。
まあだいたいそれってのはヤバい、生命の危機が伴うわけだが。
「これは2回目になるか」
「2回目? じゃあ既に1回はやってることか?」
「そうだ」
終わりそうになる試合になお注目しながら。
ここにいる全員がエイラに意識を向ける。
眼下の強敵、完成された5人小隊を、どうやって2人組が打破するのか。
募る、興味の塊。
「ちなみにユウは2度とやらないと言ってた」
「……まさか強化同調か?」
「いやいや、もっとシンプルだ」
ザックたちが強化同調という言葉に引っかかりながらも、話は続く。
試合ではもう当たらないし、中身は知らない、名称放つことなど問題になりはしない。
もっともな問題はそのシンプルなるモノについて。
「いやあ、あの時は面白かったな。私は……」
「いいから早く言えって!」
俺含め皆待ちきれない。
なんせバカでも戦の申し子、クラーク以上の実力持つエイラ・X・フォードの考え。
(山を割って道創る、津波を生み出してそれに乗る、俺が2度とやりたくない作戦なんて腐るほどあるぞ————)
思い浮かぶエイラ考案、イカレタ作戦集。
安直な名前に反したヘヴィーな内容ばかり。
固唾飲む。
相手の強さは戦わずしても理解、これを打開、道開く。
「この作戦の名は、第2回————」
『試合しゅうりょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
エイラの言葉にちょうど実況被る。
興奮ハイテンション、それ故にデカすぎる声量。
観客も湧きに湧いている。
しかし至近距離、近くにいた俺たちは聞き取れた。
その、果てしなくバカな打開法を。
「それ本気で言ってんのか?」
「面白いだろう!?」
「…………」
絶句する。
ザックたちは聞いて軽くクエスチョン、あまり驚いてはいない。
しかし経験したことある俺にはわかる。
これだけはもう一生やることはないと決心していた。
「いやー楽しみだ!」
そう言って再び、何事もなかったように片手に三角に固まった米を。
ばくばくと口に運んでいく。
「まあエイラの考えだもんな————」
仕方なし。
ただ確かにこれなら相手の虚をつける可能性大。
しかしこれ思いつくことがある意味流石。
アメリカは強い、小隊としてならこの世代で最強かもしれない。
そして同じくだ、俺の隣にも、個人では若手最強が。
最高の相棒がいるのである。
それは爆発爆裂ブッ飛ばす、月の激突生み出す衝撃破の如し。
核さえ飲み込む銀河のように大きな、そしてシンプルな考えであった。