44.5 with Lucia 1-2
私の名前はルチア・バレンデッリ。
イタリアのセント・テレーネ学園、1年Aクラス所属。
ランクはAA。
小隊については、自分が小隊長となって結成した。
思い返せばまだ中等部の時のことだ。
私は自分の力を過信していた。
自分は特別だと思っていた。
それを突然来たばかりの男に挫かれた、打ち砕かれた。
改新する。
すると鼓膜が進化、仲間の心が肉声となって私に響き出した。
悔しさバネに、皆と必死に取り組んだ数か月。
だけど最終的には、及ばなかった。
でもなんの因果か運命か、廻り廻って国際選抜戦への道開く。
開けてみればトーナメント表すぐ隣、あの男いる小隊名が。
一回戦、相手は日本だった。
だけど私が望むのは同じ日本人でもこの人たちじゃない、もうひとつ先、2回戦。
そこで待っている、青い光を持つ、その人のもとへ。
運で掴んだこの切符。
今度は自分たちの力で、もぎとってみせる。
『さあ白熱の一回戦! 一試合目は大激闘でした!』
観ていた。
気付いたら過ぎていた時間。
青と光、それと戦った天使たち。
格が違う、覚悟足らず。
やっぱり強い。
そう思うと、思わないようにしてる心の柱、それが少しずつ削られる。
同じイタリア代表、彼らと同じ場所に立つ資格があるのか、役不足、私は————
「ルチアっち!」
「まーた顔が怖くなってるよ」
「……笑顔、です」
「堅物は俺の専売特許だぞ」
「みんな……」
近頃みんなは私をよくバカにする。
でも不快には感じない、血よりも鮮やか、映す出すキレイな紅色。
顔を上げる。
心持もみんなが支えてくれる。
『では両小隊の入場です! まずはイタリア代表バレンデッリ小隊————!』
お呼びがかかる。
エイガー先生も言っていた、普通を恥じるなと。
強きを認め、己も肯定。
見ているかはわからない。
だけど、イタリアの代表として、自分自身を誇るために。
「みんな! 行くわよ!」
「「「「応!」」」」
夢だったゲートを潜る。
そこの先には戦場が広がる。
返上することはない。
この切符は使い切る。
既に周囲観客席、歓声上げるところは目一杯。
これが噂に聞く日本式満員電車か。
『そして相対するは日本代表! 榊小隊の入場です!』
流石にホーム。
私たち以上に声援送られている、気がする。
そんなこと定かではない。
冷静ではいられない。
この両脚が震える。
手が軋む。
張り詰める。
「まさか私がこの舞台に立てるなんてね……」
「想像してなかった?」
「ええ……」
「俺もっすよ! 緊張で脚が震えるっす!」
「……私は、……既にメンタルが」
「まったく情けないぞ」
四季折々。
狂った歯車が会話で戻り出す。
軽い、なにげないジョークが意識を正す。
停滞から再びの進行へ。
『では定位置にて待機を! 10カウントで始めます!』
翻訳された言葉が入る。
カウントが始まる。
何度聞いたかこの刻時、何故かもらったこの好機。
頭上を確認、歪みない青一色の空だ。
絶対はいない。
「————相手に常識外れの怪物はいない」
試合の相手を注視する。
三色に相対する日の丸じるしの入った戦闘服。
表重装備の許可された帯刀。
ただ私たちと同じ、そこにS級はいない。
「緊張するっすけど、俺は大丈夫っす」
「ハイルンは怪しいけど、私もいつも通り!」
「……私も、準備万端」
「同じく異常なし」
隊員全員問題無し。
「私も普通、いえ、絶好調よ!」
自己の確認済ませる。
これは基本。
私たちがすべき第一のこと。
その後向き直る。
数秒があっという間、カウントは終わりを迎える。
『————試合、開始です!!』
「————炎細剣、囲め!」
紅蓮が彩る。
とっくに狼煙は打ち終え、戦到来。
「巨岩砦!」
今回の作戦は中央重視で行く。
事前調査、相手に突出して強い能力者はいない。
これはある意味小隊戦の正しい姿。
正統と正統、目の前の小隊の動きも教科書のお手本のよう、読み合いと読み合いが重なる。
(右翼から強めのプレッシャー! サリーをもう少し後方に、ザックは前に出てもらって————)
めまぐるしく。
脳の回転数が上昇していく。
迷路のような思考、導き出す構図を仲間に伝える。
「サリーは後退! ザック右に前進! アリエルはフォローしてあげて!」
「了解っす!」
「任せて!」
派手なパンチはない。
ただ、気を抜けば一瞬で崩れる。
拮抗している。
少しでも揺らせば負けるのだ。
まるでコップぎりぎりに水が張り詰めているに等しい。
「やるわね貴方! 夕の教えでも受けてるの!?」
「ユウ? ユウ・ヨンミチのことですか……!?」
私のレイピアは最前線に。
目下刀と交戦中。
担い手はおない年ぐらい、黒のショートカット持つ女の人だ。
「ええ! 私は幼馴染なんでね!」
「……なるほど! ただ何も教えは受けていません!」
そう、今戦っているこの小隊に彼女、幼馴染がいることさえも。
しかし語弊がある。
自発的に教えを受けてはいないが、根底、大前提となる部分を戦いという形では叩き込まれた。
模擬戦、予選決勝、味わった悔しさ、そして仲間の存在に気づかされた。
「自己修復!」
「厄介な能力……!」
「誉め言葉として受け取っておくよ!」
この女性、私の剣が傷を生み、炎で焦がそうとも、治る。
それが彼女の能力なのだろう。
近接戦闘にはもってこいの能力だ。
「なら……! 大地を喰らえ細炎剣!」
相手の能力を喰らう。
地に這わせた炎が回復速度を遅延させる。
足を焼く。
その速度を括り付ける。
「……やば!」
初お目見え。
私の能力は何も突っ込むだけじゃない。
剣で捌き、隙を伺い、そこに突き刺す。
そうして、今がある。
「————もらったわ!」
レイピア届く刹那の瞬間。
一発、もう決まる。
だがどうだ、どこからか機関車のような瞬発音響く。
「朱里!」
「……光太郎!」
「っく! 防ぎますか!」
あと寸でを新たな刀、黒い蒸気が弾き返す。
「ルチアっち!」
「ザック」
「申し訳ない、彼を止めきれなかったっす」
セーブ失敗。
いやいや、私もつい周りへの意識を落とした。
(隊長の榊って男はガツガツ前に出てこないし、ほんとテンプレ通りの小隊ね……)
自分で言うのもなんだが、定石通り。
同じスタイル、だからこそ読みと体力の勝負になる。
やっぱりこういう時、一点突破の能力者がいればと。
いやいや、卑下はしない。
辛い、ボクシングなら急所を守ったボディーの打ち合い。
耐えに耐えた方が、勝つ。
「でもまさか、ユウっちの幼馴染だとは思わなかったっす」
「まああいつはペラペラお喋りするタイプじゃないからな」
「え? そっちの方も……」
「俺は光太郎って言う。朱里と同じ、夕の幼馴染だ」
(幼馴染が2人もいるんなら流石に教えてくれてもいいじゃない……!)
戦闘続行。
交えて剣と刀、炎がザックによって拡大する。
ジリジリと削る。
「————あいつは変わってるだろ!」
「————ええ! 変人も変人よ」
火花散らして口を飛ばす。
彼への悪口か、いや侮蔑は籠っていない。
(なんとか砲台創るまで時間を稼ぐ)
私とザックは此処から動くのは厳しい。
周り、アリエルもベックも固定、サリーは出しどころが難しい。
(せめてアリエルが盾の精霊を召喚出来たら……)
曰く忙しいらしく欠席とのこと。
どうしようもないらし。
(私だったら即契約破棄するわ!)
「自己回復!」
「適切行為!」
回復の方はわかりやすい。
ただ、男の、コウタロウと言ったか、私の剣に、ザックの動きに機会みたいに合わせてくる。
一糸乱れぬ。
まるでコンピューターの如し無駄の無さ。
(要はよりいい結果の方に、身体が勝手に動いてくれるってことね……!)
厄介な力だ。
おそらくランクもAAからAAA級いくかいかないかの辺り。
「巨岩砦!」
間に岩窟が。
挟みこむ、天高く、武骨な及び。
「ベック!」
「待たせたな」
押していた。
空気が変わりつつあった戦況の構図。
ようやく1人倒したか、隙が生まれて支援行為に。
(ベックの動きを見て向こうの隊長さんも合流気味、勝てる、これなら勝てる)
アリエルとサリーが榊隊長とあと1人抑える。
状況見れば3対2よ2対2に。
優位に立つ。
そびえ立った壁が少し薄く、小さく変わる。
「っ! 朱里!」
「分かってるわよ!」
不利をとっくに認知する。
すぐさま形をオールマイティーに変化。
岩を弾き躱し、この炎を踏まないように。
「ザックそこから畳みかけて!」
「岩形成はもっと集中させた位置に!」
「「了解!」」
囲い込んでいく。
最後の主砲放つステージへと向かう。
向こうも切羽詰まる、回復し適切ながらも追い込む焦燥に駆られているはず。
(この2人を倒せば、あと2人、私たちが圧倒的優位に立てる)
アリエルとサリーは必死に抑えてくれている。
なら私たちは目の前のこの2人、彼の幼き頃の友人を倒すのみ。
剣は閃光する。
真っ赤な紅蓮が大気を燃やす。
気温上昇、日本掃討まであと少し。
あと少し。
(超拡大火災砲に必要な分は溜まった! あとは砲台を造るだけ————)
「仕方ねえ! 本当は夕にとっておくつもりだったんだぜ!」
「無駄口叩いてる暇ない!」
一瞬気が緩んだ。
勝利目前にして、だからこそ。
本当に、一瞬も一瞬だった。
僅かな、炎が燃え広がる、砲台建設あと数秒、ステージからの退却向けての刹那の時。
押し込めきれなかった、甘さ。
「……ぬあ!」
「っなにを!」
その適切に動く男、刀を自らの腹に突き刺す。
鮮血飛ぶ、自殺行為、思考停止してしまう。
「適切行為、死地」
思考再会の催し。
察す。
機械から意志もつ機械へ。
死を目前にした追い込み、人間の限界を超えた限界の動き。
「————っ、細炎剣!」
「————遅いぜ!」
生み出す速さは今までと比較ならず。
空いたはずの数メートルが一気に詰められる。
刀はすぐそこに、そして沈む。
防刃使用の戦闘服、守られた腹部に刀がグッと捩じりこむ。
「———ユウを倒すのは、俺だ!」
痛みさえ感じぬ、意識の消失。
刀の残像が目に。
仲間の声の残響がこの耳に。
固く結んだ決意はそうして散った。
『いやあ実に良い試合でした! どちらかと言うと玄人向け、今後の成長が————」
意識が浮いてくる。
顔には冷たいナニカが走る。
「……チア! ルチア!」
「あ、アリエル?」
「意識戻ったっすね」
「まったく心配したぞ」
「負けたのね————」
息をつく。
「頑張りました」
「そっす全力出したっす」
「でも、私が油断して……」
「「「「皆油断した」」」」
声を重ねてくる。
私を否定する。
「その掛け合い、流石に打ち合わせしたでしょ」
「まあそっすけど、そう思ってるのはホントっす!」
「俺ももっとカバーできたた」
「私たちも早く片付けてればね」
「粘れました……」
「————だから気にすることないっすよ」
みんないい笑顔で言う。
(これじゃあ落ち込む私がバカみたいじゃない……)
「来年また、来ましょう」
「「「「応!」」」」
今度はアドリブ。
全員が頷く。
すると改めて周囲を確認。
ゲートの外、待機室にこの身はある。
誰かが運んでくれたのか。
しかし周りに散らばる小瓶の数、包帯の端くれ。
気付く、いや気付かされる。
「……っい!」
「ははは。お腹痛いんでしょ」
「まあ派手にぶち込まれたっすからね」
「貴方たち、他人事だと思って……」
痛い。
刃は強力な戦闘服が通さなかったが、その鈍い痛みはしっかりと残っていた。
「————おお! 目を覚ましたのか!」
そこに聞き慣れた声が。
鮮やかな金髪を揺らした、一点突破の豪傑。
「フォード先輩……」
「見事な試合だったぞ」
「あ、ありがとうございます」
褒められる、あのフォード先輩に。
それは大分進歩したと受け取っていいのだろうか。
「ルチアは元気かー」
「……ユウ・ヨンミチ」
「ユウでいいって」
確かに私もルチアと呼べといった。
だが初めてか。
フォード先輩に続いて現れた。
「————ほれ」
ユウが横たわる私に小さい瓶を投げる。
中は見えない、ラベルは英語で書かれている。
「それ痛み止め、しかもイギリスの穢祓者たちが使う特別仕様のだ」
「そ、そんなものいった何処で……」
「アーサーの見舞いついでに貰ってきた。いやあイギリスは紳士的で助かる」
「本当はぱくって来たん……」
「はっはっは! エイラは可笑しなことを言うなあ!」
そういいつつ、エイラ先輩の口を必死に抑えている。
そしてすぐ後ろからザックが小声で。
(ユウっち、盗んできたんすよ)
(……なんで?)
(そりゃ、いやたぶん、仲直りしたいんじゃないっすかね)
(仲直り……)
(あの模擬戦からちょっとギスギスしてたっすから、ユウっちも意外と不器用なんすよ)
「まあ細かいことは気にするな」
「え、ええ」
「良い試合だったのは確か。誇っていいと思うぞ」
「……ありがとう」
この男は、戦いとなると冷たい。
勝利に纏わりつく。
でも、変な人。
今はこうして笑ってるし、認める、フォード先輩を叱ってる。
「それとだ」
言葉は続く。
何を投げる。
疑問が浮かぶ。
皆が耳を傾ける。
「ルチア達の代わりってわけじゃないが————」
代打ではない。
独自の思考と考え。
前を向く。
彼と視線が交差する。
放つのは宣言。
「————日本連中は、俺とエイラがぶっ倒してやる」
口が開く。
解釈違い、彼は普通に勝利だけを見ていると思っていた。
でも、僅かでも、私たちの影はその視界に入っているのだと。
「そう」
「意外と薄い反応だな」
「そんなことない。なら貴方、いえユウに任せるわ」
「私もいるぞ!」
「す、すいませんフォード先輩にも任せます」
委託する。
この潰えたはずの運命を。
「任しておけ! なあユウ!」
「ああ」
「では早速……!」
「おい、何処に行くつもりだ?」
「もちろん日本勢を倒しに……」
「試合は明日だろうが!」
「そ、そうか! 明日、そう明日しっかり倒すぞ!」
うんうんと頷くフォード先輩。
痛いはずの神経が薄く、自然と笑ってしまう。
この人もおっちょこちょいなんだ、そしてそれにツッコんでいるユウも、どっちも面白い。
真夏の国際小隊選抜戦。
一回戦で敗れた苦い思い出も、少しは甘いところもあるんだ、そう心に残った。