43.5 with others+M
『能力階位』
この時代、あらゆる人間がなにかしらの能力を持つ。
そこには上下の互換性から、被ることのない特殊なものまで。
ようは千差万別なのである。
この数多の能力。
中には想像を覆すようなものが稀に。
圧倒的火力で殲滅を行う能力。
科学では解けぬ死者を蘇らす法。
世界を書き換える支配干渉の力。
魔王との大戦もあった。
よってそれ以降には平和維持のため、能力を管理統括しようという動きが。
そしてその目的達成のために、国連主導で創設された機関がある。
名を能力統括機関。
通称『A・O・O』
主な役割は、能力の格付け、及び能力者の管理統括である。
所属するは世界中の研究者たち。
彼らが現在の能力の定義を決めたといっても過言ではない。
『能力が世界に、どれほどの影響力、どれほどの干渉力を持つか』
これを大前提とし、更に独自の審査を交えランクを決定する。
しかしこれには、その個人の性格、頭脳、私情は一切考慮されない。
純粋なる力の見定め。
それが今のランクの姿である。
機関の長を務めるは『雷槍』ライザー・マルティネス。
大戦活躍したアメリカの英雄。
その功績あり国連より機関長に抜擢される。
また毎年開催される『国際選抜戦』の委員長も務めるなど、世界でも未だ輝かしい存在である。
そんな雷の英雄には頭を抱える大きな問題が目の前に。
2117、何回目になるか大会の開催。
今年は黄金世代とまで言われる、強力な能力を使う若人が集うとき。
期待をしていた。
楽しみにしていた。
満を持して臨んだ開会式。
しかしそこで出会うは、一癖も二癖もある者ばかり。
怒号飛ばしても委縮するは観客と普通の学生代表のみ。
S級、およびSS級、彼らには馬に念仏。
まるで数十年前、共に戦ったあいつらと出会った時のよう、
会場カムバック、過去のリターン。
そう感じてしまった老いし英雄。
去り際、声出すことも出来なく注視するのみ。
背中が語る新たな英雄の誕生。
この一二三、思い出しから理解へシフト。
分かってしまったのだ。
この3世代が新たな英雄たちなのだと。
ランク付けをした機関の長は思う。
この連中は黄金などではない。
闘魂宿し独尊。
騒音響かせ世界の城門を破る。
殺伐激越。
修羅の世代であると感じ得た。
『え、えー、こ、これにて開会式は終わり……?』
あたふたする実況。
騒めく観客。
無言を貫くマルティネス委員長。
「…………」
俺は日本代表、稲村 光太郎。
高校1年生ながら四苦八苦、ようやく手にした本選の切符一枚。
今年が黄金世代、常識外れで強い連中が溢れてる。
そして分かっているつもりだった、自分が『普通』であると。
「なんだよこれ……」
自分は普通という考えが打ち砕かれる。
起きたばかりの光景、かの英雄の言葉に反論か無視、続々と去っていく。
唖然とする。
自分など怒号にビビッて思考が一旦停止していたというのに。
考えていた普通は、もっとハードル高く、現実は非情であった。
「こ、これどうするんだろうね……?」
話しかけるは幼馴染の朱里。
同じ小隊のチームメイトでもある。
本来だったらここにもう1人、幼い頃からの繋がり、ユウが入るはずだった。
「夕も、行っちまった……」
「……」
理由はわからない。
ただ突然でイタリアへの編入。
気付けばあの聖剣使い、『脳筋』エイラ・X・フォードの相棒になって、魔王討伐。
まさかだった。
驚きで目を疑った。
(本当に遠くに行ったな)
深夜ながら見たイタリア予選の中継、アイツの顔は、聖剣使いと共に戦っている表情は喜びで溢れていた。
長らく見ていない本物の笑み、それを離れてから気付いた。
嫉妬だろうか?
幼馴染であるというのに、連絡よこさないことに?
いや違う、これは仲間心、俺たちではなく、聖剣使いを選んだということにだ。
(そんなことで意地張って宣戦布告しちまったんだから……)
意地張った。
久しぶりの帰国を笑って迎えるはずだった。
しかし大会前、一度会ってみれば隣には聖剣使いエイラ・X・フォード。
土砂崩れ、張りぼての笑った口元が崩壊する。
夕を突っぱねる。
お前は敵だと。
「残ってるは、私たちと同じ一般の代表ぐらいね」
「ああ……」
周りに残る小隊は俺たちと同じ普通組。
ようはS級がいないチームのみ。
強き者がいる小隊の隊員は、俺たちが持ち得ない、その覇気によって動かされる。
数刻遅れでありながら、その象徴について行った。
それがない連中は、同様に周りをキョロキョロ、次の行動悩みアタフタしてる。
『や、やはりこれで開会式は終わりのようです! で、では皆様、一回戦開始まで少々お待ちください————』
一回戦って、開会式に使うはずの時間あまりまくり。
騒めく空間。
観客はまだいい、俺たちになりに必死の努力積み、ようやく来たこの場所。
しかし感じるのは優越感でもなんでもない。
ただの場違い感。
ライオン群がる檻に放り込まれた子犬の気持ち。
送られてくる観客の視線も困惑交じりの同情さ。
「光太郎、私たちも退場しましょ」
「そうだな……」
「夕に謝るなら付き合うわよ」
朱里は当時現場にいなかった。
幼馴染だからこそ付き合う。
しかしここで折れていいものか?
空気に飲まれ萎縮した俺の心臓、これはこのままでいいのか?
遠く遠くに行った夕に追いつきたい。
「……もう少し時間をくれ」
「はあ、まったく男ってめんどくさいわね」
「う、うっせーな」
「まあいいわ。同じ小隊だし、とりあえずはアンタに付き合う」
俺が敵対なら敵対。
俺が友好なら友好。
発表されたばかりのトーナメント表。
夕と当たるとすれば2回戦だ。
(俺は————)
退場するこの足と身体。
語るのは黄金と同じ自信ではい。
路頭に迷う。
鮮明ではない、色交ぜに失敗した濁り気味の色であった。
「うっひゃあ! こりゃ上物の魂ばっかりだなあ!」
「アガレス、興奮するのはいいけど、私の水晶に唾を飛ばさないで」
ここは闇のどこか。
様々な色が集まる中で、染まることのない、侵されることのないところ。
「魔女の王は相変わらず冷めてるなあ」
「冷めてるんじゃくてあなたが熱すぎるだけよ」
「っくっくっく! そうかねえ!?」
この混沌にそろうは混沌の王たち。
かつて葬られた魔王たち、それに加わる新たな魔王たち。
それが一堂に。
そんな中で、魔女王が強大な水晶に映し出すは人間の催し。
鮮明に描かれたのは日本、若き英雄の卵揃う会場であった。
「アガレス様は楽しくて仕方ないようだ」
「なに、我らでこの状況を楽しんでない者などおらんよ」
「然りだ」
「いやあこれは遣り甲斐がある」
「……イエス」
語り出す魔がつくナニカの王たち。
水晶見つめ、それなりの見解を口々に。
「逆に魔女ちゃんはさあ、誰か気になった子いないのお?」
「私が……?」
「そうそう! 俺は仕留めそこなった聖剣使い一択だぜえ」
「私が気になる————」
魔女の王は年齢感じさせぬ美しい肢体。
流れる薄く紫がかった長い黒髪が魅惑を生み出す。
だがその見た目に反して力は絶大。
魔族的特徴は無い、感じ見るに人間そのもの。
しかし彼女は、あらゆる魔法、魔術を使いこなす絶対の魔法使い。
その実力、下級の魔王では話になりもしない程の。
「————そうね。私は、この男の子かしら」
魔女王の整った輪郭、それに伴った紫の瞳が見つめる。
その先は黒い髪と、銀色に輝く眼をもつ男だった。
「おお! 聖剣使いの相棒!」
「ええ。確か変幻だったかしら」
魔女王は数多の魔法を網羅。
その数、数千。
人間でギリギリ張り合えたのは『賢者の書』と呼ばれた女ぐらいのものだった。
しかして銀もつ男、その可能性は魔女王の眼を持ってしても完全解読不可能。
(どこかの神が肩入れしているんだろうけど、やっぱり直接視ない限りはわからないわね————)
人柱となったその身。
しかも男はあらゆるモノを操り支配する能力を持つとか。
それは魔女王に似て非なるもの。
あらゆる魔法を使う、あらゆるものを操る。
「聖剣使いと変幻はタッグだからねえ! 魔女ちゃんも俺と一緒にさあ……」
「お断りよ」
「ふっられたああああああああああああ」
邪神の声、不甲斐ないことで響く。
それには関わって連なる王たち。
彼らは動き出している。
ゆっくり、ゆっくりと。
下級の魔王は死んで代替わり。
弱い魔の王は淘汰されるのみ。
魔力を溜め、真の王たちが日の出を見始める時が近づく。
「さあ見せてもらいましょうか、新たな人間の希望を————」
数十年前に味わった敗北、その苦渋を打ち消すために。
聖戦魔戦。
日の国にて始まる戦い、これを楽しむのは決して人類だけではなかった————