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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 4 -International Convention 2117《紅白に集いし者》-
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 『————さあいよいよこの時がやってきました!』

 

 短い歓楽的時間の終了。

 この間に手に入れたのは余分なカロリー、そして先人の意志だ。

 待ちに待った。

 我が祖国日本、俺たちを呼ぶ。

 遊びは終わりである。


 『ではこれより! 国際選抜戦、開会式を行います!』


 戦いの宴、始まりの始まり。

 鼓膜に張り付くは万人共有語。

 俺の耳には日本語に、エイラの耳にはイタリア語に。

 この結界場にいるだけで書き換えられる世界の壁、これも偉大なる能力者『賢者の書』、彼女のおかげ。

 限定的でありつつも、世界を共有。

 実況も覇気宿る。

 その闘魂が観客を期待で震え上がらせる。

 

 『各国選りすぐり! 選手たち入場です!』


 会場外、微妙に内式に居る俺たちへゴーサイン。

 能力先進国10か国。

 アメリカイギリスフランスドイツイタリア西スペインロシアジャパンチャイナオーストラリア

 各々2小隊、もしくは1隊のみの参加である。

 強い連中が分散せず、1つに集中させたい、その場合が後者、アメリカやイギリス、フランスの例である。


 『まずは昨年優勝アメリカの————』


 にしても長い長い。

 今回参加は全16小隊。

 耳に流れるその者たちを称える実況とそれに応える数多の声援ども。

 風に流れ、鼓膜に侵入する。

 だが膜に吸収されず右から左へ。

 俺の意志が弾くからこそ。

 加速していく体感速度。

 意識がタイムスリップ。

 出番はもうすぐ迫ってくる。

 

 『————さて最後はイタリア代表! まずはバレンデッリ小隊!』

 

 目下寸前、ザックたちが光の口へと消えていく。

 それに盛り上がるは必然。

 また待ち構えている強き同世代たち。

 

 (俺たちを最後に入場させるとは、完全に悪乗りだな)


 ピリピリ肢体にくる殺気。

 またそれ似た期待と不安の塊。

 ならばそれに俺たちも応えよう。

 電子の世界でしか語られなかった俺たちを、この体を、いま晒そう。


 『そして最後の最後! みなさんこの小隊、いえこの2人を待っていたと言っても過言ではないでしょう!』


 整列はしない。

 垂直に直角な平行。

 一糸乱れぬムーブ、縦一筋で行進していっただろう先客たち。

 今のところ顔合わせは無し。

 強いて言うなら同国のルチア達と同じスタート位置にいたぐらい。

 アメリカともイギリスとも。

 ある意味で日本連中、光太郎や朱里とも。


 (まさか宣戦布告されるとは思ってなかった————)


 思い出されるはここに来る少し前の事。

 結論から言うと、俺は幼馴染に会うことができた。

 しかも彼らは日本代表にまで上り詰めていた。

 歓喜したのも束の間、まさかの敵対宣言、最初は絶句、しかし戦いの本能は相反して理解。


 (やることは、誰が相手でも変わらない————)


 『それでは入場! 脳まで筋肉にして千変万化の動き! フォード小隊だあああああああ!』


 さあ。

 さあ踏み出そう。

 矢面、あらゆる視線を惹きつける。


 「————行くぞ」

 「————おう」


 みんなが呼ぶ。

 来いよ来いよと。

 ならば赴く。

 天上天下、黄金靡かせ、銀の瞳を走らせる。


 












 「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」

 

 入場と同時、上がる歓声。

 整列することもなくある種ふてぶてしくも。

 横空いた間隔数十センチ、エイラの真隣を。


 「どうやら私たちは大人気のようだ」

 「そうかねえ……」

 「そうとも! っはっはっは!」


 事前に言われた定位置へと向かう。

 赤い太陽と一迅の風吹く。

 観客と、莫大なカメラの群衆。

 そして予想通り、大胆に密かに、さまざまな視点で俺たちをみつめる黄金世代たち。

 

 (めちゃめちゃ警戒されてるな————)


 中には昨年MVPの『歩く核弾頭』、アメリカ野郎の視線も。

 大人気って空気では少なくともない。

 この状況を楽しめるのはエイラと同じぐらいバカな奴だろう。

 しかし俺は勘違い。

 この場には各国のS級が集まっている。

 その連中がマトモなはずがなかったと。


 「————歴史再現ページ・ワン! 無敵艦隊、出航だ!」


 唐突に。

 未知の物体X。

 会場の歓声を打ち消す、いや押しつぶした発現音。

 荒れる波の音、それに面舵いっぱい。

 空に顕現、大気という波を切り分ける。


 『べ、べリンダ選手! 一体何を————!』

 

 上空に巨大な帆を張る戦艦到来。

 大空に輝く沈まぬ太陽。

 しかし反応見るにどうやらアドリブのよう。

 これは戦争の渦中へ放り込みか。

 意味不明な思考回路図。

 

 (限定的な歴史の再現、これが噂に聞く無敵艦隊の一隻か————)


 「でっかい船!」

 「スペインのS級、べリンダ・ドレイクの能力だ」

 「ほほう!」


 船体が巨大な影を生み出す。

 暗黒に染まる俺たち。

 だがそれを照らす真っ赤な火花散ることに。

 

 「————主砲、放てい!」


 古めかしい帆靡き、大砲が影に光を。

 躊躇ない攻撃。

 雨あられ、一瞬無限にも見える砲弾が襲ってくる。

 彼女の能力は歴史を再現することである。


 「大気同調アトモス・シンクロ


 俺を中心、前方重心置きシンクロを発動する。

 風が吹く、風が荒れる、風が昇る。


 「吹き荒れろ」


 艦隊の敵は、相対する船、そして環境。

 海を荒らすビッグ・タイフーン。

 その帆を粉砕、破片として無に帰す。

 

 「……流石に重い!」

 「やはりこの程度では効かないか!」


 弾丸持ち上げ風の懐、巻き上げた鉛をお返し如く。

 具現化した船首にぶち込む。


 「————強化ミラータ!」


 俺の応対。

 さすればエイラは応酬するのみ。

 体に流れる真っ赤な黄金、漲る力、剣に宿す魂。


 「不意打ち結構! ならそれ相応の報いを!」

 

 脚力増幅、その速さは数乗、神速へと。

 大地踏みしめ、一気に駆ける。

 敵の首元、艦隊の船長へとその突き進む。


 「————Ⅳ・棺」

 

 しかしスペイン女の道筋に一つの障害現る。

 

 「ぬ! 貴様イギリスのひょろひょろ男!」

 「アーサー・グリンドリィーだ。何度言えば分かるバカ女」

 

 エイラの聖剣は見えざる光に防がれる。

 どういう理屈か、屈折か、盾いや結界。

 エイラが次点装填。

 セカンド、サード、上への階層を見始める。


 (あれは『穢祓者エクソシスト』、イギリスのS級まで出しゃばってきたか、でも……)


 『————そこまでだ!』


 拮抗し、次の一手を刹那に考える最中に。

 女性の実況ではい。

 野太い声、老いを感じぬ。

 中央に集まった注目が新たな登壇、壇上の方へと移り変わる。


 『これ以上は、試合で語り給え』


 殺気が沈む。

 停滞する空気感。

 発現主は『雷槍』ライザー・マルティネス。

 アメリカのSSS級、英雄、この大会の主催。

 さまざまな肩書き持ちつつも、意を返す間も無し。


 『まずはべリンダ・ドレイク、一体なんのつもりだ?』

 「なんのこうもない。ただ噂が本当が確かめたかっただけだよ」

 『試合以外での戦闘は禁止事項だと知らないのか————?』


 盛り上がっていた観衆も口を閉ざす。

 その英雄、男の覇気に怖気づいたのだ。

 しかして巨大な器を持つならば。


 「知ってたよ」

 『なら君は規則を破ったことになる』

 「そうだねえ、それで?」


 女は飄々と。

 その赤みがかった髪をひょうきんと。

 まあ一発目入場合間に襲うくらい。

 頭のネジがキチッとはまっているわけもない。


 『…………』

 「冗談冗談。悪ノリが過ぎた、いや過ぎましたか」

 

 もはやネジなど存在しないレベル。

 鉄板そのまま、動かぬほどに重い、でそうなのだ。


 「脳筋に変幻、いやあ悪かった、抑えきれなくてさ」

 「正直に謝るか、なら許そう!」

 「まあ鈍った身体にはいい刺激になったな」


 観光して固まった意識レベル。

 それが融解、一気に引き込まれる。

 ヒヤヒヤとまでは言わずとも、ウォーミングアップには十分だ。


 (相手方もまだまだ力は出してないみたいだけど————)


 しかしこの騒動。

 急に湧き上がった熱はそう冷めないようだ。


 「スペインはもちろんですが、混ざったイギリスも大概ですけどねえ」

 「……なんだ、影の薄い農民王国か」

 「農民王国!? 我がフランスを!?」

 「お、落ち着きなよ」

 「「ソーセージは黙ってろ!」」

 「ど、ドイツにだって良いところいっぱいあるのに……」


 スペイン始まりに。

 終わると思った回はさらに増える。

 各国の強者つわもの同士の衝突、もとい罵り合い。

 

 「まったくどこも野蛮だねえ」

 「…………」

 「そういや最近ロシアじゃテロがどうとか、いやあお気の毒」

 「…………黙れパクリ野郎」

 「パクリ? 寒さで脳みそ凍ってるんじゃないかい?」


 ここでは中国とロシアが。

 雷槍、実況というかアナウンス、全てを無視し、熱く冷たく罵倒する彼ら。

 観客は怖気から解放され、目の前の光景に疑問、キョトンとしている。


 (関わってないのは日本連中ぐらいなもんだな)


 中には光太郎と朱里の姿。

 目線合わせることなくも、5人整列して唯一次の指示を待っている。

 まさに優等生1国、あとは問題児である。


 「よお聖剣使い」

 「おお! 爆発男ではないか!」

 「せめて歩く核弾頭と呼んでくれ」

 「あんたは……」


 もはや地獄絵図、最初の整列どこいったか、まさかのアメリカまでもがフラフラと。

 アメリカ参加は1チーム。

 隊員中3名がS級、そして隊長務めるはエイラの次に強い、SS級近いとされる男。

 『歩く核弾頭』クラーク・カヴィル。


 「君は変幻、名はユウだったか」

 「まさか話しかけてくるとは、正直ビックリです」

 「敬語はいい。なんせこの空気だ」

 「まあ確かに……」


 ここの空気は俗にいう学級崩壊。

 もはや閉鎖、封印したいレベル。

 

 「ホットドック食いてえ」

 「ローちゃん、我慢だよ」

 「恥ずかしいからローちゃんは辞めろ」


 残る2人のアメリカS級もマイペースなよう。

 

 「この機会に話してみたくてな。まあスペインに一歩先を行かれたわけだが」

 「あんな話し方は御免だ」

 「はっはっは! そりゃそうだ!」


 意外にこのアメリカン男おもしろい。

 気概がいいというか、男というかは漢ってかんじ。


 「にしても日本だけは動かない。やはり真面目だな」

 「それは同じ日本人の俺も思うよ」

 「だというのに、ユウは自由なんだな」

 「俺は……まあイタリア代表だし……」

 「そうだ! ユウはイタリアン!」

 「お前が言うと、食べ物って意味も入ってそうで怖いな」


 正確にはイタリアンフードだが、なんか食われそうで。

 今この騒動はいっちゃなんだがS級主犯、醸し出す天才と変態性故。

 その法則が正しいなら、S級いない日本は真面目と、これが掛かっていそう。

 変態ともいえる強き者の不在。


 (俺はイタリア代表だし、同世代で日本に残るS級と言えば姫巫女だけだしな)


 姫巫女は聖女と性質が似ている。

 攻撃手段も持つが、本質は支援に類するものだ。

 日本政府としても、万が一のことがあっても困る。

 きっと特別席あたりで座っているんだろう。

 ハッキリ言って日本の小隊は浮いている感が否めない。


 「イギリス人はデリカシーが無いわねえ! ねえシルヴィ!」

 「はい。お嬢様の言う通りです」

 「……ふ、そこのメイドいなかったら何もできないくせによく言う」

 「おい、お嬢様への不敬は死に値するぞ」


 イギリスと相対するはフランス。

 フランスS級『冥土送り』シルヴィ・ベルンクール。

 学生でありながら本職はメイド、ある殺戮劇からメイドと掛けて冥土なんて呼ばれる。


 「ドイツ……僕は誇るべきドイツ国民なんだ……」


 その仲裁しようとし撃沈したのが、ドイツS級『鎖』ヨーゼフ・ヘルツガー。

 

 「いやあ本当あのボルシチって謎料理、誰が考えたんだろうねえ」

 「…………中国滅びろ」

 

 中国S級『死皇帝』李 周明。

 ロシアS級『赤眼の殺し屋』ユリア・クライネ。


 「人生ゲームやろうぜ!」

 「日本で買ったやつか」

 「でかした! 丁度暇だったところだ。しかし一体どこに隠していたんだ?」

 「雷槍がいた壇上の真下だぜ」

 「やるう!」


 こちらはオーストラリア代表『メルボルン』

 個人でS級はいないものの、この5人そろえば敵なしと言われるほど。


 (地獄絵図ってのは間違いないな)


 各自暴走。

 常識に浮き上がる。

 声は届かぬ。

 目は見えぬ。

 

 『いい加減にしろ!』

 

 雷走る。

 怒り、そして物質的なものとして。

 老いた英雄の叱咤轟く。


 『黄金世代が聞いて呆れる! それでも国の代表か!』


 これにビビるのは観客、それからS級ではない学生代表くらい。


 「黄金世代って勝手に言ってるのはあんたたちだろう」

 「そうですわ! ねえシルヴィ!」

 「お嬢様の仰る通りです」

 「これは帰って女王に怒られるか、いやどうでもいいか」

 「スペインは最高だぞエイラ!」

 「うむ! 今度行くぞ!」

 「ドイツ、ドイツ、ドイツ……」

 「むしろコッチが呆れるよ。英雄は品格ってのを知らないのかねえ」

 「…………声大きすぎて耳死ぬ」

 「うわ! 借金背負っちまった!」

 

 (みんな好き勝手に言ってるな)


 恐れること知らず。

 伝説の雷出されようとも気に留めぬ。

 みんな同じだ。

 自分第一。

 自分の力を信じている。

 自分が最強だと信じている。

 だから、その言葉は重みを失い、俺たちの脳内でふわふわと浮かんでしまう、そうだと俺は思う。


 「なんだか腹が減って来たな。そろそろ帰るぞユウ!」

 「いや、まだ開会式の途中って————」

 

 「「「「「「「「帰ろう」」」」」」」」


 しかし俺の返答は数倍になって。

 そもそも途中というか、始まっているかすら怪しかったのだが。

 周りにいたバカ、S級全員がエイラに賛同。

 有無いわせず帰路につこうと歩み始める。

 

 (はあ、これじゃあもう式の意味は無いか……)


 諦めという形でもなくないが、俺もそいつらに続く。

 ようは肯定。

 会場、雷槍、観客、全てが唖然。

 黄金とまで言われた俺たちは、問題も問題。

 大会歴史上、もっとも衝撃的、こんなひどい始まりはないだろう。

 横一列にS級並ぶ。

 それはある種同胞。

 剣、槍、盾、銃、能力、一点突破の若き猛者ども。


 (さてさて、開会式は壊滅と)


 思う。

 最悪の始まり。

 そこから魅せる新たな世界。

 相反するものが交じり合う混沌と奇跡。

 そう、式はなくとも、大小性別さまざまな過ぎ去る背中語る。


 「————こりゃ楽しい大会になりそうだ」

 

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