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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 4 -International Convention 2117《紅白に集いし者》-
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 『西宮にしみや 静葉しずは


 静岡が伊豆の生まれ。

 過去未来通じ世界最強の『力』の能力者とされる。

 詳細不明ながら数年に渡る旅で研鑽つみ、魔王連合との大戦にてその本領を発揮。

 様々な功績を打ち立てながらも、最期は死帝王との激戦の末、相打ちとなり若くしてその生に終わりを迎えた。

 享年27歳。

 死してなお、世界に名を刻む、いにしえの大英雄である。














 「————随分と田舎に来たもんだな」


 東京から数時間。

 三島発、伊豆箱根を冠する電車。

 時代にそぐわない手動の扉。

 閑散とした車内に座す。

 観る景色は自然、そしてそれに浮き上がる電柱と住処。


 「我が前来たときよかマシになっておるぞ」

 「まじか」

 「といっても、この電車なるものに乗るのは初めてじゃがな————」


 レネは今回に限って姿を具現化させている。

 造形品のような整った顔と肢体、輝き放つ美しい銀髪。

 身長は控えめながらも、神々しさと美しさの化身のような見た目。


 「っと、この駅だな」


 各駅停車。

 古びた電車と、年配の若干せがれたアナウンス。

 コンクリート舗装から花が抜きんでる。

 殺伐とした無人駅、そこには俺たち二人しかいない。


 「なんか本当に合ってるのか不安になってきた……」

 「心配するでない。この空気感、覚えがある」

 「そ、そうか」


 レネが向かうはどこか。

 今のところ教えてもらってない状況。

 レネは語らぬし、語らないというのなら俺も聞くまい。

 

 (なにか重要、大切なことだってのは伝わってくるからな————)


 空気を読む、そういうワケでもない。

 ただ少しの間でも積み重ねた思いが、俺の行動を抑制、気を配らせる。

 

 (でもレネがザックリとしか場所言わないから、その点だけは大変だったな)


 なんせ適当な把握。

 当時は飛翔、空を飛んでここまで来たようで、電車で行くとなったら下調べ必要。

 だが今の時代ストリート・ビューがある。

 レネの記憶頼りになんとか、正規ルートで来ることが叶った。


 「————こっちじゃ」


 そんな科学と古き記憶。

 レネの感じる気が俺を誘う。

 真っ赤な太陽の下、揺れる銀髪共に、微妙に割れたアスファルトの道を進む。


 「…………」

 

 周り人皆無。

 自然という自然が形成す。

 そこに農家だろうか、控えめな家が点々とあるくらい。

 車が通ることも無く、また伊豆の海も見えない平坦な地、そんなストリート。


 「————少し、昔話をしようかの」

 

 歩いて少し。

 無言だった会話に一つの話題が。

 振ったのは実体を成すレネの肉声。


 「昔話?」

 「左様。我がぬしらと会う前のことじゃ」

 「おお、それは気になるな」


 美しき銀神の過去。

 確かにしっかり聞いたことは無し。

 ただずっと闘争の毎日だった、そう語るのみだった


 「おぬしは西宮にしみや 静葉しずはという人間を知っておるか?」

 「当然。日本人どころか、世界中探しても知らない奴のが稀だと思うぞ」


 少し前に天へと召された学園長と同じ、10人の英雄の1人。

 持ち得たのは『剛腕』という単純な能力。

 二持能力ダブルホルダーでもなんでもない、ただその腕っぷしのみで数々の魔王を葬った女、今のところ彼女を超える物理攻撃者はいないという。


 「そやつとな、我は共に旅をしていたのじゃ」

 「へー……」

 「なんじゃ驚かんのかい」

 「いや、どう反応していいのか……」

 「まあ、兎にも角にも、愉快な日々じゃったよ————」

 

 俺と同じ銀眼が遠く、遠く上を向いていた。

 淡々と足が進める距離、それに伴った心の浮足。

 

 「しっかし、そもそもなんで西宮、さんと、レネが旅することになったんだ?」

 「我が戦って負けたからじゃ」

 「負けた!? レネが!?」

 「そうじゃよ。いやはやとてつもないおなごだったのう」


 まさかの喧嘩負け。

 あの闘神エレネーガが。

 

 (俺たちなんて自力どころか、バハムート使っても勝てないってのに、その身一つだけでとは————)


 やはりあの人たちは人間離れ、こうして神にさえ届いているのだと思い知らされる。

 そして逆に、彼らを葬った魔王連合当時の強さも。

 俺は俺を戒める。

 見てきた世界は決して狭くはない。

 ただもし当時俺がいるとして、レネや強力な力もつ魔王と渡り合えただろうか。

 上昇していたはずの放物線、しかしこれはハードルが低いだけではないのか。


 「そこからシズハの旅に付き合うことになっての」

 「まじか……」

 「陸、海、山、色んな、色んなところを歩んだ————」


 歩む、それは右と左の交差動作という意味じゃない。

 きっと意思と意思が重なり合った、もっと感慨深い意味。

 

 「しかしその旅もついには終わる」

 「……魔王との大戦か」

 「そうじゃ、シズハめ、自ら戦いの地へ赴きよったわ」

 「仲もよかったんだろうし、戦いともなればレネもついて行きそうなもんだけど」

 「もちろん。我も加わると言ったぞ」


 神の加護にしては直接的すぎる行い。

 しかしてこれほど頼りになる存在もいない。

 だがレネの顔には上の太陽の光は届いていない。


 「じゃが、きっぱり断られたのう」

 「何故に……?」

 「魔王を倒したら今度、我が追われると考えたらしい。まったく杞憂、世迷言じゃ」


 人間っていうのは強い者を恐れる。

 それは魔王然り人間さえも。

 身近な話をすれば幼少期の俺もそうだった。

 周りから避けられ、場合によっては迫害される。

 西宮 静葉はレネが敗北まだしも、人間の汚い思惑に魅入られるのが嫌だったのかもしれない。

 

 「あやつの意志は頑なでな。我が折れる代わりに約束をした」

 「約束……」

 「大戦後に再び逢う、それだけの、それだけのものじゃよ————」


 戦争後に再会の約束。

 レネはそれだけのことと言うが、神ほどの頑丈な身体持たぬ人には重い。

 だがそれだけ彼女の力を、西宮 静葉という人間を信頼していたのだろう。


 「だけど西宮 静葉の最期って……」

 「魔王との相打ち、戦死じゃ」

 「……」

 「下らぬ。下らぬことよ」

 

 西宮は若くしてこの世をたつ。

 魔王を拳でなぎ倒し、その脚をもって穿つ、眼は迸り、天上天下、すべてを撃ち抜いた。

 そして持った鋼の魂。

 しかしそれも連なる魔王、連続での対処は厳しく、激戦の末に散った。


 「約束は果たされんかった」 

 「……そうか」

 「まったく、我が友のくせして不敬な輩じゃ————」

 

 俺はこの動向の意味を理解し始める。

 やっと理解する。

 レネが赴く先、この大自然の中の歩みの意味を————







 



 




 

 「久方ぶりのう」

 

 日はまださんさんと。

 歩いて結構。

 数時間刻みのバスを無視、しかしその甲斐は十分に。

 レネの過去と思想、叡智とも形容できる記憶。

 長いようで短い時、気づけば終着点。


 「数十年ぶりじゃ」

 「ああ……」


 熱い気温とは裏腹に。

 冷たくヒンヤリとした。

 今なお、話継がれる大英雄『西宮 静葉』、彼女が眠る墓石の前に、俺たちは立っていた。


 「英雄だし、結構デカい墓かと思ってたけど」

 「ふふ。あやつにはこれぐらいで丁度よかろうよ」


 もっと大きい、そう思っていた、実際に他の英雄たちの墓は公園サイズがほとんど。

 しかしそれに人柄出たか。

 彼女の眠る場はポツンと、自然に囲まれそこにある。


 「墓参りって知ってたら線香持ってきたのにな」

 「……墓参り? ……そうか、これは墓参りであったか」

 

 錯覚する視覚。

 焚くものはない、他に誰か来るのか、墓石もキレイに掃除されている。


 「————でもこの銀華」

 

 気になる。

 キレイにされた、そこに備えられる2輪の銀の華。

 榊と共にあり続ける象徴。

 左右に、花立に一本ずつ。


 「これは我が創った華、何十年も前の話になるが、まだ残っていたとは」

 「きっと取っておいてくれたんだろ。でも年月経っても銀は変わんないんだな」

 「当たり前じゃ。我は銀の大神、創る銀は永劫不滅よ」


 錆びることもない。

 朽ちることもない。

 俺は花に詳しくない、だから名は知らない。

 しかし細部まで、奥の奥、最奥まで創り抜かれた魂の具現。

 創り手、レネの思いが滲み出ている。


 「線香はないけど、しっかり伝えとくか」

 「伝える?」

 「こうやって手を合わせるんだ。そんで自分が伝えたいことを伝える」

 「なるほど……」

 

 膝を曲げ対面。

 向かい合う眠る視線と。

 眼を閉じる。

 レネもそうする。

 詳しい作法は知らない、ただ思いを伝える。

 一点曇りなく。

 ここに美しき神に認められし友と友、三者の円が形造られた。


 「————聞け我が友、シズハよ」


 声に出す。

 普段は形造らぬ銀の神、その肉声が現世を揺らす。

 

 「————我は知らぬ間に認めておった。じゃが意地張って、おぬしを友とは呼ばんかった」


 「————そう気づいたのはぬしの死がきっかけ。後悔、なんともバカらしいものよのう」


 「————シズハ、そんな未熟な我を、おぬしは友と認めてくれるか?」


 吐き出される一心の思い。

 それは届くか届かずか。

 銀華だけがゆっくり、だけど頷くように揺れていた。


 



 

 









 「————そろそろ帰ろうかのう」

 「もう、いいのか?」

 

 届くかこの心、響くかこの思い。

 静かな風が涼しさを。

 颯爽と銀を撫でる。


 「なんじゃその情けない顔は」

 「いや、別に」

 「おぬしが案ずることもないじゃろうに」


 確かに俺は西宮 静葉という人間を知らない。

 会ったことも、話したことも、実物見たことすらない。

 だがレネという存在を媒介し、浸る。

 侵入変化、思考が変わる。

 

 (西宮 静葉、エレネーガが認めた人、もし生きているなら、会ってみたかった————)


 この夢は幻なり。

 決して叶わぬ幻影なり。

 相手は黙すのみなり。


 「ユウ、おぬしは約束できるか?」

 「約束?」

 「おぬしは我が友。勝手に死なぬと約束できるか————?」


 友と認める。

 それは人に対するある種の不信感。

 命短し俺の人生、それをレネは憂いている。


 「俺は自分がいつ死ぬかなんてわかんないよ。戦いもあるし、病ってこともある、でも————」

 

 答えは得ている。

 未知とは暗闇。

 しかしそれを照らすもの、それはもうすぐ隣に。


 「これだけは約束する。俺はこの人生、絶対にやり遂げるって」


 レネへ、相棒へ。

 そして眠る先人へ。

 自分なりに。

 

 「それでは道半ばで……」

 「弱気になるなって。そう簡単に死ぬつもりない、出来ることなら寿命でぽっくり逝きたいね」


 出来ればこそ。

 全てを終え、生涯の完成を。

 

 「それに俺の人生には、頼りになる友、レネがついていてくれるんだろう————?」


 わかっているとも。

 俺がこれから遭遇する相手を。

 相棒横に渡り合う、世界に座す強者たち。

 その過酷な運命が。


 「……はあ、人間はなしてこう身勝手なのか」

 「け、結構良いこと言ったつもりだったんだけど……」

 「仕方あるまいな。今度こそ、我も死の果てまで付き合ってやろう」

 「ああ。よろしく頼むよ」

 「任せい!」


 天高く。

 どこまでも続く平行線。

 一度は帰らぬ人に嘆いた。

 反対に彼女もまた、あの契りを最期の後悔としたのかもしれない。

 ならその約束、形違えど俺が受け継ぐ。

 

 「————西宮 静葉。あんたの続き、俺がやってみせるよ」


 風に流れるこの言葉。

 それは言霊となって眠りの場へと。

 ゆらりと笑っているかのように。

 美しい銀華が応えるのであった。

 

 


 

 

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