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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 4 -International Convention 2117《紅白に集いし者》-
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 「でっかい! でっかいぞ!」

 「これは雷門っていう、まあイタリアでいうところのランタンだな」

 「ほほお————!」


 実家から旅立ち。

 数々点々と周る。

 エイラと共に腹に物を溜めながら。


 「浅草に来たのは中学以来か————」


 東京人でありながら、あまり訪れない浅草町。

 今日が平日ということもあるが、日本人よりも海外の観光客が圧倒的に多い。

 そういう点では、エイラの映える金髪の印象は落ち着き目に。


 「ユウ! 変な焼き菓子があるぞ!

 「ああ、これは人形焼きって言うんだ。まあ読んで字の如くで……」

 「うまい!」

 「って、もう買ったんかい!」


 説明聞く間もなく購入。

 そしてその姿を一瞬に消す。

 

 「どんどん行くぞ!」

 「……まったく、そんなに焦んなよ」

 「逆にユウは適当すぎる、時は食なりという言葉があると知っているぞ」

 「時は金なり、な」


 そんなこと知ったこっちゃない。

 エイラが俺の手を握る。

 腕が引っ張られる、そこに剛腕は無く、柔らかなモード。

 伝わる温かさが、俺を連れていく。


 「————さあ行くぞ!」

 



 


 





 


 「も、もう限界だ……」

 「なんだ、もうへばったのか?」

 「お前の胃袋が可笑しすぎるんだ……」


 浅草経て中野方面。

 したのは所謂ラーメン巡り。

 2、3、4、段々と歩いては積み重なる細い小麦と光沢スープ。


 「そろそろ時間遅いし、帰らないか……?」

 「はあ、ユウは戦闘より胃袋を鍛えた方がよさそうだな」

 「バカ言うな……」

 「調子それでは仕方あるまい。まだまだ時間はあるし、今日はこれまでとしよう」

 

 許された時間。

 あと数日。

 しかし今日には終止符。

 

 (は、腹が限界だ……早く横になりたい……)


 久しぶりに味わった濃厚カロリー爆弾。

 確かに美味い、美味かったよ。

 しかし問題は店回って食べた量。

 俺も付き合って4、5杯なんとか食べたが、エイラはその2、3倍は食している。


 (エイラなら大食い選手権を仕事にできるな……)


 これまでエイラと飯を幾度も共に囲んだが、ここに来てその食欲が最高潮。 

 まさに4次元胃袋。

 

 「————きゃあああ!」


 エイラに改めて引きつつも、どこからか女性の悲鳴。

 叫びが思考を呼び戻す。

 ここに来るまでに研がれた神経が、自動で戦闘態勢を整える。


 「ひったくりよお!」


 少し先の交差点、そこから自転車乗った中年おじさん。

 片手にはおじさんが持つはずのない悪趣味なブランドバック。


 (そんなおっさんがこっちに接近中、しかしひったくりとは、準備して損したな————)


 脚が回す年齢以上のケイデンス。

 生み出したスピードが迫ってくる、むしろこっちに突っ込んでくる勢い。


 「ユウ、こういう場合はどうする————?」

 「目立ちたくないが、まあ向こうから来るんだったら仕方ないな————」

 

 いくら日が落ちるのが遅くなっても夕方。

 隠れた悪意が昇る時間。

 それが具現化、まさに目の前へと姿を現した。


 「どっちがやる!?」

 「俺は腹いっぱいなんで、エイラ頼むわ」

 

 迎撃弾丸。

 装填される、豆鉄砲に相反する巨大主砲。


 「そこをどけえ!」

 「止まれ! いくら空腹でもやっていいことと悪いことが————」

 「………っち!」


 自転車方向変わらず。

 乗り手はギリギリまで接近し、エイラがビビッて退く、この予想、そして実行。

 

 (まあ例え180度進路変えてもエイラは追ってくんだがな……)


 「拳強化!」

 「俺の自転車に平伏しなお嬢ちゃん!」


 銀河衝突。

 星片散る。

 いま力の拮抗が————


 「———ーふん!」


 (起きるはずもない、か)


 エイラの拳が真向から自転車粉砕、それをただの鉄塊へと変える。

 大気を揺るがす、突き刺さるブロー。

 吹っ飛ぶ。

 おっさんは翼を得たのか、きれいなアーチを描き空を飛ぶ。

 そして不格好に落下。 

 気は失っていないがあまりの痛さに悶絶してる。


 「……なんかギャグ漫画みたいだな」

 『……仕方あるまい』


 「私勝利!」

 

 最後に決める、落下と逆に上がったのはエイラの右手。

 鉄を打ち砕いた覇拳である。


 「は、はあ、私のヴィンドンバック……」

 

 興味持ち始め集まる観衆たち。

 そこにカバンの持ち主だろう、予想道理のみてくれおばさ、女性が登場。

 

 (今ので完全に気配は表に出た、こりゃまずい————)


 「これは貴方の物であろう」

 「ど、どうも、まさか捕まえてくださるなんて」

 

 被害者はエイラの細身でかと、驚き。

 それでも若干裏返った声で感謝を伝える。

 反比例して気質が浮き彫り、その存在感は顕著、持って生まれた天性のカリスマ。

 炭酸のように噴き出す。

 散った水滴が記憶を呼び起こす。


 「あの娘どこかで……」

 「聖剣使い! イタリアの聖剣使いだわ!」

 「め、滅茶苦茶可愛いな」

 「俺サイン貰って————」

 

 エイラに気づく観衆。

 完封かたなし盛り上がる。


 (……人助けに興じるのもここまでだな)


 「————大気同調アトモス・シンクロ、風を起こせ」


 隠れた外野から、青を纏った風送る。

 若干太陽の暖かさ残りつつも、その形を突風へ。

 異常気象。

 気象の概念を打ち壊す、あり得ない発生。

 それが辺りを牛耳る、人の眼は風の鋭さ、舞った砂塵に眩まされる。


 「————ユウ!」

 「————撤退だ。面倒ごとになる前にな」

 「————了解だ」


 風は渦巻く。

 そこに流れ出る影。

 異常に慣れた異様な動き。

 突風被せ。

 常人気付くことなく、消えるが湯煙、まるで噂は噂。

 腹の重さは一時の薄れ、颯爽とこの身を次へと向かわせた。










 

 「————ということをしたのです!」

 「————エイラちゃん偉い!」


 自己防衛。

 いや人助け? 

 ともかく一迅に帰宅、現場を離れながらも耳に流れた赤の点滅音。

 

 (誰かが警察を呼んでたみたいだし、やっぱすぐ離れて正解だったな)


 そもそも見逃せば済む話だが、まあ後味悪くなるのも確か。

 自分で言うのもなんだが、俺は意外とそういうことに冷めている。

 だが逆にエイラはバカみたいに優しい。

 困っている人間を助ける。

 偽を含まぬ純粋な善、だからこそやるときはやるのだと思う。


 「なら良い子だったエイラちゃんには、おかずの大サービスよ!」

 「おおおおお!」

 「幼稚園児かよ……」

 「お兄ちゃん、口に出ちゃってるよ」

 

 心の漏れ。

 これは感嘆、そして呆れ故である。

 もう少しこれでクールだったら、大も大人気だろうに。

 なんせ腕もたち、見た目も良い、さっきの観客の中にも可愛いって連呼してるヤツいたし。


 「はあ、ごちそうさま」

 「なに夕、そんなんで終わりなの?」

 「今日は食べ過ぎて腹が限界……」

 「まったく情けない、ねえエイラちゃん」

 「まったくですな!」

 「「はっはっはっは!」」


 (ウザさ割り増しだな……)


 そもそもあんだけ食って夕飯も食うとか、これ一種の地獄道。

 エイラが異常なだけだ。


 『————ユウ』


 席たちリビングへ。

 テレビにはシュールなお笑い芸人。

 どうやら裸芸、見事なタライ芸である。


 『聞けい』

 「ん?」


 なんかレネにしては真剣な切り口。

 芸にうつつ抜かした意識を戻す。

 

 「場所、変えるか?」

 『ここで構わん、どうせおぬし以外に我の声は聞こえぬ』


 俺に届く唯一の声。

 俺だけが受け取れる無二の声。

 後ろのガヤガヤした空気を断ち切る脳。

 

 『お願いがあるのじゃ』  

 「お願い……?」

 『うむ、ちと行きたいところがあってな』

 「そういやイタリアに居る時もそんなこと言ってたな」


 夏期講習サボるかという審議。

 ここでのレネは賛成派。

 曰く行きたい、訪れたい場所があるということ。


 「場所はわかるのか?」

 『東海道伊豆の国じゃ』

 「また古風な言い方を……つまりは静岡ってことか」

 『おそらくのう』


 レネは新神だし、普通は静岡で認識してそうだけど、まあいいか。

 契約以来から初だろうか。

 ふざけた思想は感じず、真に抜いた刀の如し。

 張り詰めた、そんな印象。


 「なら明日にでも行っとくか」

 『早いに越したことはないのう』

 「ならエイラも……」

 『待てい、聖剣使いは留守番じゃ、ユウと二人で行く』

 

 どうやらエイラの同行は望まぬよう。

 理由はわからない。

 ただレネも語るとは言えぬ空気。

 聞くに聞けない間合い。

 ただ戦闘以外でレネの真っすぐな願いは初、知識も力も助けられてばかりな面、恩返しと言っちゃ変かもしれないが、ここは付き合うべきだろう。

 

 「エイラ!」

 「んーなんだー?」

 「予定してた観光は明後日に延期してくれ」

 「なに、延期!?」

 「悪いな。でもレネからのお願いなんだ」

 「……エレネーガ様から、ならば仕方あるまい。不敬のないようにな!」

 『聖剣使い、おぬしけっこう我に不敬働いておるぞ……』


 どの口言うか。

 まあそれさておき、明日は進路変更、向かうは静岡。

 東京からさほど遠いわけでもない。

   

 (でもレネのやつ、一体なにをしに行くんだ————?)


 レネに伝わるか伝わらぬのか、心に返答来ず。

 ただ、見つめるのみ。

 そしてパッと一拍、答えになっていない答え。

 しかして感慨深い。

 その言葉。


 『何十年ぶりか、久方ぶりになるのう————』 

 

 美しき銀の戦神。

 その声はどこか天上へと向いていた気がした。

  


 

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