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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 3 -START AND START 《二色と闇影》-
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 「着いたぞおおおおお!」


 極東、日の出づる国。

 イタリアより少し黒めの大気。

 反射した紫外線で気温上昇。

 そして行きかう人々の見慣れた感。


 「————約3か月ぶりか」


 ここは日本。

 俺の故郷であり、今年の国際選抜戦の舞台となる国である。


 「しかし思ったよりショボいな東京!」

 「いや、ここ千葉だから」

 「どこだ!?」

 「東京の隣」


 ここ日本、現在地は成田空港。

 ソウルで一泊置いて、ようやく到着。

 思ったより早くでたのもあって、こうして昼過ぎには着いた次第。


 「エイラ、気が漏れてるぞ」

 「おっとすまない」


 到着して気が抜けたか、エイラの気配遮断が疎かに。

 

 「気を付けろよ、ただでさ……」

 「わかっている、わかっているとも。私もあれには懲り懲りだ……」

 

 ここに来るまで。

 どこでもかしこも着いた途端に囲まれる。

 それは俺たちに興味をもった現地人から観光客まで。

 テレビの公表以来、まるでサッカーのスーパープレイヤーみたいな扱いで、毎回毎回疲れるなんてもんじゃない。


 「一般人でもあのレベル、これがもしマスコミの奴等だったら……」

 「恐ろしいことを言うなユウ!」

 『はあ人間とはよくわからんなあ————』


 神さえ理解できない。

 そんな勢い怒涛。 

 俺は大気同調で気配同化、エイラは暗殺者並みの気配遮断。

 それでやっとこの平穏な状況を生み出せる。


 「あとお前は目立つからなあ……」


 俺の銀眼もヤバいが、一番の問題はエイラという存在。 

 脳筋たる力もあるが、その見た目。

 忘れがちだが、見た目だけは超美少女なのだ。

 

 (金髪は目立つし、そのプロポーションも然り、しかも腰には————)


 「ここがチバかー、ローマの方がすごいぞー」

 

 そうこのおバカさんの腰にはかの有名な光の聖剣。

 これがまあ大変だった。

 そもそも飛行機に武器持ち込めない。

 当然聖剣はアウト、なんだが、まあそこはシンクロ能力のごり押しで、なんとか押し込めた。


 (もうやってることが完全犯罪なんだけど……)


 まあ紆余曲折して、どうにかここまで来れたわけだ。


 「じゃあとりあえずは俺の家に向かうか」

 「おお! 東京か!?」

 「一応な、といっても東京でも田舎のほ……」

 「大東京! 早く行くぞ!」

 「全然話聞いてないし……」


 実家は確かに東京。

 しかし家の周りと言えば、家と一本商店街が通っているくらいの場所。


 「ちんたらしている暇はないぞ!」

 「へいへい……」

 「目指すはユウの家!」

 

 エイラはなんでも東京に憧れがあったらしい。

 その憧れの対象がほとんど食に対するものなわけだが。

 和、洋、中、あらゆる食べ物が揃うそんな夢のような場所だと認知しているらしい。


 (その認識も間違っちゃいないんだけど————)


 戦い以上に先行していくエイラ。

 どんどん進む。

 歩幅が物語る、目から溢れ出る期待。

 小学生が遠足行くのと同じぐらい、その体からワクワクがみなぎっている。 


 (ま、今回は観光のために早く来たようなもんだし、好きにやらせてやるか———ー)


 なんせ日本を『楽しむだけ』のために、予選決勝でも使わなかった強化同調を使ったぐらいである。

 エイラはもちろんのことイタリア語しか話せない。

 でも、俺に聞くだけじゃない、どうしても自分の眼と耳で理解したい。

 そんな理由で秘密兵器発動、エイラと同調し、こいつの頭に積めるだけ日本語を積めまくった。

 おかげで話が通じるくらいには成長したが、それによってかかった負荷は相当。

 

 (お願いされた、というか力づくで半ば強制的にやらされたようなもんだったけど……)


 「ユウ!」

 「……どうしたよ」

 

 ボーっとしていた意識をエイラの声が呼び起こす。

 東京人びっくりするくらいの歩行スピードが急停止。

 前しか向いていなかったエイラが振り返っていた。


 「どっちに進めばいい?」

 「はい……?」

 「右か左か?」

 「いや知ってて歩いてたんじゃないのか?」

 「知らん!」


 (おいおい、行き方もわかんないのに、そんな自信満々に歩いてたんかい)

 

 根拠なし。

 その滾った意志のみ歩いていたようだ。


 「はあ、とりあえずバスか電車で……」

 「なに!? 歩いて行かないのか!?」

 「……」

 「チバは東京の隣と言ったではないか!」

 「そんな家のご近所さんみたいなノリじゃねえから!」


 意志が飛び出すが、根底は通常運転のよう。

 

 「一回バス乗り場まで戻るぞ」 

 「私の辞書に後退という文字は……」

 「なら一人で歩いていくんだな」

 「あ、待てユウ! 私を置いていくな———!」


 こうして歩いてきた道を逆向。

 無駄な労力払いつつバスに乗る。

 また途中では目立ちたくないというのに、調子に乗ってエイラが歌い出す始末。

 エイラの超ハイテンション。

 それは夏の太陽にも負けぬ、えらく暑いものだった。

 

 










 「さあ到着だ」


 バスに電車に徒歩。

 黄金移動3種の組み合わせ。

 何度も乗り降りをした、見慣れた少しボロめの駅から数分。

 イタリアから数十時間を経て、ようやく懐かしき我が家に辿り着いた。


 (そういえば帰るって連絡してなかったな、トニーへの事前連絡がやり遂げた感ありすぎて忘れてた————)


 今思えば帰省の連絡をしていない。

 普通だったらしとくべきだがすっかり。

 それに今回は連れ、エイラもいる。

 

 (まあ特に気にすることもないか……)


 「————そういばユウには妹がいるのだったな」

 「若葉わかばのことか」

 「楽しみだな!」

 「うーん、久しぶりってほど久しぶりでもないし、俺はなんか微妙なかんじ……」


 四道 若葉。

 俺の妹ながら社交性が高く友達も多い。

 今年から中学2年となったが、最後に会ったのは若葉が中1の時だったか。


 「とう!」

 「っあ!」

 

 エイラが家のインターホンを押す。

 聞き慣れた電子音が響く。

 別に俺の家だから押さなくてもいいだろうに、それでもエイラは押してしまった。

 そして思いのほか早く、聞き慣れた声が返ってくる。


 『はい、どちらさまですか?』

 「私はエイラ・X・フォードと言う者だ!」

 『え、えーと、詐欺はちょっと、他をあたってください』


 確かに、どちらさまですかという質問に一番の回答。

 だがバカ正直に名前を答える、そんなバカがどこにいる、いや目の前に。

 しかもここ最近巷で有名なエイラの名。

 詐欺かイタズラと思われても仕方あるまい。


 「はあ……、若葉、俺だ、夕だ」

 『こ、この声、まさかお兄ちゃん!?』

 「ちょっと早いんだけど帰省に————」

 『お母さん! お母さん! まさかのお兄ちゃんの声を真似る詐欺師が来た!』

 「いや詐欺じゃねーよ!」


 世界を股にビッグネーム。

 実家帰省一発目、それは詐欺師と疑われ、説得に説得を重ねる、誤解解きの切り口から始まった。









 「————帰ってくるなら事前に連絡しなさいよ」

 「————連絡しなかったのは悪いと思ってる」


 誤解解き終了。

 流れた時間。 

 説かれる説教。


 「しっかしあんた、銀色だなんて、眼だけは随分カッコよくなったわね」

 「……眼についての感想軽すぎだろ」

 

 こんな調子で今は食卓にいる。

 食卓からは様々な料理の姿。

 つまりは夕飯時。

 時刻は夕方、日の暮れが訪れていた。


 「それにしてもエイラちゃんは良く食べるわねえ」

 「お母様の料理が美味しすぎるからです!」

 「まあお母様だなんて……! もううちに来なさい!」

 「お母さんはしゃぎ過ぎ……」

 「何故こうなった————」

 

 初見時、俺は母さんに説教されながらも、家族は初めてエイラと邂逅した。

 最初はエイラという実物見てどういう反応するかと思った。

 恐怖、畏怖、マイナス的な思想。

 しかし結果はどうだ。

 若葉は知らんが、エイラと母さんの波長はドンピシャに合致。

 そして今、エイラのために母さんがご飯を作りに作りまくった、エイラもまた遠慮せずに食べに食べてる状態。

 一種のカオス。


 「まったく、若葉もエイラちゃんみたいにご飯をいっぱい食べなさい」

 「食べてるし……」

 「おかわりです! 米は最高です!」

 

 (無事に打ち解けたって意味では、まあ成功か……)

 

 ファーストコンタクト。

 この家を拠点に観光、外出するつもりだった、流石に気まずい空気で数日間は辛かった。

 このムードなら問題はなさそうだ。


 「それで、ユウはエイラちゃんとどこまでいったの?」

 「っぶ!」

 「やだ、汚いわねえ」

 「何を急に……」

 「だってあなたたち、付き合ってるんでしょ?」


 びっくりして口に含んだ麦茶の噴出。

 俺たちが付き合っている?

 誰だそんなデマ流したのは、もしかしてイエシェフさんの冗談が流布?

 いやいやそれはない。


 「それで、結局どうなのお兄ちゃん」

 「お前もか若葉……」

 「だって有名だよ。テレビでもお似合いだってよく言ってるし」

 「なんじゃそりゃ……」

 「お父さんも出張先では息子の質問ばっかりだって」


 父よ、すまない。

 だがまあそんなことはともかく、それはデマ。

 別にやましいことなぞ1つもない。


 「エイラ、お前からも言ってくれ」

 「ん? 私は付き合ってるつもりだが?」

 「「え!?」」

 「まあまあこんな可愛い子が夕のお嫁さんなんて、お母さん嬉しいわ」

 

 何を言うてるねん。

 ついには脳が筋肉に耐えきれずショートしたか。


 「お母様おかわり!」

 

 久しぶりに帰っ来て流れるのはエイラと母親の掛け合いばかりであった————












 「寝るところまで同じにしなくていいだろうに……」

 「これが布団か!」

 「そういやイタリアじゃだいたいベットだもんな」


 俺の部屋、ではない。

 少し間合い増やしたリビング横の和室。

 客室たる和室をエイラに使わせる、そこまではいいんだが————


 『お母さんたちは夜降りてこないようにするけど、声は抑え気味にやりな————』


 ここらで遮ろう。

 まあそんなこんなでこの状況。

 創り出したのは我が母。

 

 「これが畳、変な感触だ————」


 しかしエイラと2人で寝ることには、ロシアの時に散散送った生活。

 慣れたというのも変だが、オッパイに気を取られることはもうなくなった。


 「にしても、お前が付き合ってることを肯定するとはなあ……」

 「だって付き合っているだろう?」 

 「い、いや、俺は、別に完全に否定しようってわけでも……」

 「私たちは相棒同士! どんな苦境でも、地獄に行くとしても付き合うのだろう!?」

 

 ん?

 なんか、意味違くない?

 

 「……じ、地獄に付き合う?」

 「ああ! どんな時でも! ユウが死にそうになったらなんとしても助ける!」

 「……そうか、お前はバカだもんな」

 「バカ? はっはっは! 今更何を言うんだユウは————」


 饒舌に語る。

 もはやバカを肯定どころか、当たり前としての自己認識。

 この一件。

 つまりはラブコメにありがちな『勘違い』というやつ。

 むしろエイラの勘違いは大振りすぎて、逆に巻き込まれた俺が勘違いしたんじゃないかってレベル。


 「緊張した自分が情けない……」

 「なぜ緊張する? まったくユウはバカだなあ」

 「お前に言われたかないわ!」


 溜息連発。

 これ俺じゃなかったらストレスで死んでる。

 少しでもその気になった自分を戒めたい。


 「さあ明日からは東京巡り! もう寝るぞ!」

 「わかってるよ……」

 「おやすみだ!」

 「はあ、おやすみ」

 

 久しぶりの布団にひたるどころか、心の雲行き。

 俺は再確認、問いかける。

 エイラのことをどう思っているのか。

 世間の認知は理解した、でも自分はどうだ?

 エイラに何を感じ、何を欲す?

 心の片隅には一つの答えが出てる、しかしそれを認めるか、逆に認めたとしてエイラ自身はどうなのか。

 

 (日本に来てこんなこと考えるなんて、確かにエイラの言う通り、バカだな俺は————)


 


 

 



 

 



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