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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 3 -START AND START 《二色と闇影》-
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39.5 with after class 2

 「————おはよう諸君。まさか奇跡的に全員無事とは。俺は嬉しいぞ」


 怒涛の予選会。

 魔王の襲撃により死傷者多数。

 それに被害はなにも人だけではない。

 その爪痕はこの校舎にも深く刻まれ、クラスによっては俗にいう青空教室状態。

 

 「壁なんかにヒビが入っているが、まあ外でやるよりはマシだと思って我慢してくれ」


 そんな状況でも講習はやる。

 負傷によって欠席も多い、外でやるクラスもある、学園長も亡くなった。

 それでも授業を行うのかと、教師によっては反対する者もいる。

 しかしこういう時だからこそ、やるべきだと俺は思う。

  

 「これから夏期講習を始めるにあたって————」

 

 例年通りだったら、今までの総復習をこの夏休み前の期間に行う。

 しかし今年は特例、テロといった非常時に遭遇したときの対処法、逃亡法を叩き込むつもり。

 国際戦の舞台、観戦のため日本に行く生徒も多いだろう。

 自分の教え子には生きていて欲しい、あわよくば他人を救って欲しいとも。

 要は魔族や強い者から生き残る術を教える。

 このクラスの担任として、先人として、俺エイガー・グレフィスの役目。


 「では出席をとる、がその前に、ルチア隊!」

 「「「「「はい!」」」」」


 響く5人の声

 隊長を務めるは紅の髪を持つ少女。

 俺のクラスでもトップクラスの実力もつ小隊。

 

 「一昨日の試合頑張ったな。本選進出おめでとう」

 「ありがとうございます」

 

 国際選抜試合、本選に進むことになったルチアたちを激励。

 それに隊長としてルチアが応える。

 これも因果か、魔王襲撃によって負傷、Aブロック優勝小隊のリタイア。

 代わりを決める補欠戦。

 激闘の末、空いたその席をなんとか勝ち取った。

 ザックもアリエルも、ベックもサリーも、全員本当に良い動きだった。

 

 (成長したな……)


 「本選は規格外が多い、むしろヤバい奴しかいない。だが、焦るな」


 自分が学生だった頃を思い出す。

 かつてはそこそこの実力者、同じく本選の舞台まで進んだ。

 しかしそこで出会ったのはバケモノじみた能力者ばかり。


 「お前たちは普通だ。それは変えられん。だからブレるな。普通でいいんだ」


 S級を冠むるやつらの見ている世界は俺たちと違う。

 大地を焼き、空を穿ち、海を割る。

 でも、それ全てが絶対ではない。

 

 「普通であることを、恥じるな」


 俺は恥じた。

 自分が普通の人間であると。

 圧倒的な力の前に畏怖し、今まで積み上げてきたはずの連携、絆を放りだしてしまった。

 独りで挑み、独りで逃げ、独りで負けた。


 「積み上げてきた努力を信じろ。お前たちは強い!」

 「「「「「はい!」」」」」


 俺は口下手。

 こんな真面目なことを言うとは。

 死んだ学園長が聞いたら耳を疑うだろうな。


 「といってもだ。同じ代表で『あいつら』がいるのも事実」

 「……そうですね」

 「あの二人は若手じゃトップクラス。気にするなとは言わん、しかしまずは己と相手、それを忘れんなよ」

 「……はい!」

 

 『脳筋』エイラ・X・フォード。

 『変幻』ユウ・ヨンミチ。

 この二人を知らない奴はもういないだろう。

 つい最近発表された『吸血王討伐』、これをテレビで見た時は驚きで頭が真っ白になった。

 まさか本当成し遂げるとは。

 生きる伝説。

 ルチアたちも十分な実力を持っているが、いかせん同じイタリア代表が異常イレギュラーすぎた。

 肩身が狭いというのが正直なところだろう。


 「まったく、今の能力者は狂ったやつが多すぎる————」


 黄金世代とまで言われるこの世代。

 各国で稀なほどのS級台頭。

 凄い凄いと言ってりゃ、まさかの2人で魔王を倒すやつが現れる始末。


 「さて無駄話はここまでにしてと。じゃあ出席をとるぞ」

 

 あまり雑談していては授業の時間が減ってしまう。

 あと2週間もない、その間に出来る限りのことを教えなければ。

 今回の襲撃キッカケに、生徒たちもみな真剣な表情。

 毎年夏期授業をサボる輩もボチボチいたが、今年に限ってはそんな者は皆無だろう。


 「ダンガス・ゴーデン!」

 「はい」

 「ザック・エルフィン!」

 「はいっす」

 

 心地いいテンポで返事くる。

 このまま全員確認済む。

 そう信じて疑わなかったわけだが———— 


 「ユウ・ヨンミチ!」


 しかしそこでリズムは止まった。

 キレイに流れていた水路に弁が置かれたように。

 

 「————ユウ・ヨンミチ!」

 

 もう一度。

 呼びかけスルー。

 そっからテイク2。

 もともと姿はしっかり確認していなかった。

 俺は全員来る信じていたし、もしくは姿見えないのはザック・エルフィンの後ろで寝ているからだと思っていた。

 しかし存在現す声明は一向に響かない。


 「————誰かヨンミチについて知っている者はいるか?」

  

 沈黙。

 クラスの端から端。

 ヒビ入った隙間に抜けていく。

 漂うのは沈黙だ。


 「……トニー・モーガス」

 「は、はーい」

 「ヨンミチはどうした?」

 「…………」


 沈黙バイブレーション。

 このシチュエーション。

 覚えがある。

 額に流れる、暑さ原因でない冷たい汗。


 「モーガス正直に答えろ、罰は軽くしてやる」

 「えええ!? 俺なんも悪いことしてないんですけど!」

 「いいからさっさと言え。 ヨンミチはどうした?」

 「ゆ、ユウは……」


 何故か周りも緊張。

 前回は魔王討伐とフザケタことを言って姿を消した。

 それを俺たちは『頭おかしいんじゃないか?』ぐらいで脳の理解をストップさせた。

 しかしその偉業は現実となり、今では世界が彼らに注目している。


 (まさか大会前のこの短い期間に、またどこかの魔王を倒そうと————)


 「エイガー先生!」

 

 乱暴に開けられるヒビの入った扉。

 もともと軋んでいたが、さらに強い衝撃受け破片飛び散る。


 「ミレアム先生……」


 突撃してきたのはミレアム。

 俺の同期。

 そしてエイラ・X・フォードの担任。

 ここまでの流れはあの時とまったく同じ。

 つまりはあの二人、とてつもないことをやろうとしている。


 (今度はどこの魔王だ!? それともまさか神に挑もうってか!?)


 「ふぉ、フォードさんの机に……」

 「机に……?」


 固唾呑む。

 生徒も次の言葉をゴクリと待つ。

 なんだ。

 今度はいったい何をする気だ。

 しかしミレアムから放たれたのは呆気ないもの。


 「日本でわびさびを食べてくるって」

 「「「「「…………」」」」」


 全員の頭にクエスチョンマーク。

 そもそもわびさびを食べる?

 

 「何を言ってるんだあのバカは……」


 待て落ち着け。

 これはフェイクだ。

 適当なこと謳って、きっとどこかでドンパチやるつもりなのだろう。

 なのだろうが————


 「……トニー・モーガス、どういうことか説明しろ」

 「お、俺ですか?」

 「……そうだ」

 「えーっとユウが言うには、フォード先輩と日本に一足早く行って観光してくる、らしいです」

 「「「「「観光!?」」」」」

 「べ、別に嘘ついてるかんじでもなかったんで、たぶんホントっす」

 

 なんだと?

 観光?

 この状況で授業を受けずして、一体どういう理由で観光なんかに。


 「なぜだ。なぜヨンミチは日本に……」

 「いやいや理由は簡単ですよ先生。 だって」

 

 一拍。

 ユウ・ヨンミチの真の思惑。

 

 「————夏期講習がめんどくさいんですもん」

 

 笑いながらモーガスは言う。

 

 「めんどくさいだと……?」

 「そりゃこんなクソ暑い中学校来るのも面倒ですし、内容も魔族からの逃亡法、ユウたちにとっちゃ意味まったくないですもん」

 「…………」

 「いやー美人と2人で旅行、まじで妬ましいっすわー。まあ相手はフォード先輩ですけど」

 「……トニー・モーガス、お前は今日居残って掃除だ」

 「ええええええ! なんでですか!?」


 (はあ…… 魔王討伐の次は日本観光か……)


 「ミレアム先生、この件は一旦保留としましょう」

 「は、はい」

 「まったく天才は何を考えているんだか」

 

 いや天才ではなく天災。

 認識の改変。

 黄金の嵐。

 何にも囚われず、気が向くままに。

 風のように揺れるが、筋はしっかり固定された一本。

 彼らが向かうは日本にっぽん

 伝説となり思い知る、これは俺が扱うには難しすぎるミッション。


 「ああー最初の話に補足だ」

 

 せっかく終わらせた余談。

 これには補足は必要だろう。

 

 「戦闘時にまず考えなければならないのは『おのれ』と『相手』、確かにそういった」

 

 気にしなければならないのは周りよりも目の前の事。

 しかし時として、自分と相手、環境常識関係無く、無差別に無際限に飲み込む存在がいる。

 

 「だが戦闘に入る前にやるべきことがある。それは状況確認だ」


 足元、前に後ろに右左。

 二次災害、そんな生易しい考えではない。

 奇々怪々、それで荒々しい別次元の暴君。


 「まずは上を見るんだ」


 生徒見上げるヒビ天井。

 水も風も炎も津波のように上から沈む。

 神が遣わす。

 魔が群がる。

 王は喰らう。

 何より恐ろしいのは人智を超えた、天より下る、すべてを飲み込む圧倒的な力の嵐。


 「————天災ってのはなあ、ある日突然上から降ってくるもんだ」


 魔王ボルアス襲撃によって意識高まった夏期授業の初日。

 その手始めに、俺がこいつらに教えたのは、魔族に対抗することでも、逃げることでもない。

 抗うこと出来ぬ絶対への肯定だった。

 


 

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