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「開闢強化!」
全身に流れる強力な電流。
表面硬質化、筋肉増強、痛みに対する神経質強化、聖剣解放。
「いくら聖剣使いの貴様でも、槍使いが居なければ我の相手になるまい」
「ユウ抜き、私1人で十分だ」
覇覇覇。
いつもよりすこぶる調子がいい。
なぜ調子がいいかは不明。
だがそれならそれでいい。
考えるだけ時間は無駄であり、論じるだけ器官は鈍る。
流れる本能に任せるのみ。
「————勝負!」
脚が轟。
踏みしめるだけで地盤沈下。
一気に生み出す数億パワー。
世界を揺るがす勇将カラダ。
「毒棘!」
魔王からトゲトゲしいものが向かってくる。
剣で弾くか、それとも避けるか。
思考する間もなく本能が解決。
とる行動は————
「っつ……!」
「バカめ! 直接生身で受けるとは、やはり噂通り頭が可笑しいようだ!」
神速に詰める毒の針。
まるで予測していたように迅速、体のあちこちに刺さり毒を流す。
しかし避けなかったことにはちゃんと意味がある。
「な、なぜ止まらん!?」
確かに刺さった毒針。
しかしその痛さ注射と同等。
毒もなんだ、静電気ぐらいにしか感じない。
鈍化した感覚、鋭利化する殺気。
この捨て身は意味ある行為。
弾け避ければ、速さが劣る。
喰らっても意に返さず進む、これが真骨頂。
すべてを受けつつ前に前に、止まることのない大車輪。
「————さあ、もう目の前だ」
「————ばかな」
「受け取れ中二病! これが力だ!」
すでにボルアスに入った聖剣圏内。
圧倒的な制圧。
一点集中された原子力クラスの火力。
ぶち上げる光熱量。
「聖剣!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
光に飲み込まれ叫ぶ魔王の絶叫。
余裕なし。
咄嗟に受け身と陣展開。
しかし脳筋の申し子にその盾は脆すぎる。
「————まるで紙屑だな」
塗りつぶす。
その間に抵抗だろうか毒液が掛けられる。
被るがちょっとピリっとするくらい。
腹の中でタービン回転、無限に生み出す戦うためのエネルギー。
「っむ」
「……真毒剣!」
「ほう! 私と剣で戦うか!」
なんとか受け流し光から外れた魔王。
流石に立ち回りが上手い。
しかして接近している状況は変わらない。
だからか生み出したのは紫の剣。
その刀身は生き物のように血脈打ち、まるで意志を持つよう。
まさに魔剣の名がふさわしい。
「ぬおおお!」
「遅い遅い、それでは相手にならんなあ!」
俊俊と。
一瞬で生じる剣戟。
しかそれは一歩的だった。
聖剣が強すぎる、そしてその担い手も。
別にボルアスが弱いわけではない、相手が強すぎるのだ。
天性の能力然り、さらに1、2か月は戦狂神エレネーガに教えを受けていた。
毒を剣を受けようと止まることは決してない。
痛みと死を忘れた、魔王の比でない、イカレタ精神性。
「……星魔法!」
「なんだ?」
ボルアスの眼に星型。
見つめられて体にかかる嫌悪感。
「こうなっては仕方あるまい! これで貴様の行動を先読みし————」
星に見つめれて嫌な感じ。
しかしそれがなんだ。
適当に動く身体に任せるだけ。
脳筋などと言われるが、本人にとっちゃ脳みそすら必要ない。
全身で感じる戦いの息吹。
それが戦いの道を自然に現す。
「な、なんだこれは……」
「どうした! 遅い剣がもっと遅くなってるぞ!」
「貴様の見ている世界は————」
ペチャクチャと。
そんな雑念ばかりだから弱いのだ。
それに比べてユウは考えながらもよく動ける、自慢の相棒であること相違なし。
「お前は狂っている……!」
「魔王にそういわれては私も終わりだな」
「光神め、なんという奴に聖剣を与えたのだ……!」
感じる。
調子がいいのも相成って、勝利への道。
勝手に動く腕がボルアスの肉体を切り刻む。
周りに飛び散る真っ赤な血。
魔族でも流れる赤い液体。
ぶつ切りよりも乱暴。
その斬り筋は美しという言葉とは縁もゆかりも無い。
ただ力づくで解体する。
その後のことなんてどうでもいい、暴力の塊。
「化物が!」
距離をとりだす。
すると毒罠足元で爆発。
しかし罠はさっきの決勝で喰らいまくった。
本能が正解を嗅ぎ分ける。
「小癪なことばかり、それでも魔王か! 吸血王のがマシだったぞ!」
「っは! あの髭と一緒にするでないわ!」
逝かれた心臓。
タフネス跳躍。
罠を真向から受ける。
今までで一番じわっとくる、しかし、それだけだ。
「撃ち抜け聖剣!」
空いた距離を埋める極大光線。
どういう原理で出すかはいまだにわからない。
単純に力をグググと溜め、ババッと打ち出す。
「毒爆!」
光と毒のぶつかり。
流石に魔王、魔力の質と量は突出。
聖剣の光線は見事に相殺される。
「しかし、お前に近づく時間は十分に稼げた」
「また……!」
剣戟から判断。
なんとか離れて戦いたいボルアス。
しかしエイラは近接超特化、相手がいくら自分を遠ざけようとも、 光の速さでまた現れる。
その光はヒーローの眩しい輝きではい。
英雄が持ち得る自己犠牲の精神、 そんな『無駄な』感情を排除した、一心に力を体現、ダイヤをダイヤで研ぐ。
不純な光を排除した、影ない一点もの。
「もう限界か?」
「ぐうう」
「今日は何故か調子がすこぶるいい! やはり試合前にたくさんご飯を食べたからだろうか? いや炭水化物のおかげ————」
「ナメるなああああああ!」
激高した様子。
それをクールにでも熱く剣に乗せ、 力で黙らす。
毒に跨り魔王なんかしそう。
「まさか使うことになるとはな! 固有魔法『魔毒』!」
「む!」
「はっはっは! この国ごと毒の海で覆ってやろう!!」
「それは困るな————」
ユウがなんと言っていたか。
曰く魔王には、魔王独自の特大魔法があるらしい。
魔力の変化感じるに、それが目の前の男の王手なのだろう。
「瀕死の身体で最後の最後、大人しく死んでおけばいいものを」
「黙れ! 貴様ら下等生物に我が負けるなどあってはならぬのだ!」
つまらぬプライド。
しかしその意気に同じくライドする。
「————1撃で勝負を決めるなら、私の得意分野だ」
誰よりもハードパンチャー。
視界の隅に映ったユウの姿、あの位置なら聖剣に巻き込まれることもない。
(ユウならきっと察してくれているだろうがな)
自分にとっての一番の理解者。
唯一無二の相棒。
それがタイミングを踏み間違えることなど、地球が反転してもあり得ない。
「————半解放、十字聖剣」
十字の光柱。
そこに宿る滅びの祝詞。
天描く光。
全力解放はユウ無しではキツイ、自分が扱える限界はどう頑張っても半分ほど。
その半分でさえ、いつも暴走気味になってしまうが。
「あの魔力量では仕方あるまい」
目の前は紫。
そこには滾りに滾った毒の煙霧。
「終わりだ、終わりにする、もう役目などどうでもいいのだ、我が負けるなどあってはならないのだ————」
辺りを浸食、まさに魔界と化す。
ここは地獄の入口か?
それぐらいに濃密、それぐらい強烈。
「なら、その門ごと私が潰すまでだ————」
十字充電十分。
十中八九で失敗の準備。
「ダメだったら大人しくユウに怒られるとしよう!」
放つハーフ。
半端ないパワー。
持ち得る限界稼働する身体と聖剣。
今回出せなかった余力と鬱憤をぶつけるが如し。
猛烈な勢いで光の粒子が体を巻き込む。
下と上、異世界に侵入するがように、あまりの力に世界が歪む。
「全ては我が手中! 蛇蝎の王の前には生は生きられぬ!」
「負けられぬ戦いがいまここに!」
殺しのワンターン。
暗闇に宿る真っ赤なランタン。
「魔毒の骨頂! 世界を統べろ!」
「聖剣よ! いざ十字を描け!」
世界割れ、 そこから出でる猛毒の津波。
凄まじい勢いで万物飲み込み消化していく。
触れただけで溶け消えゆく。
だがそれを真正面から打ち砕く。
光と光の交差が轟。
「消えろ。私の方が『強い』————」
言葉通り。
津波の毒は十字と衝突。
リミッターが解除。
急に上昇していく光の底。
「ば、ばかな、何故だ————」
刹那に踏ん張る魔王。
しかし着々と、そして一気に持ってかれる。
デッド・クロス。
天遣わし光剣は、魔毒の使い手に死を与える。
「我が人間如きに————」
すべてを浄化。
十字が空へと伸びる。
何処までも何処までも。
軌跡を残し天に召す。
そして魔王ボルアス、中二病と称された男もまた粒子になって消えていく。
「ふう、終わ……」
戦闘終了。
しかし流れたのは祝辞ではなく痛み。
鋭く響く痛み。
腹部からだ。
「な、なんだ……」
今までに感じたことのない感覚が襲う。
食べ過ぎの腹痛とはわけが違う、内臓全部持ってかれたよう。
「腹部強化、いや、神経強化か……」
腹部の硬度ではない、痛みに対する神経を強化。
いつもはそれで耐えれるはずが、一向に痛みは引かない。
もしや魔毒を喰らっていたせいかと思うが、毒の浸食は直感が違うという。
浸食というか変革、成長というのはおかしいか、組み込まれるような感覚。
「————っぐ」
痛みに耐えきれず膝をつく。
なんだこれは。
なんなのだ。
戦いが終わった途端に来る。
余裕だった先ほどと違い、額からは冷たい汗が流れ始める。
呼吸が荒くなる。
喉が渇く。
頭がボーっとする。
「はあはあはあ……なにが……」
理解不能な身体。
理解不足な頭。
異常は確か。
魔王を単独撃破の感傷に浸る暇もなく、痛みの底に。
珍しく意識が遠のいていく。
(これは、意識を失う————)
失神を理解。
きっと意識は落ちていくだろう。
すると近づいてくる人間がいるのを感じ取る。
この気は————
「————どうしたエイラ!?」
「……ユウ」
これも珍しい。
いつも呆れ顔のユウが、焦った顔を浮かべている。
もう外野の爆弾は対処したのだろう。
帰って来たはいいが、倒れる自分に驚く。
「————毒の効果か!? 一体なにが、え? リンゴのせい!?」
「ゆ、ユウ、私は……」
「————はあ、まじかよ。心配して損した気がする」
「いや結構ヤバいん……」
「————とりあえず眠っとけ、運んどいてやるよ」
「すまない、な……」
ユウはリンゴと言った気がする。
リンゴ。
そういえば決勝戦、罠に嵌まって、どこか異世界に送られた時だ。
どうしようも無くて近くにあった『白いリンゴ』を、つい食べてしまった。
お腹が減っていたこともある。
なんせ良い香りしていた、毒物でも強化すればなんとかなると思っていたが————
(食当たりは、生まれて初めて、だ……)
ブラックアウトする。
その陰には白いリンゴの効果もあったが、なんと魔王単独撃破。
その偉業は近代史に名を刻む。
世界に響かせる。
そんな凄まじい功績。
しかし魔王の毒さえ耐え抜き戦った最後の最後。
歴史にて後に語られる。
近世、魔王と張り合った豪傑エイラ・X・フォード。
なんとこの偉業のあとに突如倒れてしまう、原因は魔王の毒、と思いきや毒は毒でも、食中毒というなんともバカらしいものだったと。