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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 3 -START AND START 《二色と闇影》-
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 「開闢強化カルマ・ミラータ!」


 全身に流れる強力な電流。

 表面硬質化、筋肉増強、痛みに対する神経質強化、聖剣解放。

 

 「いくら聖剣使いの貴様でも、槍使いが居なければ我の相手になるまい」

 「ユウ抜き、私1人で十分だ」


 覇覇覇。

 いつもよりすこぶる調子がいい。

 なぜ調子がいいかは不明。

 だがそれならそれでいい。

 考えるだけ時間は無駄であり、論じるだけ器官は鈍る。

 流れる本能に任せるのみ。


 「————勝負!」

 

 脚が轟。

 踏みしめるだけで地盤沈下。

 一気に生み出す数億パワー。

 世界を揺るがす勇将カラダ。


 「毒棘サーペント!」

 

 魔王からトゲトゲしいものが向かってくる。

 剣で弾くか、それとも避けるか。

 思考する間もなく本能が解決。

 とる行動は————


 「っつ……!」

 「バカめ! 直接生身で受けるとは、やはり噂通り頭が可笑しいようだ!」

 

 神速に詰める毒の針。

 まるで予測していたように迅速、体のあちこちに刺さり毒を流す。

 しかし避けなかったことにはちゃんと意味がある。

 

 「な、なぜ止まらん!?」


 確かに刺さった毒針。

 しかしその痛さ注射と同等。

 毒もなんだ、静電気ぐらいにしか感じない。

 鈍化した感覚、鋭利化する殺気。

 この捨て身は意味ある行為。

 弾け避ければ、速さが劣る。

 喰らっても意に返さず進む、これが真骨頂。

 すべてを受けつつ前に前に、止まることのない大車輪。


 「————さあ、もう目の前だ」

 「————ばかな」

 「受け取れ中二病! これが力だ!」


 すでにボルアスに入った聖剣圏内。

 圧倒的な制圧。

 一点集中された原子力クラスの火力。

 ぶち上げる光熱量。

 

 「聖剣カリヴァーン!」

 「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 光に飲み込まれ叫ぶ魔王の絶叫。

 余裕なし。

 咄嗟に受け身と陣展開。

 しかし脳筋の申し子にその盾は脆すぎる。


 「————まるで紙屑だな」

 

 塗りつぶす。

 その間に抵抗だろうか毒液が掛けられる。

 被るがちょっとピリっとするくらい。

 腹の中でタービン回転、無限に生み出す戦うためのエネルギー。

 

 「っむ」

 「……真毒剣サーペンズ!」

 「ほう! 私と剣で戦うか!」

 

 なんとか受け流し光から外れた魔王。

 流石に立ち回りが上手い。

 しかして接近している状況は変わらない。

 だからか生み出したのは紫の剣。

 その刀身は生き物のように血脈打ち、まるで意志を持つよう。

 まさに魔剣の名がふさわしい。


 「ぬおおお!」

 「遅い遅い、それでは相手にならんなあ!」

 

 俊俊と。

 一瞬で生じる剣戟。

 しかそれは一歩的だった。

 聖剣が強すぎる、そしてその担い手も。

 別にボルアスが弱いわけではない、相手が強すぎるのだ。

 天性の能力然り、さらに1、2か月は戦狂神エレネーガに教えを受けていた。

 毒を剣を受けようと止まることは決してない。

 痛みと死を忘れた、魔王の比でない、イカレタ精神性。


 「……星魔法スターズ!」

 「なんだ?」 

 

 ボルアスの眼に星型。

 見つめられて体にかかる嫌悪感。

 

 「こうなっては仕方あるまい! これで貴様の行動を先読みし————」


 星に見つめれて嫌な感じ。

 しかしそれがなんだ。

 適当に動く身体に任せるだけ。

 脳筋などと言われるが、本人にとっちゃ脳みそすら必要ない。

 全身で感じる戦いの息吹。

 それが戦いの道を自然に現す。


 「な、なんだこれは……」

 「どうした! 遅い剣がもっと遅くなってるぞ!」

 「貴様の見ている世界は————」


 ペチャクチャと。

 そんな雑念ばかりだから弱いのだ。

 それに比べてユウは考えながらもよく動ける、自慢の相棒であること相違なし。

 

 「お前は狂っている……!」

 「魔王にそういわれては私も終わりだな」

 「光神シルバめ、なんという奴に聖剣を与えたのだ……!」


 感じる。

 調子がいいのも相成って、勝利への道。

 勝手に動く腕がボルアスの肉体を切り刻む。

 周りに飛び散る真っ赤な血。

 魔族でも流れる赤い液体。

 ぶつ切りよりも乱暴。

 その斬り筋は美しという言葉とは縁もゆかりも無い。

 ただ力づくで解体する。

 その後のことなんてどうでもいい、暴力の塊。


 「化物が!」 

 

 距離をとりだす。

 すると毒罠足元で爆発。

 しかし罠はさっきの決勝で喰らいまくった。

 本能が正解を嗅ぎ分ける。

 

 「小癪なことばかり、それでも魔王か! 吸血王のがマシだったぞ!」

 「っは! あの髭と一緒にするでないわ!」

   

 逝かれた心臓。

 タフネス跳躍。

 罠を真向から受ける。

 今までで一番じわっとくる、しかし、それだけだ。


 「撃ち抜け聖剣カリヴァーン!」


 空いた距離を埋める極大光線。

 どういう原理で出すかはいまだにわからない。

 単純に力をグググと溜め、ババッと打ち出す。

 

 「毒爆サーベキ!」

 

 光と毒のぶつかり。

 流石に魔王、魔力の質と量は突出。

 聖剣の光線は見事に相殺される。

  

 「しかし、お前に近づく時間は十分に稼げた」

 「また……!」


 剣戟から判断。

 なんとか離れて戦いたいボルアス。

 しかしエイラは近接超特化、相手がいくら自分を遠ざけようとも、 光の速さでまた現れる。

 その光はヒーローの眩しい輝きではい。

 英雄が持ち得る自己犠牲の精神、 そんな『無駄な』感情を排除した、一心に力を体現、ダイヤをダイヤで研ぐ。

 不純な光を排除した、影ない一点もの。


 「もう限界か?」

 「ぐうう」

 「今日は何故か調子がすこぶるいい! やはり試合前にたくさんご飯を食べたからだろうか? いや炭水化物のおかげ————」

 「ナメるなああああああ!」

 

 激高した様子。

 それをクールにでも熱く剣に乗せ、 力で黙らす。

 毒に跨り魔王なんかしそう。

 

 「まさか使うことになるとはな! 固有魔法『魔毒ラ・ポイザ』!」

 「む!」

 「はっはっは! この国ごと毒の海で覆ってやろう!!」

 「それは困るな————」


 ユウがなんと言っていたか。

 曰く魔王には、魔王独自の特大魔法があるらしい。

 魔力の変化感じるに、それが目の前の男の王手なのだろう。


 「瀕死の身体で最後の最後、大人しく死んでおけばいいものを」

 「黙れ! 貴様ら下等生物に我が負けるなどあってはならぬのだ!」

 

 つまらぬプライド。

 しかしその意気に同じくライドする。

 

 「————1撃で勝負を決めるなら、私の得意分野だ」


 誰よりもハードパンチャー。

 視界の隅に映ったユウの姿、あの位置なら聖剣に巻き込まれることもない。


 (ユウならきっと察してくれているだろうがな)


 自分にとっての一番の理解者。

 唯一無二の相棒。

 それがタイミングを踏み間違えることなど、地球が反転してもあり得ない。

 

 「————半解放、十字聖剣クロス・カリヴァーン


 十字の光柱。

 そこに宿る滅びの祝詞。

 天描く光。

 全力解放はユウ無しではキツイ、自分が扱える限界はどう頑張っても半分ほど。

 その半分でさえ、いつも暴走気味になってしまうが。


 「あの魔力量では仕方あるまい」


 目の前は紫。

 そこには滾りに滾った毒の煙霧。


 「終わりだ、終わりにする、もう役目などどうでもいいのだ、我が負けるなどあってはならないのだ————」

 

 辺りを浸食、まさに魔界と化す。

 ここは地獄の入口か?

 それぐらいに濃密、それぐらい強烈。


 「なら、その門ごと私が潰すまでだ————」


 十字充電十分。

 十中八九で失敗の準備。

 

 「ダメだったら大人しくユウに怒られるとしよう!」


 放つハーフ。

 半端ないパワー。

 持ち得る限界稼働する身体と聖剣。

 今回出せなかった余力と鬱憤をぶつけるが如し。

 猛烈な勢いで光の粒子が体を巻き込む。

 下と上、異世界に侵入するがように、あまりの力に世界が歪む。

 

 「全ては我が手中! 蛇蝎の王の前には生は生きられぬ!」

 「負けられぬ戦いがいまここに!」


 殺しのワンターン。

 暗闇に宿る真っ赤なランタン。

 

 「魔毒の骨頂! 世界を統べろ!」

 「聖剣よ! いざ十字を描け!」


 世界割れ、 そこから出でる猛毒の津波。

 凄まじい勢いで万物飲み込み消化していく。

 触れただけで溶け消えゆく。

 だがそれを真正面から打ち砕く。

 光と光の交差が轟。


 「消えろ。私の方が『強い』————」


 言葉通り。

 津波の毒は十字と衝突。

 リミッターが解除。

 急に上昇していく光の底。


 「ば、ばかな、何故だ————」


 刹那に踏ん張る魔王。

 しかし着々と、そして一気に持ってかれる。

 デッド・クロス。

 天遣わし光剣は、魔毒の使い手に死を与える。


 「我が人間如きに————」


 すべてを浄化。

 十字が空へと伸びる。

 何処までも何処までも。

 軌跡を残し天に召す。

 そして魔王ボルアス、中二病と称された男もまた粒子になって消えていく。


 「ふう、終わ……」

 

 戦闘終了。

 しかし流れたのは祝辞ではなく痛み。 

 鋭く響く痛み。

 腹部からだ。


 「な、なんだ……」

 

 今までに感じたことのない感覚が襲う。

 食べ過ぎの腹痛とはわけが違う、内臓全部持ってかれたよう。


 「腹部強化、いや、神経強化か……」

 

 腹部の硬度ではない、痛みに対する神経を強化。 

 いつもはそれで耐えれるはずが、一向に痛みは引かない。

 もしや魔毒を喰らっていたせいかと思うが、毒の浸食は直感が違うという。

 浸食というか変革、成長というのはおかしいか、組み込まれるような感覚。


 「————っぐ」


 痛みに耐えきれず膝をつく。

 なんだこれは。

 なんなのだ。

 戦いが終わった途端に来る。

 余裕だった先ほどと違い、額からは冷たい汗が流れ始める。

 呼吸が荒くなる。

 喉が渇く。

 頭がボーっとする。


 「はあはあはあ……なにが……」

 

 理解不能な身体。

 理解不足な頭。

 異常は確か。

 魔王を単独撃破の感傷に浸る暇もなく、痛みの底に。

 珍しく意識が遠のいていく。


 (これは、意識を失う————)


 失神を理解。

 きっと意識は落ちていくだろう。

 すると近づいてくる人間がいるのを感じ取る。

 この気は————


 「————どうしたエイラ!?」

 「……ユウ」

 

 これも珍しい。

 いつも呆れ顔のユウが、焦った顔を浮かべている。

 もう外野の爆弾は対処したのだろう。

 帰って来たはいいが、倒れる自分に驚く。


 「————毒の効果か!? 一体なにが、え? リンゴのせい!?」

 「ゆ、ユウ、私は……」

 「————はあ、まじかよ。心配して損した気がする」

 「いや結構ヤバいん……」

 「————とりあえず眠っとけ、運んどいてやるよ」

 「すまない、な……」

 

 ユウはリンゴと言った気がする。

 リンゴ。 

 そういえば決勝戦、罠に嵌まって、どこか異世界に送られた時だ。

 どうしようも無くて近くにあった『白いリンゴ』を、つい食べてしまった。

 お腹が減っていたこともある。

 なんせ良い香りしていた、毒物でも強化すればなんとかなると思っていたが————


 (食当たりは、生まれて初めて、だ……)

 

 ブラックアウトする。

 その陰には白いリンゴの効果もあったが、なんと魔王単独撃破。

 その偉業は近代史に名を刻む。

 世界に響かせる。

 そんな凄まじい功績。

 しかし魔王の毒さえ耐え抜き戦った最後の最後。

 歴史にて後に語られる。

 近世、魔王と張り合った豪傑エイラ・X・フォード。

 なんとこの偉業のあとに突如倒れてしまう、原因は魔王の毒、と思いきや毒は毒でも、食中毒というなんともバカらしいものだったと。

 

 

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