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爆発乱れる人のビート。
猛毒押しかける。
黄紫の煙霧、悲鳴を飲み込む致死性。
「やはり人の死に様は面白い————」
放ち主毒の魔王。
白い仮面に隠された笑み。
悪趣味で不気味な魔力衣。
「なんかこいつムカつくぞ!」
「まあなんとなくだが、確かにイラっとくるな」
「日本で言うところの、あれだろう?」
「ああ、あれだ」
「「中二病」」
そうだなのだ。
こうしている間にも逃げ惑う観客席で毒爆。
地雷原多数、襲う衝撃波と覆う目的化。
教師人、選手が対応しきれない。
そしてその発起人は、ザ中二病みたいな恰好でさっきから『ふっはっは人がまるでゴミの様だ!』みたいな。
いわゆる自問自答型で独りで語っている。
「っふっふっふ! 驚いて声も出ないようだなあ!」
「「…………」」
「こうしている間にも人間共は苦しみ死んでいくぞ!? 我が毒を防ぐ者など皆無なのだよお!!」
死傷者多発。
しかしこれはまだ序章。
そろそろ身体も回復してきたし。
曰く、世界の定義ではヒーローとは遅れて登場する、らしい。
『まったくユウもお人よしじゃのう』
「自分でもそう思うよ————」
(大気同調、発動)
今までで一番デカい範囲圏。
青き粒子が会場中、むしろ学園ごと覆う最大規模。
「我が喜劇を止めるか槍使い」
「流石に見殺しじゃ後味悪いんでな」
「邪魔はさせ……」
「————開闢強化!」
口を噤む。
真横で突如発生する天災。
黄金色。
美しく輝く世界の理。
この予選初となる殺すための聖剣。
「貴様の相手は私がしてやろう」
「っは! いくらなんでも1対1では勝負になるまい! 暗黒を纏った我が毒の……」
「ええい! うるさいぞ!」
「蛇蝎を継承しそれを束ね……」
「ユウ! コイツは私が相手をする。 外野を何とかしてくれ!」
「りょーかい————」
大気と同調。
学園に潜む『爆弾』を探知する。
(1、2、3、4……なかなか数が多いぞ……)
人型爆弾。
解析するに人型、その名の通り『人』を材料に造ったのだろう。
外見では違和感ないが、中身はまさにリアルマグマ。
(エイラが中二病の相手してる間に、とりあえず片っ端から倒していくしかないか————)
おそらく殺しても爆発するという事象は起きる。
しかしその人間爆弾は、危険物である前に既に死んでいる。
命がない。意志を持たない。
つまりはシンクロ可能なわけで、爆発前に爆弾処理してしまえばいい。
殺すというよりか無力化といったところ。
(一番近いのは……よりにもよってマスコミ群衆のところか……)
第一爆弾処理。
眼の先。
どうせこの光景を撮りたくて非難し遅れた、そんな風に感じさせる輩共。
そこに服着た爆弾近づいていく。
分析探知系能力でなければ気付かないだろう。
どうすることも出来なくて、周りの殺戮現場、死を目前にしたことで固まってしまっている。
「まあ助けてやるけど————」
ビュンと。
重なった大気が風を送る、身体を送る。
アクセル踏み込む感覚。
その場からの瞬間移動、ローからオーバートップに一気にシフト。
「誰か向かってくるぞ!」
「あれはユウ・ヨンミチ……?」
「変幻だ。変幻が助けに————!!」
(そんな騒ぐと……)
「ぎゅああああああああああああああああああああああ」
ほら刺激した。
その存在はゾンビみたいなもん。
意志も命もないが、攻撃的刺激には敏感。
そしてそこからとる行動は、即殺害。
興奮結果、弾はある程度の距離を開けつつも、まじい速度で膨張し始める。
体がはちきれんばかり、禍々しく、膚から毒素が滲む。
「い、いや、私はまだ死にたく————」
風に流れてくる女の死に対する声。
そんなこと知るわけもなく、カウントダウンは終わり。
ここからは流れ作業のように簡単な結末。
すぐ爆発、そして死、はい天国行き。
なんだけど————
「能力同調!!」
既に爆発。
刹那に溢れ出す猛毒物。
カメラマイク持った人々に津波のように圧し掛かろうとする。
それに畏怖した叫び。
しかし結末は反転。
結末逆転現象。
「い、いや死にたく、って、あ、あれ!?」
既にその能力は俺の手中。
止める。
毒の一粒一粒。
それはミクロの度合いで。
すべてが空間にて動きを止めた。
例えるなら氷漬け。
爆発した瞬間に氷に閉じ込めた姿そのもの。
「————とっとと逃げた方が身のため」
能力止めて降り立つ。
固まった場。
相手と被害者たる人。
最後に叫んだ人、日本語だった。
そんな日本人の彼女なんてハトに豆鉄砲、あんぐりと口を開けている。
そして偶々か。
そのあんぐりの女、そういえば俺の眼から目逸らした人物。
あの時出かかった名前。
今になってポッと。
「あんた、日本人だよな?」
「————」
「おーい! 日本人ですかー!?」
「っは! わ、私は日本生まれ日本育ちでしゅ!」
どこか向こうに意識が飛んでいたようだ。
ようやく帰ってきたが、最後噛んじゃってるし。
しかしまじかで見てやっぱりと思う。
アイドル並みに整った顔立ち、長い黒髪、マイクを持ってるが、アナウンサーするには若いだろってみてくれ。
(アイドル並みに可愛いっていうか……)
「……仕事は何やってる?」
「あ、アイドルです!!」
(やっぱりか)
既視感があった。
やはりテレビ見てれば嫌でも映る売れっ子。
そしてこの状況アイドルと話している場合じゃないんだが————
「今日は仕事で?」
「は、はい。今年の国際選抜小隊戦の、盛り上げキャラクターに抜擢されまして……」
「仕事で遥々イタリアまで来てこの仕打ちとは、災難だったな」
火事場なわけだが、ちょっとお喋り。
アイドルと対話、なかなか無い機会。
別にこのアイドル『小岩井 桜』のファンではないが、やっぱテレビの中の人とは話したくなるってもの。
こういっちゃなんだが無償で助けてやろうとしてる、これぐらいの褒美があってもいいだろう。
しかし、中二病の新たな指令入ったか。
そろそろ奴らの動きがヤバそうだ。
「東ゲートの方に敵はいない。逃げるならそこから逃げろ」
「え……」
「あんた死んだら悲しむ奴が多いからな。戦闘が過激化する前に逃げろ」
さっきから轟いてる。
爆弾爆発音ではなく、馬鹿力が何もかもの爆破する音。
剛腕で剣を超高速で振り回し、間が空けばレーザー的な。
もともと壊れかけだったが、今は会場の3分の1か半分くらいは崩れてる。
「行ってくれ。俺もまだ仕事があるんでな」
「は、はい」
「あんたたちもだ! さっさと逃げてくれないと戦闘の邪魔だ!」
号令かかり、一瞬固まるもマスコミ群が急いで支度。
重いカメラを放り捨てないあたり、やはりプロなのだろう。
あたふたしながらもゲートへ全速力。
「あ、あの」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとうございました————」
頭を下げるアイドル小岩井さん。
「別にいいって、それよりも早く」
「は、はい。でも今度日本に来た時、また改めて……」
「いいから早く行け!!」
「ひゃ、ひゃい……!」
(ったく、クドイっての、まあ可愛い子と話せたのは役得だけど……)
確かおない年、それに可愛い子って言うのはおじさんくさいか。
なにせ何時も隣にいる金髪は、見た目裏腹に中身が筋肉すぎるんでな。
色気のいの字も無い。
今回なんて俺が戦ってる最中に飯食ってたくらいだし。
(しかしまあ、それで俺よか強いんだから、まったく不思議なもんだ)
視界に映るエイラの善戦。
中二病は大口叩いときながら、エイラに押され押されてる。
実際のところは、魔王ボルアスはエイラに毒を何発もヒットさせてる。
聖剣、顔、腕、腹、脚。
しかしいくら毒が蝕もうとしても、エイラの強靭な単純な『強化』が阻む。
いうなれば黄金にヤカンで沸かしたお湯をかけると同等。
(でもレネは、ボルアスの毒、神様でもヤバいって言ってなかったか?)
『左様。しかし妙な話、今の聖剣使いの身体はおかしい』
(おかしい?)
『毒ではないナニカが身体に新組み込まれておる。おそらく、第三世界の『リンゴ』なるものが原因じゃろう』
(そういやそれっぽいモノ食ったって言ってたな……)
エイラ、死ぬんじゃない?
食中毒では済まされない。
むしろ何の因果かより強くなって。
まあヤツの腹は強靭、意外といい勝負して、そして勝ったのかもしれない。
これじゃあ母国発祥、キノコ食って大きくなったり強くなったりするやつと同じ、エイラはゲームキャラかっての。
「……エイラは大丈夫そうだし、俺は残りをさっさと処分するか」
既に多くが爆発真っ最中。
いま一回働いたが、大気から何体もの異形エネルギーを感じ取っている。
それはボルアスの危機に比例して危険度を増し始めてる、
倒れる人が数多だが、この国には大戦の英雄『聖女』クリーナ・マクイエスがいて、彼女は死人さえ生き返らせる回復能力者、現役引退しても力を保持する数少ない古代英雄だ。
この死んでるか生きてるかもわからない人々は、彼女と教会連中に丸投げしておこう。
(……そういやもうひとりの方、こんな大事になってるのに学園長はてんで出てこないな————)
浮かぶは疑問。
爆弾は人に扮していたから侵入できた。
しかし侵入許しても、殺戮を許すか?
学園長もまた10人の英雄の1人、年とっても十分戦えるだろうに。
(不思議なのがシンクロでも学園長室だけが感知できないことだな……)
そこだけぽっかりと穴が開いたように。
むしろ別世界が介入してきたような圧倒的違和感、そして鳴り響く危険信号。
誰が創り出したのか、そこでなにが行われているのか。
導かれる、考えられる1つの答え。
(学園長封じ、魔王かその他か、何者かが襲撃し戦闘中と考えるのが妥当か)
最強の金属錬成能力者だ。
それが来ないとは相当。
ワンチャン、死んでる。
俺一人で今いったとしても返り討ち、十中八九で死ぬビジョン。
(エイラは魔王と戦闘中、アイツが一緒に居れば学園長の方に行ってみてもいいんだが————)
「さて、どうすっか……」
優勝決めた。
進出決まった。
しかしモヤっとかかった心空。
真っ黒な毒が覆っている。
死ぬと感じる勝負に独り挑みはしない。
「まずは俺のやるべきことを、やる————」
人助けとは名ばかりだ。
面倒ごと退治であり、憂さ晴らしともとれる。
自分の未熟さ、及ぶ行動スタイルに。
華やかな決勝を闇と影が浸食。
真価見出し始めた青と銀。
進化止まらぬ青と黄金。
動き始めた始まりが、この世界に色彩を添える。