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『お待たせしました! これよりBブロック最終試合! 決勝戦を行います!』
激戦特区B。
ブロック分けは抽選制。
完全なる運によって割り振られる。
そしてこのBブロックはAに比べ猛者揃いだった。
旗の振り手、自爆集団、黄金比、そして規格外の脳筋たち。
そのカオスチックな成り行きにはようやく終着点へと向かう。
『それでは両小隊の登場です! 皆様大きな拍手で迎えてください!』
既にAブロックは片が付き、反対会場にいた観客と選手全員がこのBブロックに集まっている。
その人数は莫大。
そして鳴り響く拍手喝采。
『まずはバレンデッリ小隊の登場! 全員1年生ながら練りに練られた連携が特徴! 中等部時に結成され、 昨年では中学生ながらベスト16まで勝ち進んだ期待の新星です!』
先頭を行くは数多の人の眼に映る紅の長髪。
堂々と、臆することなく輝く瞳。
一糸乱れぬ一列縦行進。
「行くわよ!」
「「「「おう!」」」」
ここまで来たのはマグレではない。
既に2年前には小隊を組み経験を積んできた。
整えられていた不完全だった地盤。
だが与えられた空白の2か月。
短いようで長い。
短期成長、超成長型国家並みに伸びた放物線グラフ。
大きく広げた歩幅、ここに至る。
『そして相対するは今回のダークホース! この学園、いや世界初の二人組小隊————!』
相も変わらず。
疲労も見せない実況。
むしろテンション上がって絶叫とも。
観客もそれに負けず歓声待望、待っているのだ。
「————頃合いか」
「————ああ」
真四角ホワイトゲートの100歩前に佇む。
俺たちは待ち人。
なぜかそう認定されていた。
ボクシングで言うなら赤コーナー。
勝手に上がっていたパラメーター。
そしてかかる青信号。
「————ユウ」
「————?」
「————ついてこい」
青信号どころか信号機破壊。
加速ブースターセット。
隣にいるのは脳筋エイラ・X・フォードだ。
紅とは一線画す金色の髪。
そいつの真横に俺が立っている。
二人で見る。
俺たちは二人。
公平で平等、同じ景色を見ることがえきる唯一の片割れ。
「—————何処までもついていくさ」
いや見る景色は同じだが、等しい角度かというと微妙。
なんせ若干ながら俺はエイラに引っ張られ、もしくは引きずられてさえいる。
コイツの神がかった速さ、気を抜けば一瞬で置いていかれそう。
だが、そんぐらいじゃないと俺は満足しない、ココロ満たさない。
「なら安心だ!」
「まあ一度は死ぬ覚悟もしたしな。地の果て空の果て、地獄の底でもついてくよ————」
ピシッと張り付いた戦闘スーツ。
無傷な服、そこに無機質な風が走る。
緊張ではない、ある種の高ぶり、幾戦無双、悪戦苦闘。
エイラと共に歩んできた数多の星繋ぐ軌跡。
格別に。
決して揺るがぬ魂。
『それでは呼びましょう! 最強を謳う小隊————!」
時間だ。
世界へ布告した最強を冠すると。
俺たちは至る。
「行くぞユウ!」
「おうよ!」
何回も歩いた道。
白色灯が照らす先への道。
先頭はいない。
どちらか先進むことはないのだ。
横一列。
迎い入れ、そして浴びる、ゲートの先にある世界を。
『フォード小隊の登場だあああああ!』
「「「「「「うおおおおおおお」」」」」」
そこで待ち伏せていたのは数多の人だった。
間髪入れずに鳴りやまぬ歓声、フラッシュ放つカメラ群。
しかし一番に見据えるのは真っすぐ相手方。
「良い気を放っているな」
「ああ。こりゃ楽しめそうだ」
別に先も後もない。
先頭要らずの戦闘モード。
モーションは予定外。
しかして万全にして盤石たるこのメンタル。
「……待たせたわね!」
「まあ待ったちゃ待ったか」
「あの時のリベンジ、殺す気で行くわ!」
「それは楽しみだな————」
整列。
戦いの狼煙発射までの時間は残り僅か。
見つめるしかない。
相手の姿形、そして自分の手のひら、何かを傷つけ、何かを守り、何かを成すための身体。
「最初にユウに会った日を思い出すなあ」
「……どした藪から棒に?」
「殺すつもりだった男と、まさかこうして肩を並べるとは思いもしなかったのだ」
「……今更それ言うか?」
「人生とは、何が起こるか最後まで分からぬものなのだと思う」
そうだ。
こうして相棒という形になるまではヒットマンとターゲット。
それがなんの因果か摩訶不思議。
「何が起こるかわからない、か」
「そうだ。言いたいことは分かるだろう?」
「当然」
「「叩き潰す」」
手加減なしの手抜きバトル。
全力であり不完全速なアビリティー。
(もうシンクロも槍も見せた。 この二つあれば十分戦える————)
もとはと言えば俺が持ち得たのはこの2つの能力のみ、槍に至っては近頃手に入れたばかり。
この体面で十数年生きてきた。
今はエイラもレネもいる。
ならば今回は、いわば数か月前までの俺の真の姿で戦うということ。
強化同調も銀も見せる気はないが、これは最大の賛辞である。
『10カウントを始めます!』
小刻みよく経過していくカウントダウン。
一定のはずが、熱気のせいで若干早い。
固唾を飲む暇さえない心臓の高鳴りが周囲から伝わってくる。
エイラが構えた。
俺は脚に力を入れる。
ルチア達もまたその身に闘志を宿す。
(光太郎、朱里、俺は強くて、それで最高な相棒を見つけたぞ————)
カメラは俺たちを映す。
無論日本らしきテレビ局もある。
ならば幼馴染たちが俺を見るのも必然。
世話になった、共に過ごした、電話越しでしか別れを伝えられなかった、そして連絡なしの数か月。
まずはこの戦いで語る。
俺は独りじゃない。
闇を照らす真っ赤に輝く太陽。
最高の仲間を見つけたと————
『試合開始です!!!』
「二重強化!」
「大気同調!」
能力爆発。
溜まっていた力がとてつもない勢いで炸裂する。
瞬間で粒子は集約、俺たちの身体はロケットみたいに瞬発。
これは会長選と同じ戦法。
いや似た戦法。
違うのは一つ外された楔。
奥底にかけられた南京錠、軽くなったこの身。
「神を穿つ! 顕れろテンペスト!」
前方に慣性する右足。
交差する時発動。
右手に握られるドッシリとした重み。
風が巻きつく。
黒銀の魔槍の顕現。
「———初っ端来るわよ!!」
これもまた相変わらずのよく通った命令。
だが俺とエイラは駆ける。
重力という概念を無視。
大地を蹴る。
黄色と黒色の武器片手に接近。
刹那で縮まっていく初期距離。
「喰らえ……! 細炎剣!」
能力剣の口頭展開。
黄金比形態から導かれるトラップ。
足元で輝く紅蓮の炎。
「ん!?」
「これは……!」
超接近するはずの身体。
止まってはいない、しかして遅い。
微妙な距離での失速。
俺たちのスピードが見える速さへと減速。
気付けば突如として足元にはメラメラ。
地に突き刺したレイピアから炎が放たれていた。
(能力を喰われたか、 軽く失速したな……)
「なんだか能力の効きが悪いぞ!」
「エイラ! 足元の炎が原因だ! さっさと抜けるぞ!」
「足元? おおー燃えているぞ!」
実際スピードは出てる。
それでも俺たちからしたら下の下の下。
それはルチア達にとっても同様にとらえられる。
ならこの場を迅速に切り抜ける。
減退範囲は限定されている。
(そりゃ突っ込んでくると分かっていて罠を張らないバカはいない。そんでこのまま逃げしてくれるかというと————)
「規模拡大! 逃がさないっすよ!!」
「ザック……!」
炎が広がる。
身体は風で守りつつも、服は散った火花に焦がされる。
ザックの能力は『事象干渉』
炎、水、風、限度はあるが地球で起こる現象にある程度干渉できるというもの。
範囲の拡大、範囲の縮小、増加減退は出来なくとも、罠は大罠へと進化した。
「巨岩砦!」
「……っち!」
俺とエイラのセンターにそびえ立つ巨石。
その高さ2、30メートル。
前見た時よりも分厚くデカい。
エイラの姿が隠れる。
つまりは分断。
ものの見事に俺たちは二分された。
(チームの分断は初歩の初歩、ほんと合理的で王道だな————)
『おおーっと! フォード小隊が分断されたあああ! 善戦しておりますバレンデッリ!!』
(なーにが善戦だよ、たかが少し高い壁が挟まっただけじゃねーか)
「————嵐が轟く、嵐が轟く」
こうしてる間にも拡大する炎。
分断と減速。
これで俺たちは連携と俊敏性を失ったことになるんだが————
(やっぱ決め手、必殺技がないとな……!)
「神を穿つ! 吹き荒れろ黒嵐!」
垂れ流しの詠唱。
黒い風が生まれる。
それは万物あらゆる神性を飲み込む、威力は絶大なのだが————
「ここは通さない!」
立ちはだかる。
そして出現する小さな光たち。
それごと穿つ。
そうして放つ。
破壊するはずだった黒嵐は反射。
その破壊の任務は失敗したのだ。
強靭な見えない薄緑の防壁によって、ものの見事に弾かれたのだ。
(テンペストが防がれた!?)
俺の前に立ちはだかったのは妖精使いアリエル・セントリヒ。
かつては蚊を潰すと同等、薙ぎ払った妖精の軍勢。
その再現を2か月ぶりにやるつもり、障害としてのレベルも低いと思っていた。
だがその妖精がなんとこのテンペストを止めたのだ。
炎が足を奪い、邪魔な壁に気を取られ、 風に手加減ものせた。
だが、その程度のハンデでか?
『我と同じく隠居したと思っていたんじゃがなあ————』
レネの俺にしか届かぬ呟き漏れる。
その理由は明確。
このテンペストを止めた存在。
それは妖精ではない、 妖精を従える上位種『精霊』だ。
「————ぼくの愛しいアリエルちゃんに手を出すとはねえ」
「おいおいまじか……」
見えざる者の声。
驚愕した。
正直言っての驚愕だ。
まさか俺やエイラ以外に、 この学園で異形のモノを飼いならす生徒がいるとは。
見誤っていた。
このバレンデッリ小隊で一番厄介なのは目の前、 人の身になりを潜ませた男《精霊》。
「アリエル、さん……」
「私もね、悔しかったんだ。だから賭けに出た。君たち程ぶっ飛んではいないけど、私史上最高の賭けに。そして契約した————」
形づくる。
背後にいた男が姿を現す。
「————ぼくさんじょおおおおおおおおおおお」
人の前に自らを晒す。
黄色がかった緑の長髪、おとぎ話に出てきそうな白ローブ。
見た目だけじゃただカッコいいお兄さん。
しかしそれは規制された同族種族の仲でしか生きない存在だ。
絶大な力を持ち得ながらも他者を嫌う『精霊族』
それがまさか人と手を組むとは。
「まったく物騒な風を操るんだな少年!」
「あんたに見事弾かれたんだけどな」
「神殺しの魔槍、 噂にたがわぬ力だが、 ぼくには全く関係ないねえ!!」
「…………」
「ぼくは盾の精霊ハイルン! どうぞよろしくううう!」
無駄にハイテンション。
コイツの登場で会場も実況もさらにヒートアップ。
だが俺にとっちゃ由々しき事態。
軽々風を弾いた精霊術、おそらく精霊の中でも最上位クラスの存在。
妖精使いから精霊使いアリエル・セントリヒ、限りなく限定的だが彼女の能力は『S級』に届きうる————
「にしても君の瞳はキレイだねえ!」
「そりゃどうも」
「まるでどこかの神様みたいだよおおお!」
(知り合いか?)
『そうじゃなー昔いざこざあって、こやつらの住処を破壊したことがあったぐらいじゃのう』
(……)
『我の存在には半信半疑といったところじゃろう。銀は使わんようにな』
(はいはい。気付かれたら面倒なんだもんな)
「まるでかの闘神のようだなあ!」
「……で、あんたは何をしに来たんだ?」
「無論愛しのアリエルちゃんの敵、君をブチ殺しに来たんだよおお!」
「精霊はみんな清い心を持つって聞いてたんだけど……」
教科書は嘘をついていたようだ。
そして気付いているか?
エイラからの応答がいまだに無い。
アイツが放つ爆音も破壊音さえ響かない。
(結界に閉じ込められている? いや結界ならエイラの腕力で解決できるはず。待てよ確かザックの他にもうひとり後衛がいた————)
おそらく、原因は『空間想像』を持つサリー・シルファ、あの根暗ちゃんの仕業。
きっとエイラは第三世界に送られている。
既に設置済み、壁出現のタイミングで発動そして嵌められたんだろう、またアイツの能力じゃ世界リープは不可能。
でも空間想像の大技であるのは確か、持続可能時間はもって3分といったところか。
「————もう察しているようね」
「ああ」
壁を越え現れるルチア、そして各々。
ザック、壁出したやつ、アリエル、サリー、精霊、勢ぞろい。
「……フォード先輩は、……向こうに送りました」
(やっぱりか、ようはエイラがいない数分で俺を全員で倒そうってわけか。確かにこれはリベンジだわ)
「……これで、……5対1です」
「っは! デカい口叩くな!」
「……っひ」
「たかが『雑魚』5人と数分戦うだけだ————」
これがリベンジ?
相手に友人がいる? 精霊がいる?
おいおい。
何を恐れる必要がある?
「雑魚、ね」
「言い方悪かったか?」
「ええ。とても不快よ」
「なら言い換えるか、弱者ってな」
なんかイラついてきた。
なんというか、 エイラがいなかったら倒すチャンスがあるみたいな。
目の前のこいつらにとってはそれが正攻法で、勝てる見込みのある唯一の作戦なのかもしれない。
でも俺はエイラ・X・フォードの相棒。
同時に俺はエイラの相棒でもある。
未だにメラメラ燃えてる足元、もう走らないって。
真向から、叩き潰すって。
俺も強いって。
「レネ、身体を預けるぞ」
テンペストの操作をレネに委託。
俺は外部シンクロへと移行。
大気、大地、能力、すべてを操る。
『ほほう! 我が戦ってもよいのか!?』
確認とる。
たまには息抜き。
ここ最近はおいおいと出せなかったが、なんか今回は任せていい気がした。
大丈夫『銀』は使わない。
お前の技術だけを体感させる。
「適当に遊んでやってくれ」
「……一体誰と話しているの? フォード先輩がいなくておかしくなったのかしら?」
「失礼な。自問自答だ————」
言葉は語らず。
「経験同調————」
体に青を纏う。
その奥底には銀の血が。
目に見えぬが確かにそこに。
レネの意志が明確化。
いつもより深層へ、繋がり深く、再確認、これはエイラが帰ってくるまでの無双だ。
「————うおおお!!」
「どうしたのハイルン?」
「気を付けたまえアリエル! 彼は彼ではない!」
「どういうこと?」
「彼にはいまナニカ恐ろしいものが宿った! ナニカというのはわかないが! 兎に角とんでもないやつだぞおおおお!」
「う、うん、みんなも気を付けて」
まずは足元。
今となっては走るつもりも無く意味もない、だがチラついて気になるのも確か。
「————消えろ」
バシンと音立て。
一瞬青く、一瞬で形を失う。
「炎が消されたっす……!」
「みんな、タイムリミットまで死ぬ気でやるわよ!」
「「「「お————」」」」
轟。
なに仲間での掛け合い?
そんなんしてる暇ないっての。
ハッと振り向くように。
そこには新星さえ飲み込む大宇宙。
ヨンミチ・ユウという人間を被った神。
見えない速度、達人という域かどうかさえ怪しい見たことのない我流の動き。
テンペストは軽々と回り、構えられる。
「————さあ人の子たちよ」
聞き慣れた俺の声。
口を閉ざさせたのは威圧、畏怖心。
放った主は俺ではないのだ。
たかが男子学生、しかして言葉は鉄塊。
両立した意志。
ルチア達は知らない。
これはリベンジという形でもあり、また普段は考えることもない偉業の入り口。
「————我にどこまでついてこれるかのう」
世に言う神降ろし。
銀を司り戦を愛す、千差万別あらゆる武具を極めた武神。
闘神エレネーガへの挑戦でもあった。