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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 3 -START AND START 《二色と闇影》-
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33

 「随分会場は盛り上がってるんだな」

 「そりゃそうだろ。今年は我らが脳筋姫が出場してるからな」

 

 ローマ市内。

 うっすらと見える会場からは、離れた自分たちにも聞こえる漏れ出しの声。

 

 「脳筋姫、エイラ・X・フォードか」

 「なんでも予選にたった2人で出てるらしいぜ。ほんとアホだよな」

 「そう言うな。あれでもこの国の貴重な戦力なんだ————」

 

 日が暮れ、いつも以上に人気ひとけの無くなった路地群。

 俺たちはポリ公。

 国中が熱狂している中でも、仕事一本、決められた順路を警備警戒していた。


 「あーあ有給も今日は人手不足でダメだって断られるし、ほんとブラックだわ」

 「仕方ない。これが俺たちの仕事だ」


 盛り上がる催し。

 しかしこの祭りに付け込んで悪事働く輩がいるのも事実。

 

 (ここ最近は何事もないが油断は出来ん————)


 俺もかつてはセント・テレーネ学園で色々なことを学んだ。

 心技体、 実戦で死にそうな思いもした。

 思い出されるあの日々、あの学園長の言葉。

 

 「————ん?」

 「どうした?」

 

 レンガ造りの建物連なる見慣れた道。

 そこに黒一点タキシード。

 男、高身長、体は細め、しかし顔に仮面を着けた、そんな男がいた。


 「————なんすかねあの人」

 「————怪しいな」


 奇怪の具現。

 まさに不審者のお手本ともいえる出立。

 それが道の中央に突っ立っている。

 周りには何もない。

 しかしどこか感じる違和感。

 

 (見える武器は無し、動きも無い、一体何者だ?)


 「————武器はない。動きもしない。私は、魔王だ」

 「っ!」

 

 (この男、俺の心を読んだ!?)


 「はあ? お兄さん一体何言ってんすか? というかまず仮面を————」

 「待てリーノ! そいつに近づくな!」

 

 一歩踏み出す相方の片足。

 数十センチ減る距離。

 その些細で安易な判断はその首をギロチン元に晒す。 

 

 「————毒棘サーペント

 「……え」


 弾ける。

 リーノの身体が周りに飛び散る。

 血と肉片が転がる。

 一瞬見れた黒陣、いや紫がかった魔法・・


 「人間とは脆いものだな」

 

 何処を見る。

 白い仮面に隠された表情。

 行方の分からない視線。

 しかしその一言には侮蔑を含む排他的感情を感じる。


 「その通りだ。私は人間が嫌いでな」

 「やはり心を……!」

 「正確には星魔法、縁あって魔女王に教わってな。まあヤツ程とはいかんが貴様らレベルなら容易よ」

 

 星魔法?

 魔女王?

 この仮面の男が語るのどれもこれもが危険要素。

 緊張混ざる感情。

 この情報を一刻も早く伝えなければいけない。

 

 (しかしそもそも何故そんなことを俺に————)

 

 「貴様は既に死んでいるのだ」

 「し、死んでいるだと……?」

 「胸元を見よ」

 

 ハッとしてみる。

 いつの間にか刻まれた紫のルーン。

 それは毒毒しく皮膚を蝕み、血脈を浮かび上がらせる。

 すると明確だったはずの意識がぼんやりと沈んでいく。

 発動できない能力。

 インカムに通らぬ自声じせい

 徐々に脳はその働きを弱めていく。

 何とか、何とかギリギリ耳に入ってくる仮面の言葉。

 

 「私は蛇蝎の魔王ボルアス」

 「ぼ、ボルアスだと……」


 魔王ボルアス。

 消えかかる意識の中に流れる情報。

 生物を蝕み、そして操る、毒系統魔法最高峰の魔王。


 「貴様には爆弾になってもらう」

 「爆弾……」

 「そうだ。数多の人間たちが固まる中で、ちょうどそこに転がる肉片のように爆ぜるのだ」

 「……な」

 「そしてまき散らすのは、神をも蝕む絶死の猛毒」

 「……」

 「既に幾つも人間《爆弾》は用意してある。貴様もすぐにアソコに向かってもらう」


 魔王が見つめる先は観衆の声が聞こえる場所。

 若人が切磋琢磨する学び舎。

 現在進行形で散っている火花の所。


 「タイミングは、おっともう聞こえてはいないか」

 

 意識は沈む。

 生気の無い瞳。

 胸元のルーンだけがその活を現す。


 「私もお喋りがすぎるな。しかし、こうして人間が絶望に向かっていく姿を見るのは堪らん」


 毒が回る。

 蛇の牙。

 さそりの針。

 体内に溜まる莫大な毒素。

 風船のようにパンパンに膨れ上がり、余りの多さに口鼻耳から漏れ出す。

 紫煙が下降、それに当てられ命持たぬレンガでさえボロボロと崩れる。


 「良い出来だ。一体これでどれだけの殺戮ができようか」


 仮面の裏は狂気の笑顔。

 毒の王は殺戮を好む。

 悶える隙も与えぬ圧倒速攻的殺傷能力。


 「準備はほぼ整った。あとは時を待つのみだ————」


 イタリア予選会場セント・テレーネ。

 そこに向かうのは前向きな感情だけではなかった。

 人を守る正義の制服を来た毒人形。

 核爆弾級を内包した動くダイナマイト。

 それらが四方八方東西南北、何十という紫の星々が着々と迫り、観衆に潜りバケる。


 「さあ、楽しい楽しい殺戮劇の始まりだ」


 見慣れた道。

 見慣れた建物。

 見慣れた景色。

 そして混ざった。

 イカレタ狂気。



 

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