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「なんだよあの能力!?」
「やばいねアレ」
「シンクロの能力では無さそうだ」
「ってことは————」
能力はひとりにひとつ。
それは人に脳がひとつしかないという当たり前のことと同義。
2つ能力を持つ人間は極僅か。
そしてその極僅かな人間は、みな歴史に名を連ねた豪傑たちとなる。
「まさかフォードの相棒がダブルホルダーだとは……」
「まあ……といってもこの槍は貰いものなんだけど————」
エイラは天然ものだが、俺は後付け。
バルハラからの頂き物に他ならない。
でもそんなこと、 相対する連中にとっちゃどうでもいいことなんだろうけど。
(俺にはあと銀の力もあるし、よくよく考えたら、俺とエイラ足したら計5つの能力があることになるな————)
計5つ。
それは普通の小隊と同じ保有数。
人が減っただけで、能力数は変わらず、また本質を取ってみれば、どれもがS級以上の力を持つ、
「こっからが本当のお披露目だ」
「うむ! ぶっ潰しだな!」
停滞した戦いが再熱。
その鎮火したはずの炎は、形を変え勢いを増した。
「嵐を起こす。唸れテンペスト—————」
風で上がる前髪。
俺を囲う円形の風陣。
見えざる暴力が壁となって現れる。
「三重強化!」
エイラも何重にも重ね着。
メーターオーバー。
振り切ったゲージ。
「行くぞユウ! 付いてこい!」
「あいよ————」
脚に力を溜める。
生唾飲む。
星が光る。
熱気が蘇る。
「————しまっ! ヤバいの来るぞ! 態勢立て直せ!」
会長の声で生き返る。
鈍った動きが色変える。
意識の切り替え。
でもどこか片隅。
俺たちへの畏怖の張り付き。
「もう射程範囲内なんだけど————」
溜めたハイスピード。
超接近とまではいかない。
中距離範囲。
しかしその場で十分に風は届く。
「穿てテンペスト」
ジャストミート。
矛先に渦巻く嵐。
黒銀の粒子が螺旋を描いて突き進む。
「炎壁!」
「旗の加護を与える!」
行く手を阻もうとする炎と旗。
しかして崩壊。
中央から崩れる。
ずば抜けた螺旋風。
「そんな脆い壁じゃ防げないですよ先輩方」
それにそうこうしてる内————
「私参上!」
入れ替わり。
位置逆転現象。
紫電の如く捩じりこんでくるエイラの身体。
「道を開けろ!」
テンペストが応える。
意志もつ輝き。
あらゆる障害を払いどでかい風穴を開ける。
「あなたは私が止め————」
1つ1つ穿いて繋がる扉。
そこに割り込む二刀使い。
「————ーすべてを沈める。この一撃防いでみろ」
一歩進んで三歩進む。
一進無退。
聖剣の刀身は目を眩める太陽の具現。
空をつっきる神光の勢い。
敵を淘汰する圧倒的な物質量。
「放つ! 聖剣!」
風穴空いたストレートライン。
剣の行く末着弾点。
有難いことに、そこにはわかりやすいイタリア国旗。
大きな御旗が翳されていた。
「会長!」
「カルロ先輩!」
俺との我慢比べから撤退する親衛達。
向かう先は剣の到達点。
頭上には真白き流星群が迫っている。
「面白いじゃん————」
退路はない。
しかし彼らはひとつに固まる。
身を預け、鉄と炎を用い、旗がそれを見守る。
重なり合う。
美しい音色。
能力の真価ってのは窮地になればなるほど進化する。
(要は能力かけ合わせて聖剣を凌ごうってことね————)
「「「「「三色天衣!」」」」」
ぶつかり合う。
単色と十色。
色彩豊かな火花が目を過る。
瞬きする間も無く展開された厚いベール。
様々な能力が絆によって繋がれる。
これが会長たちの隠し玉ってとこ。
全力でないにしてもエイラの聖剣を何とか鍔せっている。
(まあ相手に反撃できる程の余裕はないんだけど)
「ユウ!」
「わかってる」
光の粒子でエイラの視界は封じられいる。
本能で均衡差を感じ取ったんだろう。
未だに聖剣の力はレーザーばりに放出されている。
相手は全員動けない。
ならそこを狙わないわけがない。
据え膳食わぬは男の恥、能ある鷹は瞬間のチャンスも逃さない。
「————発動、神滅」
風向きが代わる。
嵐を起こすだけじゃない。
万神を滅する大喰らい。
テンペスト能力『神殺し』が姿を見せる。
(銀も強化同調も、見せるのはまだ早すぎるんでな————)
「っふん」
エイラが聖剣を収める。
残火が姿を濁らせる。
動けない敵。
潜りっぱなしの意気と身体。
重い腰が上がりそう、だがそれを、押し潰す。
「……形勢を立てな————」
「悪いな会長さん達」
そんなノロマなリスタートを見逃すわけないだろうに。
黒い稲妻が怒りを鳴らす。
威力は調整。
今度は超近距離。
狙いは必中。
勝利が引っ付く。
「旗は————」
「黒嵐」
縦横無尽に駆け巡る。
視界に写るすべてを荒らす。
創造あるならば破壊。
これは事象をゼロへと戻す。
『神殺しの魔槍、相変わらず荒れ狂ってるのう』
破壊の襲来。
すべてを巻き込んで勝利を導く。
神もを殺すキラー・ナチュラ―。
もちろん人が喰らえば死は確定。
(なんだけど、流石に殺したら捕まるからな————)
手加減済み。
しかし弱めたとしても一般人からしたら威力は絶大。
聖剣の後続がこれでは防ぐ間もない。
一気に飲み込まれる。
風に流れる複数血の筋
砂と煙、焦燥が渦巻く。
一瞬隠れるが晴れる、見えなかった場所、惨状が現れる。
『ら、ラングバード小隊全滅! よって! 勝者はフォード小隊!』
地面底まで抉り取られた。
会場のあらゆる場所に傷痕を残した疾風。
渦中で喰らった相手方。
彼らは意識を失い倒れこんでいる。
戦闘服が破け、剣が埋る、失敗故の手の焼け焦げた痕。
そして、中央真っ二つ、美しく長い御旗は折れ、無残な姿で地に転がっていた。
『こ、これで準決勝は終了です! 救護班急いでください!』
終わりはあっさり。
まあ見るからに重体。
そりゃ治療優先したいだろう。
「随分派手にやったな」
後ろから聞き慣れた声。
聖剣を携えたエイラが隣に並ぶ。
「あれでも結構抑えた方なんだけど」
「流石私の相棒だ。いっそ私と最前線代わるか?」
「お前の聖剣の威力のがハンパなかったっての」
「私だって手加減したぞ?」
「やっぱり最前線はお前に決まりだよ————」
力に飲まれた観衆。
俺たちからしたら予選始まって以来の苦戦。
苦戦といっても、馴らし程度の力で解決できたものだったが。
『————む?』
出番無く少し捻くれ気味のレネ。
珍しく声を上げる。
『覗き見されておる……?』
「覗き見?」
『この会場のどこか、気持ち悪い目線を感じるのう。人間ではないな』
「それってつまりは」
『魔の者という、ぬ! 気配が消えおった!』
レネ曰く誰かに見られていたらしい。
しかも人でないナニカに。
気持ち悪いかんじだったようで神や天使の類でなく、魔を帯びた存在。
『我の察知に気づいたわけではなさそうじゃが……』
「どうかしたのか?」
「ああ、誰かに見られてるらしい」
『なかなかの手練れじゃ、念のため意識を外に向けておけい』
「人間じゃないらしい。レネが警戒しとけって」
「わかった」
(レネの特定も出来ないし、とりあえず退場と行くか、なんか空気も重いし————)
「何故かみな静まり返っているな」
「まあ圧勝、てか圧殺だったからじゃ————」
「よくわからんが腹が減った!」
「はあ……決勝戦もすぐだから食べ過ぎないようにな……」
まだ食うのか。
残る準決勝は、俺たちにまさかの勝利宣言をしたルチア小隊とどこか。
そこで勝ち上がった小隊と、この星々の下で最後の試合、決勝戦を行うことになる。
(まあせっかくならザックたちと戦ってみたいけど————)
腹を鳴らしたエイラを横に去っていく。
意識の外には何も感じなかった。
「ルチア!」
「ルチアっち!」
「わかってるわよ……」
予選Bブロック準決勝。
なんとかそこまで駒を進めた私たち。
ウォーミングアップ、動きの最終確認。
控室で仕上げをしながら、設置されたモニターにて先に行われた試合を見ていた。
生徒会長カルロ・ラングバード対エイラ・X・フォード小隊。
序盤の動きでは意外と会長たちが粘っていたけど————
「もはや人の動きではないな」
「……控室でも、……感じるくらいの殺気」
「ユウっちもフォード先輩も化物すぎっす!」
私たちの心が後退する。
それもそのはず。
対戦相手だった会長たちの最後に映し出された姿。
全身血まみれ、体中に刻まれた数多の傷、意識を失い運ばれていった。
まさに力に淘汰された弱者。
すこし見え始めたと思った壁が、雲をも超える超上壁だと突き付けられる。
「おそらく当分は寝たきりだろうな」
「精霊さん達も怯えてる、あの人達は危険だって」
「……私の能力も、……取られきれない能力度数」
楽観視していたわけじゃない。
あの敗北をきした時から研鑽を積んだ。
掛け合いも、技術も、タクティスも。
会長たちだってそう、私たちと同じようにチームを作り上げてきた。
それがおそらく本気ではない、出先のパワーに押しつぶされた。
(戦術も相性も関係ないってことじゃない……!)
戦っても居ないのに、頭に描かれる敗北ビジョン。
まだ決勝に行けるとも決まっていないのに。
でも、逃げたくない。
止まったままの時を動かしたい。
少しでも、前に進みたい。
努力を、意志を諦めたら、それは否応なき才能の肯定。
「みんな聞いて————」
自然と言葉が出る。
自然と皆が注目する。
「私はランクを鼻にかけた女で、チームメイトの気持ちなんて考えていなくて————」
かつての過ち。
かつての私自身。
自分勝手にふるまっていた中心的感情。
「でもあの時、彼と戦って分かった。私は彼に一生勝てないって————」
突き付けられた才能の隔たり。
周りより少しランクが高いからって、調子に乗っていた。
上には上がいるのだ。
でも、自分だけでは勝てなくても。
「私だけじゃ勝てない。きっとみんなだって個々じゃ勝てない。でも、私たち皆の力を合わせれば————」
小隊制の意味。
それは自分たちよりも強い敵と出会ったとき、ひとりでは対処できない敵と出会ったとき、打開するために創られものだ。
彼らは魔物じゃない。
でもその実力は魔物級、それもかなり最上級の————
「皆の力を合わせれば、勝てる!」
私は彼らに宣言した。
そして仲間にも宣言した。
今なら少しわかる、小隊制の意味。
そして仲間の感情が。
「あ、いや、でも勝てるっていうのは、勝てるかもしれなという可能性の話であって、少なくとも私だけで————」
言い過ぎた。
また調子に乗りすぎてしまう。
少なくとも現実は見えている。
自分の発言があまりに夢見すぎだと自覚するのだが————
「ホント変わったっすね」
「そうだね。前なんて『私だけで勝ってみせる!』なんて言ってたのに」
「……ルチアさんも、……進歩してるんですね」
「ふふ。俺たちもルチアみたいにバカ正直にいかなくてはな」
「な、なによ! せっかく良いこといったのに!」
返ってきたのは侮蔑や諦めじゃない。
すこしバカにしてるなーって感じもするけど、それは一旦置いておく。
「皆も覚えてるでしょあの時の模擬戦を。悔しかったわ」
無言の頷き。
全員感じているあの時の悔しさを。
だからこそリベンジング。
「このままじゃ終われない。あの時とは違うってこと、見せてやろうじゃない」
そう、ずっと止まってはいられないんだ。
「まずは準決勝、相手はなかなかの手練れ、でも、彼らに比べたらアリんこレベルよ!」
「っは」
「言うねー」
「……センスあります」
「その通りだな」
微笑みが生まれる。
三日月の口元が今度は戦う意思へと。
時刻は7時を回る。
日暮れが遅いイタリアの空にも、少しずつ星が見え始める。
呼ばれる。
時間だ。
「この準決勝、絶対に勝つ————」
上に上がる。
モヒートみたいに発熱。
目標は見えている。
「————決勝で怪物退治をするのは、私たちよ!」