31
試合は特に弊害に出会うことなく消化していく。
3回戦、4回戦、5回戦。
何百といた小隊も気づけば一桁。
もちろん俺たちは勝ち進んだ。
それも今のところエイラのワンマン。
それだけでこの準決勝まで登って来た。
「ようやく準決勝か」
「流石に疲れてきたか?」
「まさか。むしろユウは退屈で仕方なのだろう?」
「正直な。でも今回は会長が相手、流石にもう能力を使っていいだろう」
日が暮れ始める。
流石に試合数も多い、時間がかかるのは当然。
星が出るとまではいかないが、既に会場には大きな照明が灯火される。
光に反射する舞台。
人々は家に帰ることもなくまだかまだかと待っているのだろう。
(俺が客だったらとっとと帰って、家のテレビで観るけどな————)
そういう人が少ないということ、これが選抜戦の人気。
それに加わって俺たちみたいなイレギュラーもいるからな。
生で観たいという気持ちが強いのかもしれない。
「さあ戦いに赴こうか!」
「おう、ようやく戦える————」
会長の試合は何度か観た。
そのスタイルは王道の一言。
前衛2枚、中衛2枚、後衛1枚。
これと言って尖がってる部分はないが、熟練の連携、まさしく正統派。
ひとりひとりがチームを作り、支え合っていた、このイタリア予選じゃ確かに超上位層。
優勝を狙える実力は確かにあるが————
(今年は俺たちがいる、会長には悪いが本選へ行くのは諦めてもらおう)
太陽に代わった光が照らす。
道を示した先が本舞台。
今日何度も通ったゲートを潜る。
莫大な音量が俺たちを迎える。
『フォード小隊の登場です!』
これも何度も聞いた。
相変わらず熱の入った実況。
それに応える席を埋め尽くした人の群。
『来たぞ!』
側近からはデカいカメラ回すメディアの声が。
閃光するフラッシュ。
会長も撮ってやれと言いたいぐらいの偏り具合。
注目は一点集中。
「はあ……自分が世界中に中継されてるって考えるとな……」
「なんだカメラを気にしているのか?」
「そりゃテレビに出たことなんてないしな」
「意外だ。ユウがそんなことを気にするとは」
「まあな……」
エイラは今まで良い意味でもい意味でも世界中に知られている。
今更どうこうなど思うことなどないのだろう。
(これが日本でも放送されるんだよな————)
自分がかつて居た場所で、自分が走り廻る。
なにより幼馴染たちに見られると考えると、今更ながら少し気恥しい。
『そして対戦するのは昨年の予選覇者! 皆さんご存知会長率いる、ラングバート小隊です!』
敵が出てくる。
勝利の旗を担ぐ男カルロ・ラングバード。
そして旗を信じる仲間たち。
AA級以上で編成され、平均値はAAAマイナスってとこだろうか。
「久しぶりだなフォード!」
良く通った声。
なんだかんだ同じ目線で立つのは初めて。
鍛え抜かれた身体。
そのガッシリした肩には、イタリア国旗の描かれた大旗が担がれている。
「久方ぶりだ会長!」
エイラもデカい声。
こんな距離は慣れててもよく通る。
「隣にいるのが相棒だったか!?」
「ユウだ!」
まったく元気がいいことで。
会長もやっぱ見た目通りの気合。
日本で言うところの超体育系。
『では、整列してください!』
おしゃべりを遮る。
横一列。
目を見据え対峙する対岸。
体感する久しい緊張感。
「やばい、すげーテンション上がってきた」
「そうだろう。会長はそこそこ強いぞ」
「仲間も雑魚じゃあないな」
「うむ。これでようやく二人で戦えるぞ————」
ワンマンプレーからツーマンへ。
やっぱり世界を経験しているだけあって一筋縄で勝てる相手ではなさそうだ。
上がってくモチベーション。
脳を起こすイノベーション。
湧き上がるイマジネーション。
「あの様子じゃ初手のスピード突っ込みは対策済みだな」
「そうだろう。私の勘もそう言っている」
「罠は確定、でも————」
「あえてその罠に乗るのも一興だな」
あくまで即時判断。
考えなし。
練った作戦はない。
きっと会長は個の差を練りに練った戦略で埋めてくる。
なら埋めたとしてももっと深く。
それこそ地球が割れるくらいの深層。
心臓が破裂するくらいの脳回転が何とかしてくれる。
『では、カウントダウンスタートです!』
これも今日何度も体感した。
でも、若干遅く感じる。
それは期待故。
自分のクラウチングに対するビリビリとした緊張から。
「「「「3」」」」
観客とアナウンスが混ざる。
みんな待ち望んでる。
いや一番に待ち望んでいるのは俺たち。
全てを見せるわけじゃないが、本領発揮。
「「「「2」」」」
俺たちは二人。
たとへ真を披露しなくとも、戦えば心は通づる。
氷が溶け行く。
中から現れる沸騰寸前の本能。
「「「「1」」」」
水蒸気みたいに昇ってく。
あとコンマ数秒で始まる。
視線を斜め横に。
金と銀、 目が合う。
エイラは確かにそこにいる。
「「「「0!」」」」
『試合開始です!!』
「強化!」
「大気同調!」
呼吸する間もない即時展開。
かくして戦いの狼煙は打ち上がった。
そして打ち合がったというなら俺たち。
弾道ミサイル。
稲妻のように曲折し屈折。
人を超えた神速が大地を駆ける。
「初っ端来るぞ!」
相変わらずの会長のダミ声。
やはり罠、前中後にムービング。
俺たちの行先には炎が上がる。
「俺の旗は人を導く!」
緑白赤。
描かれたイタリアの国柄が味方を包む。
勢いあまり天上まで届く炎。
炎を生み出す男。
側面では二振りの剣を持つ女が。
(あと0.3秒で炎に直撃、その後は剣のお出迎え————)
「能力同調!」
慣性の法則に従い流れていく身体。
先行するエイラの前に一瞬出る俺。
鼻の先にまで迫った炎が輝く青色に染まる。
「消えろ!」
弾ける。
シャボン玉のようにパシンと炎は空へと去っていく。
「————は!」
その刹那な隙に縫ってくる西洋剣。
反対ではアックス使いも現れる。
旗も色彩も放ち、加速をした剣は見事に俺の首元に触れ————
「とう!」
大きな金属衝撃音。
勢いあまって砂塵が飛ぶ。
最初から首は心配していなかった。
きっとエイラが弾いてくれるという無根拠な信頼。
そしてそれは予想通りこの世界に実証された。
「っく」
「ユウの首はやらん!」
聖剣の威力で女が一歩下がる。
その一歩は俺たちを一層加速の時を与える。
狙うは旗元ただ一人。
それを阻むアックス・ファイヤ。
「大地同調————」
足元盛り上がる大地の片。
地震のような衝撃。
それは人の形を創り出す。
レネとの一戦以来、無念の敗退となったゴーレム達の登場だ。
「なんだと……」
「炎が!」
焦がす灼熱。
切り裂く斧。
だが真髄に達することなく刃は止まる。
「旗は力を与える!」
それに打開するのは会長の三色旗。
食い込んだはずの勢力が斬って広がる。
崩れる木偶の坊。
後衛の会長への道を断つ3、4の砦。
「二重強化!」
「あなたは私が止めます!」
エイラと渡り合う二刀使い。
いや訂正、時間稼ぎにもとれる姿勢。
受けることなく、エイラの斬撃を流していく。
聖剣の空振りは風を生み、観客にまでその風圧が轟く。
力の暴君たるエイラ。
一撃一撃が足元沈むほどのハイ・インパクト。
しかし神速の足は人へと降りる。
「止まっちまったな」
初手で使った超スピード特攻。
その勢いはこの掛け合いで消滅した。
神速は出るが小回りを考え控えめに。
ここからはしっかり対峙。
(そう易々と大将までは行かせてくれないよな————)
上から降り注ぐ薄緑纏った光弾。
中衛であるメガネ男から。
しっかりと旗の色付けがされている。
どうしう仕組みか、味方に一点として向くことなく此方に必中。
エイラは硬化した肌で、俺は紙一重で避けていく。
「ぐう! しぶといぞ!」
エイラが進めない。
押して押して一瞬の多対一で押し戻される。
重なり合った能力は拮抗することなくとも、合わさって連携。
(ユウ! どうする!?)
(どうするっつってもな……)
ゴーレムを量産しながら数の利で押し切るにも、いかせん相性が悪い。
炎と斧にかかる旗。
まるで水と塩。
簡単に溶けて消えていく。
それにここの床は特殊素材、正直シンクロしずらい。
「はっはっは! どんどん振るぞ!」
後方で旗をぶん回す会長。
その声とはかけ離れた、深みのオーロラが宿っていく。
エイラの強化と似ている。
その能力は気合の移し。
会長の勝ちたいという気持ちが、ストレートに作用する能力。
それが着々と蓄積。
(攻めきれない、か……)
別に負けているわけじゃない。
攻め切れていないだけで、こっちのダメージは無し。
もちろん被弾なしは相手にも言えること。
エイラと戦っているヤツも数秒数秒で入れ替わるので、各自掠り傷程度ってとこか。
本選までは隠しとくつもりだった。
出せば良からぬ運命に巻き込まれそうで。
でもそんなことに飽きた。
それに俺のすぐ隣には、俺よかもっと強いヤツがいるのだから。
(エイラ、使うぞ)
(おお! そうだどんどん使えばいいのだ!)
(まあ十分目的は達成できたしな)
俺の能力はシンクロ。
それは看破されたもの。
まだある。
100%の隠蔽に越したことはないが、その数十パーセント。
エイラが聖剣ぶん回して天災扱い、この数多の世界繋がるカメラと人の目の前。
披露といく新たな天災の誕生。
俺のベールが今解き放たれる。
「エル・エル・エマ・アマスタリ!」
祝詞と共に足元に広がる黒銀の陣。
風が起こる。
疾風怒濤。
「バイース・バラウス・バリアーヌ! 嵐が轟く。嵐が轟く————」
舞い上がる。
人々が恐れた男の武具。
神を滅する、人類に反射するダークマター。
「顕現しろ!テンペスト!」
薙ぎ払う。
隙を見て飛んで来た光弾と炎は風に舞う。
黒銀の陣は弾け、目の前に進撃した一槍。
これが出立。
これが降臨。
『やっと戦況が動くのう————』
レネが脳内響く。
銀はまだ使わない。
隠し玉はとっとく、それに国連に気づかれるのももう少し後がいい。
「————とう!」
前に出ていたエイラ。
剣を弾き竜巻のように、俺の隣へ舞い戻る。
二人並ぶ。
盛り返った大地、焦げ付いた会場、聖剣で吹っ飛んだブロック。
息を呑む。
砂塵が漂う、剣槍一閃。
「おいおい、一体そりゃなんだ————」
会長の今回一小さい声。
黒銀が風を纏う。
聖剣が光を纏う。
「ようやく堂々と使えるな!」
「旅の最中はロシアにビクビクしてたからな……」
五人に対峙するった二人。
しかしその背中は語る。
鳴りやまなかった剣戟の代わり。
終わりと静寂を告げる魔槍の登場。
「さて改めて世界よ! 名乗っておこう!」
注目が一層増す。
分厚いレンズと人の眼が向く。
世界へ宣戦布告。
「私は『脳筋』エイラ・X・フォード!」
わざわざ脳筋までつけて。
黒歴史にでもする気か?
いやもはや暗黒歴史。
でも、 それに乗るバカが俺だ————
「俺はエイラの相棒、『変幻』ヨンミチ・ユウ」
俺の今日一。
戦いの手は止まっている。
それは驚愕でもあり、名乗りの時でもあるから。
空気を読んでじゃない。
空気を俺たちが飲み込んだから。
欧米アジア全部ひっくり返して、天下を取る。
生温い戦いに鉄槌を————
「私たちは強い」
「俺たちはバカ」
「「つまりは最強だ!」」
世界一バカな宣告。
そして挑戦状。
これを見たすべての力もつ者たちを。
「さあ、捻じ伏せようか————」
見せつける。
圧倒的。
二人してレジェンドへ。
パワーオブトップ。
楔が一つ飛ぶ。
いよいよ星が出てきた時。
世界の目前にて、力の蹂躙が始まろうとしていた。