30.5 with Phantom Dark
真白な群衆。
目の前には人を照らす二人組。
確信パーセンテージ。
彼らは人の希望となる存在。
彼らは我らの障害となる存在。
「————やはりどの時代にもいるのだな」
試合終了の知らせ。
観衆に混ざる漆黒の幻影。
湧き上がる空気と反発。
一点して何処までもブレないクールシンク。
漂う熱気に浮き上がるダークスーツ。
場違い。
しかし数多の観衆は『私』に気づくことはない。
人の眼にはそもそも映っていないのだ。
「聖剣使いと魔槍の担い手とは面白い組み合わせだ」
誰に聞こえることも無く消えゆく言葉。
冷静に取り込んでいく彼らの情報。
「たった二人で吸血王を破った者、半信半疑で来たが————」
はるか遠く、地球の片隅で蠢く封じられた闇の住人。
糸口見つける我らが感じた強者の誕生。
それは不倶戴天の天敵。
「男の方は動かずか。この勝負でも真の技量を見破ることは叶わなそうだ」
やはり彼らは別格なのであろう。
聖剣の前に為すすべなく一瞬で崩壊する。
「聖剣の威力も未だ底が見えない。槍も気になるが、あの銀の眼……」
剣も槍も本領を発揮しない中、目に留まるのは黒に映える銀の双眸だ。
単なる遺伝子による変色か。
はたまたナニカが住み着いているのか。
感じる隠しきれない莫大な神力。
「おそらく後者。神か天使か、時が経ってもまだ人間に手を貸すか————」
力の真相は見えないのが、確かなのは人間はこの世界で弱者だということ。
だが時折現れる、天賦の才を持ち、 天上にまで届きうる業を極めし者。
数えられるくらいの極少数。
しかし、それに人々が乗ったとき、それはあの時と同じ、絶大な群の力を生み出す。
人間は弱者だが、意志は潰えぬ。
この身をもっても理解しえない、無謀なまでの闘志。
「新たな芽は摘んでおかねばならない————」
おそらく未だ発展途上。
完成体となる前に、 手に負える内に潰す。
会場から消えゆく我らの敵。
機会を覗う。
人に紛れた刺客。
「ここで仕留めよう。この蛇蝎の魔王ボルアスが————」
声は誰に聞こえるでもなく消えていく。
気付かれることも無い。
光が新たに生まれる表舞台。
そして光があれば影があるのも道理。
気にすることのない舞台裏。
その一番深いところ。
闇の影もまた、静かに動き出していた。