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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 1 -ITALIANs Break Heat《イタリアからの新風》-
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3

 まずい。

 この展開は非常にまずい。


 「私は名乗った。次は君の番だ」

 

 俺の目の前にいるのは、聖剣使いエイラ・X・フォード。

 崖っぷちとはまさに今この時。

 俺はここに不法侵入した身、そして相手はヴァチカンに属する騎士。

 この関係から導かれる答え。

 

 すなわち俺の有罪、ギルティだ。

 ここは嘘ぶることなく真面目に答えた方がいいだろう。

 

 「俺は、四道 夕」

 「ヨンミチ・ユウ、日本人か?」

 「ああ。海外だから正確にはユウ・ヨンミチかな」

 「ふむ。ではユウと呼ぼうか」


 会話は順調に進んでる気がする。

 というか考えてみれば、俺がここに来た原因はイタリアに早く来すぎて暇だったから。

 そして早く来すぎた原因は黒服さんの不手際。

 別にビクビクすることはない。

 悪いのは俺じゃあない。

 堂々と言えばいいんだ。


 「一応聞こう、ユウはなぜここに来た?」

 「……実は日本政府のめいれ——」


 俺の弁解が始まろうとした。

 そして始まった瞬間だ。

 突然、彼女は消えた。

 

 一瞬だ、一瞬にして姿が消えた。

 何処に?

 神隠しか? はたまた幻術だったか?

 いや違う。 

 消える前、空気が揺れた。 

 今瞬間的に、目の前で、高速化での移動が行われたんだ。

 ただなぜそんなことをする?


 空気が一気に冷たくなるのが分かる。

 気温とか、体感温度って意味じゃない。

 あの時と似た、マジな殺し合いの空気。


 気配を感覚で感じなければ、死ぬ。



 ————彼女は、上!


 「イエスよ。彼に死の祝福を」


 祈りを唱えながら彼女は頭上に現れた。

 手には抜き身となった聖剣が握られ、このままだったら即死コース一直線だろう。

 

 (こんなところで、しかも不法侵入が死んだ理由なんてごめんだ……!)


 「シンクロ!」

 「む!?」


 言葉と共にペテロ像への道が青白く輝く。

 俺の足元を中心に、半径2メートル、円を描くように地面が動きだす。

 正確には飛び出すといった具合か。

 突如として地は形を変え、俺を覆うようにドーム型の壁をなす。

 彼女の聖剣は壁を粉砕するが、距離を取るだけの時間は稼げた。


 ただとんでもない威力。

 厚さ1メートルぐらいで造ったはずが、 紙を破るみたいに易々と突破された。

 この怪力、モノホンの怪物モンスター級。


 「土、いや地を操る能力か」

 「急にあぶねーよ! しかも理由ぜんぜん喋れてないんだけど!」

 「理由? ああなぜ不法にここを訪れたのかだったな」

 「いや忘れてんなよ!」

 「先ほど喋ったではないか?」


 はい?

 喋ったって、喋る前に斬りかかってきたじゃねーか。

 

 「『実は日本政府のめいれ』とな」

 「全然途中だよ! 言い始めだよ!」

 「一言で満足だろう」

 「……おいおい」

 「さして理由など問題ではないんだよユウ。問題は聖域を侵したこと」




 「そしてなにより、私自身考えるのがめんどくさいからだ」




 「――ホントにあんた、頭の中まで筋肉みたいだな」

 「それは誉め言葉と受け取っておこう」

 「……誉めてねーよ」

 「私のことはエイラで構わない」

 「殺しにくるのに親しく呼べってかよ」

 「いくぞ。 そろそろ腹が減って来た」

 「……俺の話ガン無視だな」

 

 だけど世間話はここまで。

 エイラは本気モードらしい。

 ふざけた会話を交わしてるが殺気がビリビリ伝わってくる


 (そもそも何でエイラはこんな時間に聖堂にいるんだ?)


 よくよく考えればそこから謎だが、その疑問は後で考えよう。

 まずは、生き残る。

 

 「強化ミラータ


 エイラは一言呟く。

 それだけで彼女はより強くなる。

 

 彼女の試合は世界ネットで公開されている。

 ビッグネームだけあって、彼女の能力、俺もさわり程度に知っているさ。

 

 『強化』の能力。

 筋力、スタミナ、神経節、感情に至るまで、自分の体に至ってはほぼすべて強化できるらしい。

 聖剣の能力は正直知らない。

 ただここまでネタバレされても彼女が勝てる理由は簡単だ。

 

 シンプル・イズ・ベスト。


 「――ふん!」

 

 大振りで繰り出される剣。 

 だが素人の大振りとはわけが違う。

 とにかく速く。そして威力がえげつない。

 彼女の剣をなんとか避けるが、避けた場所はというと。


 「粉々か……」

 

 人間戦車、もしくはゴジラが擬人化したらきっとエイラみたいになるな。

 

 「50%でもギリギリか……」

 「先ほどから逃げてばかり、それでは勝てんぞ」

 「あんたが強すぎるんだ」

 

 余裕があるもんなら『君の揺れる金髪はキレイだね』なんてクサいセリフ吐いてやりたいとこだ。

 まだ始まって数分。

 気温は暖かくなってきたが、ここの空気は冷めたままだ。


 「ユウの能力はなんだ? てっきり操作の類かと思ったんだが」

 「教える馬鹿が何処にいるんだよ」

 「それもそうだな」


 

 エイラは操作の類と言ったがあながち間違いじゃない。

 俺の能力は『シンクロ』

 簡単に言えば、何かと同調できる。

 武器、建物、植物、意志を有する動物以外でならほぼ同調可能で、その対象物を操作、及び潜在能力、 蓄えられた経験を最大限使うことができる。

 今回の同調対象はサン=ピエトロ大聖堂、メインとなるは地下で眠る聖人ペテロ。

 死人は感情を持たない故に、このシンクロは可能となる。

 

 また俺たちが能力を得られたのは100年前、ただ異能の力は太古から存在した。

 歴史に名を遺した偉人たちは何かしらの力を持っていたとされている。

 

 キリスト教の聖人ともなれば必然。

 そして彼との同調から得られる恩恵は―——


 「……聖ペテロは生前『捻じ曲げる』能力を持っていたそうだ」

 「何を言っている?」

 「物理的、能力的なことはもちろん。場合によって運命すら捻じ曲げたらしい」

 「ユウは……」

 「あんたの剣は、聖ペテロを越えられるかな」

 「ふふ。おもしろい——」


 

 再び戦いの楔は斬って落とされる。

 幾分、幾数、幾回数。

 烈火の如く。

 打開し、仕返し、破壊し。

 聖堂は耐えうることなく崩れていく。


 「強化ミラータ!」

 「適して曲がれ《クアトロ》」

 

 空間を捻じ曲げ剣の軌道を変える。

 ほんと地下に伝説級の遺体があって助かった。

 でなければ渡り合うことなくとうに死んでいる。

 

 どれほど時間が経ったんだか。

 聖堂は崩れ、戦いの場は広場へと移っていた。

 敷地内だけあってペテロとの同調も途切れてはいない。


 「……まさかこんなに長引くとは」

 「聖剣使う腕、イマイチなんじゃあないか?」


 軽口をたたいているが消耗が激しい。

 シンクロも限界が近い。

 持ってあと1分といったところか。


 「ユウはもう限界だろう。私は気合、根性まで強化している。あきらめた方がいいぞ」

 「うっさいわ! 頭ヘッポコ脳筋!」

 「同世代にそこまで言われたのは初めてだよ……」


 ただ奴の言う通りこうして喋っている間にもタイムリミットが迫る。


 (一撃で決めるしかない。ただペテロは今の状況に向かない。となればあれしか……)


 「さあこれで決着だ。私の本気をぶつけよう」

 「……まだ上があるのかよ」

 「もし耐えうるのなら、そうだな、『相棒』にでもしてやろう」

 「っうげ、アンタの相棒なんて金貰ってもヤダね」

 「まあ、死ななかったらの話だがな」

 

 エイラが聖剣を真っすぐに構える。

 あの性格上、生半可な攻撃でないのはわかる。

 となれば必然的に思いつくのは、いままで使っていない『聖剣の能力』

 

 威力は絶大、回避は不可能、なら、正面から受けるのみ。 

 そして打ち破るのはこちらも相応の力が必要。


 「――エル・エル・エマ・アマスタリ」

 「……ここで詠唱だと?」


 エイラは詠唱だと思ってるようだが間違いだ。

 これは根本的に異なる意味合い持つ。

 

 「――バイース・バラウス・バリアーヌ。 嵐が轟く。嵐が轟く」

 「……違う、これは詠唱ではなく降臨の祝詞、しかも天穿つ魔の類か!」 

 「さあ出番だ! テンペスト!」

 

 俺の目の前に現れたのは黒銀の槍。

 装飾はない。

 ただ真っすぐ。

 何かを穿つためだけに造られた槍。


 数週間前、イタリアの島をある槍が破壊した。

 槍の名は『テンペスト』

 万物を貫く魔槍にして、羅刹王バルハラが携えし神滅武装。

 

 「……なるほどコルス島を破壊したのはユウだったか」

 「あのときは成り行きだ」

 「では私の聖剣と力比べといこう」

 「……上等」


 もう言葉は語らない。

 長かった戦いが終わる。

 この一撃で――――



 

 「――――聖剣カリヴァーン

 「――――嵐のテンペスト


 

 太陽がローマを照らし、朝を知らせる鳥が鳴くとき。

 

 2つの伝説が、今初めて激突した。

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