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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 3 -START AND START 《二色と闇影》-
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29

 「————ってかんじだ」


 人工照明白色灯。

 投下される山盛りのイタリアン。

 それを続々たいらげる相棒のエイラ。

 ガツガツ音を横で立てる中で、 俺はようやく再会したトニー達に旅のことを話していた。


 「それじゃあよ! もう吸血王はいないってことだよな!?」

 「声が大きいぞ……」

 「す、すまん」

 「でも信じられないっすよ。ホントに成功するなんて—————」


 数多要る魔王の一角。

 魔王ピラミッドじゃせいぜいミドル級。

 しかし達成した下剋上。

 僅かな天下統一。

 乱れた感情線の同一。


 「そのお偉いさんたちの話じゃ、公表するのは予選後ってことなんすね」

 「そういうこと。 お前たちだから話したんだ。他言無用で頼むぞ」 

 「うっす!」 

 「まかせろ!」

 「トニーの返事だけはなんか心配なんだよな……」

 「いやいや信用しろって!」


 打ち明け。

 秘密の開示。

 仲間の印字。

 

 (奢った飯と合わせて、心配かけた分の埋め合わせぐらいにはなったかな————)


 「宣伝含めてってことは、国連の人たちはユウっちの予選通過は確定だと思ってるんすかね」

 「そりゃそうだろ。さっきの試合見せられたらそう思うのが妥当だな」

 「そんなにさっきの試合ヤバかったか?」

 「「激ヤバ」」


 トニーとザックの重なり。

 間違えない事実の証明。

 

 「とりあえずフォード先輩の聖剣の火力がえげつない!」

 「む? 呼んだか?」

 「いや何でもないです!」

 

 こんな話をしてるが隣では爆食ナウの金髪美少女。

 正体はトニーがビビってるエイラなんだが。


 「別にそんな萎縮しなくてもエイラは嚙みつかないぞ」

 「そう言ってもやっぱ緊張するんだよな……」

 

 まあ比較的常識人にはコイツの力は魔物より恐ろしく見えることだろう。

 それに魔王討伐を成し得たとしたら、その対象畏怖はより増す。

 何時かは素のエイラが表舞台に出ることもあるだろう。

 そうなればきっとその虚像は溶けてくはず。


 「しっかし、俺はまだ能力すら使ってなかったんだけどな」

 「そっすよ! せっかくユウっちの能力が見れると思ったのに!」

 「ザックは自分自身で一度体験しただろ?」

 「それでも外から見るとじゃやっぱ、見えるものが違うっすから」


 ザックの能力は後方支援系。

 見方をサポート、相手をサーチ。

 後衛にとって敵戦力の分析は必須。

 それを考えたらザックの嘆きも妥当と言える。


 「いいよなー。俺なんて一回戦負けだぜ?」

 

 ザックと俺の会話にまたも嘆きひとつ。

 聞く話によるとトニーの初戦の相手は強豪だったらしく、無残の敗退となったらしい。

 

 「まあトニーは相手が悪かったっすね」

 「そんなに強い相手だったのか?」

 「そこそこっす。ブロックは違うっすけど、まあユウっちたちなら楽勝な相手っすよ」 

 「いやいやそんなこと言ったらどこの小隊も、ユウたちにとっちゃ楽勝だろ?」

 「まあ確かにそっすけど……」


 今のイタリア新世代は世界的に見ても比較的高水準だ。

 生徒全員のパラメーターが高く、バランス型の生徒が多いという。

 しかし逆に言えば突出した能力者がいないという反面もある。

 前しか見ない超攻撃型、決して崩れぬ守りを持つ者、速さの頂を目指すハイスピード流。

 大体強い奴ってのは、エイラみたいな一癖も二癖もある連中。

 この学園はこう言っちゃなんだが『優等生』ってイメージ。


 (まあ小隊制より先、大規模編成になったときはイタリアみたいな国の方がいいんだろうけど————)


 「あと気になるのは会長の小隊かな」

 「カルロ先輩か」

 「あそこは全員が去年本選を経験してるっすからね。初戦も圧勝してたっす」

 「そん時はさすがに本腰入れないとマズイ気がする」


 別に試合をなめてるわけじゃない。

 相手だってなめちゃいない。

 しかし出来るだけ能力は温存したい。

 なんせ俺とエイラしかいないオンリー2。

 張り切って力を見せまくれば、ボディーブローみたいに後々効いてくる。


 (予選後は魔王討伐の事もバレる。となれば俺たちを研究してくるのは当然、むしろ必然ともいえる)


 だからこそ力は極力見せたくない。

 最低限で予選は通過し、そして本選で溜めに溜めた『本気』をぶちまける。

 圧倒的力による制圧征服。

 

 「なんか良からぬこと考えてないか?」

 「?」

 「口元が悪い感じでにやついてるぜ」

 「まじか……」

 「いよいよユウっちもフォード先輩みたいになってきたっすね」 

 「俺もガチ脳筋に近づいてきたか……」


 得意としてた心の隠蔽。

 穴が開いた袋のように少しずつ漏れ出す。

 緩くなってきたブレーキペダル。

 回りすぎのケイデンス。

 

 (これじゃあ悟られる。エイラがダダ漏れなんだし、試合以外は俺ぐらいはせめて抑えないとな)


 俺はこのコンビにある唯一の知能。

 近頃じゃ脳筋洗脳で絞りカスみたいになって来た。

 でもお飾りにするつもりはない。

 クールなハート。

 理性はトリガーだ。


 「————ザック! こんなところにいたの!?」

 

 ガツガツ音じゃない、どこかで聞いたことのある声。

 紅の髪を揺らし、ズカズカ、それでいて優雅。

 覚えがある。

 俺が転校初日で模擬戦をした、ザックのチームリーダー。


 「ルチア・バレンデッリ、さん……」

 「ユウ・ヨンミチ……!」


 向こうはザックを呼びに来たらしいが俺に気づかなかったようだ。

 隣席には、俺を俺たらしめる分かりやすい相棒がいるってのに。

 ちょっと気になって名前は覚えていた。


 (自己紹介と模擬戦のインパクトは忘れらんない)


 「……久しぶりね」

 「……ああ」


 重い。

 果てしなく空気が重い。


 (トニー何とかしろ!)

 (お、俺か?)

 (気まずすぎて話が続かないんだ)

 (……まあとりあえずなんか振ってみるわ)


 「よおルチア今日の試合はなかなか良か————」

 「うるさい黙ってトニー・モーガス」

 「なんで俺だけこんな扱いを……」

 

 トニー撃沈。

 やはりお前はそういう男。

 話途中打ち切り。

 

 「さっきの試合、すごかったわ」

 「活躍したのは横にいるコイツだ」

 「確かにそう。でも最初だけは貴方も能力を発動したわ。フォード先輩にも張り合う気を感じた」

 「…………」

 「あなたに負けた2か月前、あなたに力が無いと言われたあの日、とても悔しかったわ」


 俺は確かに言った。

 勝てないのは『力』がないからと。

 またそれは努力で越えられぬ絶対の格差であるとも。

 格差の間隔。

 錯覚する感覚。

 光る眼の底。

 

 「あれから死ぬ気で研鑽を積んだ————」

 

 紅の髪は、鮮血の努力血。

 確かに空気は変わった。

 先陣で戦うまごうことないプロの気概。

 よくある咬ませ犬の臭いはしない。


 「幸運なことに私たちは同じブロック、この予選、今度こそあなたに勝ってみせるわ!」

 

 真っ赤な挑戦状。

 リベンジする気持ちが伝わる。

 

 「————それはちょっと違うぞ」

 

 (やっぱり合わせてくると思った。俺も同じこと感じてるからな)


 食事の手はいつの間にか止まってる。

 意識の外から突っ込んでくるジェットスター。

 

 「お前が挑むのはユウではない」



 「————私たちだ」

 


 「……っ!」

 

 ギラリと鋭く。

 無意識、本能の一歩後退

 心臓握り潰さるぐらいのヘヴィーブロウ。

 しかしてザッツライト。

 その通り。

 二人で一人。

 唯我独尊と唯一無二。

 

 「まあ私は誰であろうと倒すがな! そしてパスタおかわりだ!」

 「最後のセリフが無かったらカッコよかったんだけどな……」

 「やはりここの飯が一番だ!」

 「って、全然聞いてないし……」


 真剣になったりバカになったり。

 日本でもそういう芸人いたぞ、3の倍数で変化する奴。

 でもエイラのたった一言、それは大分応えたるんだが—————


 「なら私は、あなたも倒します!」

 「ちょ! ルチアっち!」

 「はっはっは。それは楽しみだ!」

 「ユウ・ヨンミチ—————」


 向き直す姿勢。

 いや範囲を拡張した視線か。

 

 「順当にいったとしても当たるのは決勝。必ず行くわ。待っていて頂戴」


 (待っていて、か……)


 「じゃあ俺も行くっす! あと時間ギリギリは危ないっすよ」

 「今度は余裕持って行くよ」

 「うっす!」


 去っていくルチアとザック。

 その背中には強者特有のオーラ。

 上昇する薄紅色。


 「どうやらカルロ以外でも楽しめる相手がいたようだ」

 「ああ。それと待っててくれだってよ」

 「待つも待たないのないだろう。私たちは前進するのみだ」

 「そうだな」


 新参参上。

 これが現実。

 チャレンジャーからそれこそ挑まれる者へ。

 躓くわけにはいかない。

 俺たちは、最強を目指す。

 二人で最強を名乗るために。 

 気温が着々と上昇してく。

 イタリア予選二回戦、午後の戦いが始まった。







 「————なんか俺だけ仲間はずれ感ない?」

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