28.5 with World Conference
「————ではどのような動機で?」
「より強くなるためだ!」
「吸血王ヴァンダルの討伐を出発前日に決めたのは何故だ?」
「思い付きだ!」
「ちなみに目的地までの生活は、気温、食料、魔物、どのように送っていたのです?」
「気合いだ!」
ロシアの首都。
俺たちは国連のモスクワ支部にて今回の魔王戦についての事情徴収をされていた。
議段にはテレビで見たことあるような各国の重役たち。
ズラリと並ぶ。
様々な質問と疑問。
始まりから終わりまで細かく聞かれる。
といっても普通は少し考えてから答えるんだが、エイラが即答するもんでテンポよすぎるくらいに進む。
(返すのが早すぎて逆に適当って勘違いされそうだけどな……)
俺が答える前にエイラの閃き。
本能の方が断然早い。
だけどそろそろ俺に振られ始めるタイミングか。
「……ではフォード殿の回答は一旦終わりとしまして。今度はユウ・ヨンミチ君に聞こう」
「はい」
「羅刹王バルハラの一件、神滅の槍の規格操作はどうだ?」
「馴れてきた感じです。実践でも十分力を発揮しています」
「だろうな。映像を見た時は羅刹王の再臨かと驚いてしまった」
知ってるんだったら聞くなっての。
まあ主観じゃない、担い手本人の感想を聞きたかったんだと解釈しておこう。
「それから君の瞳の色のことなのだが————」
「ああコレですか……」
次の話題は俺の銀眼へ。
本腰を入れる。
(この話、まあ振ってくるよなそりゃ)
確かにエイラと旅に出るまでは真っ黒だった。
以前の証明写真はしっかり残ってる。
これほどわかりやすい変化もないだろう。
「以前は黒色だったが、その変色は能力の産物なのか?」
「うーんと……」
どうするか。
しかしこの質問、もしかしてこの銀眼の理由に気づいていない?
神との契約、それも相手は闘神エレネーガというビックネーム。
衛星で確認できているなら、まず最初に飛んでくるはずの質問だ。
むしろ気付いているなら拘束も無く、重役たちの前でこんな無拘束自由を与えられるわけがない。
『こやつらは我の存在に気付いておらぬぞ』
(どういうことだ?)
『おぬしらと刃を交えた時、気配遮断のため薄く銀世界を展開しておいたのじゃ』
(またなんでそんなことを……)
『我も力は失ったが、これでも名の通った戦神、雑魚のくせに寄ってくる輩が多いものでな』
(つまりは面倒ごとに巻き込まれたくなかったと、あんな力振るっててよく言うな)
どうやら銀世界の影響で衛星には確認されていない。
「吸血王との一戦時、君が使った『銀色』の能力、これを知りたい」
「はあ……」
「————アレは『我々』のもではあるまい?」
おいおい。
気付かれてんじゃないの?
コイツら堅物に見えてなかなか確信迫ってきてるな。
「バルハラの槍の能力ではないはずだ。そして君の能力でもない」
「…………」
「魔法が銀に変えられる瞬間を見て、シスター・マクイエスがとても驚いていたのだ」
「クリーナ様か!?」
ローマの修道女クリーナ・マクイエス。
エイラには馴染み深い人物。
そして大戦を終わらせた10人の英雄の一人、年老いてもなお生きる伝説。
その人がヤバいっていうんだったら、それは相当ヤバいこと。
疑問視するの無理はない。
「我が国の巫女姫も同じようなことを言っていましたよ」
間に挟む。
俺の祖国。
黒髪にきっちり眼鏡。
日本の住人ってこともあるのか、周りよかすこし尖りの取れた口調。
「貴方を『視る』ことは叶わなかったそうです。巫女姫でも持ち得ない、まるで神様が憑いてるのかと疑うくらい莫大な神力によって————」
さっきのシスターともかく、巫女姫のことぐらいなら流石に知ってる。
その年齢は俺とおない年ながら、歴代きって、あの英雄たちを超えるほどの神力をもって生まれた人間。
今も続く巫女の家系で、透視や念力、神降ろしをする。
そして人の中では限りなく神に近しい存在ともいえる。
「…………」
視線の集中。
別に咎められてるわけじゃないが、心臓が詰まりそう。
問い詰めらえているってのは確か。
(どうすのコレ……)
『我の事を喋ったら死刑じゃ』
(ええー!!)
『どうせロクでもない目に合おう、むしろ大声で秘密だと言ってしまえ』
(そうは言うがなー……)
『我とこやつら、どちらが怖いかのう』
(レネだな————)
「この銀眼は仰る通り僕の力ではありません」
「なら————」
「しかし、お答えすることは叶いません」
(これぐらいのネタバレは許してくれ)
「咎める気はない。正直に話してくれると有難いんだが。しかしまったくの黙秘となると————」
後ろでガチャガチャと。
聞こえる剣が少し壁に擦れる音。
間違いない。
わかっちゃいたが扉の外では各国の精鋭どもがうじゃうじゃ待ってる。
それにこの会議室にも潜んでいる。
(いよいよ怖くなってきたな、でもまあレネより怖いものはない)
「それでも、話すことはできません」
「動かず、か」
「ええ。ですがもし武力を持ってしても、どうしても吐かせたいというのなら————」
確定死よりも可能性の死。
エイラは話についてなくて惚けていたが、スイッチオン。
さっすが相棒、わかってる。
戦い開始の臭いを瞬時にキャッチしてる。
臨界態勢。
「————持ちうる限りの力で、 ここにいる奴らをぶっ倒します」
宣言ではない。
これは警告だ。
「どうなるかわかって言っているの————」
「笑止!」
お決まりの台詞に重ねるバカの一声。
言われた議会連中もキョトンとする。
「私たちは強い! それこそ英雄を連れてこなければ勝てないぞ!」
(……はあ、言い過ぎだって。まあそれくらいド派手な方が効くかもな)
でもそしたらレネよりも英雄十人の方が死亡率高くなっちゃうような
誰かに追われる逃亡生活なんてしたくないぞ。
「エイラの言う通りです。 なんなら『隠れてる』人たちも含め、 今すぐ殺すことが可能です」
揺れる大気。
すこし呼吸の荒くなった音。
隠者が学生如きにビビっちゃ形無し。
外にいる連中も同じような反応してる。
エイラと俺の見つめる視線。
「…………」
「…………」
黙った。
その間に走るバチバチの電流。
泥塗れの政治を潜り抜けている猛者相手。
銀眼はそらさない。
真っすぐ見つめる。
「はあ…… 根負けですかな」
「ええ、どうやら口を割ることはなさそうだ」
「まったく大胆なことを言うものです」
口を開く政治家たち。
中には将校もいるようだが、俺たちの勢いが勝ったようだ。
(ロシアのSS級、氷の王がいたらこんなナメた態度取とれないけど、ほんといなくてラッキーだったわ)
「————だがこれだけは聞いておく。 我々に害が向くことはないのだな?」
「————もちろんです」
クールダウン。
熱を帯びた声量が霧散。
「私は戦ってもよかったんだがな」
「物騒なこと言うなよ」
「喋ってばかり、これでは予選まで身体が鈍ってしまうからな」
確かに鈍るな。
あれ、しまった肝心の事言うの忘れてた。
「すいません。黙秘した後で言うのもなんですけど、イタリア予選までには俺たち解放されるんですか?」
しまったすっかり。
エイラの言葉で思い出す。
そうだこんなところで駄弁って喧嘩売ってる場合でなかったと。
「それは心配いらない。我々国連としても、君たちは是非にでも試合に出てもらいたいからね」
「そ、そうですか」
「良かったユウ!」
一安心。
どうやら予選には出れそうだ。
「それに国際大会レベルなれば、君たちの実力がまじかで見れるだろう」
「ごもっとも! なんせふたりで魔王を倒したのですからな!」
「そして今年はどこも猛者揃い、いやはやどんな試合になるのか」
英雄時代以降、歴代最強の世代ともいえる俺たち。
アメリカの『歩く核弾頭』
イギリスの『穢祓者』
スペインの『無敵艦隊』
ロシアの『赤眼の殺し屋』
中国の『死皇帝』
日本の『巫女姫』
若くしてS級に名を連ねる強者たち。
「それと君たちの魔王討伐の偉業は、予選が終わってからの発表とさせてもらう」
「やっぱり公表されるんですね」
「黙っていても、魔王の一人がいないなんてことすぐにマスコミにバレるだろう。そこで協力態勢、 むしろ予選終了後に大々的に発表してもらことになった」
(大々的に発表ね、神輿にならないように気を付けておかないとな)
「脳筋と変幻で、そうだな『魔王喰い』なんて名乗ったらどうだい?」
「二つ名はちょっと……」
「いやいや『魔王殺し』の方が良いの—————」
「まてそれだったら『脳筋ツインズ』なんてのは————」
話そっちのけで二つ名で盛り上がる議会。
なんて有様だよ。
いままでで一番盛り上がってるじゃねーか。
てか恥ずかしい二つ名つけている元凶はアンタたちだったか。
「っごほん。まあ二つ名のことは後でじっくり話すとして————」
一番年配、白人のおじさんが止めに入る。
確かドイツ軍部のお偉いさんだったか。
「聖剣と魔槍、これでいてお二方はとても仲が良いようだ」
「仲良しだぞ!」
「まあ信じてはいますね」
「あなた方はもっと強くなるでしょう。遥か先にいた英雄たちを超えて、新たな伝説を打ち立てるかもしれない」
悟り。
それにも似た宣告。
男は語る。
俺たちの行く末の淡い希望を。
「この世界が闇に飲み込まれそうになったとき、私を、私たちを助ける新たな光となるのは貴方たち2人やもしれません」
(随分含んだ言い方をする。つまりは————)
「何を言ってるか全然わからん!」
悟りの応えは正直。
エイラの頭では遠く理解及ばない。
なんせ戦いと飯ばっかり考えてる脳みそなんだから。
「期待している、という意味ですよ」
「なるほど!」
まあそういう風に解釈しておこう。
ナニカが起きればどうにか返す。
土壇場でどうにかするのが俺たちのやり方。
スタイルは変わらない。
「話が逸れましたな。では聴取の続きを始めます」
「え? まだあるのか!?」
「ええ時間も聞きたいこともまだまだあります」
「そ、そんな……」
「しょうがないだろ。ピシっとしとけ」
ダルダルになってきたエイラを喝。
脳筋にこの空間は大分つまらないだろう。
俺だってつまんないわけだし。
そうこうして流れる時間。
大会予選まであと数日、この議会は長々と行われた。
しかし半分近くが、俺たちの二つ名についての議論であり、それで頭にきてイラっとしたのは言うまでもなかった————