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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 2 -BURNING Rain on DUO 《ロシアの赤い悪魔》-
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25

 「「————強化同調ミラータ・シンクロ」」


 交差する。

 行きゆく先は重なり。

 混ざり合うことの無かった単色。

 際限なく自分のためだけであった能力。

 それが、今新たなステージへと昇る。


 「……なんだ、何をしている?」


 固有魔法によって改新した姿が光の隙間から。

 その魔力滾る魔王ですら抱いているのだろう疑問。

 吸血王の前では俺、いや俺たちが奇跡を起こそうとしていた。


 「————ぐぬぬぬ」

 「————さすがに効くなあ!」


 吹き荒れる。

 竜巻のように周りを飲み込むほどの勢い。

 荒々しい黄金色。

 全てを見通す青色。


 『まったくバカじゃのう、おぬしらの能力が他者に向かぬと知っておるというのに……』


 脳内スピーカーの音量は普段とは違って掠れて聞きづらい。

 同調が意識を一点に集中させるているからか。

 

 自分以外の生物を除いて。

 あらゆるものの強度を最高クラスに高めるエイラの『強化』能力。

 あらゆるものと同調し自分の一部として昇華させる俺の『シンクロ』能力。

 互いに決して交じり合うことのない、永劫不滅な孤独な力。

 不可能、叶うことなかった理想が、夢として現実に起ころうとしている。


 『無理というのに、我は、そういう人間の無茶するとこが好きになってしまうのじゃなあ』


 開闢かいびゃく

 森羅万象。

 口から出された、頭の中に描かれていた、あの時体験した一瞬の体感が、すぐ目の前に訪れようとしている。


 「————天地を揺るがす圧倒的力! 神から授けられたこの聖剣と共に!」

 「————俺は闇の世界でも構わない、光は既に見つけた!」

  

 感情と意識が交じり合う。

 深く深く深層へと伸びてゆく長い線。

 形容しがたい被さり。

 人格が増える、心に宿るもうひとつの魂。


 「更に強く!」

 「更に上へ」

 「「完成、強化同調ミラータ・シンクロ!」


 一層増す輝きの風。

 そして一気に集約。

 弾ける、砂塵のごとき粒子が今弾ける。

 

 「————ふっふっふっふ」

 「————その笑い気味悪いから止めてくれ」

 

 露骨。 

 露わになる姿と感情。

 何が面白いかもわかってる。

 言葉を交わさずとも勝手に流れてくるエイラの感情。

 理解できる。

 新たな強さと、繋がったことへの喜び。

 そしてエイラの見ていた世界を。


 「……そのような乱暴な使い方を見たのは大戦以来だ」


 感嘆か、はたまたただの嘆きなのか。

 そして同じく露わになる吸血王。

 忘れちゃいない海がアイツの味方だということを。

 体に先ほどまでの傷はない。

 破れた服からは血脈のように流れる魔力の剛身。


 「毎回練習するたびに死にそうになったぞ!」

 「まあ成功したの、今回が初めてなんだけど」

 

 エイラの強化を俺に。

 俺のシンクロをエイラに。

 レネも交えてここに来るまで毎日試した。

 その全てが精神崩壊するんじゃないかって痛み。

 

 (正直ほんとの無理で、泣きそうな日もあったぐらいだし……)


 しかし土壇場。

 やはり強敵相手で高まるモチベーション、アドレナリンもガンガン出てる。

 その甲斐あってのこの場面。

 俺はエイラと一体化することで、コイツと同等の強化が体中に与えられた。

 今だったら月を砕ける気さえする。

 逆にエイラにはテンペストの特性『神殺し』が。

 風や地も操れそうだが、まあエイラのガサツさじゃそんな細かい操作はできないだろう。

 そして最もな恩恵————


 (エイラとの意識の共有化、エイラが一瞬で考えることも 時間差なく感じられる)


 これが一番大きい。

 俺たちの動きは完全一致。

 一連托生どころではない、これは合体だ。


 「我も回復した、始めよう」


 準備整む。

 間の一拍。

 始まりは一瞬。


 「「行くぞ相棒!」」

 

 動作は同じ。

 脚を出す、地を踏みしめるタイミング。

 出ようとした時に出る。 

 寸分狂わず。

 そして放たれる強化された4つの轟脚。


 (め、めちゃくちゃ速い!)

 

 自分でもびっくりするくらい速い。

 意識が置いてかれるくらいの神速。

 これがエイラの世界だ。

 速さの頂、レネとも渡り合った、俺のいなかった場所。


 「聖剣カリヴァーン!」

 

 俺の胴体も巻き込んだ横斬り。

 わかってる。

 そこから剣が出てくること、そして次の動作、その次の動作さへ。

 エイラは考えて行動しない、本能の従い、それさえも俺には伝わる。 

 ジグザグ。

 ライジン。

 まるで回転ドア、表裏一体、剣と槍が入れ替わる。


 「もう遅れはとるまい!」


 瞬間の移動。

 辿り着いた魔王の肢体。

 それはより赤く、真紅となった魔法に防がれる。

 さっきとは違う、底が見えない重たい攻撃。

 もはや詠唱は無し、この男、近距離でも戦えるようになっている。 


 (エイラ、魔法は俺が対処するから突っ込め)

 (私も砕いて行った方がいいのではないか?)

 (いや魔法陣の数が多い、テンペストでまとめて相手する、エイラはとりあえず超近接に持ち込んでくれ)

 (了解した。存分に暴れる!)

 

 コンマ数秒。

 音が届くより早い。

 一瞬のアイコンタクト。

 それだけ。


 「テンペスト! さあ神殺しの力を見せてくれ!」


 嵐を起こす。

 いやいつもとは規模が違う大嵐となって。

 風を取り巻く槍もまた進化。

 真価を見出す。

 吸血王の発動した陣を徹底的に破壊する。

 もはや紙吹雪のように散っていく赤い魔力の欠片。

 

 「————参る!」


 エイラが飛び出す。

 放たれる紅蓮。

 臆することなく一進。

 俺も陣を破壊しながら詰めていく。

 弾ききれずたまに魔法が当たるが————


 (めちゃくちゃ痛い、でも思ったよりダメージがない…… この耐久度、そりゃあエイラが突っ込んで行くスタイルな理由もわかるな)


 強化の能力。

 それは能力の強さを上げるだけじゃない。

 それは神経を強くすることであったり、表面の硬度を純粋に上げる。

 肌は肌色、 しかしそれは戦車の装甲に等しい。


 (どうだすごいだろ私の強化!)

 (すごいっての分かってるから、 喋ってないで早く辿り着け) 

 (そうは言うが、あと一歩が固くてな、弾いてばかりで進めん)


 繋がる視覚。

 俺の眼はエイラの景色を映し出す。

 なるほど。

 吸血王は今海岸際、魔力に一番変換しやすい場所に立ってる。

 足元には真っ赤な固有魔法の陣。

 様子を見る限り一歩も動かないことから、おそらくそこから『動けない』


 「なるほど! 吸血王! 貴方はそこから動けないのだな!?」

 「…………」

 「わざわざ言わなくていいって!」

 「やはり我のことを侮っているだろう……」


 この強化同調は意識が繋がってる。

 

 (だからって全部相手に言ったら意味ないだろーが!)

 

 「よくわからんがすまない!」

 「なんで今度は理解してないんだよ……」


 もういいや。

 本題は吸血王の立ち位置だ。

 ホントだったら地形をシンクロで変化させてやりたいが、いかせんエイラとの同調で手一杯、そんな余裕はない。

 こうしている間にも奴の魔力はガンガン上がってる。

 うなぎ上り。

 もはや素人でもわかるくらい肌にビリビリと感じるくらい。

 

 「レネ!」

 『無茶言うのう……』

 「頼む!」

 『死んでも知らんぞ』

 「「銀世界レイ・シルバー」」


 脳がナイフに突き刺されたよう。

 ドッとくる鋭い痛みが鳴り響く。

 頭が痛い。

 エイラの動きも鈍くなる。

 が————


 「成功————」

 

 均衡を破っていた風と紅蓮。

 そこに横切る銀色の息吹。

 

 『まったくギリギリじゃったぞ』

 「この声、まさかエレネーガ様か!?」

 『ユウと繋がっておるから我の声も、この時だけは聞こえるのであろう』

 「感激だ!!」


 いやいや感激している暇はないぞ。

 痛みは引いてく。

 エイラの一刀一刀に再び籠り出すパワー。

 迅速に、そして大胆過ぎるくらいに。


 「銀色、すべてを覆え!」


 流れだす神力。

 風は銀風となって侵攻を開始する。

 少しずつ、少しずつ押していく。

 ちなみにエイラが『銀』の力を使うことはできないっぽい、 まあ対価も契約も俺が主本だからか。


 「よもやあの忌々しい連中と同等か……」

 「忌々しいだと?」

 「あの大戦を終わらせた、貴様らが英雄と崇める人間のことよ」

 「それは光栄だ!」

 「……認めるしかあるまい。その力は我ら魔王を打ち滅ぼす力が十二分あると————」


 激しい魔法と聖剣の乱舞。

 銀風を混ぜながらも、エイラの必殺ポジまでは到達できていない。

 射程圏内にしても、すこし遠い。

 銀をもってしても押し切れない魔力の勢力。


 「一度は見逃された身、だが魔王として! 貴様らをここで滅ばさなければなるまい!」


 限界突破。

 魔力量、吸血王は神に到達したといっても過言じゃない。

 落ちた果実。

 伸ばしたライフ。

 俺たちが見逃した。

 でもそれは別に、アンタをかわいそうって思ったわけじゃない。


 「俺たちも、アンタをぶっ殺しにきてんだよ」

 「そうとも! 苦しい戦いこそ甘美!」

 『来るのう。特大の一撃じゃ。出し切らねば灰となって消えるぞ』 

 

 乱射される魔法、ようやくエイラの範囲に入ろうとした時に動きを変える。

 レネの警告。

 魔王が持ち得し固有魔法の最奥。

 扉の先にある本気の本気。

 相対すれば、生きて帰れる人間はいない。

 それこそあの英雄と呼ばれるくらいでなければ。


 「エイラ!」

 「っく! あと少しで超近接戦だというのに!」


 隣に赴く。

 あと少しでエイラの剣は届くだろうが、ヤツは最終の準備に入ってる。

 魔力に底がもうない以上、最初と同じだが消耗戦は圧倒的不利、 もはや勝利は望めない。

 ならば一撃、俗に言う『必殺技』で倒すしかあるまい。

 

 「しかしユウがアレを使いたがるとはな!」

 「しょうがねーだろ、作戦は伝わってるだろ」

 「うむ!」

 『必殺技じゃと……?』

 「ああーレネの時は失敗したからな」


 レネの時はエイラが出す前にくたばったから知らないだろう。

 もともとはエイラの単体技、というか単体能力。

 唯一無二の独立兵器。

 それの二人運用バージョン。

 さらなるリスクと共に、圧倒的な火力を生む、という予想。


 「我が血族、我が眷属、我がしもべ、すべてを我が糧に————」


 (うあーすごいの来たな……)


 固有魔法は神域へと到達。

 もはや魔力は目の範囲にとどまらない。

 地平の彼方へと半円柱形のように広がる。

 頭上には俺たち中心として一点集中、 小さな点に天をつくる。

 真っ赤な魔力がもはや図りきれぬ集約。


 「————鎮魂デラ・ザール・ブラッド

 

 充填一瞬、 発射一瞬。

 俺たちだけを取り込む極大レーザー。

 触れればDNAも飛ぶ。

 逃げたところで天支配、 空間捻じ曲げてでも当ててくるだろう————


 「神よ! 私はキリストを信じます! 私は自分を信じます!」

 

 叫ぶように。

 神に祈るエイラ。

 

 「神よ私は、ユウを信じます!」

 

 あの時は無かったワンフレーズ。

 祈りは届くか、いや届く。

 聖剣は声を上げる。

 音色を奏でる。

 その姿を、変える。


 「それは……」

 『なんとまだそんなものを隠しておったか……』


 魔王と神も聖剣のすべてを知ってるわけじゃない。

 俺はこの身をもって学んでる。

 聖剣の本当の能力を。

 『パワー』と『スピード』が能力じゃない、 それはあくまでエイラの能力が生み出し、 それに付き合っているだけ。

 エイラは持っている、2つの能力。

 強化ともうひとつ、聖剣の能力『消滅』を。


 「————悪しき魔王と戦う滅びの力を」


 聖剣は反転。

 光の剣は、無常に滅びを告げる死の剣へと姿を変える。

 刃がバキリと音立て起き上がる。

 スラリと流れる刃面はザラリとした鮫肌へ。

 色は黄金から、内に漆黒を内包した、黒みある黄金へ。

 エイラと初めて会ったときに使われた超技。


 (この消滅の能力を知ったときは、これほど忌々しい剣もないってホント思った————)

 

 しかしその剣を今度は俺も振る。

 そして効果、形が変わっただけじゃない。

 破壊から消滅へ。

 傍に倒れた大木、黄金粒子の接触と同時に消える。

 文字通り。

 その聖剣、そして粒子に触れれば、『何処か』へ消える。

 それは宇宙の彼方、何処かはエイラ自身もわからない。

 だがそれが神でも、魔王でも、神殺しの槍でさえも、触れれば消える。

 

 「強化同調ミラータ・シンクロ!」


 流れ込む神の力。

 この聖剣の大技は制限がある。

 それは10秒間しか使えないというもの。

 目標だってうまく絞れない。

 今だってその剣の重さに振りかぶれないエイラがいる。

 強化の腕力でさえ持ち上げきれない。

 

 だけど、エイラが扱いきれない分、それは俺が支える。


 「ユウ!」

 「しっかり支えろって!」

 

 身体と能力支える。

 フルスロットル。

 オーバーヒート。

 支えてわかる、どこにそんな力あるんだっていうエイラの細腕。

 脳も回る、シンクロによって繋がった聖剣。

 開ききれなった聖剣をシンクロが真価を呼び起こす。

 もうすぐだ。

 そこまで迫った紅蓮の魔法。

 これを返すのは滅びの聖剣、そして振り手はふたりの最強。


 「————やはり、ユウが相棒でよかった」


 紡ぎ出される小さな言葉。

 水に弾かれるように消えゆく。

 再確認。

 前も同じような話したな。

 大丈夫嫌というほどしっかり伝わってる。

 だからこそ、信じたやつのために俺だってこの力と槍を振るってきた。


 「————言うもまでもないだろ。エイラが相棒で最高だったよ」

 

 2か月も経たぬ前にした1つの約束。

 勝つために。

 それは本来じゃない、もっとすごい、もっと大切な答えを導いた。

 

 仲間の存在。

 いや、正確には相棒という存在。

 俺たちがお互いに感化した姿勢。

 それはなによりも人生においての絶対位置。

 自分の中で死んでも活き続ける人。

 俺が、彼女と出会えた、この運命に感謝しよう。


 「あらゆるものを滅す死の祝福を————」


 「「十字聖剣クロス・カリヴァーン!!」」


 十字架描く。

 イエスを屠った象徴。

 寸でで相合わさる赤と黄金。


 「ここで人の希望は断たねばならぬ!」

 

 流し込まれる魔力。

 上からの圧力と衝撃。

 惑星同士の衝突。

 押しつぶされそう。

 莫大な無質量の鍔せり。

 押して押され。

 だけど、負けたくない。

 勝つのは————


 「俺たちだああああああ」

 「私たちだああああああ」


 ビカリと十字輝く。

 シンクロの限界。

 強化の限界。

 すべてを超えて世界を超える。 

 

 「バカな————」


 沸騰するほど熱い真っ赤な血。

 ドクンドクンと心臓発作。

 徐々に押し上げる。

 俺たちの少し黒含んだ青き黄金はその放たれた十字を、吸血王へと近づけた。


 「「ぶっ飛べええええ」」


 技名もクソもない。

 本能の叫び。

 滅びの柱。

 いま、魔王の首へと届いた。

 消滅する無尽蔵な魔力。

 覆いかぶせる圧倒的な『力』


 「————我では、届かぬ相手であったな」

 

 消えゆく言葉。

 ベーリング海を望む。

 吸血鬼の王として。悪の象徴魔王として生きたロシアの赤い悪魔、吸血王ヴァンダル・ザッテハルト。

 魔法の豪傑は、二人の人間によって、その生涯に幕を降ろすのだった。

 

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