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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 2 -BURNING Rain on DUO 《ロシアの赤い悪魔》-
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 アチアチ。

 バチバチ。

 身体からほとばしる重圧的なオーラ。

 赤、黄、銀、三色が紡ぐオーロラベール。

 浮上する前髪。

 能力粒子が逆立てる。


 「よっしゃ行こうか!」

 「ふっふっふっふっふ」


 生きてきた十数年、今がもっともアガってる。

 エイラも俺も、能力の出が違う。

 上がりっぱなしのヒートエンジン。

 メーターはとうに振り切っている。

 振りまく殺気。

 突き刺す殺気。

 天上をぶち抜くシンパシー。


 「もはや獣の気、いっそ我ら吸血鬼より酷いな」

 

 飽きれたような吸血王の言葉。


 「吸血鬼の王に言われるとはなあ」

 「しかし私たちにとっては誉め言葉でしかないぞ」

 「ああ、とりえず人の身じゃ勝てないからな」


 俺たちは獣。

 ならば獲物は狩る。

 それが自然の理。

 底なしの本能。


 「————先剣参る!」


 ビュンと。

 地割れを起こすエイラの轟脚。

 突入するハイスピードライディング。


 「なに!?」

 「そーら!」


 ぶつかる赤い魔力と金色剣。

 さすが魔王、 ギリギリながらも防ぐことに成功。

 けど一撃ぐらいじゃエイラの攻撃は終わらない。


 「遅いぞ! 弱いぞ! 私は強いぞ!!」


 エイラの自分への喝。 

 言葉の1つ1つに能力漲り、体中に強化がかかる。

 そんなエイラが持ち得るのは一振りの聖剣、そして、強化され続ける圧倒的な『パワー』と『スピード』 

 戦神のレネならともかく、魔法使い系統の魔王、これほど相性がいい相手はいない。


 「っく……!」

 「っふっふっふ! 笑いが止まらないぞ!」


 (やっぱこういう図になるよな————)


 一方的。

 エイラの成長はレネの指導の賜物。

 神とまではいかなくても魔王とタメ張れるくらいには。

 神様的現実評価だとSSS級、あの人たちに近しいらしい。

 

 戦況は放物線を描き上昇する。

 白熱する死との接近。

 その身に宿した阿修羅。

 スターダストのように舞いあがる。


 「調子に乗るな聖剣使い!」

 

 吸血王は赤魔力で剣を弾きながら、その体に陣を宿す。

 他の吸血鬼たちには見られない紅蓮色。

 おそらくあれが————


 「固有魔法! 血契約ブラッディ・ギア!」


 足元に這っていく赤い血脈。

 浸食だ。

 この空間の浸食が始まった。

 これは魔王だけが持ち得る最古の魔法『固有魔法』の力。

 彼らは能力者ではない。

 彼らは魔法使い。

 魔の宝庫の扉は今解き放たれたのだ。


 (様子見るに、吸血王の宝庫は遠隔操作の類、なら相対するのは————)


 「————ようやく、俺の出番だな」


 大地の浸食。

 まったくこういう超上の類はだいたい世界を媒介しようとするんだよな。

 レネもそうだったが、あの時に比べちゃ全然軽い。


 「大地同調アース・シンクロ!」

 

 そこまで這っていた赤い侵略。

 ガラスばりにビンッと弾く。

 青い力の反発。

 鍔競り合い。

 

 (ぐーシンクロしきれない……)

 

 「……我が契約を止めただと!?」

 

 足りない。

 純粋なシンクロでようやく五分五分。

 流石固有魔法、まだその実体過程だとしても、力の片鱗が垣間見える。


 (こりゃ固有魔法が発動する前に、なんとか止めないとなマズイな————)

 

 現実に戻れば、魔王討伐とはSS級が10人いてなんとか成り立つ。

 無尽蔵な魔力を宿す彼ら。

 2人の俺たち、長期戦不利なのは必至。

 ド単発、長引く前に決着をつける。


 予想通り、近接戦闘はエイラが十分すぎるほど働いている。

 俺にはすでにエイラの動きが霞がかって見えるほどだ。

 猛獣相手にしながら固有魔法発動しようとしてるんだから、 魔王ってのは大したもんだよ。


 「レネ、使うぞ!」

 『存分に振るおう! 銀を愛し、戦を愛す! 顕現せよ我が王道!』

 「「銀世界シルバー・レイ!」」


 大地に変革。

 一角どころか死角なし。

 青い粒子に銀色を宿す。

 今度こそ、 赤を止める。

 上書きする世界。


 「銀の闘神エレネーガ……!」

 「よそ見するとは余裕だ、な!」

 

 奴の固有魔法は潰えた。

 すかさずエイラの追い打ち。

 下へと抉る。

 間を開ける。

 聖剣から放たれる疑似レーザービーム。

 間隔開かず、迫る感覚。

 

 「じゃあ俺もそっちに参加する」


 突風。

 グルリと回す長槍。

 間を縫う、 エイラの大振りに掠る。

 傷が生まれる。

 流れる鮮血、突っ切る戦陣。

 

 『我に戦わせよ!』

 「わかってるって……」

 「「経験同調エクス・シンクロ」」

  

 俺の動きは破竹の勢い。

 留めなく流れる水流の如く。

 今までは槍に任せちゃいたが、レネの経験にシンクロすることで、その技術を疑似的に上げる。

 いわば贄への神降ろし。

 脳から発信される戦いの信号。

 感じたことも無い鋭利感情。


 「おお! ユウも混ざるか!」

 「俺じゃなくて、正確にはレネに操られた俺なんだけど」

 「はっはっは! よくわからん」


 無かったタクティス。

 背中に張り付いた第七感。

 第六感を超越。

 四次元への到達。

 エイラの剛腕、俺の疑似歴戦打ち手。

 

 秒速で放たれる数百手。

 二人合わせまさに剣槍の雨あられ。

 もはや防げくことは叶わず。

 吸血王の服が破れ露わになる白身はくしん

 ソースの様にかけられる真っ赤な血液。

 それを生み出すのは自分自身、抉られた傷の口。

 

 「……っ」


 吸血王の口数はだいぶ減ってる。

 額に流れは汗の粒。

 当たり前だ獣と神を相手にしてる。

 しかもご自慢の固有魔法は発動する前に俺が潰したし。


 「なんだか思ってたより弱いな!」

 『そうじゃなー、攻め手が不足しとる』

 「みんな魔王相手に結構ひどいこと言ってるな……」


 不可能と考えていたクエスト。

 しかしその実、吸血王ヴァンダルの手腕はイマイチだと言わざるを得ない。

 奴の本領は中距離以上での戦闘、すでに盾となる家臣群はエイラの最初の一撃で片付いている。

 また近接戦も人間からしたら抜群にこなすが、いかせん相手が悪すぎた。

 見てわかる、その目に余裕という概念は宿っていない。

 それは焦燥。

 近づいてきた死の門への抵抗心。


 (なんかイジメ、俗にいうおやじ狩りしてるみたいになってきたな……)


 「ぐう!」

 

 俺の槍が風を起こす。

 穿てぬ空振りも、その纏わせた風が傷を生む。

 怯んだ瞬間にエイラのスーパーヘヴィーな一撃。

 短期決戦、そうして命を懸けて臨んだ戦いは呆気ない結果を生んだ。

 そもそもレネに俺を貸したのが失敗だったのかもしれない。


 (よく考えればこれって俺ほとんど戦ってないし……)


 意外と容易?

 もはや勝利への道は近い。

 しかしこれじゃあ満足いかない。

 俺は、俺たちは死と隣合わせの、心臓爆発するくらいの窮地を経験したいんだ。


 「エイラ! レネ!」

 「ん?」

 『なんじゃ?』

 

 勢い衰えてきた剣戟を続けながら、 ふたりに呼びかける。

 その手は止まってないが、 言葉は届く。


 「吸血王には悪いが、正直面白くないだろ?」

 「確かになあ」

 『まだ全然有り余っとる』

 「固有魔法、使わせてみるか?」


 我ながらバカなことを言ってる。

 勝てる勝負。

 だからこそスパイスを。

 それもとびきりの辛いやつだ。


 「……な、なんだと?」


 吸血王はなんとか口を開く。

 俺の言ったことに驚いた様子。

 まあ、普通そういう反応するよな。

 でもこいつらは————


 「おもしろい!」

 『ユウにしては良い提案じゃ』

 「————決まりだな」


 銀化解除。

 大地の色が元へと戻る。

 現実がそこには再び現れた。


 「距離開けるぞ」


 久しくして剣戟が終わる。

 後退する俺たち。

 吸血王の追撃は無い。

 普通の魔法を放てる体力も怪しいとこ。

 

 「き、貴様ら、我を侮っているのか?」

 「侮ってはいない!」

 「相性もあるけど、アンタが思ったより弱いんで、せっかくだから固有魔法撃ってピンチを経験しとこうと思ってな」

 「…………後悔するな」


 赤い侵略。

 血脈のように細々とした触手の影が埋まっていく。

 まるで命があるかのように鼓動をうつ大地。

 

 「我の固有魔法は、あらゆる液体の血液化だ」

 「教えてくれるのか! 感謝だ!」

 「エイラ、黙って聞いとけ」

 「……そしてその血液を魔力へと変えることができる」

 

 血液を魔力に変える。

 普通吸血鬼が吸いとった血は生命力、寿命へと繋がる。

 魔力とは上限あるものだいうが、吸血王は限界を超え、回復、そして魔力の充填・・も出来るということなのだろう。

 そういうことなんだろうけど————


 『ならば、この大地への浸食は可笑しいのう』

 「……ああ」

 「なんだ? どういう意味だ? 分からんぞ?」

 

 あらゆる『液体』を『血液』に変えると奴は言った。

 たしかに土にも水分が含まれるが、それは非常に効率が悪そうだ。

 それなら湖とか川とか、もっと水のある場所に移動した方がいいんじゃ、いや待てよ。

 

 もしそれが、大地を『介して』どこか水、液体がある場所に繋がっているとしたら―——


 「……調子乗ってたかな。固有魔法使わしたのは失敗だったのかもしれない——」

 『そうじゃのう。ちと遊び過ぎたな』

 「ん? ん? ん?」

 

 レネも同じことを考えたはず。

 エイラはなにも理解してないようだが、これはピンチもピンチ、大ピンチだ。


 「察したようだな。この魔法は『あらゆる』液体に効果を発揮する」


 液体から血液へ。 

 血液から魔力へ。

 黄金ローテーション。

 そしてこれを生み出す絶対的な根源。


 「ベーリング海……!」


 ここはロシア極東。

 西は山々。

 東は、海々。

 崩壊した屋敷からも覗える、はるか彼方まで広がるベーリング海の姿。


 「海原は無限、故に、我が持ち得る魔力もまた無限」


 増幅。

 ビルドアップなんて生やしいもんじゃない、全てを覆う真っ赤な魔力。

 その範囲は極東をも隠しきる。

 レネとバハムートの一撃とまではいかないが、それに次ぐくらいの力を感じさせる。


 (でも、いくら海があるとはいえ、一気に神様クラスまでは到達できないみたいだな)

 

 そりゃそうだ。

 一気に神様クラスまでいかれちゃ、吸血王が地球じゃ最強の生物になっちまう。

 それよか強い生物は、存在する————


 「エイラ、あれやるぞ」

 「アレか」

 「このまま放っといちゃ流石に勝ち目なくなっちまうからな」

 「うむ。真正面からの力比べだ」

 「てことだレネ」

 『仕方あるまい。軽い気晴らしで今回は引っ込むとするかのう』

 「悪いな————』


 身体の感覚が少し重みを増す。

 レネに身体を使わせたことによる神力の消耗、疲労がどっとくるが、まあ耐えられる。

 一瞬で決めるくらいの気力は十分ある。

 また目の前ではだいぶ回復したであろう、 傷痕の減った吸血王の身体。

 ダラダラはしていられない————


 「ユウ、死んでも文句は言うなよ」

 「最初に言ったろ、 生きて帰れば問題ないって」

 「ふふ。確かにそうだったな」


 レネとの戦いで発芽した能力。

 それは銀だけじゃない。

 俺たちなりの最奥。

 高き壁、弊害を超えた先にある頂きの形。

 

 本能一直線スタイル。

 そんな俺たちにとって唯一の隠し玉。

 真の連携ではない。

 これはしんの連携だ。


 「私の能力はあらゆるモノを強くする」

 「俺の能力は万物の真価を発揮させる」

 

 

 



 「「————強化同調ミラータ・シンクロ」」

 


 

  

 

 

 


 

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