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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 2 -BURNING Rain on DUO 《ロシアの赤い悪魔》-
31/188

23

 「到着だ」


 思え返せば出発するは4月の頃。

 移動の足は持たず、残り2か月も無いというタイムリミット。

 無理難題。

 浮足立つ。

 しかし、道中での出会いと戦い、成長の促し。

 友、愛、戦、敵。

 バミューダ並みの歯車、気持ちブッ飛ばすバズーカ。

 そうして来た。

 場所、結論、辿り着いた両極彼の地。


 「結構大きい町だな」

 「なんでも元は観光地らしいぞ」

 「そして人の数もなかなかに多い」


 俺たちはロシア極東の中でも発達した町ベリンゴフスキーに辿り着いた。

 エイラにもいったが元観光地で、人口は数千から万はいないくらい。

 吸血鬼に支配されてもなお逞しく生活している様子が伺える。


 (この町も生贄制で秩序が守られてるってとこか)


 昔話にありがちな吸血鬼の無差別摂取は流行らない。

 町の中から定期的に生贄を捧げることで、町の平和を維持するのがデフォだ。

 さらにここは吸血王ヴァンダルの目下直前。

 ロシア政府が迂闊に手を出せない町ナンバーワンでもある。

 

 『感じるぞ。今までの蚊共とは比べ物にならぬ魔力じゃ』

 「わかってる、シンクロ使わなくても分かるレベルさ」

 「近く、とてつもない気を感じる!」


 みんな嬉しそうだ。

 俺も俺で結構前向き。

 この瞬間を待っていた自分がいる。

 

 「目指すはあの城だな」


 並び行く街並み。

 首を曲げれば商売人が。

 傾けてみればエプロン付けたおばちゃんが。

 降ろしてみれば幼い子供が。

 強制的に創られた閉鎖空間。

 その道筋真っすぐに進めば本能寺ばり。

 漆黒の牙城がそびえ立つ。


 「さあ、行くぞユウ!」

 「応よ」

 『楽しくなってきたのう!』

 

 敵の寝床は寸でのところ。

 歩いて10分。

 はらすぞ鬱憤うっぷん

 ここまで俺たちが、お前を倒すためにどれだけ苦労したか。

 歩んできたここまでの茨道。

 となれば今はバラが咲いた花の道。

 日は西に、舞台は漆黒。

 時が経って気付く変わった夜風の暖かさ。


 「ここの人たちは俺たちが何するかわかってないんだよな……」

 

 俺たちは道のど真ん中を進む。

 周りは気付かない。

 俺たちが、今からここの常識基盤をぶち壊す爆弾だって。


 「可笑しな話だよな、今日ここは戦場に変わるってのに」

 「そうだな。この生活が変わるとは考えもしないだろう」

 「でもまあ、人助けってわけじゃないけど」

 「そうだ。これは私たちのための聖戦だ」

 

 俺たちは吸血王を倒す。

 それはあくまで俺たちのため。

 自分自身の進化に付随する副産物でしかない。

 可能性の拡張。

 交わした約束。

 白状すると爆笑だ。

 正気に戻ればバカげていると笑う俺がいる。

 しかしそれもバカの一片。

 それもまた本能。


 「身体の外部内部強化完了した。聖剣のチャージもフルで溜まってるぞ」

 「了解。俺もテンペストとシンクロした」

 『銀化もいつでも発動可能じゃが、使いすぎんようにのう』

 「わかってるさ」


 近づいて改めてわかるどでかい門。

 今まで見てきたどんなものよりもスゴイ。

 ここなんだって再確認される。

 夢のように語っていたことが現実になろうとしている。

 その夢は叶うか叶わずか。

 

 「止まれ! ここから先は城内、許可ない者は通せんぞ!」


 どこかで似たようなセリフを最近聞いた。

 やはり本拠地の門番は屈強。

 雑兵でありながら、それなりの力を持つ吸血鬼と伺える。


 「一体なんの用だ? もしやお前らが今夜の生贄か?」


 侮蔑的な感情が伝わる。

 この兵士もまた吸血鬼、人は家畜程度と考えているのだろう。


 (にしても生贄か、ワンチャン負ければ本当に生贄になるから、あながち間違ってないんだよな……)


 「残念ながら俺たちは生贄じゃないんだ」

 「ならば————」

 「私たちは脳筋だ」

 「脳筋? ま、まて! まさかその金髪!?」

 「大当たりだ」


 気付くの遅すぎ。

 たるんでるんじゃないか?

 さてここでのアクション門番殺して中央突破?

 それじゃあ足りない。

 この城で奴の玉座を探すのも面倒。

 ならば門も城も何もかも————


 「解き放つ!!」


 溜めに溜めた聖剣の力。

 光の粒子が雨あられと溢れ出す。

 それは竜巻渦巻くよう聖剣へと紡がれる。

 光の柱天高く。

 それは城のテッペンまでも届く高さ。

 

 「やはり聖剣使い! ここで貴様を————」

 「あんたは大人しくしててくれ」


 エイラへの妨害は俺が止める。

 すでにここにいた門番すべての首は、錆びついた滑車のようにゴロゴロと転がっている。

 テンペストは既に嵐を起こしていた。

 

 「ぶっ壊せエイラ!」


 熱い思い。

 届く叫び。


 「ぶち抜け超本気マジ聖剣カリヴァーン!!」 

 

 青天の霹靂。

 輝く流星群。

 落ち行く一振りの聖剣。

 天災。

 エイラが威力に能力を全振りした一撃。

 触れるレンガ、 コンクリートと木材。

 消える。

 海が震える。

 跡形もなく聖剣に飲み込まれていく。

 破壊の音色がロシアに響く。

 

 「うおりゃあああああああああ!」


 エイラの檄飛び加速。

 宇宙爆発なみ衝撃。

 耐えうることなく抜け行く大木群。

 その余波は町の建物にさえ轟いた。

 崩壊。

 吸血王ご自慢の城が、なんの価値も感じさせない、ただのガレキの山へと生まれ変わった。


 「————やってくれたな」


 訂正しよう。

 城のすべてがガレキになったわけじゃない。 

 ほとんどが、ガレキの山になったのだ。

 9割の崩壊と、1割の健在。

 城のど真ん中、つまりは玉座。

 そこは深紅の魔力によって完璧に形を残していた。


 「久方ぶりだな聖剣使い、そして————」

 

 吸血王ヴァンダル。

 ロシアの赤い悪魔。

 永く生きているとは思えない風貌。

 強い。

 その男が俺を見る。


 「初めましてだな」

 「銀色の瞳を持つ男、か」

 「……」

 「お前から感じる尋常ではない神力、決して人が持ち得る量ではない、やはり背後に、いるな?」


 挨拶スルー。

 それよか流石最上級魔族、俺の力を見極めに来てる。

 レネの存在も僅かながら感ず居ているようにも思える。

 思考進む中、意志と反して銀の瞳がギラリと輝く。

 

 「っふっふっふ。 見抜きおったなあ」


 (出てきちゃうんかい、決めるときまでバラしたくなかったんだけどな……)


 眼光の奥底から。

 俺の身体をすり抜けるように出でる神の姿見。

 現世への降臨。

 銀刀。

 銀浴衣。

 銀の髪。

 闘神再誕。


 「……やはり神が憑いていたか」

 「見事。黒蜥蜴と違って見どころありそうな魔王じゃ」

 「なるほど。バハムートを倒したのは貴方だったか」

 「左様。今はコヤツのおりじゃ」

 「銀の戦神に選ばれし御代、まさかまみえる日が来ようとは」


 なんか勝手に話すすんでるな。

 やぱり神と魔王、通ずるところがあるんだろうか。

 

 「しかし貴方からは力を感じ得ない。ほとんどを失いましたな?」

 「そうじゃよ。だから言っておろう『お守り』だと」

 「…………」

 「吸血王、我を楽しませてみよ————」


 そう言葉を放ってレネは俺の中へと沈んでいく。

 いくら回復していたとしても長く現界は出来ない。

 いつも通り俺の脳内スピーカーへと移し変える。


 「銀眼の男、名は何という?」

 「ユウ、ユウ・ヨンミチだ」

 「————覚えておこう」

 「私はエイラ・X・フォードだ!」

 

 間髪入れずに名乗るエイラ。

 そして俺、最初はスルーされたが、これも神様効果か?

 

 「————さて聞こう。貴様らは何をしにここに来た?」


 至極簡単な問。

 原点から一周回って最先端へ。

 ずっとこのために。

 エイラと、旅をしてきた。


 「私は脳筋」

 「俺も軽く脳筋」

 「私は強い」

 「俺もそこそこ強い」

 「ユウは相棒」

 「エイラは俺の相棒」


 激戦を超え今ここに。

 魔王を、討つ。


 「ロシアの赤い悪魔」

 「吸血鬼の王ヴァンダル・ザッテハルト」



 「「あんたを倒しに来た」」

 

 

 

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