23
「到着だ」
思え返せば出発するは4月の頃。
移動の足は持たず、残り2か月も無いというタイムリミット。
無理難題。
浮足立つ。
しかし、道中での出会いと戦い、成長の促し。
友、愛、戦、敵。
バミューダ並みの歯車、気持ちブッ飛ばすバズーカ。
そうして来た。
場所、結論、辿り着いた両極彼の地。
「結構大きい町だな」
「なんでも元は観光地らしいぞ」
「そして人の数もなかなかに多い」
俺たちはロシア極東の中でも発達した町ベリンゴフスキーに辿り着いた。
エイラにもいったが元観光地で、人口は数千から万はいないくらい。
吸血鬼に支配されてもなお逞しく生活している様子が伺える。
(この町も生贄制で秩序が守られてるってとこか)
昔話にありがちな吸血鬼の無差別摂取は流行らない。
町の中から定期的に生贄を捧げることで、町の平和を維持するのがデフォだ。
さらにここは吸血王ヴァンダルの目下直前。
ロシア政府が迂闊に手を出せない町ナンバーワンでもある。
『感じるぞ。今までの蚊共とは比べ物にならぬ魔力じゃ』
「わかってる、シンクロ使わなくても分かるレベルさ」
「近く、とてつもない気を感じる!」
みんな嬉しそうだ。
俺も俺で結構前向き。
この瞬間を待っていた自分がいる。
「目指すはあの城だな」
並び行く街並み。
首を曲げれば商売人が。
傾けてみればエプロン付けたおばちゃんが。
降ろしてみれば幼い子供が。
強制的に創られた閉鎖空間。
その道筋真っすぐに進めば本能寺ばり。
漆黒の牙城がそびえ立つ。
「さあ、行くぞユウ!」
「応よ」
『楽しくなってきたのう!』
敵の寝床は寸でのところ。
歩いて10分。
はらすぞ鬱憤。
ここまで俺たちが、お前を倒すためにどれだけ苦労したか。
歩んできたここまでの茨道。
となれば今はバラが咲いた花の道。
日は西に、舞台は漆黒。
時が経って気付く変わった夜風の暖かさ。
「ここの人たちは俺たちが何するかわかってないんだよな……」
俺たちは道のど真ん中を進む。
周りは気付かない。
俺たちが、今からここの常識基盤をぶち壊す爆弾だって。
「可笑しな話だよな、今日ここは戦場に変わるってのに」
「そうだな。この生活が変わるとは考えもしないだろう」
「でもまあ、人助けってわけじゃないけど」
「そうだ。これは私たちのための聖戦だ」
俺たちは吸血王を倒す。
それはあくまで俺たちのため。
自分自身の進化に付随する副産物でしかない。
可能性の拡張。
交わした約束。
白状すると爆笑だ。
正気に戻ればバカげていると笑う俺がいる。
しかしそれもバカの一片。
それもまた本能。
「身体の外部内部強化完了した。聖剣のチャージもフルで溜まってるぞ」
「了解。俺もテンペストとシンクロした」
『銀化もいつでも発動可能じゃが、使いすぎんようにのう』
「わかってるさ」
近づいて改めてわかるどでかい門。
今まで見てきたどんなものよりもスゴイ。
ここなんだって再確認される。
夢のように語っていたことが現実になろうとしている。
その夢は叶うか叶わずか。
「止まれ! ここから先は城内、許可ない者は通せんぞ!」
どこかで似たようなセリフを最近聞いた。
やはり本拠地の門番は屈強。
雑兵でありながら、それなりの力を持つ吸血鬼と伺える。
「一体なんの用だ? もしやお前らが今夜の生贄か?」
侮蔑的な感情が伝わる。
この兵士もまた吸血鬼、人は家畜程度と考えているのだろう。
(にしても生贄か、ワンチャン負ければ本当に生贄になるから、あながち間違ってないんだよな……)
「残念ながら俺たちは生贄じゃないんだ」
「ならば————」
「私たちは脳筋だ」
「脳筋? ま、まて! まさかその金髪!?」
「大当たりだ」
気付くの遅すぎ。
たるんでるんじゃないか?
さてここでのアクション門番殺して中央突破?
それじゃあ足りない。
この城で奴の玉座を探すのも面倒。
ならば門も城も何もかも————
「解き放つ!!」
溜めに溜めた聖剣の力。
光の粒子が雨あられと溢れ出す。
それは竜巻渦巻くよう聖剣へと紡がれる。
光の柱天高く。
それは城のテッペンまでも届く高さ。
「やはり聖剣使い! ここで貴様を————」
「あんたは大人しくしててくれ」
エイラへの妨害は俺が止める。
すでにここにいた門番すべての首は、錆びついた滑車のようにゴロゴロと転がっている。
テンペストは既に嵐を起こしていた。
「ぶっ壊せエイラ!」
熱い思い。
届く叫び。
「ぶち抜け超本気聖剣!!」
青天の霹靂。
輝く流星群。
落ち行く一振りの聖剣。
天災。
エイラが威力に能力を全振りした一撃。
触れるレンガ、 コンクリートと木材。
消える。
海が震える。
跡形もなく聖剣に飲み込まれていく。
破壊の音色がロシアに響く。
「うおりゃあああああああああ!」
エイラの檄飛び加速。
宇宙爆発なみ衝撃。
耐えうることなく抜け行く大木群。
その余波は町の建物にさえ轟いた。
崩壊。
吸血王ご自慢の城が、なんの価値も感じさせない、ただのガレキの山へと生まれ変わった。
「————やってくれたな」
訂正しよう。
城のすべてがガレキになったわけじゃない。
ほとんどが、ガレキの山になったのだ。
9割の崩壊と、1割の健在。
城のど真ん中、つまりは玉座。
そこは深紅の魔力によって完璧に形を残していた。
「久方ぶりだな聖剣使い、そして————」
吸血王ヴァンダル。
ロシアの赤い悪魔。
永く生きているとは思えない風貌。
強い。
その男が俺を見る。
「初めましてだな」
「銀色の瞳を持つ男、か」
「……」
「お前から感じる尋常ではない神力、決して人が持ち得る量ではない、やはり背後に、いるな?」
挨拶スルー。
それよか流石最上級魔族、俺の力を見極めに来てる。
レネの存在も僅かながら感ず居ているようにも思える。
思考進む中、意志と反して銀の瞳がギラリと輝く。
「っふっふっふ。 見抜きおったなあ」
(出てきちゃうんかい、決めるときまでバラしたくなかったんだけどな……)
眼光の奥底から。
俺の身体をすり抜けるように出でる神の姿見。
現世への降臨。
銀刀。
銀浴衣。
銀の髪。
闘神再誕。
「……やはり神が憑いていたか」
「見事。黒蜥蜴と違って見どころありそうな魔王じゃ」
「なるほど。バハムートを倒したのは貴方だったか」
「左様。今はコヤツのお守りじゃ」
「銀の戦神に選ばれし御代、まさかまみえる日が来ようとは」
なんか勝手に話すすんでるな。
やぱり神と魔王、通ずるところがあるんだろうか。
「しかし貴方からは力を感じ得ない。ほとんどを失いましたな?」
「そうじゃよ。だから言っておろう『お守り』だと」
「…………」
「吸血王、我を楽しませてみよ————」
そう言葉を放ってレネは俺の中へと沈んでいく。
いくら回復していたとしても長く現界は出来ない。
いつも通り俺の脳内スピーカーへと移し変える。
「銀眼の男、名は何という?」
「ユウ、ユウ・ヨンミチだ」
「————覚えておこう」
「私はエイラ・X・フォードだ!」
間髪入れずに名乗るエイラ。
そして俺、最初はスルーされたが、これも神様効果か?
「————さて聞こう。貴様らは何をしにここに来た?」
至極簡単な問。
原点から一周回って最先端へ。
ずっとこのために。
エイラと、旅をしてきた。
「私は脳筋」
「俺も軽く脳筋」
「私は強い」
「俺もそこそこ強い」
「ユウは相棒」
「エイラは俺の相棒」
激戦を超え今ここに。
魔王を、討つ。
「ロシアの赤い悪魔」
「吸血鬼の王ヴァンダル・ザッテハルト」
「「あんたを倒しに来た」」