22.5 with Vampire King
「————ネレム領のガゼフ様が亡くなったと報告が」
ロシア極東。
ベーリング海を望む。
西洋風の尖りある巨大な砦。
深紅の絨毯引かれた居城。
中央に座す。
その男は魔王、ロシアの赤い悪魔と恐れられるその人だ。
「ロシア政府の仕業か?」
厳かと深い口調。
百年近く生きながらも、見た目齢は40ほど。
その体は強靭、滲み出る魔力が凄みを増す。
「不明です。しかし襲撃したのは二人組の人間だったそうです」
「たった二人の人間に、ガゼフは敗れたのか?」
「左様です」
王の表情が若干強張る。
それは嫌疑の現れ。
報告している側近自身も正直信じられない。
『アンデット・ヴァンパイア』とまで呼ばれたガゼフ・ツェペッルンが、たがが人間、それもたった二人に敗れたのだ。
いくら彼が年老いた身、力が衰えていたとしても、こうも容易くやられるとは考えもしなかった。
「して、その人間は何者なのだ?」
「それも詳細は分かりません。ただ……」
「なんだ?」
「ひとりは金色に輝く西洋剣の使い手、もうひとりは銀色の風を操っていたそうです」
「金色、もしや……」
「確信はありませんが、おそらく『脳筋』のエイラ・X・フォードかと」
ガゼフ領に内潜していた魔王直属の眷属からの情報。
突如としてその二人は屋敷に現れたそうだ。
そして対抗する暇などなく一瞬で。
光り輝く剣は圧倒的な力をもってして同胞を蹴散らした。
そしてその卓越した光と力を持ち得るとすれば、かつて一度会いまみえた聖剣使いの少女しか思いつかない。
「金色はおそらく聖剣使いだろう。となれば問題はもうひとりの人間か」
「はい。ガゼフ様はその者に敗れたそうです」
「銀の風を操りし者か……」
「その後屋敷を調べましたが、ガゼフ様のアンデットは全て『銀』に変わっていたそうです」
ガゼフはアンデット・ヴァンパイアとも呼ばれる男。
その能力は自分が吸血した生物を操作するというもの。
対象物は人間サイズに限られるが、 それでも不死身の兵団を創れるといっても過言ではない。
しかし銀に変えれれ軍が再び動くことはなかったという。
それ即ち魔力の上書き、魔物を超えるナニカを持っているということ。
「その銀風使い、それは本当に人間だったのだろうな?」
「はい。年齢は十代後半ほど、黒髪を持つ男だったそうです」
「人間か……」
「?」
「いや、思い違いであろう。下がってよい」
「っは!」
王の前から報告を終え下がっていく側近。
今回の襲撃。
犯人の正体ひとりのうち、おそらく聖剣使いは当たりだろう。
しかし男の方がどうも引っかかる。
『銀』
これを使う能力者、いや存在といった方が正しいか。
美しい見た目とはかけ離れた狂信的なまでの好戦家、戦と銀を愛する神。
『闘神エレネーガ』
久しくその名を聞くことはなかった。
死んだと考えている者も多いはず。
「まさか、な……」
呟くように流れ出る言葉。
右から左へ過ぎゆく。
吸血王ヴァンダルの言葉はこの広い講堂へと消えていった。
『べっくしょん!』
「神様もクシャミなんてするんだなー」
『……誰か我のことを噂しておるのかもしれぬ』
「いや、自意識過剰だろ(笑)」
『な、なんじゃとお! 頭にきた! 鍛錬追加じゃ!』
「え、いやそれは勘弁して————」
『黙ってやれい!』
「……噂した奴まじで許さん」