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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 1 -ITALIANs Break Heat《イタリアからの新風》-
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2

 青い空、真っ白な雲、透き通った海。

 イタリアを説明するならこんなセリフでいいんじゃないか?


 ところが残念なことに、俺は今イタリアに居ながらそんなセリフを一言も吐けない。

 なぜか?

 天気が悪いとか、俺の気分が悪いとかじゃあない。

 

 「……早く来すぎた」


 現在の時刻、午前3時。

 ニワトリもまだ藁の上でグッスリな時間だ。

 太陽はまだ昇らないし、暗くて海も真っ黒に染まっている。

 24時間営業の店なんてあるわけがなく人の気配も感じられない。


(何が悲しくてこんな朝っぱらに……)


 それもこれも出発時間が早いせい。

 政府専用の飛行機だからほかの客はいなく出発時間も自由だった。

 しかも俺が乗ったのは超速度特化の新型飛行機。

 速さは従来の倍以上で、とりあえずGはハンパなかった。


 このスピードならもっと遅い出発でいいんじゃないかと思った。

 がしかし、出発時間は黒服さんの無計画性が幾分なく狂わせた。

 しかも俺を空港に置いてすぐ帰るし。

 帰り際なんて——



 『きっと昼頃には学園の関係者が迎えに来るから』

 『まだ真っ暗ですけど!?』

 『散歩でもしていればすぐ陽も昇るさ』

 『え、せめて何時誰が来るとか教え……』

 『じゃあ頑張ってくれ!』

 『おおおおおおい』


 

 以上回想。

 ほんとあの黒服解雇した方がいいんじゃないか?

 散歩するにしても地理ぜんぜん把握してないぞ。

 しかも暖かいヨーロッパだとしても、 俺の能力がなかったら寒いなんてもんじゃない。


 (はあ日本じゃ今頃入学式の真っ最中かー)

 

 飛行機の移動中に調べたが日本とは約8時間の時差があるらしい。

 つまり今の日本はちょうど昼頃というわけだ。

 俺がこんな目にあっているというのに……


 

 むかしから、むかしからそうだった。

 『ツイてない』

 ジャンケンに始まり、スポーツ、勉強、大事な時に限って貧乏クジを引く。

 要は不幸、天に見放されている、星の巡りが悪い。

 今回の件に至っては貧乏クジのレベルもオマケの二割増しだ。


 (……今のうちに教会にでも行っておくか)


 環境も変わるわけだし厄払いしておいた方がいいかもしれない。

 仏がダメなら神に頼もう。

 ここローマには多くの教会があるしすべて巡るのもアリだ。

 時間は余るほどある。

 空港には明るくなってから戻ればいいだろう。

 さあ行きますか——

 





 

 ————ここか。

 歩いて1、2時間くらいだろうかやっと目的地に到着した。

 長かったと感じるが、シンクロで軽く加速して来たから、まだマシな到着時間だろ思う。


 (いくら散歩でも、そんなタラタラ歩くのは面倒なんでな)

 

 液晶画面に写る電子マップを頼りに辿りついたのは『サン=ピエトロ大聖堂』 

 カトリック教徒の総本山である。

 ヴァチカンの中心に位置しており、 仏教徒の自分でも名前くらいは知っていた。

 建物はドンと構えており外装は豪華なかんじ。

 なんとか様式って習った気がするけど覚えていない。


 ただ、洗練されている。

 そう感じた。


 

 門は当然のごとく閉まっている、が今回は仕方ない不法侵入だ。

 別に時間が有り余って暇だからってわけじゃない。

 本当に神に祈りたいんだ。本当だぞ。


 門を飛び越え少し進んむとすぐ目の前に大きな扉が現れた。


 この先が本堂のはずだ。

 重厚な扉を押す。

 だがビクともしない。

 当然施錠がされているのだ。

 わかっていたさ。

 だから————



 (————シンクロ)

 


 能力を使う。

 身体が青白く輝き始める。


 扉とツナガル。

 建物とつながる。

 歴史と繋がる。

 ミケランジェロ、 ガリレオ、 インノケンティウス、 カウロにピウス。

 さすがに情報が多い。


 (必要な分だけを)


 扉の情報を抜き取る。

 深く深く深く。

 分子レベルに細かく。

 意志レベルの深層に。



 浮かぶのは風景。

 辿るのは軌跡。


 (——開いた)


 ガチャリと鈍い音をたて鍵穴が独りでに回る。

 

 さてさて中はどうなっているのか

 前へと進む。

 本堂は真ん中に一直線の道が通っていて、左右には礼拝者のための座席が設けられている。


 

 さっき繋がったときに知ったが、 先に見えるのは聖ペテロの彫像らしい。

 いつも通りの俺だったら玩具を見つけた子供のごとく走っていくとこだ。

 だが、今回はそうもしてられない。




 「貴方おまえが侵入者だな?」

 



 この広い空間でもよく響く真っすぐな声。

 これはきっと俺に対してだろう。

 

 彫像の目の前に彼女は立っていた。

 長くスラっと伸びた金髪。

 暗闇で煌めく青い瞳。

 ルネサンスの彫像家が造ったような美しく整った顔立ち。

 そして圧倒的存在感を放つ剣を携えている。



 「……黒服さん、フラグ大当たりですよ」


 

 やはり神は俺の悪運をどうにかする気はないらしい。

 もし助けてくれるのなら、 こんなところで奴とは出会わなかっただろう。

 自己紹介もなにもしていない。

 だけど分かる。

 目の前にいるのが誰なのか、彼女は―——




 「私の名はエイラ・X・フォード。ヴァチカンを守護する者だ」




 彼女は聖剣使いだ。

 若手最高峰の能力者にして、本物の戦士。

 


 

 「ボナセーラ。君の名を聞こうか」



 ちょうど太陽が昇り始める。

 日が差し込めて彼女を照らす。

 鮮やかな金髪は日差しを反射して輝きを増している。

 徐々に姿形がはっきりと映し出される。


 これがおとぎ話ならきっとこの場面を、運命の出会い、とでも表すのか。



 残念だがそれは俺が王子で、相手がどこかのお姫様だったらって話だ。

 


 イタリア初日。

 聖ペテロが眠るこの場所で。

 俺は聖剣使いにして、そして『脳筋』として名高い彼女と出会った。

 

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