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「っくそ! なんだお前たちは!」
「私たちは」
「脳筋だよ!」
炸裂する戦塵旋風。
相対するは吸血鬼ガゼフ。
気配を察知してからのマッチ。
俺の予想通り、この男はワイングラス片手に優雅に屋敷でくつろいでいた。
だがしかし。
その優雅ぶち壊し、戦闘突入。
奇襲という俺たちなりの理屈で私術。
「ガゼフ様お下がりください!」
「ここは我らが————」
何処から湧くんだ?
あちらこちらと現れる下級吸血鬼もとい雑魚。
突入にして流れた超級ガロンな血量。
奏音の叫び、渦紋描く死体の山。
「加速強化!」
俺たちの脳筋スタイル。
気遣うことをやめたエイラの動きは、レネと刃交えたあの時とは比べ物にならない。
庇う者も、咎める者も 止める者もいない。
「これでは退屈凌ぎにもならんな」
ザ側近みたいなヤツは圧倒的な剣戟にねじ伏せられる。
屋敷にどでかい穴をあける。
スピードと破壊のハイブリット。
(ガゼフ自身はあんまり動かない、こっちの力量を伺ってる? もしくは消耗戦に持ち込むつもりとか?)
「……っ、我が僕ども!」
ガゼフは動かないと考えたが、そうでもないらしい。
やつの足元、影の中からゾンビ?みたいなのが溢れ出る。
(おそらく元は人間、ガゼフに血を吸われ 忠実なゾンビに変わったってとこか……)
「エイラばっかに働かせちゃ申し訳ないし————」
風を操る。
シンクロする。
ただし、今までのシンクロとは一味違う。
「レネ、合わせてくれ」
『承知』
「飛ぶぞ!銀世界!」
煌めく。
俺の銀に染まった瞳は一層その輝きを増す。
それはトリガー。
かつて、いや数週間前。
俺自身苦しめられた銀世界、あらゆるものを銀に変える能力の発動を意味する。
レネと契約し、同化ともとれる態勢。
神の御代に近しく、その存在は『銀』を戦神と同じく司る。
「大気同調」
切り裂く風を弾く。
雑草をチェーンソーで狩るように。
伐採する。
バッサバッサと首が飛ぶ。
呻きも悲鳴を上げる暇などない。
頭飛びゾンビたちの動きは止まる。
しかし————
「バカめ! そいつらは既に死んでおる! 我が命潰えぬ限り永久不滅の————」
知ってます知ってます。
アンデット、しかも吸血鬼に動かされるゾンビが、首飛ばしたくらいでどうにかなるとは思ってない。
だから————
『銀を司りし風、我が息吹を送ろう。纏え銀色を』
透明な風に変化が訪れる。
銀塵だ。
桜が舞うようにだんだんと。
そして着実に、一瞬で銀の嵐へと、無慈悲なる殺戮の風へと姿を変えていく。
「震え銀色嵐」
さて不死身と称したゾンビたち。
しかし、 それは体内にガゼフからの魔力を送られているからこそ成り立つ。
この風は全てを『銀』へと変える。
血を、 肉を、 思考を、 そして体内に流れる魔力さえも。
「こ、 これは」
「ご自慢のゾンビたち、 立派なオブジェクトになったな」
「一体、 その能力は——」
オブジェクト。
そう称してもいいくらいの出来。
彼らは動かない。
その身を未来永劫、意味合い変え、不滅たる銀へと変えた。
(やっぱレネの力は常軌を逸してるな)
「能力ではない……人の身にしてその圧倒的な神威、貴様一体何者だ……?」
「だから脳筋だって」
「ふざけるのも大概に————」
ビュンと。
銀風ではない、金色の風が横切る。
『終わったようじゃな』
「雑魚の方は片付いたぞ」
「意外と早かったな」
「なにあの程度、 聖剣一振りでぶっ飛んでいったぞ」
「……そりゃ弱すぎるな」
「まったくだ。素振りで勝てた」
一撃がほとんどか。
こっちのゾンビも役無しだし。
あとは本命のガゼフのみとなったが、いかせん大人しい。
いや待てよ……
「もしかしてアンタの吸血鬼としての能力、それって死人を操るってかんじか?」
「…………」
『図星じゃな』
「……そうっぽいな」
あのゾンビがヤツの能力《魔術》だったらしい。
何を言いたいかって?
もちろんレネの力が強力過ぎたこともあるが。
感じるに『この程度か?』ってことだ。
自分で最初、上級魔族とか言ってたが、いくらなんでもおざなりすぎる。
「そういえばユウ、銀の力を使ったのだな」
「練習だ。吸血王までには仕上げときたいから」
「きゅ、吸血王だと?」
エイラへの応答。
掛け合い割るガゼフの驚いた声。
(そうか、一応こいつら吸血鬼の元締め、親玉みたいな存在だもんな)
「そうだ。私たちは吸血王ヴァンダルを倒しに行く」
「……正気か?」
「マジだ。 だけど上級のアンタがこの程度じゃ、少しはハードル下がったかなー」
「な、 なんだと!」
「それとこれもマジな話、アンタ弱すぎたよ」
「————」
弱小。
まるで暗闇に彷徨う子供。
実力と本質を見抜けていない。
これでも日夜レネによる口頭説教手ほどきを受ける俺。
躊躇という選択を捨て、本能全開、ワイルド・ビーストとなったエイラ。
アンマッチ、不成立。
そう見えて、俺たちは成長する不完全な完成体。
感性体を越えた、理屈を捻じ曲げる存在。
「……ヴァンダル様は別格だ。我の比ではない」
「ふーん」
「別格とはどういう意味だ?」
「すんげー強いってこと」
「なるほど!」
別格ってのは果たしてどんぐらいの範囲か。
非常識的か? それとも公式のように安直か?
まあそんな疑問もまた一興。
『もう飽きたのじゃ。さっさと終わろうぞ』
「だな」
レネはこの戦いに飽きたらしい。
まあ確かに一方的で、なんの張り合いもなかったから仕方ない。
戦いの神、闘神としては退屈な内容だったのだろう。
(銀化の力もだいぶ馴れてきたな、でもまだ出来る。まだ上を目指せる————)
「じゃあ最後の引導————」
「聖剣!」
「え?」
紡ぎ出される数多の粒子群。
俺も意識遅れて体感するスピード。
エイラの十八番、ただ速くて、ただ重い、そんな一振りだ。
結果は簡単。
轟という音で半壊だった屋敷は完全に吹っ飛び、ガゼフの肢体が聖剣の光に飲み込まれるのが見える。
「……俺がトドメさそうと思ったんだが」
「使わなかった分の聖剣の力、なんだか発散したくなってな」
「なんだよその安易な理由」
「いわばストレスの解消! 溜め込むのはよくない!」
「力は溜めといていいんだよ……」
今は亡きガゼフ。
この男が支配していた領域には、ここに来るまでにも通ったがいくつか人の町村がある。
当然の如く吸血鬼どもは無差別に、その中から人を摂取していたわけで。
結果的に見れば、俺たちは人助けしたということになる。
(正規の依頼だったらこれで結構な報酬がでるんだろうな……)
上級吸血鬼討伐。
意外と楽。
強いとは言えない相手。
なんでロシア政府はコイツらを放置していたのか?
ご自慢の氷帝もいるんだし、西部戦線が忙しいとか?
(ガゼフの討伐難易度が気になるところだな)
こんなんでも俺S級、エイラSS級。
戦いの申し子。
戦いの脳みそ。
戦闘力に関しては折り紙付きだ。
「今回も派手にやったし、早めにズラかるか」
「そうしよう」
『じゃな』
遠方に停めてあったキャリバーまで移動する。
乗り込んでスタートエンジン。
能力で操るため排気ガスは出ない。
出るのはスピードだ。
「もう結構きただろ?」
『うむ。かなり近づいたのう。おそらく数日で吸血王の城に着こう』
「あと数日か……」
「いよいよだな!」
「ああ、楽しみだよ」
「同じく!」
『じゃのう』
エイラもレネもテンションが高い。
そりゃそうだ。
不完全燃焼。
先行してしまう本能。
「吸血王、本当に楽しみだ————」
壊滅の根城からただよう焦げ臭さ。
つむじ風起こすメタルボディ。
雲切り裂く三日月。
揺らめき直線するバカたちが、純粋と邪悪な笑みを浮かべていた。