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「笑っては殴り~泣いては殴り~殴っても殴り~」
「……なんだその恐ろしい歌は?」
「私が創った『ポジティブ・シンキング』という歌だ」
「あ、そうすか」
ポジティブと謳いつつずっと殴ってんじゃねーか!
と、普通はツッコミ入れてしまう場面。
安心して欲しい。
別に俺の感性がエイラに感化されたというワケじゃない。
もう、慣れました。
『良い歌ではないか』
はいはい。
そうですね。
さてさて運転するのもだいぶ慣れてきたなー
『おい! 無視するでないわ!』
「いや、別に無視してないぞ?」
『しとったわ! せっかく我が話しかけてやっているというのに……』
「いやいや、レネに……感動しちゃってさ、声が出なかったんだよね」
『そうじゃったか! ならば許そう!』
「あざまーす(……チョロイ)」
「なんだ!? エレネーガ様と話しているのか!?」
ピーチクパーチク。
この静閑な大自然とは対極。
一方は真後ろからエイラが、脳内ではレネが。
正直うるさいを通り越してウザいレベルだ。
「そうだよ。エイラの歌最高だってさ」
「なんと! ではもう一曲!」
「いや、とりあえず昼寝するから歌はやめて欲しいそうだ」
「む、ならば子守歌にしよう」
「……子守歌もあるんかい」
こうしてまたもエイラによる脳筋ソングが流れだす。
バイクの風切り音にも負けぬ声量だけはアッパレだよ。
『我は別に昼寝などしとうないぞ』
「そういうことにしてくれ」
『まったく、仕方ないのう』
「あざます。あざます」
エイラの声量のことをネタにしたが、 レネの声は俺の脳内でしか響いていない。
いわゆる某もうひとりの僕、的な?
レネと契約してから3週間くらいたっただろうか、それでようやく俺の中に形を維持することに成功したらしい。
ただし現世での実体化にはもう少し時間がかかるらしく、当分は脳内スピーカーだ。
一見この脳内スピーカーうるさいだけだと思うが、意外に頼りにもなる。
例えば————
『む、魔の者がおる』
「……察知した。結構先にいるな」
『感じる気からして、おそらく吸血鬼じゃ」
いち早い察知能力。
さすが神様、察知に関しても、俺のシンクロによる把握とは規模や質が違う。
もう衛星を積んでるのと一緒。
べた褒めするが、それとは別に————
(ついに吸血鬼、とうとうここまで来たか……)
ここまで野宿重ねて数十日。
数千キロという距離を走ってきた。
そしていよいよ吸血鬼が現れだしたということは、目的地もだいぶ近くなってきたということだろうう。
「エイラ、レネが吸血鬼の気配を見つけた」
「おお! やっと来たか!」
「ああやっとだな。いよいよ本腰入れねーと」
「うむ。気合マックスだ!!」
人数は6体。
相手の実力はというと——
『……気配は下級、雑魚じゃな』
「相手は雑魚だってさ」
「そうか、残念だが仕方あるまい」
「「フルボッコで」」
いち早く相手の力量をレネが見抜く。
彼らはおそらく見張り。
領土境を守っているのかもしれない。
「勝負だぞ」
「今回は俺が勝つ……」
思い出されるはレネに負けたあの日。
あれから俺たちは一層の鍛錬と戦いを繰り返してきた。
神の一撃を目指しひたすらに。
そうして辿り着いたのが————
「止まれ! ここから先はガゼフ様の領土だ! 止まらぬというのならば死ん————」
プッツン。
張り詰めた糸が切れるがごとく。
ナニカを喋っていた者は地に伏せる。
「俺2……」
「私は4だ!」
『今回も聖剣使いの勝ちじゃな』
どっちが多く狩れるか。
数字は明らか、俺の負け。
といっても数の勝負でエイラに勝てたことほとんどないけど。
切断された首から鮮血が飛ぶが、その現象を速さが超越。
一瞬にして通り過ぎる。
守り形無し、相手が悪かったな。
アンタたちじゃ居ても居なくても変わらない。
戦いの日々を送っていく中で、最終的に辿り着いたのは『即興』と『ゴリ押し』
なにか小細工することもなく、自分たちの持ち得る『力』と『技』ですべてをねじ伏せる。
真の連携とは、相方の即興の動きに合わせることによって生まれる、と考えている。
言葉語らず、拳で語る。
名づけるならば脳筋殺法。
「ユウは相変わらず速さが足りないな」
「いや俺はバイク運転してるし、それにエイラだって動きに無駄ありすぎだろ」
「いや、ユウはな————」
「それじゃあお前だって————」
こんなかんじ。
一時期忘れることもあったが、魔王討伐はあくまで目標。
目的は大会に向けての連携強化にあった。
しかし、エイラは頭悪いし、俺もエイラの動きに合わせられない場面もちょいちょいある。
ならば即興。
エイラが赴くままに聖剣ぶん回し、俺は適当にそれにシンクロしていく。
頭によって造られた連携法など、本能が導く連携には遠く及ばない。
「てかあの吸血鬼なんか言ってなかったか?」
「いや私は聞き取れなかった」
「だよな。バイクが早すぎるからか……」
「きっとそうだろう」
『——違うじゃろう。おぬしらの首狩りが早すぎるのじゃよ』
「「なるほど」」
『我の読唇術によれば、ここら一帯はすでに吸血鬼どもの領域らしい』
やはり脳内スピーカーになっても神は神。
シンクロで大気に流れる音を拾うこともできるが、今はこのキャリバー君に同調している。
レネはうるさいが、意外と思いやりもあるのか、困ったときに一言二言助言をくれる。
有能という言葉が相応しい。
『そしてこの領土はガゼフという輩が治めておるようじゃ』
「聞いたことあるような無いような……」」
「ガゼフ?」
「とりあえずは、ここらへんのボス的なやつらしい」
「ボス、ボスか!」
俺たちが縦横無尽に駆け抜けてきた大地。
最初のスタートがロシア東部にギリ入ったぐらいだったはずだから、ガゼフという吸血鬼はロシアの東部中央域を支配しているのだろう。
そしてボスを務めるならば魔族階級は上級、いや最上級クラスだろう。
吸血王ヴァンダルに次ぐ実力はあるのかもしれない。
ならば————
「レネ、そのガゼフって奴の居場所分かるか?」
『ここから数刻東へ、赤く黒い魔力を感じるのう。おそらく道中に根城があろう』
「あんがと。エイラ、意外と近くにガゼフいるってさ」
「ふむ。ならば」
「ああ。行くしかないな」
「「フルボッコだ」」
モンスターバイクKGZ、もといエイラ命名キャリバー君。
こいつの性能が思った以上で旅の進捗状況は非常にいい。
時間の余裕は以前とは比較にならない。
だからこうして強い敵がいれば挑む。
(しかも今回は道中、寄り道する時間もそんなかからないしラッキーだ)
『ユウ、一応銀化の用意もしておくぞ』
「悪いな」
『なに、簡単に死んでもらっては困るからのう、退屈にならない我のためでもある』
「それでも、感謝はしてるよレネ」
『まあ、と、友のためでもあるからの……』
まったくツンデレ最高かよ。
レネもビジュアルは抜群だからな。
なんせ神様だし。
おっと煩悩が出てしまう、感覚を戦いへと向けなければ。
「それじゃあもう少し、もっとスピード上げますか!」
「中ボス退治!」
『我も早く実体が欲しいのう……』
ひと二人に神一柱。
赴くは顔も知らぬガゼフさん。
今頃優雅に生き血でも飲んでるかもしれない。
安心してください。
脳筋たちが今参りますよ。