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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 2 -BURNING Rain on DUO 《ロシアの赤い悪魔》-
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20

 「————本当にありがとうございました」


 龍殺しのはずが、打って変わって神様退治となってしまった今回。

 あの激戦を終えた俺たちはムズカチェン町へと帰還した。

 

 「いやはやこれで安心して暮らせます」

 「ははは……」


 バハムートの亡骸、エレネーガとの対決、そして契約。

 正直にすべてを話せばめんどくさそうな展開間違いなしと考え、俺たちはバハムートの存在、それからエレネー……いやレネのことは黙っていることにした。

 

 「いや倒したのは私たちでは……」

 「はいはいはいエイラは黙ってような」


 エイラはバカが付くほどの正直者。

 喋らないって打ち合わせただろうに。

 シンプルに黒龍族倒しましたでいいんだよ。


 「相変わらず仲がいいですな」

 「うむ!」

 「はあ……」


 町長は可笑しなこと言うなあ。

 俺はエイラの無茶に振り回されてるだけだってのに。


 (でもまあ、コイツが倒れた俺をここまで背負ってきたんだよな……)


 レネとの契約。

 触媒として双眼を渡し意識を失った俺。

 目を覚まさない俺を、エイラはこの町まで背負って山を降りてきたのだ。

 疲労で強化の能力も使えない、生身の身体で。

 エイラ曰く町で俺がおいしいものを食べれば目を覚ますと考えたらしい。

 その心意気はいいが、意識の失った俺が食事ができるわけもないだろうに。


 (……まったくバカなヤツだよ)


 「しかし、ユウ殿の瞳は銀色でしたかな?」

 「—————」

 「討伐の証として頂いた黒龍族の爪も銀化してましたし、能力ですかな?」

 

 俺の黒く染まったソレは、レネとの契約へ銀の双眸へと変化を遂げた。

 俺が外人風、欧米系の顔立ちだったら少しは似合ったかもしれないが、見た目は純日本人。

 自分で言うのもなんだが、黒髪に銀眼は相当目立っていた。


 「……これは、能力の副作用?みたいなかんじです」

 「副作用、めずらしい能力なのですな」

 「え、ええ」

 「いやイエシェフ殿、実はだな……」

 「エイラは大人しくしてような!?」

 

 まったく油断も隙もあったもんじゃない。

 意外とおしゃべりで困りもんだ。


 「ふふ、あなた方を見ていると退屈しませんな」

 「そうであろう!」

 「エイラ、それ誇ることじゃないぞ」

 「……さあ、では約束通り————」


 席を立つイエシェフさん。

 約束。

 忘れてなどいない。

 このために、俺たちは依頼を受けたのだ。


 (内容も見れば、依頼と報酬、ぜんぜん割合合わない気がするけど……)


 外に出る。

 踏み出す。

 静かに現れる。

 

 「おおー」

 「出たな怪物バイク……」


 黒いフォルム。

 疾風迅雷。

 刻まれたGのエンブレムが存在を証明。


 「KGZ-V7、どうぞお使いください」

 

 世界最速の二輪自動車。

 価格、安全性、あらゆる面でめったにお目にかかれない代物。

 これを買うコアなバイク好きがこんなド田舎にいるとはと改めて思う。


 「KGZ……なら略してキャリバーと名づけよう!」

 「いや全然略せてねーよ」

 「いい! キャリバーがカッコいいのだ!」

 「へいへい分かったよ……」

 

 傷なし、汚れ無し。

 エイラ命名『キャリバー』君。

 新風吹く。

 これが門出だ。


 「……でも、本当にいいのか?」

 「?」

 「いや60年分の働きで買ったって話してたからさ……」

 「はっはっは、何度も言いますがこれは報酬、むしろ今回の対価にふさわしいか逆に不安ですよ」

 

 対価にふさわしいかか。

 バハムート、レネ、確かに客観的には割りに合わない。

 でも————


 「十分すぎるくらい。これで旅が大分楽になります」

 「そうだぞ。気負うことは無いのだ」

 「そう言っていただけるなら気が楽になりますな」

 

 爆発的な火力構造。

 速さにして300キロ毎時を優に超える。

 このマシンなら————

 

 「町長」

 「……はい?」

 「俺たちが魔王倒して、やること全部達成したら、新しいバイク持ってくるよ」

 「そ、それは……」

 「うむ。それまでは待っていてくれ」

 

 流石に60年の成果。

 報酬という面で受け取っちゃいるが、俺たちがこの依頼を受けたのはバイク抜き、あくまでこの人の人柄があってこそ。

 熱い思いに感化されてやったに過ぎない。

 

 (魔王討伐、そして選抜で優勝を決めてからかな)


 「本当に、してもらってばかりですな」

 「気にするな。私たちは最強になるのだからな!」

 「この話と最強って全然関係ないぞ……」

 「そうか? いや気にするな!」


 ……まあいい。

 やること一つ終わり。

 上がるケイデンス。

 新たな関係、研ぎ澄ます連携、住み込む銀色。

 ドタバタした凝縮した滞在。


 ここでの時間も、刻々と進む。


 「じゃあ————」

 「うむ————」


 イエシェフさんの話だと、このバイクは元々観賞用、エネルギーとなるガソリンが入っていない。

 もちろんのことここは田舎、ガソリンスタンドなんてものは無い。

 しかし心配ご無用。

 俺の能力は不可能を覆す。

 

 ボディに触れる俺の手。

 青白く輝く。

 ただ違和感がある。

 

 (いつもより調子がいい……これもレネとの契約の影響ってことか?)

 

 そう調子がいいのだ。

 スンナリと。

 青い粒子には若干ながら銀が混ざっている。


 「おお……」

 

 イエシェフさんが感嘆したような声を上げる。

 エイラも同じような反応。

 いつも見ている光景、ただ銀が混ざった星の巡りはより美しい光景を生み出していた。

 

 「……シンクロ完了、いけるぞ」

 

 ガソリンのエンジン内での役割は、簡単に言えば爆発を起こすことだ。

 その爆発の勢いでモーターを回す。

 要はモーターなるものが回ればいいのだ。

 

 (シンクロでの完全操作、自力で回せばガソリン要らず、これ半ば永久機関だな……)


 自分のやっているデタラメさに少し引きつつも、準備は整った。


 「行かれるのですね……」

 「ええ」

 「またいつでも、いつでも来てください。次の時は私たちにできる精一杯の歓迎をいたします」

 「本当か!? では肉、肉をたんまりと用意してく……」

 「はいはい少し静かにしような?」

 「う、うぬ……」


 レザー張る座席へと跨る。

 ハンドルを握る。

 どっしりと重厚。

 

 地図も貰った。

 本目的まで数万キロ。

 でも、このバイク、キャリバー君なら数週間で着く距離だ。


 「じゃあ行きます」

 「世話になった!」

 「はい。お気を付けて————」


 東の彼方。

 ベーリング海。

 鳴らす強烈なエンジン音。

 黒き鋼はその姿を閃光へと変えた————













 「おお! 速い! 速いぞ!」

 「想像以上だなこりゃ……!」


 イエシェフさんとの別れからはたや数時間。

 日が沈みかける中で、俺たちはこのキャリバー君の性能を直に体験していた。

 

 「人が乗るモノじゃないな——」


 軽く生みされる数百キロ。

 シンクロでの精密操作、車体へのエイラによる硬質強化。

 はたやより怪物性を増していた。

 舗装されぬ岩の道、しかしタイヤの硬度はダイヤ並、触れた2輪が地を抉る。


 (普通の人間が運転したら、間違いなく死ぬな……)


 「しかしユウ」

 「なんだ?」

 「エレネーガ様はそれっきりなのか?」

 「ああ……」

 

 エイラの疑問は俺の双眼へと問いかけられる。

 レネを現世に固定維持するために契約をしたこの瞳。

 しかしその代価あるものの、レネの姿はこの世界にはない。


 「瞳の中で眠っているのだったか?」

 「詳しいことは知らないけど、当分は回復に専念するらしい」

 「ユウの瞳の中に居るとは……さすが神!」

 「いやいや流石もなにもねーよ」

 

 要は冬眠みたいなもんだ。

 眠る前のレネの話じゃ1か月くらいは音沙汰無くなるらしく、たまーに脳内で話すくらいの頻度になるらしい。


 (せっかくだ。吸血王との対決前には復活して欲しいんだけど……)


 俺の能力は少なくともレネの『銀』の影響を受けている。

 性能も、性質も、確実に進化している。

 神力なるものも増えてるらしいし、もしかしたらレネの銀化の能力も僅かながら使える可能性がある。

 

 そして今回でなにより進んだのはエイラとの『連携』

 レネへ向かった最期、あの瞬間は、時が止まったと感じるくらい、エイラを傍に感じさせられた。

 

 (あの動きが実践で出来れば……)


 それもこれも、吸血王までには会得したい。

 これでもかというほど不安要素はあるんだから。


 「ユウー……」

 「ん?」

 「腹が減った……」

 「んー、大分進んだし、今日はもうこの辺りで野営するか」

 「よし! そうしよう!」

 

 赤い空。

 その片隅では着々と黒と煌めきの浸食が始まっている。

 あの地平線の彼方にいる強敵。

 それはやっと現実味を帯びてきた。


 「では狩りに行くぞ!」

 「はいよ」


 そういや今回の戦い、派手にやったが特に政府からのアクションは無い。

 手を出す気がないか、はたまた気付いてすらいないか。

 イエシェフさんたちには他言無用といったが、まあいつか漏れるだろう。


 (変に手出しされる前に終わらせたいところだな)


 「ぼやぼやしている暇はないぞ!」

 「わかってるって」

 「夕飯が遅くなるでは無いか……!」

 「はあ……」


 急いじゃいるが、この生活はまだ続く。

 ロシアの山間。

 黒の浸食終わり、星が煌めく中。

 俺たちはまた一歩、最強へと歩みを進めていた。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 銀の能力を得て吸血鬼退治。 実力差をひっくり返せそうな展開ですね。
2022/08/06 21:13 退会済み
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