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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 2 -BURNING Rain on DUO 《ロシアの赤い悪魔》-
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19

 さざ波が揺れる。

 冷たき銀色、熱き黒。

 混ざり合う。

 風が引き荒れ血潮を散らす。

 

 意識が浮上。

 輝く向こう。

 動くは思考。

 さあ行こう。

 




 「————いって」


 目を覚ます。 

 どれほど気を失っていたのか。

 空はすでに黒く染まっている。

 天井には光の流星、星々がギラリと写る。

 

 身体は冷たく、そして重い。

 一方的な激戦の行方。

 傷と大地が語る結末。


 「……俺たちの負けか」


 思ったよりは飛ばされてはいなかったこの場所。

 視界に映るは、暗闇を弾く銀色の龍像。

 俺たちの最終兵器は役目を電灯へと変えていた。

 そして一影、炎を断ち切った、耐え切ったであろう神の姿。


 「ぬ? 目を覚ましたかユウよ」

 「……ああ」

 「聖剣使いの方はまだ寝ておるよ」

 「そうか」


 仁王立ち。

 健在。

 とまでは言わない。

 炎で焼けたのだろう銀浴衣はアチコチが焦げ、その隙間からは美しい肢体が垣間見える。

 

 しかしなぜだ?

 なぜ俺たちは生きている?


 「……何でトドメを刺さなかったんだ?」


 すぐに浮かぶ疑問だ。

 バハムートが耐えられたのなら、俺たちが地に伏してる間に十分殺れたのに。

 エレネーガの話通り、距離が離れてはいるが、地面に頭を突っ込ませたエイラの姿を確認できる。

 

 「なんじゃ、殺した方が良かったかのう?」

 「いやいやいや!」

 「冗談じゃよ」


 おちゃらけさいさい。

 エレネーガにはもう闘志、殺気を感じられない。

 その表情は打って変わって晴れ晴れとしている。


 (戦って満足した、ってことなのか……?)


 「なら————」

 

 当然で必然の質問

 聞く寸で。

 俺の言葉は被さるように断たれる。

 

 「思い出したのじゃよ、昔のことを」


 悟りでもしたかのよう。

 いや神様だから悟りっていう表現はおかしいか。

 しかし、深みある口調。


 「昔のこと?」

 「左様、まあ昔といっても、我からしたらそんなに前でもないんじゃが」

 「は、はあ……」


 よくわかんないな。

 よくわかんないけど、結局のところ『助かった』と思っていいのか?

 戦闘と過去、どう作用したかは謎だけど、エレネーガは満足したようだ。


 「なら俺たちはもうトンズラ————」


 ならばこそ。

 思考は冷静沈着。

 意識はクールに。

 行動は迅速に。


 「待てい!」

 「っ!」

 「ぬしは敗者、対価もなしに帰れるわけなかろう」

 「で、ですよねー……」


 はいはいわかってました。

 タダで帰れるわけがないよな。

 腕? 足? 目ん玉?

 それともこのテンペストか?


 (……さーて、どんな要求が来るんだか)


 「求めるは唯一つ、ユウ、ぬしの命を寄こせ」

 「……はい?」

 「命じゃ」


 「「…………」」

 

 はっはっは。

 ついつい笑っちまうような乾いた内容。


 「ふっざけんな! それじゃあ俺殺されるのと同じじゃん! 自殺? 自殺しろってことか!?」

 

 激しい勢い。

 おいおい神様よ。

 それじゃあ結局俺死んじゃうじゃん。

 

 「必死じゃのう。そんなに死ぬのは嫌か?」

 「嫌だわ!」

 「くっくっく」

 「……何が面白いんだよ」


 コイツもしかして邪神か?

 俺を弄んで遊んでる節があるぞ。

 変更だ変更。

 まさしくサバイブ。

 正しくアライブ。

 

 「……もう少し違ったものにしてくんないか?」

 「違うものか」

 「ああ、 命じゃ死んじまう」

 「ふーむ」


 てかそもそも考えてみれば、 なんで俺の命だけが対価なんだ?

 エイラ忘れられてない?

 そんなツッコミ入れてやりたいとこなんだが。

 

 (下手なこと言って機嫌損ねるかもしれないし……)


 一考したのだろうか?

 意外にも早くエレネーガが口を開く。

 そして紡ぎ出す俺の代償。


 「————ならば、ぬしの人生を貰おう」


 放たれたのは人生。

 銀神の口元は放物線を描いている。

 ハードルダウンよりかはハードルチェンジ。

 

 「じ、人生……?」

 「そうじゃ」


 神ってのはホント理解不能。

 思うぞ、俺の人生なんてコイツらにとってチンケなもんだろ。


 (要は奴隷ってことか?)


 「ユウよ。おぬしの一生を我に捧げよ」

 「…………」

 「なに重く考えるな、おぬしの行いに我がついて行くだけのことよ」

 「……ついて行く?」

 「うむ。おぬしの一生を隣で見る。それだけじゃ」


 勝負に勝っておいての要求。

 てっきりテンペストと聖剣よこせみたいな、もしかして物欲がないのか?

 

 「まあ、死ななくてすむなら……」

 「決まりじゃな」


 決まりよさそうな雰囲気。

 俺にそんな魅力あるか?

 まさか惚れたとか? 

 いやいや、生まれてこの方誰かと付き合ったわけでもないし、さすがにそれは無い。

 この逝かれた神様のことだし、退屈凌ぎってことだろう。

 

 「でもいいのか?俺といてあんまり面白いことないぞ?」

 「愉快かどうか、それを決めるのは我じゃ」

 「……そっすかー」

 「なんじゃいもっと喜べい。この偉大なる我がおぬしの隣にいてやるのじゃから」

 「……これ以上バカは要らないんだけど」

 「ん!? なんと言った!?」

 「いやいや何でもない」


 兎にも角にも死ななくて済むなら。

 ようは俺が死ぬまでついてくるってだけの話。

 守護霊みたいな存在だと考えよう。

 つまりは守護神。

 そう考えれば多少なりとも楽に思える。


 (それに、根は悪いヤツじゃなさそうだ)


 「じゃあ改めて、よろしくエレネーガ」

 「うむ。よろしくされてやろうユウ」


 なんかカオス。

 ドラゴン倒しに来て、神と出会って、ドラゴン使って神を倒そうとして、そして失敗。

 そして————


 「ふと思ったけど、これって友達みたいなかんじ?」

 「と、友じゃと!?」

 「なんかそんな気がして」

 「神たる我と友になろうとは、この不届き者め」

 「いや、その割にはニヤニヤしてるような……」

 「っく、黙れい! 言い忘れたが我が不快になるようなことをしたら、おぬしを殺す!」

 「ええええええ」


 おいおい。

 守護神かと思ったら呪縛霊かよ。

 いやグレードアップして呪縛神か。

 まったくはた迷惑な。

 まあでも今の姿、外傷は思いのほか少なく見えるものの——

 

 「————それで、身体の方は大丈夫なのか?」

 

 エレネーガに溜まるダメージ。

 失ったであろう神力。

 まさか破壊の炎を耐えて無事なわけがない。


 「ほう、気付いておったか」

 「当たり前だろ」

 「……ふむ力はだいぶ失った、全盛の一割ほどしか残ってないのう」

 「結構削ったな……」

 「当たり前じゃろうに、むしろ真正面から受けて生き残れる神の方が少ないわ」

 

 それもそうだ。

 エレネーガ曰く、正面から放たれる一撃を刀一本で弾き返したらしい。

 銀化の一振り。

 それで再びバハムートの息の根を止めたのだから、凄まじいの一言だ。


 「まあしかし、おぬしら程度なら今の我でも十分殺せるがな」

 「……まじか」

 「なんせ我は戦神の最高位、戦いに遅れはとらんよ」

 「へいへいそうすか」

 「む、なんだそのバカにした反応は!?」

 

 そう言いつつも殺気は籠っていない。

 やっぱり神様も独りは退屈なんだろうか?

 そして話してみると意外とおもしろい。


 (頭はエイラほど悪くないけど、なかなか揶揄からかい甲斐のあるヤツだ)


 「それでユウにはひとつ要求がある」

 「さっき唯一つって言ってたじゃん」

 「そうも言ったか。まあ気にするでない」

 「破天荒すぎだろ……」


 今度はなんすか?

 腹減ったとか?

 もしくは黒髪を銀色に染めろとか?

 なんせ銀の神様だし。


 「ぬしと『契約』を結びたい」

 「契約?」

 「我も意外に傷が深くての、 慣れぬ故しばらくは神力の提供パスが欲しいのじゃ」

 「……中身じゃなく、姿見を保つためにってことか」

 「流石察しがいいの、意外に人の姿写しはつらくての」

 

 神様たちは本来、天界なるところにいる。

 天界ってのは人がそう呼んでるだけで、 実際どういうところかは解明されていない。

 ただ、天界から降りてくる神様は必ず人の姿をする。

 これも理由不明だが、エレネーガの話だと外見、自分という概念をこの地上に定着させることが案外戦いよりも難しいらしい。


 「まあそれぐらいならいいけど、俺に神力なんてあるのか?」

 「無論。信仰心無いぬしだろうと、命あるものなら等しく神力を持っておる」

 「……じゃあエイラの方が神力持ってそうなもんだけど」

 「いや、ユウと聖剣使い、さして差はないのう」

 「へー」

 「むしろ逆、我と繋がることで、神力の上限は爆発的に上がるじゃろう」


 聖剣使ってるぐらいだし差があるもんだと思った。

 しかも俺神殺しの槍もってるし。

 まあエレネーガが問題無いって言うなら問題無いんだろう。

 逆に言うところじゃ、俺の神力はかなり上がるらしい。

 兎に角、素人の俺が口出ししても仕方ない。

 エレネーガに任せることにしよう。


 「では早速、契約を始める————」

 

 早くも取り掛かる。

 ブツブツと何かを唱えるエレネーガ。

 聞き取れない単語。

 きっと人間界にはない、神様独自の言語なんだろう。


 「言い忘れておったが、契約する上で触媒になるものが必要となる」

 「触媒?」

 「身体の部位、何処かじゃ」

 「……え?」

 「腕か? 足か? 我のおすすめは瞳なんじゃが」

 「瞳ってそれ、目ん玉じゃ……」

 

 え?

 結局?

 結局なんかあげるんかい。

 お願い何個目だよ。

 これ最初の俺の予想当たっちゃってるよ。

 まじで勘弁して欲しいんだけど————


 (エレネーガの反応見るに、もう寄こせってかんじか……)

 

 痛みは慣れている。

 これもまた神に挑んだ代償か。

 

 「……じゃあおすすめの目ん玉で」

 「安心せい。痛みはあるがすぐに治る。瞳の色が銀に変わるだけじゃ」

 「簡単に言ってくれるな……」

 

 ようは両目くり抜いて銀眼に置き換える。

 拷問かよ……

 せっかく痛いのは戦闘だけで済んだと思ってたのに。


 「————契りをここに。触媒は双眼。授けるは銀の力」


 「————汝は我、我は汝、銀を愛し、戦に生きる」


 「————神に捧げよ」


 瞬間に動くエレネーガの両の手。

 わかる。

 俺の双眼に向かう美しく煌びやかな手。

 抉られる。

 血が舞うであろう時、脳に響く。


 「我のことはこれから『レネ』と呼べ。それが友が呼ぶときの仇名じゃ」


 (————結局友達じゃんか。レネか、良い渾名、これを付けたが昔の……)


 強制終了。

 思考は止まる。

 鮮血が舞う。

 十数年付き添ってきたこの身体。

 変化する。

 神の御代。

 約束された叫び。



 

 訪れる二度目のブラックアウト。

 今度起き上がる時。

 俺が見る空、はたして青く映るのだろうか? 

 

 

  

 


 

 

 

 

 


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