17
「——ふふふ。 お主の剣は乱暴この上ない」
「——それが私の持ち味なのです」
大地は抉れ。
風は悲鳴を上げる。
血と肉が舞い。
地上を戦へと変える。
かくして神との戦いは驚くほど簡単に始まった。
白銀の神エレネーガ。
神代でも指折りの実力者。
神って言ったら大体の奴は上で黄昏ているらしいが——
(よりにもよって闘神だもんな……)
闘神と言えば戦を好む狂信性。
もたらすものと言えば災いぐらいか。
まさしく人類にとっての疫病神。
「——まったくアヤツも面白い人間に聖剣を与えたものだ」
「……っ」
ここものの数分で数千手。
エレネーガとエイラの鍔競り合い。
剣と刀が交じり合う。
聖剣からは輝く光が、銀刀からは雪にも映える透明な粒子が。
お互いの能力対抗によって起こされる眩き。
エレネーガは力技共に卓越している。
人間界で圧倒的な力を持つエイラでさえエレネーガには遠く及ばない。
——ただ、それは1人だったらって話だ。
「大地同調!」
「ぬ?」
大地と同調。
星が巡るように、周り一帯が青い光に包まれる。
それすなわち支配にして基体。
自然に、魂が宿る。
「人を成せ」
俺の言葉で地は形を変える。
土は人を模す。
魔族ともとれる大きな図体で。
ところどころに尖りのある。
まさしく土人形。
「小僧は土を操る能力か」
「……さあ、 どうだろうな」
数にして20。
普段はこんな造ることもないが特大サービス。
(といっても数秒の時間稼ぎにしかならないだろうけど……)
動き出すゴーレム達。
重さにして1体あたり3トンといったところ。
普通乗用車くらいはある。
ただ見た目にそぐわず動きは俊敏だ。
質量の大群。
迫っていく土の弾丸。
「他愛ないな」
白銀刀は摩訶不思議。
一刀。
俺からしたらそんな早くもない。
下にストンと振りかざした、それだけだ。
それだけなのに——
「……やっぱ神ってのはチートだろ」
原初への回帰。
ゴーレム20体は何のために造り出されたのか理解する暇もなく、 元の大地へと帰っていった。
呆気なく。
だがゴーレム達には悪いがこれは時間稼ぎ。
瞬間の出来事に見えるが、おかげで2秒稼げた。
「エイラ! 下がれ!」
「——!」
2秒で十分。
彼女らの剣戟はゴーレムの進撃で中断された。
それだけあればエイラの後退が可能になる。
俺が介入するまでの間、1オン1、ずっと戦っていた。
こっちの準備もだいぶ進んだ。
俺の入り時だろう。
ここからは2オン1といこうか。
「俺が前に出る。ホーミング頼む」
「……心得たぞ」
エイラとの戦いを見る限り、ヤツは遊んでる。
本気どころか半分出してるかも怪しいところだろう。
それでいてエイラがだいぶ消耗してる。
いかに怪物か。
(『あれ』が完成しなきゃ勝ち目ゼロ、今は耐えるが一択)
「大気同調」
大気と同調。
この空間は今俺となった。
気流を変える。
足への風を集中転化。
速度を上げる。
ロウからのオーバートップ。
神速へのシフトチェンジ。
「……風が流れている?」
「さあ行くぞ神様。二回戦目スタートだ」
いわばエイラの一回戦は様子見。
まあこいつの馬鹿みたいな体力あってこそだけど。
「出番だ。とびきりの頼むぞ」
テンペストは応える。
この槍には意志がある。
シンクロという能力故なのか。
そう感じるんだ。
さて白銀刀に俺とこの槍はどこまで通用するか。
「——土の使い手かと思ったが、まさか風も操れるとはのう」
「多才なもんでね」
「っほっほっほ。まさに奇怪、おもしろい」
「じゃあ、行くぞ」
音を置き去りにする。
電光石火。
俺の踏み込んだ地は割れ、圧倒的な瞬発を生む。
「……穿て! テンペスト!」
一撃。
口頭発動による槍の神滅事象が発動し、あらゆる神性を殺す。
槍には黒き銀の魔力が纏わる。
そしてスピード。
シンクロ加速による風変流で一度でマッハ3をたたき出す。
「ぬお!」
俺は瞬間でエレネーガの間合いに入った。
流石に驚いた声を上げている。
早すぎるが故、スローモーションのように停滞する時間。
一閃。
しかし、導き出すのは、鋼の悲鳴―—
「っげ! これ受けるんかい!」
ギリギリ!?
エレネーガは寸でで刀を合わせてきた。
これ初見で破るとか……
やっぱ格が違うってことか、それじゃあ得意じゃないけど——
「たまには泥臭くやりますか!」
必殺を交わされ、すぐにキレイに捌かれる槍身。
エイラの追撃も加わるが、前の戦闘での消耗が原因か、キレが足りない。
やはりここは俺が7割、エイラは回復だな。
槍は反されるが、黙っちゃいない。
両手に握った槍をある種曲芸のように操る。
これはテンペストに刻まれた戦いの動き。
そして迫るはエレネーガの神速。
大胆に、美しく、ときに荒波のように、流れる銀刀銀髪。
交えるごとに、火花にも似た魔力の粒子が生まれる。
だが戦闘は意志あるテンペストの領分。
体は勝手に動く。
なら俺は——
「血液同調!」
雪空に星が巡る。
青き輝きはそこに染み入る魔族の鮮血、 血液に伝わる。
真っ赤な太陽に月が現れるが如し。
「撃ち抜け!」
血液は鋭く伸びる。
これいわゆる血の弾頭。
即興マシンガン。
即効が最短。
だが————
「遅いのう」
弾く。
弾いて弾いて弾く。
テンペストをいなしながらも、その動きは正確。
まあでも————
(エイラ、あとどれくらいかかる!?)
(あと5分、いや3分くれ)
(……了解)
この間にもアイコンタクトが交わせた。
エイラ完全復帰まで3分。
そうすりゃこの2オン1の見栄えもだいぶ良くなるだろうな。
いまは俺は全受け、この形成上しょうがないけど。
そんな思考しちゃいるが、もう目の前を刀が通りすぎてる状態。
テンペストに戦闘を任せちゃいるが、そろそろボロが出始める。
見た感じじゃ弾丸も見切られてるし。
「おぬしの能力、それは全能かの?」
剣戟は続いている。
俺の服が少しずつ裂け、少しずつ傷が生まれ、少しずつ迫っている時に。
神は問いかける。
「……全能?」
「地を、天を、水をも操る。けったいな能力思うてな」
「神様に褒められるとは嬉しい限りだ」
「ふふ。神など信じておらんくせによく言うわ」
軽口叩いちゃいるがヤバい。
ヤバいぞ。
エイラに3分ぐらい耐えれるってアイコンタクトしたが、これキツイかも。
(本命の方もまだ仕上がってない。こりゃあテンペストの——)
「そろそろ本腰入れてくかのう」
「っな!」
このタイミングで!?
マズいって勘弁してくれよ。
もうキツイです。
「女はまだのようだし、小僧がどこまで来れるか楽しみじゃ」
「まじかい……」
エレネーガのプレッシャーが増すのが感じ取れる。
しかもだ。
彼女はまだ刀しか使っていない。
そう、 能力を使っていないんだ。
これから垣間見るのが本物。
圧倒的な力だ。
押しつぶされる。
なぎ倒される。
仕方ない。
分かりきっていたこと。
だから最初に言った。
『全力』で行くって。
一刻も早く目的地に行きたいってのに、 これ使えば当分は動けない。
(イタリアで、エイラとの一戦以来、まあやれることやるしかない)
「神様」
「なんじゃ」
「俺は、四道 夕って名前があるんだ」
「ん?」
「小僧って呼ぶなってことだよバーカ!」
「…………」
もうなんでもいい。
あと少し。
どんな手段を使ってでも生き延びる。
時間の経過。
残された手立ては少ない。
「……そうか、そうか、我に正面から物申すか」
「そうだ。だからアンタのことも様はつけない。エレネーガで十分だ」
「……っふっふっふ。こんな豪胆なヤツがまだいようとはな」
いいぞ。
なんかよくわかんないけどエレネーガがしろらしい空気を纏いだしてる。
このタイミングになって剣戟も止んだし。
実際エイラは今、現在進行形で何重もの強化を行っている。
刹那の時とはいえ、神に近しい存在へと昇華できるだろう。
(『アレ』もあと、あと少しなんだ……)
「ではユウ、共に死地へと参ろうぞ」
感慨タイムも終了。
ここまでで、 意外とコイツは悪い奴じゃないのかもしれない。
ただバトルジャンキーというだけで。
「————私を忘れてもらってはこまる」
思考を移行。
やっとだ。
ようやく1つ準備が整った。
まったくこんなに回復、強化させてやったんだ、その分の働きはしてもらわなくちゃな。
「……おせーよ」
「すまない。ただ、待たせた成果はある——」
久しぶりにも感じるエイラの登場。
右手には——
「めっちゃピカピカしてるな」
「ああ。暴れたくてうずうずしているところだ」
聖剣はかつてないほどにその存在感を放つ。
輝いてはいるが、ここまで闘気や殺気を含んでいると最早魔剣レベルじゃないか?
「エレネーガ、待たせたな」
「無用な気遣いじゃ」
エレネーガは遊んでる節もあって、若干、というかエイラがこの状態になるまで見逃していたと思う。
それで俺に攻撃が集中したが、おかげでスーパーエイラとなってこいつは帰ってきた。
ここからが本命。
エイラ全攻めの後続俺。
「——真開闢強化!」
「——テンペスト・シンクロ」
聖剣の完全開放。
テンペストと同調。
俺達は新たなステージへ。
神の世界に一歩、足を踏み入れる。
第三ラウンド、開始だ。