150.5 with AFTER STORY
確認できる人類史において最も苛烈を極めた戦い、裁定者戦から14年と少し。
世間にとっては少し昔話のようになってきている。
それでも魔王や魔族、悪戯な神が自分たちにとって悪事を働くことは変わらない。
今の世も能力者がその最前線で戦いの日々を過ごす時代だ。
「お父さーん! こんなの見つけたー!」
ただ俺はといえば戦線どころかこうして家にいる。
これでも教師になったんだ。
まあ緊急時には戦いに行くっていう条件付きだけど。
住まうはイタリア、現在は母校であるセント・テレーネ学園で教鞭を振るっている。
こうして寛いでいられるのも非番だからこそ。
「ねえねえ、聞いてるの?」
「聞いてるよ」
今年で11歳になる娘のアイラ、外見はまんまアイツと一緒。瞳が若干銀色ぐらいなものだ。
ただ周りからすれば性格は俺に似ているんだそう。
まあ純度100パーセントの脳筋にはならなくて良かったよ。
学校でアホな発言もしてないようだし、お父さんは一安心だ。
腰かけるソファー、アイラが隣に座って1枚の写真を見せてくる。
その瞳はキラキラ、まるで宝物でも見つけたようで————
「あの時の集合写真……、懐かしいな……」
「お父さん若いね」
「そりゃ10年以上前だからなあ」
「お母さんも若い!」
娘の視線の先は裁定者に挑む前に撮った記念写真。
タンスの結構奥に仕舞っていたんだが、どうやら掘り出してきたらしい。
「こっちもカッコいいけど、私は今のお父さんの方が好きだよ」
「アイラ……!」
なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。
親バカと呼ばれてもいい、アイラは俺の愛娘である。
「なんだか面白そうな話をしているな」
「あ! お母さん!」
「お帰りー」
「ただいま。今日は色々安くて買いすぎてしまった」
チラリと後方を見ると食材の山が。
文字通り山積み、三人家族には多すぎる量、に見える。
(我が家はちょっと特殊だからなあ……)
いかんせん俺以外が良く食べる。
もはや親子でフードファイターになれるレベルだ。
もちろん俺はセコンドで。
閑話休題、買いすぎた食材だが今日はそれで良かったかも。
2人がよく食べるということもあるが————
「さっき連絡あったんだけど、今日は師匠とレネも夕飯食べにくるって」
「ほう、なら頑張って夕飯を作らないとな」
「私も手伝う!」
「ああ。一緒にお料理だ」
「うん!」
本当によく成長したよ。
結婚して2人で暮らし始めた頃なんか危なっかしくて台所に立たせられなかった。
なにせ食材を聖剣で調理しようとしたぐらい。
今ではちゃんと美味しいご飯を作ってくれるけど。
むしろ食へのこだわりは相当、料理は完全に任せている。
「ん、この写真は……」
「私が見つけたんだよ!」
ソファーに腰かけ、俺、アイラに続いて3人で座る。
中央はには娘が鎮座、俺たちで挟むような構図に。
そして話題になるのはその集合写真。
そこには自分を含め10人が映る、懐かしい顔ぶれだ。
「この時からお父さんとお母さんはラブラブしてたの?」
「ら、ラブラブ……?」
「うん。昔はラブラブしすぎてニュースにもなったって学校の先生が言ってた」
「「……」」
まあ否定することじゃないのは分かっている。
それでもいざ言われると恥ずかしいもんだ。
というか先生は何を教えてるんだ、まあ確かに今でもラブラブはしてますけど。
「良いなぁお母さんは」
「ん?」
「だってお父さんがいるんだもん。私もラブラブする相手が欲しい」
「っぐは!」
「だ、大丈夫か?」
「ダメージが重すぎる……」
まさか娘の口からそんなことを聞くことになるとは。
これが父親の気持ち、裁定者よりもある意味重い。
「心配しなくても大丈夫。すぐに見つかるさ」
「ほんとに?」
「ホントにホント。お母さんみたいな脳筋を好きになってくれる人もいるんだ。アイラにもきっと運命の相手が現れる」
「そうかなぁ……」
「む、むしろ一生独身でも良いんだぞ。お父さん貯金は沢山あるから……」
「はいはい、自分の考えを娘に押し付けるな」
まったく、大人な発言をするようになったな。
こんなに可愛い娘、俺はそんな割り切れないよ。
「あ、そうだ! 今日学校で分からないところがあったの!」
「宿題かい? 教えてあげるよ」
「うん! 部屋に行って取ってくる!」
天真爛漫、正直自分にはあまり似てないと思ってるんだけどな。
ただここぞという時に言う一言がまさに俺らしい。
周囲は俺をどんな目で見ているんだか。
アイラはソファーを元気よく飛び出し、2階にある自室へと走っていく。
残されたのは俺と————
「ラブラブ、か」
「傍から見たらそうなんだろうな」
「だが否定はしないだろ?」
「むしろ肯定する」
アイラが居なくなったことで空く隙間。
そこで自分の右手と相手の右手が重なり合う。
「————なあ、エイラ」
何度呼んだかその名を。
自然と重ねた手がとても温かい。
「ん? どうしたユウ?」
「俺は、お前と出会えて良かったよ」
こうして幸せな日々を送れている。
可愛い娘、信頼しか出来ない妻、周りも良い人ばかりだ。
それもこれも全て、エイラと邂逅、そしてタッグを組んだ時から始まった。
「またプロポーズか?」
「ははは、確かにそう聞こえるか」
「なら私も同じ、ユウとこうしている時間が一番幸せだ」
絡みつく指と指、自然とそのまま寄り添う形に。
視線もエイラの方に向く。
段々と縮まっていく眼と眼の距離、そのまま————
「あー! またチューしようとしてるー!」
「「っアイラ!?」」
ドタドタと走り何時もの定位置、俺とエイラの間にすっぽり収まる。
表情から察するにヤキモチだろう。
軽く頬を膨らませてムスッとしている。
「まったく……」
エイラはやれやれと笑いつつもアイラの頬に軽いキスを。
その様相は母と娘で間違いない。
言動行動共にかなり丸くなったし、本当に1人の母親として成長している。
ただエイラだけではアイラの機嫌は治らない。
「……」
「ほら、ユウも」
「はいはい、まあ愛する娘になら幾らでもチューでき————」
ただアイラは狙っていたとばかり、頬にキスするはずが唐突に顔を動かし口と口を合わせてくる。
引っかけられた。
普通にキスしてしまっている。
「えへへへー」
「こりゃ一杯食わされた。なあエイラ、さん……?」
別に今日が初めてじゃない。
なにせ将来はお父さんと結婚すると言うぐらい。
一応で言っておくがアイラのファーストキスは俺ではなくエイラだ。
世間的にはそれで良かったのだろう。
ただこの光景をすぐ近くで見ていたエイラは怒りの闘気を放ち出す。
「ズルいぞアイラ!」
「そんなことない! お母さんは毎日ずーっとしてるじゃん!」
「ずっとじゃない! 1日10回ぐらいだ!」
「もっとしてるよ! お母さんのバカ!」
「ば、バカ!?」
「もういいもん! お父さんは私と結婚するもん!」
「っな! ユウと真に愛するのはこの私だけなん————」
割愛、エイラとアウラはいつも通り口喧嘩を繰り広げる。
あと5分もすれば仲直りが始まるまでが恒例。
(まったく、楽しい家族を持ったよ)
騒がしいけど毎日が凄く充実している。
家族の笑顔を見るだけでも働く甲斐があるってもんだ。
「ユウ! お前からも言ってくれ!」
「お父さん! 私のこと好きだよね!?」
こうして板挟みになる時も多いけど。
それでもやっぱり今が一番いい。
「言わずもがな。どっちも愛してるよ」
神か仏か誰のお陰かは分からない、ただこの運命のめぐり合わせに感謝する。
聖剣使う美少女(脳筋)が相棒、そう打った題目にも終止符を。
俺たちは相棒からスタート、今だってそれは変わらない。
だが今の関係を鑑みて敢えて言い換える。
脳筋だけど世界一可愛くて強いエイラ、そんな彼女が俺の嫁です。
そして一生を掛けて家族を守り愛すること誓います。
なんだかゴチャゴチャした題目になったな。
だけどこんな脳筋が考えたみたいなタイトルも、俺たちのストーリーにはピッタリだろうさ————