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『っ転移魔法!』
裁定者の本領、了解を得るはずも無く一刀両断に向かう。
エイラの首元、薄皮一枚まで巨剣は辿り着く。
だがしかしウィッチのマジック、急ピッチでスイッチ、死地から脱却。
師匠が転移魔法を寸前で発動し、エイラの身を俺の隣まで一気にもってくる。
「あ、あぶなかったぞ!」
「あとコンマ数秒遅かったら首が落ちてたな」
「うむ! どうやらここからが本番らしい!」
強化同調の恩恵は幾つも、強化を共有するだけでなく、あらゆる感情思考をリンクさせる。
この身にはレネや師匠も潜っている状態。
繋がっている形は直列、エイラの危機感と視界は刹那の瞬間で伝達。
こうやって最善手を撃つことが出来る。
(にしてもなんて威圧感だよ……!)
鋼の大地は拉げ、大気は騒めきを、まるで星自体が悲鳴を上げているよう。
能力に意思はないだろうが、同調の青光も心なしか揺らいでいる。
軽口を叩く余裕なんてない、ビリビリと緊張が身体を走っていく。
「星、終わりだ」
「なんだよ、もう柱が爆発するってか?」
「否、我がお前たちを裁定す」
普通に否って言っちゃってるし。
この空気に流されそうになるが、柱の星爆破までは猶予がありそう。
奴が言いたいのは、つまるとこお俺たちをぶっ潰す。
文字通り殺して、障害は取っ払うってこと。
「それは私たちも同じだ」
「おうよ」
裁定者が障害なのは人類にとっても。
だが向こうもいよいよ本気、能力かなんなのか、謎の白光が奴の身体に纏わりついている。
オーラ、と単純かつ抽象的に考えるわけにも。
前回で垣間見ることのできなかった、裁定者の能力が遂に。
「ユウ! 行く————」
何時もみたいに引っ張って行こうとするエイラ。
しかし瞬く間に、呼吸をする間もなく相棒が吹っ飛ぶ。
強化同調で察知、エイラの胴に裁定者の掌底が打ち込まれたのだ。
激しい音と衝撃波、視界の端には既に裁定者が居た。
もう俺も殺やられたんじゃないかと錯覚するほどの超感覚。
『壁天魔法!』
『神力流す! 四肢の操作を我に譲れ!』
俺の意識よりも早く、レネと師匠が動いてくれる。
また共有してはいるが痛みは耐えられるレベル。
どうやらエイラもただやられるだけでなく、掌底を喰らう寸前で強化を重ねたよう。
交差する距離2メートル弱、その両手剣はすぐに俺にも迫ってくる。
狂い狂った最強性能、絶対とも呼べるソレとの間に魔法で壁を。
しかし紙を破るみたいに突破される、ただその間にも四肢の操作はレネに一任、脳みそ縮まるくらいの近距離戦を描き出す。
「銀刀!」
「裁定」
全身は強化魔法と神力のフルアーマー。
飛んでくる剣は刀が流す。
空振った奴の攻撃は容易く地を破壊、というよりかは消滅させる。
疑似的に神化した俺、レネの技を全面に繰り出し対抗、師匠も上手いことバックアップしてくれる。
「1人、ではないな」
「頼りになる仲間が沢山いるんだよ!」
「関係、ない」
刃を走らせ一万里、四次元へと到達する至りの剣戟。
スターダスト級の速度、即刀即答、ラスト大一番の大勝負だ。
魔法が炎を生み、銀が自由に謳う。
力を持ちつつも無機質な裁定者とは違う、戦ってきた歳月で得た攻撃、急所という急所を攻める戦略性、戦略AIより過激かる大胆に。
センチメンタルにはならず、メンタルはメタルコーティング、うだつ上がらない死合いに見出すクリティカルヒット。
(それでもやっぱ強すぎるな……!)
ありとあらゆる手を駆使、千手観音をも凌駕する無数の技と技。
それを繋ぐ同調と魔法、魔の風も吹き死のダンスに拍車を掛ける。
苛烈極める東西南北、吹き付ける北風に押される太陽、だが俺は太陽を支える空の青さ、すぐに————
「強化ドロップキック!」
打ち合いから一転、すぐさまスイッチ、紙一重で背後からくるエイラの突っ込みを回避する。
太陽到着、着火する魂、むしろ燃えすぎているくらい。
プロセス飛ばしたプロレス技、魅せるんじゃなくて見出すために。
裁定者にお返しとばかりに強化されたエイラの脚が突き刺さる。
出る杭は打たれるかもしれない、ただ打たれて貫通、裏側からまた舞い戻れる。
「なかなか効いたぞ! アバラ1、2本折れたな!」
「ったく、痛みが俺まで来るってのに……」
「にしても良い動きだなユウ、エレネーガ様か?」
「そうじゃよ、って頭まで支配するなよ」
根性と力は絶え間なく、泣く泣く来たわけじゃなし。
構えた両手両足両人、生んでくれた両親に感謝。
俺たちは此処に立つことが出来ている。
(ユウ、正直やばいぞ)
(分かってる)
(動きが半分も見えん。殆ど直感で行くしかない)
(レネやエイラよりも速いか、厄介だな……)
エイラが吹っ飛んだのは不意打ちもあったが、正確には正確に見切れなかったことに所以する。
気付いたら飛んでいた、そういう感覚だ。
裁定者の本気、一連のやり取りに危機感はそこまで感じないという輩もいるかもしれないが、俺たちからしてみればそれは絶対にありえない。
(だってさ、脚震えてるもん)
頼れる仲間がいながらも、身体は正直だ。
今更死を目の前に怯えてしまっている。
泣きそうだよホント、生物の域を超えたやつが相手。
あまりに高すぎてテッペンが見えない壁、一体これをどう飛び越えればいいんだ————
「裁定」
敵も待ってくれるわけではなし。
気付けば奴が目の前に、高速下、次元の違うスピードに拘束化される。
巨剣は防げても、繰り出される手足が身体を穿つ。
それはもはや武ではなく刃、あらゆる音を置き去りにし叩き込んでくる。
「っつ!」
「ユウ!」
鮮血が飛び交い、空気中で俺とエイラの血液が混じるほど。
生まれる数多の傷にお互いの血が被り合う。
ここからはまさしく地獄だった。
現世でありながら真っ赤なフィールド、俺たちの全てが両断され身体にまで届く。
ドクドク脈打つ鼓動は躍動を越え静寂にも。
振り切ったテンションのメーターもある意味では故障へと姿を変えていく。
『回復魔法が追いつかない! 銀神!』
『我だって全力なんじゃ!』
押され押され、土俵の隅まで追いやられる。
横綱じゃなくてブルドーザー、重機と相撲を取っているみたい。
普通に考えれば勝ちはあり得ない。
現に俺たちはボコボコのタコ殴り状態、招待される一方的な武道会、というよりは見せしめの舞踏会。
いつの間にかくの字に折れている身体、またも一発喰ら————
「超・爆・発!」
俺ごと包む勢いの炎の爆弾、野太い男の声がこだまする。
フルスロットル、息をつかせぬ間に裁定者は爆、爆、爆、何もない所から敵対者に爆発を起こしていく。
「クラーク……!」
「待たせたな2人とも!」
一方通行の戦場に一報、歩く核弾頭のお出ましだ。
もう同調の範囲が狭まっており、感知は出来なかったが、おそらく似非裁定者は倒したということだろう。
ただクラークが現れたところで変わりなし、何事もないように裁定者は怒涛の攻撃を再開する。
「————後転」
「————鎖!」
だが何故か裁定者は後退、まるでビデオの逆再生ばりの精密な動きで。
そしてすかさず駆け巡る鎖の波、鈍ったその動きに追い打ちをかける。
「はあ、ようやく合流です」
「随分待たせちゃったね」
「お前ら……!」
シルヴィとヨーゼフも到着。
これでメンバーの5人が集合、ただ喜んでばかりもいられない。
「————無駄」
ヨーゼフのくさりは数秒止めただけで簡単に引き千切られる。
裁定者は止まらない、数の力に染まらない。
意に介せず、自らの威を掲げ突き進む。
「聞いた以上のチートっぷりだね」
「まじで何にも効かないぞ」
「なら効くまで殴ればいい!」
「同意だな」
「お付き合いします」
ボロボロのボロ雑巾スタイルの俺とエイラには頼れる仲間がいる。
ボロを見せたって構わない、その代わりソロじゃなくてマルチに。
真打見せる彩り幕ノ内の手腕、クラーク、シルヴィ、ヨーゼフも加えて1対5で殺しに掛かる。
「————四次元方向」
改めて、仕切り直したバトルフィールド。
先生が教えてくれないえげつな戦法、先制打は此方から。
誰が何を言うまでも無くシルヴィが周囲一体の方向を支配する。
そして応答するまもなく勝手に飛ばされる。
移動という過程を切り取り、その首を狩り取り、人工断頭台が征く。
「僕が初撃かなっ!」
ヨーゼフのの能力本領発揮、大地が隆起、下から鎖が植物のように生えてくる。
数千数万、輪と輪が紡がれた一本線が数多、触手のようにウネリ先行する。
「聖剣!」
「拡散爆破!」
「同調!」
後続続投、俗世に落とす殴り書きのストーリー。
脱ぎ捨てた心の防弾チョッキ、突貫工事でもこれが俺たちのやり方かまし方。
皆伝した技も自力で改伝。
これまでのこと全部礎、脈打つ鼓動、原点回帰で吹き付ける。
復活打倒の狼煙。
ノーキンズ・ブレイク・ハート、人類からの真風。