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鋼のビート上、剣や異能が針となってリズムを刻む。
衝撃として鳴り響くスクラッチ、すぐ察知、すぐパンチ、瞬間と瞬間を紡ぐ武闘の境地だ。
「同調!」
大気、大地、能力、全てが全て支配下に。
俺の手の平で躍るマリオネットのよう。
常に状況把握を、自分が起点となり最善の手へと繋げる。
「聖剣使い、裁く」
「それは私の台詞だ!」
始めた当初に比べれば、戦況の優位はほぼこちら側に。
サシで当たっていた裁定者のうち、既に俺が対戦していた似非裁定者は銀に変えた。
まあそれも戦神であるレネと師匠の力を借りたからであって、当然と言えば当然のオチだ。
(これでサポートに回れるってわけだ……!)
己が駆使できることを最大限に。
ただサシはサシ、あくまで皆の邪魔にならないギリギリの範囲で加勢をする。
脳内では常に8体8パターンの戦闘がシミュレーションされている。
やはりその中で最も難関なのが裁定者本体。
しかし最も気兼ねなく加勢出来るのもエイラだ。
「ユウ! ガードを砕け!」
「簡単に言うなよ!」
前見たいに置いてはいかれない。
速度は同調済み、さらに言えば強化能力に強化魔法も使用している。
まさに大気を切り裂く疾走と抜刀、黄金の剣と白銀の刀が軌跡を描く。
ただ相手も流石、エイラの言う通り9割の攻撃はその握った両手剣に弾かれる。
ガードを崩してと言われても、まぐれで一瞬隙間を作れるかどうか。
『まだ秘密の箱は使わないのよね?』
『そうじゃろう。まだ中盤じゃ』
「ああ! タイミングは選んでる、っつもり!」
『とりあえずこのまま魔法は散らしていきましょう』
『銀刀の方もガンガン神力流すぞい!』
流れてくる思考はエイラだけじゃない。
この身に潜むは戦神と魔女王、俺1人では全て察せても、全てに干渉することは叶わない。
だからシンクロで周囲を察知、情報を伝達、間があれば師匠が自動的に魔法を放ってくれる。
レネもレネであらゆる戦術タクティスとセンスを伝授、伝説級に届く一刀一刀。
「っく! 頭がこんがらがるぞ!」
「お前は突っ込めば関係ない! 後ろは俺に任せて、余計なことは忘れちまえ!」
「……そうだな! その通りだ!」
強化同調をしているだけあり、俺にきた莫大な情報は余すことなくエイラに伝わる。
剣戟をしつつ苦い表情を浮かべたのは裁定者が原因だからではない。
難しい算数が出来るかも怪しいエイラ、難しいことは考えるな。
周囲が周知、承知していることもコイツには無用、価値ある情報もただの雑音として聞き流してもらう。
「ヨンミチ・ユウ、やはり我らの前に立つ」
「そりゃまだ生きたいんでな!」
「惜しい、存在だ」
少しずつ押していく戦況。
少しずつ鮮明になっていく会話。
裁定裁定と言っているだけじゃない、奴の口数と喋りは円滑に。
ただそれをふっ飛ばすぐらいのハイセンス、エイラを超える超剛腕。
先頭をきるエイラに生まれるピンチ、スイッチして銀刀を入れるが重すぎて腕が折れそう。
「私はエイラ・X・フォードだ!」
「……聖剣使い」
「エイラだ!」
「聖剣使い」
「っく! なんでユウだけ呼び捨なんてだ!」
お怒りエイラ、というか呼ばれなくて悔しいらしい。
曰く俺と同じ位置にいたいとか、ありがとう心では伝わっている。
それでも走る聖剣の勢いは衰えない。
相対者の剣と火花を散らし、大地と大気を抉る、その様相は修羅の如く。
身体は容易に舞い、重力という概念を放棄、正気じゃないバトルシーン。
まるでフィクション映画、布団で見る夢よりぶっ飛んでいる。
(もう魔法も追いつかねえな……!)
動きが早すぎて殆ど無駄撃ちに。
だったらアレに魔力を集中すべき。
発射数を控え、同調と神力で立ち回る。
目的は裁定者を全滅させること、ただしこいつらを倒したところで『柱』の活動を止められるとは限らない。
だから————
「星之宮! 聞こえるか!?」
意外と距離が空いてしまい、インカムにて応答を待つ。
柱の解析については全て任せっぱなし。
なんとかタイミングを見て伝達の機会をうかがうが————
「返答無し、っと」
『ただスサノオの神力は感じるぞ』
「ああ。同調でも熱源を確認している」
『じゃあ巫女は……』
「お取込み中、ってことでいいのかどうか」
空間把握により大体のデータは得られる。
他の戦闘もだいぶいい方向へ進んでいるかんじ。
ただこう言ってはなんだが、逆に恐ろしい。
なにせあれだけ警戒していた裁定者連中、それをゴリゴリと押し込めてしまっている。
本体は確かに強い、だがそれにしても———
(嫌な胸騒ぎがする……)
一度あれだけ痛めつけられた。
今度こそ勝つと修練なり策を積んできた。
それにしても相手の出方が大人しい。
大人しいといっても強いものは強い、ただデタラメというものを感じない。
俺たちを置いていくくらいの代物は一向に現れないのだ。
「裁定者! お前はそんなものか!」
「……」
「これなら必殺技を使うまでもないぞ!」
「……」
激しい剣戟の中でエイラが輸す、ある意味で挑発。
そこまで言われても相手はうんともすんとも。
まさか本当に決着が————
「裁定、最終ステージへ移行」
「っなに!?」
ここまでの拮抗が崩れる、裁定者から溢れんばかりの白光が。
それは今までは様子見だったと言わんばかり、別格との格差を一気に体感するぐらいの温度差。
その威圧はエイラの剣勢を容易く飲み込んだ、聖剣は弾かれ空に飛ぶ。
まるで大人が子供のオモチャを取り上げるくらいに圧倒的な一連の攻防。
態勢を崩すエイラ、手に聖剣はない、刹那に裁定の剣は相棒の喉元にまで伸びる。
(っ同調が間に合わない!)
裁定者の巨剣がエイラの首に届く、皮を斬り、鮮血が舞う、そしてその骨を断たんと。
あまりに一瞬、刹那の攻防、伸ばした手は無を掴む。
比喩じゃなくて物理的、文字通り、エイラの首は飛ばさ————
「裁定、執行」