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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 10 -The Last Battle 《脳筋は拳で語る》-
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 「2体撃破か————」


 秘密の箱は奴等との競り合いに勝利。

 確認できる限り10体のうち2体を塵へと変えた。

 ただ本体を倒すには至らず、葬ったのは偽物だけ。

 

 「仲間がやられたってのに涼しい顔してんなあ」

 「アイツらに感情なんてないのよ」

 「そうじゃな。動じておらぬ」


 反射した熱レーザーの残光が空に。

 まあ一瞬だが裁定者の焦った顔が見れただけいいだろう。

 敵を削りつつ、時間稼ぎも出来たことだし。


 「さあこっからが本番だ」


 目下には摩訶不思議な黒い戦艦が出現する。

 ベリンダ・ドレイクにとっての最終兵器である。

 名はラタトスク、史実を独自に改変した特製の戦艦だ。

 その特性は『搭乗』、戦闘用ではなく乗ることだけを突き詰めた歪な能力である。


 『この声に応えなラタトスク! 変形合体!』


 若干回復したインカムからはべリンダの咆哮が轟く。

 掠れ掠れながらでもその想いは確かに通ずる。

 変形と合体、少年が心躍りそうなフレーズに俺も気持ちを高ぶらせる。

 

 (ただその本質は強引なまでの『搭乗』、万物を逃がさない檻に近しい)


 彼女が再現するのは無敵艦隊という史実である。

 そこには16世紀前後の船の歴史も含まれることに。

 内包した時代は今以上に弱肉強食の世界、輝かしいものだけでなく暗く濁った記憶もある。

 

 『魂は永劫に縛り付け! 死ぬまで働きな!』


 奴隷輸送、過酷な船旅、流行る疫病、船は希望を運ぶと同時に死を纏ったもの。

 日本がブラック社会よりも過酷な縛り付け、しがらみを捨て、甲板の上では誰も逃げられない。

 

 「来たな……!」


 船長の呼び声と共に、太平洋には変化が起こる。

 いや、変形と表現した方が正しいだろうか。

 漆黒艦ラタトスクが海と合体、海面を浸食していく。

 シンプルに言う、海は鋼となる。

 意味不明か? ただ文字通り海は装甲と同じ金属へと変化するのだ。

 

 (銀世界では為し得ないゼロからの構成、人類が出来る最大規模の世界浸食————)


 波は静まり平行へ、深海までもが金属一色に、こうして足場たる鋼の海面が完成。

 すると今度はボロボロの戦艦が建物のように現れ始める、生えるという表現が正しいか。

 下から上、タケノコみたいに沈没船のオブジェクトが乱立していく。

 これは歴史、沈んでいった先人たちのもの。

 地平線まで鋼は届く、過去の亡骸が大地を彩る。

 ここは底の底、船の墓場となる。


 (ただ柱までは浸食出来ないみたいだな)


 想定の範囲内ではある。

 ただし作戦は順調に。

 船の墓場と称したが、つまるところ『足場』が出来たわけだ。

 船をトリガーとしながら疑似的な陸を創り出す。


 『勝利のために全てを捧げる! 敗北は許されない!』


 顔を大きく見せ始めた太陽に誓いを。

 すると空を浮遊していた全ての船が真っ逆さま、進路を鋼の地となった海へと向かう。

 それは裁定者も同じ。

 上空から警戒していた姿勢、重力以上の何かに囚われる。

 この大地は空を許さない、飛ぶ鳥は全て引きずり降ろされるのだ。

 それこそ勢いは地面に叩きつけられるよう。

 この縛りの責からは誰も逃げられない。


 (これを街中でやったら全部ぶっ潰れるからな)


 ベクトルは垂直降下、硬化した大地に落ちていく身体。

 急降下で生じた突風が全面に。

 裁定者も上から下へ。 

 つまりは甲板となった海へ搭乗、真打の登場、常識も覆せ。

 俺たちは空中戦ではなく陸上戦で勝負を決めるのだ。


 「っユウ! 攻撃がくるわ!」

  

 体感するグラビティ、その途中で師匠が敵の攻撃を察知する。

 熱レーザーかと思ったがあれだけの威力、そう易々とは撃てまい。

 そして思惑通り、似非裁定者からは目視の出来る攻撃が。

 白い槍状のものが掃射される。

 

 (だけどとんでも無い量! シンクロでも全部は支配圏に入らねえ!)


 「————超爆裂エクスプロスミス!」


 ハッとしたのも束の間。

 瞬間的に発生した爆発に思考を揺さぶられる。

 違った衝撃が落ちるこの身に震撼を。


 「クラーク!」

 「はっはっは! これでも最年長者なんでな!」


 相手からの投擲は全て爆裂でブッ飛ばす。

 直ぐ近くに歩く核弾頭がいたのだ。


 「スサノオ!」

 「あいよ!」


 弾いたのなら反撃に、風の神力が裁定者へと放たれる。

 星之宮の背後には神降ろしによってスサノオが顕現。

 先見の眼に等しい巫女の瞳は的確に隙を穿つ。

 

 (頼りになる仲間たちだ)


 そこまで高くない高度から、すぐさま地面への着地だ。

 各々能力を駆使し、数百メートルから何事もなく足を地に着ける。

 ただ今まで搭乗していた戦艦はそのまま地へと叩きつけられる。

 帆は折れ、破片が飛び、衝撃がくる。

 立ち込める鉄塵の中、俺たちが姿を現す。

 距離はバラバラだが、全員の生存を確認する。


 (船の落下位置は良し(・・・・・・・・・)。ベリンダは、はいオッケーね)


 鋼の廃船オブジェクトと同じく、数百の無敵艦隊が死ぬ。

 しかし消えはしない、残骸のように放置する。

 ただこれも後で活きる策となる。

 管理者たるベリンダも悪い笑みで頷いている。


 「あとは————」


 俺は銀と紫を伴って。

 残りの面子も能力を展開しつつつ、殺気を放ちつつ、中心点へと。

 鋼と変わった海の渦中に集う。

 真ん中とはエイラの居る所、相棒もといリーダへの元へ馳せ参じる。


 「ユウ」

 「似非裁定者は2体撃破した。ただ本命は無傷のままだ」

 「そうか」

 「なんだ2体だけか」

 「かっかっか! 全部倒しても良かったのにな!」

 「……微妙」

 「そ、そんなことないよユウ! 僕は凄いと思ったよ!」


 数時間ぶりに一同に会す。

 ただ視線はしっかりと裁定者たちの方へ。

 呪いに等しいラタトスクの世界浸食、この鋼の大地が続く限り空には飛べない。

 この平面の上で、拳で語り合うしか道は無いのだ。


 「さて、ここからは私たちの大好きな殴り合いだ」


 手には刀を、剣を、能力を。

 睨みはしない、ただその先を見つめるだけ。

 

 「脳筋は拳で語る。本番だ」


 見えない空の彼方には衛星が、画面越しに俺たちを世界中の人が見ていることだろう。

 戦闘において此処が人生最大の晴れ舞台。

 先頭を歩く俺たちの姿を脳に刻ませる。

 それは人にも、そして裁定者にも。

 さっきまでのレーザーがどうのこうの、そんな小手先だけの勝負じゃない。

 今からバッチバチの喧嘩、あの無表情にバッチリ決めてやる。

 

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