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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 2 -BURNING Rain on DUO 《ロシアの赤い悪魔》-
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13

 吹き荒れる冷たい風。

 凍えゆく大気。

 どこか響く雪崩音。


 氷の女王の住処、と言われてもきっと納得せざるを得ないだろう。

 

 能力者といえど、決して人が居るような場所では無い。

 もしここで人が生活しているのなら、それは人間ではない。

 きっと雪男か、雪女、モンスターの類。

 もしくは、超がつくほどのバカか――





 「――火が付いたぞ!」

 「おっし。ようやくコイツらを調理できるな」

 

 エイラはその馬鹿力で、俺が雪で造った剣と、自身の聖剣を高速で擦り合わせ、火花を散らせる。

 火花は集めた小枝に移り、白の世界と対照的な、温かい赤を生む。

 説明しよう。これはエイラによる、力技火おこしである。

 

 ロシアを歩き続け今日で4日目。

 ようやく生活も安定し、いや慣れてきたと言える。

 

 今日も今日とてひたすら歩き、今は4日目の締めくくりとなる、夕食の真っ最中だ。

 



 「――しかし、イエティがこんなにウマいとは」

 「イエティ食うってこと自体、俺は思いもしなかったけどな」

 

 俺たちはイエティ?らしきモノを食す。

 正確には寒冷地帯に生息するモンスター。

 エイラが狩ったモンスターを勝手に『イエティ』と呼んでいるだけで、実際は国が決めた正しい名前があるはずだ。


 そしてあらかじめ言っておくが、俺たちは別に好き好んでイエティを食べているわけじゃない。

 ここ数日、食料を獲得するため周り一帯を探していたが、遭遇したのはこのイエティ達のみだったから。

 仕方なく。仕方なくだ。

 

 見た目といえば全身に白い体毛をはやし、 体格はゴリラ似。

 最初は本気で食いたくなかったが、 飢え死には避けねばならなかった。

 

 (この見てくれで意外と美味いんだよなー……)

 

 イエティ肉でタンパクを摂取し、あとは吹雪く前に摘んでおいた、薬草や木の実をのどに通していく。

 こんな内容の食事が4日間毎日といったところか。


 「そこそこ腹は膨れたか……」

 「まるまる5体も食ってよく言うな」

 「それもこれもこの家あってだがな。確かカマクラといったか?」

 「そういやイタリアにカマクラ無いんだったな」


 俺たちの寝床は雪の上。

 布団はもちろん寝袋もない。

 

 ただエイラは自身を強化、俺の場合はシンクロで大気と一体化。

 これで寒さは耐えられるが、いかせん雪つぶてが顔にぶつかる。

 これが痛いのなんの。

 それでシンクロで地面を変形、カマクラを建てて凌いでいるわけだ。


 (結局造らなきゃ、イエティ焼くための火も雪つぶてで消されちまうけど)


 「なんだかキャンプをしているようだ」

 「こんな過酷なキャンプはお断りだ」

 「私は楽しいぞ!」

 「そりゃよかったな……」


 エイラの楽しいという感情に偽りはないだろう。

 歩いているとき、それから戦闘、飯のときだって、いつでもよく笑う。

 普通の女だったらこんな生活、旅ともいえるこの状況を楽しめるはずがないんだが。


 (普通の女という括りにエイラが入るわけもないけど……)


 飯が終われば適当にダべる。

 口が面白いようにペラペラ動いて、コクリコクリと時間が過ぎていく。

 娯楽なんかあるわけない、思えばトイレと寝るとき以外はこうしてずっと喋っているか。




 「――今日の結果だが、思いのほかいいペースで来てる、この調子じゃあと3日ってとこか」

 「あと3日か……」

 「まあヤバいモンスターに遭遇しない限りはだけど」

 「そう、か……」

 

 今のところ遭遇したモンスターはイエティくらい。

 奴らのレベルは大したことはない。

 A級ぐらいでも狩るのは可能だろう

 そんなんだから難なく倒せちゃいるが、 はたしてこのまま無事終われるかどうか。


 「……なんだか寂しくなるな」 

 「ん、寂しく?」

 「……私は『今』が何よりも楽しい、……旅が終わるのは、悲しいことだ」

 

 エイラの表情はさっきと違って悲し気一色。

 この旅が終わることを惜しんでいる、ってことか?

 言動も打って変わって弱弱しい。



 俺もこの生活は、楽しい。

 エイラと同じだ。

 ただ、 エイラはとんでもない勘違いしているらしい。

 コイツは旅自体が終了だと思ってるが――



 「はあ……あのな、別に終わりはしないぞ」

 「な、なに?」

 「あと3日で、『おそらく町に着く』ってだけだ、そこから目的地までは相当遠い」

 「では――」

 「当分は二人旅だ」

 「そ、そうかそうか! 私はうっかりさんだな!」

 「魔王討伐が目的だろーに、敵地忘れんなよ……」

 

 てかうっかりさんて、日数感覚あるのか?

 あと3日で極東に住む吸血王のところに辿りつくわけないだろうに。

 

 (むしろ途中で車、最低でも馬が手に入らなきゃ2か月に間に合わない。歩きだと4か月はかかるってとこか……)


 「なら、まだまだユウと一緒にいられるな」

 「そういうことだ」

 「…………」

 「…………」


 会話が途絶える。

 言葉が詰まる。

 さっきまでのように口は働いてくれない。

 

 静寂。

 

 なぜか際立つように風の音だけが増していく。


 自然と静寂。 

 

 炎だけが、 パチパチと音をたてている。


 それは静かなこの空間を何よりも引き立たせた。 






 

 


 「――――私は、怖い」

 

 続く静寂を破ったのは、 エイラの弱音。

 声は、隣の俺にギリギリ届くぐらいの大きさ。

 そこにはいつもの力は籠っていない。


 「近頃また夢をみる。楽しくない。嫌な夢だ」

 

 「始めは隣にユウがいる。ただ、私がふと振り向くと、ユウはもう居ない」

 

 「もともと居なかったように。幻影だったかのように。虹のように消え――」

 

 

 「――――私は独りになるのだ」

 

 初めて聞く弱い本音。

 覚えがある。

 周りを置きざりにする、 孤独を纏った加速の世界。


 エイラは今、そこに立ってる。

 

 

 

 ――誰であろうと、『コレ』を話すつもりはなかった。

 理解されないだろうし、口に出したくもない、思い出したくもない。

 でも、エイラにもらいっぱなしは嫌だ。



 「――俺も数年前までさ、似た夢を見てた。気色悪い夢だったよ。」


 「……黙ってたけど、俺のシンクロ能力は人間にも使用可能なんだ。シンクロできる。同調できる」


 「始め何度も試した。人に。でも見えたのは真っ暗な世界。どす黒くて。先の見えないナニカ――」


 「やって何度も吐いた。人の闇を見た気分で。気持ち悪くて。だから俺は心の底から誰かを信用することは出来ない。いや出来なかったんだ。でも近頃、変わってきた気がする――」



 

 「――エイラ、お前、いま隣に誰がいる?」

 「……隣?」

 「俺は最近さ、違う夢を見る。楽しい夢だ」

 「楽しい、夢」

 「隣にとんでもないバカがいるんだよ。頭は固いくせに、無駄に力だけあってな。ようは脳筋なんだけど」

 「……私をバカにしてるのか?」

 「少なくともだ。いま俺の隣には、エイラ・X・フォードが確かにいる」

 「お前の意識に居ようとも私には――」


 まだ足りないのか。

 ほんとに頭が固い。

 ロック。ロック。

 いつもはそれでも、知らん顔して弾けてるくせに。


 「もっとバカになれよ。俺の中にエイラがいるってことは、お前の中にもきっと『俺』がいるってことだ」

 「……」

 「ようは、 相棒だってことだな!」

 「……ふ、ふふ。まったくもって意味が分からん。気が狂ったか?」

 「やっと笑ったな。お前は物事考えず突っ走れよ」

 「……考えずにか、そうだ。そうだな。思考で頭がパンクしてしまう」


 少しだが、笑った。

 コイツには笑顔でいてほしい。

 バカな状態が一番だ。

 

 「しょせん夢、目に映るのが今ある真実だ」

 「私の目に、映るもの……」


 交差する。

 俺の目線とエイラの目線。


 「――ユウだ」

 「そう俺だ」


 言いたいことは、きっと伝わる。

 なんせ……


 「ユウは――」

 「エイラは――」


 「「相棒だ」」


 一致するのは必然で当然。

 

 にしても大分手間がかかった。

 こんな真面目な話をすると思わなかったし。


 (後で言いふらしたりしないよな……)


 「……私としたことが、柄にもなくクヨクヨしたな」

 「まったくだ」 

 「心配をかけた」

 「……別に、……俺も世話になってるし」

 「ん? なんだ!? なんと言った!?」

 「……なんでもないって。そろそろ寝るぞ」

 

 時刻は12時。

 腕にはまる時計を見た時に日は変わった。


 (今の話も、もう昨日の話ってことだ。もう切り替えねーと)


 「そうか、では寝るとしよう」

 

 エイラも就寝に入ろうとする。

 2、3日前からこういう話でソワソワしてたし。

 だいぶスッキリしただろう。

 

 「……てか、なんで抱き着く?」

 「寒いからだ」

 「俺たち能力で寒さ感じないだろ……?」

 

 強化で頑丈になってるだろうし、神経節も強化済み、寒いはずがない。

 それに腕が、腕に無駄にデカい胸が当たってる。

 

 (気が散って寝れねーよ!)

 

 「確かに寒くはない」

 「なら――」

 「――また、 また夢を見そうでな」

 

 おいおい、それ反則だぞ。

 

 「……ダメか?」

 「……寝相だけは大人しくな」

 「……ああ!」

 

 なんかをぶつけ合った夜。

 また少しエイラのことが分かった気がする。


 布団も毛布も何もない。

 雪吹くこの場所で。

 

 腕にガッチリ、横を向けばまじかにあるエイラの横顔。

 身体は密着しあい、女特有の甘い香り。


 これで寝れる男は神か仏か。


 (でもまあ、いつもよりは暖かいか――)


 

 

 今夜も、いい夢であることを願おうか。


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