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連なる艦隊、その先頭には俺が立つ。
熱レーザーに相対するは秘密の箱、その真価を発揮。
まるで城のよう、巨大すぎる紫の魔法陣が展開する。
そこに伴うは銀の粒子、神殺しの風、シンクロが織りなす唯一無二の秘儀。
(その無表情を歪ませてやる……!)
紫やら銀やら青やら、多くの混ざりが生み出すのは『黒』の魔方陣。
例えるならブラックホール。
シンクロは条件付きであらゆる異能を支配する。
それは裁定者だって例外じゃない。
シンクロがあらゆる異能を吸いこむ役目を、銀と風が自分用に変換を、魔法は反転の事象を司る。
(やっぱメチャクチャ重い、けど————)
全てを焼き付くレーザーを真向から喰らう。
それこそ底なしの箱に仕舞うよう。
放たれるあらゆる異能は俺にとって最大の矛、相手にとって最悪の矛に。
編み出し繰り出す数百倍のカウンター、ノーガードにノッキング、ノータイムでノックアウト。
核弾頭より狂気的、俺だけが全てを理解、傍から見れば原理不明。
秘密の箱にはガンガンパワーが溜まっていく。
(それじゃあそろそろ……!)
大気は焼かれ、未だ熱風は気温を上昇させる。
戦艦の帆も顔の頬もジリジリ熱が伝播していく。
皆熱いだろう、汗かいただろう、だけどヒヤヒヤしただろう。
安心してくれ、これで終わらせる。
「閉錠!」
長きレーザー攻撃は全て吸い込んだ。
そして一度開けた箱に、今度は鍵をかける。
巨大な黒陣は縮小、縮小、縮小、これは爆発寸前の惑星が最後一気に溜めをするのと同じ。
直径数百メートルから20センチほどの魔方陣にまで。
「師匠!」
「ええ! 索敵魔法!」
頼れる師匠の補佐、両目に遠くまで見通せるよう魔法を。
感覚的には一気に縮まる距離、奴等の姿をしっかり捉える。
無表情が10体、外すことは無いよ絶対。
「レネ! 船支えてくれよ!」
「任せい!」
ベリンダの無敵艦隊、その甲板にレネの銀刀が突き刺さる。
この艦だけは銀色に、不滅の銀で出来た戦艦へと姿を変えるのだ。
砲台の固定も完了、さあ後は————
「ぶっ放すだけだな!」
刻印に再三の力を、限界ギリギリまで抑え込んでいたパワーを解放させる。
魔方陣は縮小される前よりもっと大きく。
天下分布、天上天下、天獄にまで通ずる一槍の道。
内包したのは裁定者の攻撃、摂氏何度とか分からない。
ただし惑星爆発、スーパーノヴァに匹敵する威力を。
「再び開け! 秘密の箱!」
黒陣はこれでもかと輝き、ついに発射へと。
中央にて一瞬だけキラリと閃きが、ただ予兆も刹那の時だけ。
「穿てええええええええ!」
轟、途端に鼓膜を突き破るほどの爆音が。
陣から放たれたのは極太の熱レーザー、裁定者のものを数百倍強化した代物だ。
それは大気を焼くどころか抹消する。
森羅万象あらゆる事象をミクロにもならない塵へと変えるのだ。
「そして強化も!」
何も此処に立つのは俺だけじゃない。
既にこの身はエイラと、強化の能力が更なる火力の底上げを。
天井知らず、それこそ天空を淘汰するほどの一撃へ。
『————!』
魔法を掛けた銀眼、裁定者の表情をしっかり捉える。
この返しには流石に焦った表情を。
また俺たちが大人しくヤラレる?
こっからがショータイム、迸る熱電流、これぞ脳筋から贈る最初の拳。
感情第一主義、俺たちが好きなのは肉体言語だ。
(俺の予想以上の一品に仕上がったからな! どう捌く!?)
興奮気味の脳内、アドレナリンが溢れてくる。
もはや人外の技、圧倒的すぎるパワーとスピード、もはや避けることも叶うまい。
『————』
「っまじか!?」
どでかいカウンターが迫る中、裁定者たち取ったのは真向勝負。
いくら避けられないと言っても、そんな行動をするとは。
ただ面白い、力比べしようじゃないか。
「ぶっ潰れろや」
思考の間もなく固いナニカと当たる感触。
裁定者だ、それでも貧弱、貧弱、貧弱、顰蹙を買うほど大差を見せつける。
王道復古の大号令。
ラスボスの喉元、勇者じゃないが脳筋のこの手がぶっ飛ばす————
「勝つのは俺たち、人類だ!」
「—————凄まじいな」
強化同調をしつつ、私はユウの技に心底感嘆していた。
それは散り散りだが周りにいる仲間も同じはず。
お返しとばかりに放った一発は、大陸さえも軽く吹き飛ばすものだった。
(しかも相手はどうして自分たちの攻撃が返されたかは分からない)
魔女王の助けがあり、秘密の箱の姿は見えない。
奴等からしてみれば、見えない鏡がそこにあるよう。
しかも何倍も何倍も強化されてのお返しだ。
「……この熱量では私も生き残れないな!」
耐久力には自信があるものの、流石にユウのカウンターには耐えれそうにない。
元々防ぎようの無かった裁定者の一撃だけあって相当のもの。
モノクロの世界を真っ赤に染める。
(エイラ! 裁定者が正面からぶつかって来てる!)
(真向からか!?)
(でも押し切ってやるよ! そっちは作戦をフェイズ2に進めてくれ!)
(了解した!)
もはや熱量でインカムは使い物にならず。
強化同調をしているからこそ、渦中で踏ん張るユウから伝達を受けれる。
「すぅぅぅ……」
ただ他の者にどう伝えるか。
単純明快なやり方が1つ。
そのために腹の底まで思いっきり空気を溜める。
身体には強化、仲間に声を一気に届ける。
「フェイズツウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
張り裂けんばかりの大声で。
原始的な方法、ただそれでも伝わるものは伝わる。
こんなバカな脳みそにも叩き込んだ作戦の幾つか。
ユウの快進撃で此方に余裕が生まれる。
むしろ向こうは不可視のカウンターで面食らった様子、今が絶好のチャンスに間違いなし。
「そんじゃあ次は私の出番だねえ!」
負けじと後方から大声が。
それは友人であり、この初戦においてユウの次に重要な役割を持つ人物。
名をベリンダ・ドレイク、艦隊の長がその真価を発揮する。
「歴史再現! 超改造版!」
天高くにまで轟かす命令信号。
ユウが上空にいる裁定者に攻撃を続ける中で変化は起きる。
「人よ歌え! 船を漕げ! 海を征せ! 太陽沈まぬ常勝の道に行こう!」
目下に臨む太平洋、その海が割れる。
正確には空間が割れるといったところ。
まるでガラスを叩いたみたい、粉々に砕け散りそこには暗闇が広がる。
三次元を破壊、四次元へと到達する。
「最終戦艦ラタトスク! 出航!」
長き詠唱を終え四次元より現るは異形の巨大艦。
装甲は漆黒、再現というには現代風、メカメカしい風貌をしている。
なんであれベリンダの最終兵器は登場、そして本番は此処から。
「久し振りにキメるなあ……」
召喚するだけなら交戦する前、始めから出しておけば良かった。
もちろん私たちより先に狙われる可能性もあっただろう。
しかし大本命は召喚することじゃなく、その後のことだったのだ。
これだけは邪魔される訳にはいかない、そして組み立てるタイミングも今がベスト。
ベリンダは下す、その熱き想い声に乗せて。
「ラタトスク! 変形合体————!」