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「————同調」
探求も大詰め、しかし真相は遠くへ。
あれから1ヵ月強懸けての同調の開発、それはさしたる進歩もなし。
迎えることの出来ないファイナル。
この身は未だに常闇の街道を彷徨っているようだ。
「ダメか……」
支配から始まり操作に改造、暴走化まで、思いつく限りの挑戦をした。
己だけでも、師匠やレネに手伝ってもらったことも多くある。
あるあるの今だけでは、あの絶対には絶対勝てないと理解しているからこそ。
意識も気力も高く持っているつもり。
それでいて結果が出ない。
現時点において、一番厄介なのは自分自身。
(エイラも師匠のアドバイスで何か目覚めたっぽいし、後は俺だけ————)
共に破れたユリア先輩、最強の脳筋の他連中も詳しくは聞いてないが、それぞれ策はあるそう。
戦闘への集中期間、会うことは減っても少ない顔合わせで分かる。
(みんな自信持ってる)
心に不安や恐怖はあるはずなのだ。
ただそれよりも自信と信念が凌駕、表情は堂々で風格はまるで王者。
今更引け目を感じている。
曖昧だった能力のビジョン、視界の方が先に眩みそう。
(あの作戦も、初っ端ともかくその後が……)
一番槍を務めるのは俺とベリンダ。
そこでは今まで通りの力量でどうにかなる。
しかし裁定者連中とサシで戦闘になった時にどうなるか。
差し引きしなければ、俺には相棒はいる。
ただ自分の身は自分で守るのが当たり前。
むしろ俺たちは守るために行くのだから。
「支配系で自分より強い人がいれば……」
周りに様々なスペシャリストはいるものの、支配系では殆ど見ない。
おそらく俺より格上の支配系統は存在しないだろう。
居たとするなら前言通り、是が非でも教えを乞いたものだ。
「————お兄ちゃーん」
悩みの雑踏、脆い架台の逆境、颯爽、そこで開くは異次元を繋ぐ扉。
真白の空間に若葉が現れた。
「夕ご飯出来たよ」
「もうそんな時間か……」
「エイラさんがヨダレ垂らして待ってるよ、割とマジな方で」
「分かってる」
時刻は20を紡ぐ、これでも鍛錬のために遅くしてもらっている方。
別々に食えばという案もあったが、俺以外からの強い要望により一緒にと。
ニートじゃなくて探求者。
時間は惜しいが、残された時間が少ないからこそ。
「ホントよくそれだけ自分を追い込めるよね」
「普通だぞ?」
「全然、私なんて能力そのまま使ってるだけだし」
「まあ若葉の能力は汎用性低いし、身体能力上げた方が実戦で役立つな」
「きゅ、急にガチなアドバイスだね……」
若葉も支配系能力者。
具体的に言えば、間合いに入ったものを弾く能力である。
銃弾や能力に関わらず逸らすことが出来るというもの。
ただ俺も似たようなことするのは可能。
ネックと言えば生物には使えないということ。
敵がこっちに突っ込んできても、それ自体を弾くことは叶わない。
「でも逸らすって回りくどいよね」
「回りくどい?」
「うん。出来ればそのままバカーンって跳ね返したい」
「そりゃあ……」
弾く、というのは飛んでくるモノへの同調を前提とする。
若葉も俺もそう、一度接続をしなければいけない。
絶対の領域、逸らすだけでも凄いことだ、負担も思いのほか掛かるし。
反射のようなことも出来なくはないが、下級の能力を返すだけでも1、2秒はかかってしまう。
若葉の言う『鏡』のように、タイムラグ無しで即時反射するのは不可能な話なのだ。
いくら俺でも————
「いや、待てよ……」
脳の底からジワジワと、噴火寸前の火山みたいにザワつき始める。
目くるめくパラレルから離れる。
眺めるだけだった輝く大舞台へと一歩足をかけた気分。
自分の基準を別視点から。
「っくっくっく」
「お、お兄ちゃん?」
「面白い、面白すぎる」
「あ、あのー……」
一転歯切れ悪くなる若葉とは別に。
俺の右脳も左脳も仕様を可能に変える。
返る力、この守りは最強の攻撃に。
(いや、そもそもこれを守りと呼んでいいかどうか————)
経験や感覚が式となり理論は構築されていく。
そこで生じる色々な問題点、そこには魔法式や銀神式を突っ込んでいく。
踏み出した一歩、伴って腕も前へと進む。
「若葉、今日だけは飯ボイコットさせてくれ」
「ええー!」
「閃いたんだ。とりあえずそう伝えといてくれ」
「わ、分かったけど……」
渋々という感じで若葉はここを去っていく。
しかしようやく見え始めたのだ、ここで逃がす手はない。
既に頭には完成体が浮かんでいる、ただこれを習得するのは相当キツイ。
なにせ初の試み、完全統合をするのだから。
右手に魔法を、左手に魔風を、眼光には神力を、世界には同調を。
似非裁定者のレーザーさえも、世にある全ての放出系能力に終わりの時を見せてやる。
「名前は先につけておくか」
成功させたいからこそ、名付けを前提に置いておく。
遅れは内容で取り戻す。
中遠距離ともかく、近接戦における問題解決になるかは怪しいが1つの道は見つけた。
その名も————
「秘密の箱、パンドラ・ボックスなんてな」