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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 2 -BURNING Rain on DUO 《ロシアの赤い悪魔》-
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 「……腹が減ったのだ」

 「……俺もだよ」


 本日の天気、晴天。

 頭上には太陽がギラギラと照らし、山の雪はそれを反射し美しく輝いている。


 ギラギラというと気温が暖かく感じられるかもしれないが、山は未だに雪渓をアチコチに残している。

 ただ雪を被っていない緑も広がっていることだから、最近になってようやく気温も上がってきたようだ。

 ロシアはもともと気温が低い、4月といえど今だ寒いことに変わりはない。


 そしてそんな中、俺たちはひたすら、ひたすら歩いている。


 「いやー私の能力が無かったら大変だったな」 

 「大変てか、たぶん死んでたぞ」


 1時間前、俺たちは高度数千という高さから落下した。

 ロシアから逃げるため、仕方ないことではあったが……


 「エイラの強化能力のデタラメさには感服だ」

 「そうだろう! もっと褒めてくれていいぞ!」

 「あと頭がよかったら完璧だったよ……」


 数千という高さからの落下。

 たとえ『飛行』という能力を持っていたとしても、 おそらくこの高さの場合かなりの実力を求められるはず。

 そもそも飛ぶ力を持たない俺たちが生き残るのは不可能という話だ。



 しかし失念していた。 

 俺の隣には、人知を超えた怪物級の能力者、エイラ・X・フォードがいたことを————



 








 「――っく! シンクロ!」

 「数秒で落ち着くとは、 さすが私の相棒だ!」

 「呑気にしてんな! どうするよこれ!?」


 現在俺たちは飛行機から飛び降り、下界までまっ逆さま。

 絶賛スカイダイビング中である。

 最初は何も考えられなかった俺だが、やっと気が治まり、即時『大気』とのシンクロを開始。

 この風切る状況下でのエイラとの会話を成立させた。 


 「——風の向きは南南東、風力強め。落下までは……あと10秒ないぞ!」

 「そんなこともわかるのか。やはりユウの力は便利だな」

 「今そんなことはいいんだよ! お前の能力で何とかできないのか!?」

 「——ふむ、出来ないこともない」

 

 えええええ、なんとか出来るんかい!

 そこ『無理だ』『何も思いつかん』とかいうと思ったが、さっすが頼りになる。

 エイラはやはりSSランク、いやこれからはエイラ先輩と呼んだ方がいいか。


 「——私の手を離すなよ」


 スピードが加速していく中でしっかりと結ばれた右手。

 俺の左手には、エイラの右手が握られている。

 飛び降りる前、とっさにエイラが繋いだのだ。

 

 「——本気・・の強化能力を使う」

 「……ほ、本気?」

 「理論上は月に激突されても問題無いらしい」

 「まさか俺たちの体を、単純に強化して……」

 「このまま地面に突っ込む!」


 やはりエイラを先輩と呼ぶことはないな。

 完全なる脳筋。

 これほどパワーオブパワーなやり方もない。

 

 「私に触れていればお前にも能力を付与できる!」

 「もうお前を信じるよ……」


 どちらにせよそれぐらいしか道はない。

 俺の能力で風を操ったところで、 超スピードの俺たちを受け止められるほどの力はない。

 シンクロでこの状況を打破することはできない。


 「言い忘れた、強化の負荷で死ぬかもしれんが了承願う」

 「……地面にグチャよりマシだ」



 「————ではいくぞ! さらなる先に! さらなる高みに! 開闢強化カルマ・ミラータ!!」










 「————まさかこれほど強化がキツイとはなー……」

 「何度かやったが、みな軽い強化でも耐えられずに意識を失う」

 「ありゃ人間には無理だ」

 「だからユウはすごいぞ! 私の本気を一発目で耐えたのだから!」

 

 そんないい笑顔で言うセリフじゃないぞ。

 まあエイラの本気の強化能力で、結果的にはこうして生き残ることができているわけだけど。


 だがエイラの話じゃ、普通だったら本気どころか、軽くかけただけで負荷に耐えられず意識を失う、 最悪死ぬらしい。

 

 (もはや攻撃にもなるってことだよなー……)


 触れなければならない、という条件もあるけど。


 そして今回の、開闢強化カルマ・ミラータだったか?

 どうやらエイラの強化能力の中じゃ、かなり本気の部類に入るらしい。

 まだレパートリーあるんかい! って思うがツッコム気力も無い。


 なぜってそりゃ、強化を身体にかけられた時の負担がハンパじゃないからだ。

 内臓すべて押しつぶされる感覚、思考もグチャグチャ、意識も飛んだ。

 死んじゃいないが、仮死状態ぐらいにはなっていたと思う。


 今もこうして歩きながら喋っちゃいるが、正直フラフラ、気を抜くと意識が飛びそうになる。 


 エイラ曰く、もともと人を強化するのは苦手らしい。

 加減ができないそうだ。 

 強化、いや俺自身のシンクロ能力含め、俺たちの能力は人に対して使うことに向いていないんだろう。

 

 俺のシンクロも似たようなネックがあるから、大体わかる。

 人に使える代物じゃないことぐらいさ——

 

 (そして強化されたときに脳裏に流た映像、おそらくあれはエイラの記憶だった————)



 「どうしたボーっとして?」

 「いや、さっきので身体が軋んでな」

 「休憩するか?」

 「いや、まだ先長いし、もう少し歩くよ」

 「そうか」


 気力持つ限り『大気』とシンクロした結果わかったのは、俺たちの現在地は言うほど悪くない、ということだ。


 このまま東に進んでいけば、おそらく人のいる場所につく。

 風を読み取ると何か焦げた匂い、それから人間の匂いがしたからだ。

 立地を考えて、村か、小さな町があるのだと思う。

 

(とはいえ、歩いて一週間ってとこか……)


 シンクロで場所を把握しているとはいえ、目的地はさらに向こう。

 大自然の中で悠々としている暇はない。

 しかも今のところ獣の気配があまり感じられない。

 ということはだ、獣を狩るモノ、つまりモンスターがいる可能性が高い。

  

 夜は分が悪い。

 日が暮れる前に、すこしでも先に進まなくては。

 


 「——ユウ、やはり一旦休もう、キツイのだろう?」

 「……分かるか?」

 「私自身ひさしぶりに使って負担がかかっている。お前が大変じゃないわけがない」

 「はあ…… 俺もまだまだか……」

 「ふふ。気にするな」

 「じゃあお言葉に甘えて、少し休もう」


 大きな木の下、木陰となっている場所に移動する。

 寝っ転がって身体を自然に預ける。

 腹は減るが、まずは疲労をなんとかしよう。


 エイラは俺の横に、同じく寝っ転がって鼻歌を口ずさんでいる。

 さすがの体力と気力。

 いま俺たちが見上げている景色は同じ、でも今回わかった、というか再確認した。

 エイラの思考は、俺とは比較にならないぐらい純粋なものだと。


 

 エイラのことを、学園のやつらは畏怖と尊敬の念で見ている。

 俺も出会うまでは、話だけ聞いてすこしビビってた。

 

 でも少し一緒にすごして分かった。

 コイツは優しい人間だ。

 成功も、失敗も、全部受け止める。

 人を思いやり、誰より前を向いて進んでる。


 (ほんとに世話になってばかりだな……)


 グウー、と腹が鳴る。

 空腹だ。

 朝も早かったし、バタバタして何も食べれていない。

 

 (夜は俺が率先して狩りしないとな。コイツに飯奢るって言っちゃったし……)


 「空腹か?」

 「腹減って死にそうだ」

 「では、これをやろう!」

 「これって…… チョコレート!?」

 「ふっふっふ」


 エイラが懐から取り出したのは一枚の板チョコ。

 いったいどこから————


 「お前どうやって……」

 「何かあるかもしれんと、持ってきてたのだ!」

 「でも飛行機でさんざん『腹減ったー』って言ってなかったか?」

 「その時は持ってきたことを忘れていた!!」

 「おいおい……」

 「少し前に気づいたが、我慢していたのだ」


 『食べてしまおうかとも思ったが、ヨダレを垂らして我慢した』って。

 まったく。

 頭いいんだか、悪いんだか。

 

 「そのおかげで、いまこうして食べれるのだぞ?」

 「そうだな。でもいいのか? めちゃめちゃ腹減ってるんだろ?」


 エイラは飛行機の時点で空腹空腹と訴えていた。

 最終的には死ぬとかも言ってたし。

 バカにはできないか、現に俺も腹減って死にそうだし。


 「俺に分けたら減っちまうぞ?」

 「確かに量は減る、ただ、2人で食べた方がウマかろう?」

 「……お前は聖人か?」

 「私はお前の相棒だ!」


 そうか、相棒か。

 お前ってヤツは……


 「エイラ、お前と組んで、本当によかった」

 「改めて言われると照れるな」

 「事実だよ」

 「はっはっは。まあ取り合えず食べようか!」


 エイラが銀色のフィルムをはがしていく。

 板チョコ1枚あるなら、『今後のために節約して食べよう』と普段の俺なら言うが————


 (いまそんなセリフは無粋だな……)


 「ほれ半分こだ!」

 「有難くもらうよ」

 

 手渡されたのは見慣れた板チョコの片割れ。

 でも、見慣れたそれに、なにか特別な思いを感じてしまう。


 「—-——じゃあ、いただきます」

 「いただきます?」

 「日本の、イタリアで言う食前の祈りみたいなもんだよ」

 「そうか! では私も、いただきます!!」


 元気のいいことだ。

 エイラと一緒に、チョコレートを口に放る。

 甘い。

 身体に染み渡っていく。

 

 そしてチョコではない、何か温かいモノが体に入る感覚。

 

 疲れていたからとか、空腹だからとか、理由は幾つもある。

 ただこの感覚は、そういうのだけじゃない。


 「んーウマい!」

 「……ああ」

 「どうした?」

 「……美味い。メチャクチャ美味いよ」

 「それならばよし!」


 このチョコレートの味。

 甘い。

 食べなれた甘さ。

 でも普段食べていた物とは一味違う。


 どこか温かい、優しさある味のように感じる。

 隣ではエイラがもったいなさそな顔でチョビチョビ大事そうに齧っている。

 

 きっと、他愛もない。

 エイラにとっては当然の行為で、記憶に残ることなく、消え去っていくモノかもしれない。



 

 でも、俺はこの味を、この時食べたチョコレートの味を、いつまでも忘れることはないだろう。  


 

 






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