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2118年2月。
世界には衝撃と混乱が訪れた。
何故なら国連が全世界に正式発表。
人類、いや、地球滅亡の危機にあることを伝えたから。
『裁定者襲来』
襲来と打って危機を知らせる。
規制されていたマスコミも解き放たれ、連日連夜で情報が流れる。
これに対し、人がまず抱くのは不安という感情。
勿論国連もただ言い放つだけではない。
不安を霧散させるべく、同時発表したのが、その裁定者を倒す者たちのこと。
千差万別にして一騎当千。
かつての英雄と同じく10人で。
しかし彼らの人格は決して正統では無かった。
殆どが英雄らしからぬ自分勝手オンリー。
論理と倫理を置き去りにしたパワープレースタイル。
その部隊の名は最強の脳筋。
人類の希望を一身に担う者たちだ。
「おーいザック、そっち終わったか?」
「もう少しっす」
「まったくよお、俺たちがユウの分の荷造りしなきゃいけないなんてな」
「文句は言えないっすよ。なにせ自分たちの代わりに戦って貰うんすから」
ここはイタリアにある能力育成機関、セント・テレーネ学園。
現在学生寮では裁定者との戦いに備え荷造を開始、態勢を整えている。
戦闘の開始も規模も不明、出来ることから開始。
ただこの部屋、トニー・モーガスの同居人たる男は不在、友人がその役を引き受けている。
「しっかし大分スッキリしたな」
「ガラガラっすね」
貴重品は勿論のこと、日用品や衣類に至るまで。
最低限を残し、大抵の物は纏め終わる。
空間に残るのは備え付けの家具、それからテレビぐらいのものだ。
「にしても結構前から作ってたシェルターの正体がまさかの……」
「裁定者、っすよね?」
「ああ。かなり強いって話だけどよ……」
「国の慌てっぷりを見る限り、実力は話以上だと思うっす」
これでも両者ともに一応は優秀とされる生徒。
国連の話はそのまま鵜呑みにしない。
一般人の混乱を避けるため、おそらく裁定者の本当を実力を隠していると解釈。
明確な確証は無いものの、裁定者は報道している以上、人智を越えた怪物だということを何となく察す。
「それにユウからのメールも丁寧だったし」
「うっす。あのユウっちがちゃんとした連絡をする、これほどの異常事態はないっす」
「つまるところ相当ヤバい相手だってことだ」
普通を特別で返したとき、そこには変化という意味を伴う。
心情が変わる、意識有るにしろ無いしろ、1年近く付き合ってきた者なら異常に気付く。
果たしてどれほどの相手か。
ましてやここまでの厳重体制、拳銃に弾は装弾済み、引き金に指を掛けたところまで迫っているのだろう。
「あ、そろそろ時間っす!」
「もうそんなか」
会話の中、テレビにスイッチを入れる。
どこのチャンネルも裁定者のことを取り上げている状況。
ただ予告通りの時刻になった瞬間、全てのチャンネルは一挙に一斉占拠、一定エンド、テンポは変わる。
何処の番組も国連のものへとシフトした。
「久し振りに見るユウはどんなもんだか」
これより世界同時配信、裁定者を倒すべく集まった10人が壇上することに。
会見、決意表明など、この機会を色々な言い方で形容出来るが、ようはテレビに脳筋たちが映るのだ。
「ザック」
「なんすか?」
「この会見、普通に終わると思うか?」
「まさか、絶対可笑しくなるっす」
「だよなあ……」
嫌な予感を抱くのは経験上から。
聖剣使いと変幻という組み合わせの凄まじさは重々承知。
そこにあと8人加わる、しかも全員が二癖も三癖もあるような連中なのだ。
実力があるにしても、これほどヒーローらしくない能力者も中々いないほどの。
そうこうしている間に司会が開会、進行していく。
自然と目は液晶に釘付け、吹き付けてくる焦燥や緊張を心に打ち付ける。
「さあて、心して観るとすっか————」