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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 9 -Dream to see on The Eve 《戦前夜に歌響く》-
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134.5 with Hang on to name

 「こ、これは……」


 ロシア東部、とある辺境の町。

 そこはかつて魔族の侵攻にあったが、ある2人組によって打開復興することに。

 そんな町の長、イエシェフを驚愕させることが今まさに起きていた。


 「変幻のユウ・ヨンミチ、脳筋のエイラ・X・フォードからです」

 「あの2人が……」

 「はい。あの日のお礼だと言伝を受けて来ました」

 

 不釣り合い、雪積る町の中、軍用の重厚な車両が訪れる。

 しかもタダの車ではない。

 能力具を複数積んだ特殊車両、豪雪の中でも難なく進む。

 どんな自然環境の中でも活動出来る超一級の軍用車両である。

  

 「まさか本当にあの約束を果たすとは……」


 イエシェフの目前、倉庫に運び込まれたのは一台の二輪車。

 二輪車、といってもそれは普通の物とはだいぶ異なる。

 

 「ゴアティック社のロゴ……、しかし……」

 「これは特注品、一点ものです」

 「やはりそうですか、型もフォルムもまったく覚えがありません」

 

 それは威風堂々、王者の貫禄にも思える程の代物が鎮座。

 かつて渡したバイクも相当、60年の努力でようやく手にしたものだった。

 まあそれを町守るために譲ったわけだが。

 しかしお返しは倍返し、いいや、長年二輪を愛してきた者は自然と理解。

 いま目の前にあるのは数十倍返しだと。


 「黒いフォルムに、青と金の装飾。これは美しい」

 

 おそらく数百万などという物ではあるまい。

 運び手に詳細を尋ねる、自分の眼で見て確かめる。

 ハッキリとは額を提示されないものの、おそらく数千万単位の代物だ。

 

 「……あと何年生きれるかも分からない、こんな老人には重すぎますな」

 「はっはっは。結構な言いようですね」

 

 齢は相当、先は長くない。

 そんな老体に黄金より価値ある鉄塊を。

 塊魂、これは完成体、感性を揺さぶられる究極美である。


 「本来だったら直接渡したかったようですがね。いかせん今は立て込んでいるので」

 「立て込んでいる? 何かあったのですか?」

 「詳しいことは禁則事項なので、申し訳ない」

 「左様ですか。ですがあの2方が元気だと言うなら何よりです」


 ロシアの1月、雪の量は凄まじい、本来だったらもっと暖かくなってから渡す方が楽だ。

 ただ地球の存亡をかけた戦いがもうすぐ始まる。

 最強の脳筋たちは勝つつもりでいるだろが、気持ちの持ちようだろう。

 急ぎだがこのタイミングになってしまった。


 「でも羨ましいです。私もバイクが好きなもので」

 「っふっふ、これは家宝にするので、あげることは叶いませんな」

 

 見つめる先には漆黒の光沢が輝く鉄の魂。

 ただイエシャフは気付く、その鋼のボディーに刻印があること。


 「これは……」

 「ああ、このバイクの名前だそうです」

 「名前……」


 装甲の美しさは明鏡止水、そこに走る稲妻の名刻。

 かつて2人の若き英雄に、己が宝を渡した優しき老人、いま円卓を結ぶ彼らにとったらマーリンのよう。

 伝える感謝、その名、刻印に刻まれたのは————


 『キャリバー・クロスフォー・ツヴァイ』


 初代を越えて二代目へ。

 Xと4の意味は唯一無二の証明、聡明で優しき心持つ彼に対する奉呈(ほうてい)。 

 誉れの名、そして勝利に捧ぐ約束の象徴だ。


 「良い名を、付けてもらえましたね」


 老体に流れる興奮の血。

 しかしその表情はにこやか、とても穏やかなものであった。

 

 













 「————ユウは無茶ぶりするわねえ」


 アメリカ合衆国ニューヨーク州。

 ここに変幻から一通のメールを受けた少女が居た。


 「お嬢様、コーヒーが入りました」

 「ありがとう」

 「ヨンミチ様からですか?」

 「ええ」


 電話の内容、それをストレートに言うならば『応援要請』であった。

 数か月後に起こるとされる大戦への。

 ただ起こるとされる(・・・)だけであって、実際は明日始まっても可笑しくはない。


 「だからって今日から準備してくれだなんて、突然すぎるわ」

 「主に報告しますか?」

 「要らないわ。どうせお父様は気付いてる。つまりどういう選択をするかは私自身が決めろってこと」

 

 少女の父親は世界有数、大企業のトップ。

 過保護も相成って、こんな情報に気づかないわけがない。

 そして口出ししてこないとは、つまり自由。

 己が意志に基づき、助けるか逃げるか決めろということだ。


 「でもまさかこの星が滅びそうだとは、ビックリよね」

 「私も耳にした時は驚きました」

 

 情報戦最強の大企業の一人娘、裁定者の情報は軽くだが伝わっている。

 ただそれでも、生存への道、その険しさを理解した。

 きっと戦いが始まれば世界は混乱、今冬こんとうは混沌に包まれるだろう。

 しかしこう言っては何だが大金持ちの一人娘、一番安全な所に逃れることは容易だ。


 「でもアレ(・・)を使えれば、少しでも未来が広がる」

 「お嬢様……」

 「やりたいことはまだまだ有る。目標も見つかった。だから、私は少しでも可能性がある方に行く」

 「では……」

 

 メイドは尋ねる、どうするのかと?

 問われた少女、目標とした男のように笑う。

 答えはズバリ、すっぱりと言い放つ。


 「手伝うわ」

 「左様ですか」

 「なによ? 止めないの?」

 「いいえ、お嬢様がそう決めたのなら」

 「そ、そう」

 「本当に大人になられましたね、マリアは嬉しいです」

 「な! 私は最初っから大人よ!」


 心情はやさぐれ、じゃなくて垢抜け、穴埋めまた上へ。

 長年世話してきたベテランメイドも呟く感嘆符。

 青眼開眼、怠慢捨てて、海岸の街から贈る価値観破壊兵器。

 未知の存在に対抗する力は人類だけとは限らない。

 

 「ならゆっくりもしてられない。調整に本腰を入れるわ」

 「お供します」

 「ええ! 絶対に成功させる! このシャーロット・エリクソンの名に懸けて————!」

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