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七草を過ぎて少し。
俺たちは何度か行ったあのホテルへ。
久しぶりの全員集合。
号令のゴーサイン、繋ぐ10本のライン。
黒服そこらに通り抜け、そうして開ける重い扉。
「————ってまだ3人しかいないのか」
円卓に鎮座するのは星之宮、ヨーゼフ、そしてシルヴィだけ。
比較的まともに近い連中が。
「今日はギリギリセーフだな」
「前回は偶々だよ……」
揶揄うのようなこと言うのはシルヴィだ。
数日前にあの一件があったものの、普通に接している。
お互い別にこれといった口出しも無し。
むしろ以前より仲は深まったぐらい、冗談も共感、相談無しでも両断無し。
俺たちなりの距離で言葉をぶつける。
「聖剣使いは?」
「エイラはべリンダと来るらしい」
「遅刻確定か」
「ああ。俺もそう思う」
駄弁りながら席はシルヴィとヨーゼフの狭間へ。
他の皆も前回と同じ位置にいるからこそ。
時刻を確認、あまり余裕があるとは言えない。
「星之宮、ちなみに今日はどんな話なんだ?」
「国連の支援部隊のパターンが決まったので、その伝達。あとは裁定者についての情報ですかね」
「前よりは内容は濃い、か。それデータで送るじゃダメなのか?」
「そこは大人の事情です」
「はあ、なるほどねえ」
魔女王やレネから提供された情報を国連は解析。
関の山だった支援も進歩、状況に応じた海軍や空軍の動きのパターン化がされたようだ。
しかし星之宮曰く大人の事情が炸裂。
携帯やタブレットにポンと軽く送ることは叶わないそうだ。
「ん」
「どうした?」
「ユリア先輩からメールがきた……」
そんな致し方ないという訳を聞いていた矢先。
親愛なるユリア大先輩から一通のメールを受信する。
無機質な音が過ぎ、電子の紐を開封、その文面に眼を通す。
「遅刻の連絡ですか?」
「いや、えっと……」
星之宮がおそらくと踏んで聞いてくる。
ただそれは大外れ。
シルヴィも興味をもって覗き込んでくるが、そのオチにはなんとも言えない表情を浮かべる。
「データは手に入れたから欠席する、だそうです」
「はい……?」
「ようは今日の会議内容をもう把握したから、来る意味ないってこと」
「……」
「流石だなあ。どうやって手に入れたんだか」
「ロシアはドイツに比べて真っ黒いから、きっと闇の力だよ」
「まあ底が見えないかんじはあるな」
「み、皆さん冷静すぎません? え、これ可笑しいですよね??」
「「「そうか?」」」
星之宮は不可思議の烙印を押すが、あれだけ世界に名を轟かし、仕事をこなす先輩のこと。
ルートは幾つもあるのだろう。
それに大きい秘密ってのはどうしてもバレるもの。
晴れ晴れとした空じゃなくて曇天、絶対に裏はあるのだ。
「あ」
「こ、今度はなんですか?」
「アーサーも情報知ってるから来ないって」
「な、なな、なんで……」
珍しくイギリスがアーサーからも連絡が。
内容は大体ユリア先輩と同じ。
しかし一応で連絡先の交換は皆としているが、何故俺にばかり集中するのか。
「これで2人は来ない、しかもフォードさんとべリンダさんは遅刻確定……」
「またメールだ」
「こ、今度は誰ですか!?」
「クラーク」
「彼も違法に手を!? あのアメリカがですか!?」
またしても、俺を連絡係だとでも思っているのか。
まあ連絡くるだけマシか。
これで一報無しのドタキャンだったら、ただの待ちぼうけ。
結構な無駄時間を過ごさなくて済む。
スムーズに事を運べるというものだ。
「えっとだな、大阪に居るらしい」
「はい!?」
「なんか観光と被ってて来れないらしい」
「れ、連絡したの、結構前なんですけどね……」
「ちなみに写真付きだ」
一報に添付されていた画像を開示。
鮮明な液晶に映るのは、両手に銀のコテを持って豪快に笑うムキムキのアメリカ男だ。
なんでもお好み焼きを焼いているのだとか。
欠席の文は1行で、観光の感想が感嘆の言葉で埋め尽くされる、読むのも面倒なほどに。
「も、もう嫌……」
「泣くなって。なあヨーゼフ」
「うんうん。イジメられることに比べたら、こんなこと気にするに値しないね」
「それはそれでどうかと……」
この後結局来たのはエイラとべリンダだけ。
李はなんかポエムっぽい欠席通知が来た。
円卓は飛び散りシックスカラット。
がらっとオープンする情報、結局クラーク以外は自力で仕入れていたという。
またこの後来た雷槍が重い溜息をしたのは言うまでも無い。
「————っ」
「————まだまだ!」
疑似空間でエイラと鍛錬。
ただレネ縛り、魔風縛り、魔法縛り。
本来持ち得た同調だけで拳を交わす。
しかし最終的には押し負け、スタイルの違いもあるが、いかせん同調単発では決め手に欠ける。
一線を画す強者にまでは届かない。
「っ参った!」
「ふっふっふ! また私の勝ちだ!」
「くっそぉ……」
(やっぱり同調だけじゃダメか、でも、もっと上に行けるはずなんだ————)
あの戦いからずっと考えていること。
裁定者から生き延びることが出来た、その時に働いた謎の力の正体。
しょうがないと開きなおって放棄は出来ない。
俺の予想は当たっているはずなのだ。
同調にはまだ隠された使用法がある、そう本能が感じている。
「……組み手は止めて、1回自主鍛錬にしよう」
「分かった。やりたくなったらいつでもいいぞ!」
「助かるよ」
いくら剣を交わそうと、誰かと思いを通じようと、自分自身との接触は不良。
思い返せばだ。
昔から他人のことばかりに意識が向いて、自分とシンクロだなんて考えたことも無い。
ただ青い光を纏ったところで変化は無い。
「答え、あるのか————」
真っ暗な迷路、ロジック不明、明確に見えず。
イリーガルも通じぬ先にあるパンドラの箱。
一番信用出来ないのは、自分自身なのかもしれない。