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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 1 -ITALIANs Break Heat《イタリアからの新風》-
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 『————こちら観測塔、政府より通達、任務を最優先せよとのこと』

 『スカイング07了解です』

 『指示についてはエイラ・X・フォードに従うように』

 『了解』

 『連絡終了。幸運を祈る————』



 「——まさかこんな急に任務が入るとは思いませんでしたね」

 「副機長はまだ若いしな。たまにこういうこともあるんだ」

 「勉強になります。ただ聖剣使いさんも大変ですね」

 「政府の命令だろうし仕方あるまい————」







 俺は今空を飛んでいる。

 目に映るのは真っ白な雲と青い空。


 別に翼が生えたとか能力でという意味じゃない、飛行機で移動しているだけだ。

 隣にはグウグウとエイラがちょっとしたアホ面で寝ている。


 目的はロシアの赤い悪魔、吸血王ヴァンダルの討伐。

 そのため俺たちは2人でロシアへと向かっている。

 

 昨日決めて今日出発なのだから、内容は無計画の一言だ。

 ただ、思えば俺は学園の数人に監視されていたし、今回はこのやり方で正解だったのかもしれない。


 エイラの頭のぶっ飛び具合あっての行動、政府は想定や対策を立てる時間はまったくなかっただろう。

 

 (今頃学園はどうなってるんだか。とりあえずエイガー先生怒ってるだろうな……)


 少しずつ慣れてきた学園生活、友達も出来たが、もしかしたらまた振り出しに戻ってしまうかもしれない。

 ま、トニーやザックあたりじゃ振り出しに戻ってもすぐ話せるようになるだろう。

 手紙も置いてきたが、一応現地についたら連絡はするか。


 「……うーん」

 「起きたか」

 「……眠いのだ」 

 「そりゃ出発早かったからな」


 今はちょうど昼頃、もう4、5時間はフライトしている。


 出発したのは早朝。

 いくらエイラが政府公認の許可証パスを持っているとしても、余り遅くては周りに感づかれる可能性が高い。

 だから早く出た。

 

 しかしパスを持っていたエイラだったが、すぐに飛行機に乗ることは出来なかった。

 それは任務の内容、俺の存在、今すぐ出発したいなど、疑わしいところありまくりだから。

 

 問題に直面するまで、そこんところをまったく考えてなかった。

 恥ずかしながら、昨日盛り上がり過ぎてさすがにそこまで頭が回らなかったのだ。


 じゃあどうやって今こうして飛行機に乗れてたのか?


 それはエイラの『ゴリ押し』と、俺の『シンクロ』能力。

 まずエイラが緊急特秘任務のため、行先も内容も言えない、ただし政府の『許可』は貰っていると言う。

 なら許可証を出せと当然なるわけだが、そこで俺の出番。


 俺は空港自体とシンクロをする。

 電話回線をすべてジャックし、乗っ取った政府専用回線を使って、『すでに認可』してあると、フライトについても『何も問題ない』と電話で伝えた。

 それでやっと信じてくれて出発できたわけだ。


 (テロリストみたいになってるけど仕方ない……)


 「ただ、アシはもうついてるな」

 「……バレるということか? しかし行先も内容も秘匿だと伝えたぞ」

 「学園にも伝えて来たし、お前専用のパスを使ったんだしバレるさ、行先も衛星で確認されるだろうな」 

 「…………よくわからん」

 

 エイラは寝起きで頭がまだ働いてないっぽい。

 いや、もともと理解できる程の頭脳を持ち合わせてないだけか。


 「ならローマ空港から、この機体に連絡が来るのではないか?」

 「観測塔からの連絡は来ない」

 「なぜそういえる?」

 「この機体、俺がすでにシンクロしてる。回線はすべて断ち切った」

 「……もはやプロの手口だな」

 「少なくとも向こうに着くまでは心配ないってことだ」


 俺は感情持つモノ以外は殆どシンクロできる。

 この機体が『眠いんだなー』なんて感情持つはずがなく、シンクロは容易だ。

 

 政府と観測塔の連中は返答返ってこないからカンカンだろうが。

 しかしコッチの機長からしてみれば、何も観測塔が言ってこないのは不自然だろうし、適当な時間で俺が偽りの連絡を送っている。


 機長さん達には最後まで仕事をしてもらわなければ。

 シンクロすれば運転できないこともないが、何時間も運転なんてしたくないのが正直なところだ。


 「……ユウ、腹が減ったぞ」

 「我慢しろ」

 「まだまだ着かんのだろ?」

 「予定じゃあと1、2時間後ってとこだな」

 「……死ぬ、腹減って死ぬぞ」

 「ちょうどロシア東部には入ったぐらいか。あと少しの辛抱だ」


 腹減って死ぬようじゃ魔王には勝てないんだが。

 このフライトは、急遽決まったもので食料や飲料は積んでいない。

 あると言えば非常食と水くらいのもんだ。


 「着陸はロシアの、チキン空港だったか?」

 「チリチキ空港な」


 チリチキ空港。

 ロシア極東に位置する空港で、田舎ゆえ規模は小さい。

 しかし、 そこから吸血王までは車で5、6日という近さなのだ。


 一週間もかかるんじゃ近くなくね?

 と思うかもしれないが、ここが最寄り、最も最寄りな空港なのだ。

 それもこれも吸血王の根城が遠すぎるのが悪い。

 なんだよベーリング海沿いって、金持ちの別荘かよとツッコミたくなる。


 (いや、荒れるベーリング海沿いに住もうとする人間なんていないか)


 「はあ、腹が減って頭が働かん」

 「そうか? 案外いつも通りだぞ?」

 「……空腹を紛らわせるために、いっそ組み手でもしないか?」

 「スマン。俺が悪かった」


 エイラが殴っただけで機体に穴が空くわ。

 ただこのフライトは短時間でつく方だ。

 専用機だから乗り換えは無い。

 つまりは直通で行けるのだ。

 

 (少し前まではこんなに長い距離飛べなかったらしいけど、時代の進歩ってやつなのかね)



 「ふと気になったが、相手方はいいのか?」

 「相手方?」

 「ロシアに入っているのだろう? 入国許可的なもの、もらわなくていいのか?」

 「…………」

 「ここは他国。しかも偽っての任務だ、着陸許可なぞ無いぞ」

 「…………」

 「もしかしたらすでにロシアから何かしらの連絡が————」


 (シンクロ!)

 

 急いで機体の回線をつなぐ。

 外部との通信を許可。ロックを解除。オープン!


 『……先ほどから応答なし、我が国の領空侵犯、これ以上は侵略とみなし迎撃を開始する。応答せよ。 応答せよ————』


 俺の脳内でこだまするのはおそらくロシア観測塔からの通信、正確には『警告』か。


 「……エイラ、手遅れっぽい」

 「そうか」

 「……すまん」

 「気にするな。 失敗は誰にでもある」

 「……無事着いたら飯おごってやるよ」


 まずいな。

 イタリアの事ばかり気にして、ロシアをガン無視だった。

 聞く限りじゃ『迎撃』に入りそうな空気だし。


 「このままじゃ捕まる、いや死ぬかも」

 「ならば逃げるしかあるまい」

 「逃げるっつても、もし空港に着陸できたとしても包囲されて終わりだ」

 「……ふーむ」

 

 とりあえずコックピットに回線を回す。

 これは俺がデタラメな返しをするよりも、こういう任務、仕事になれたプロがやった方がいいだろう。

 機長には悪いが、任せる!


 「ここはロシアなのだよな?」 

 「ああ。一応東部にも入ってる。奴までは大分近づいた」

 「……そうか」

 「あと1、2時間なんだが……」


 東部には入っている。

 ただアイツが住むのは極東。

 飛行機の2時間は結構な距離になるぞ。

 

 「名案を思い付いたぞ」

 「この際だ。空港着陸できてもお縄につくのがオチ。なんでもいいぞ!」

 「任せろ! その名も、バンジーで逃走作戦だ!!」

 「……バンジーで、逃亡?」

 

 我が小隊名物となりつつある適当な作戦名。

 そして今回はバンジーで逃亡。

 

 「空港がだめなら、ここから飛び降りるのだ!!」

 「……ここ高度何メートルだと思ってる?」

 「知らん」

 「いやいや飛び降りたら死ぬぞ! 下は山しかないし! 無事だったところで山を彷徨うことになるぞ!」

 「落ち着けユウ、私たちの能力でなんとか————」


 

 『フォード様! ロシア政府から今すぐ着陸のため、進路変更せよと無線が!』

 「場所は!?」

 『進路を逆転、迂回してシヴォシビルスク空港を指定されました』

 「反対か……」

 『従わない場合、即時攻撃を開始すると。一体これは——』

 

 

 機長の焦る声。

 音声でも感じ取れる。

 よっぽどヤバい事態なんだろう。

 

 「どうやら選択の余地はないようだ」

 「……だな」

 「やるしかあるまい」

 「下は山しかないし、当分はサバイバル確定か……」

 「構わんさ、いつか町もある」

 「ポジティブ過ぎだろ……」


 無計画故の結果か。

 下は見渡す限り、山、山、山。

 しかも季節は4月だし、過酷な環境が目に見える。

 そこでサバイバル……


 「やるならば即だ。いくぞ!」

 「人生初のバンジーが飛行機からになるとは……」

 

 ハッチを開ける。

 とてつもない勢いの風。

 何百キロって速度が出てるんだから当たり前か。

 

 「機長! 貴君らはロシア政府の指示に従うように!」

 『フォ、フォード様!』

 「我々に騙されていたと言ってくれ!」

 『いったいあなた方は……』


 「我々は魔王討伐を行う」


 下を見る。

 広がるのは人の手が入らない白と緑まじる山群。

 

 (た、高い、高すぎるぞコレ……)


 「飛ぶぞ!」

 「……お、おう」

 「何を怖気づく、 少し飛ぶだけだ」

 「いや、少しって高さじゃ……」

 「ええい! いくぞ!!」

 「やめ、引っ張るなあああああ」


 

 エイラに強引につかまれともに空を舞う、いや落ちるか。

 冷たい風が吹き付ける。

 ただ、寒いなんて感じる暇なんかなく……



 「うおおおおおおお」

 「——手を離すな!!」

 「死ぬ、 死ぬぞこれえええええ」

 「——なんとかなる!!」

 「何言ってんのか聞こえねえよおおおおおお」



 エイラに手を握られ落ちていく。

 風で何言ってるか聞き取れない。

 ただ、 エイラは本当に楽しそうに笑ってる。

 

 (コイツ、そんなにバンジージャンプ好きだったのか!?)



 楽しくなきゃそんな笑えないだろ。

 俺は初めてやるがな————



 「もう二度とやらねええええええええ」



 ロシアの大空に、俺の絶叫が轟くのだった。


 

 


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