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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 9 -Dream to see on The Eve 《戦前夜に歌響く》-
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 「っやばいやばい!」


 年が明けた新しい世界。

 初詣や新年会など、それなりに大変だった出来事を経て数日が。

 幾つもある日々、その中でも今日はかなり大事だ。

 一度破ってしまった約束、それを取り戻す日なのである。


 「まさか今日に限って寝坊するなんて……」


 どんなに心が急いでも、電車はマイペース、ダイヤは冷静に動いている。

 アリの巣のように広がる東京の駅群を抜け外界へと。

 そこは人の森、溢れ溢れ、でも(やぶ)れかぶれにはならない。

 鋼造りの犬が前で待ち合わせ、焦りで背中と頬に汗が流れる。

 同調して気温調整、むしろ汗を乾かすように気温を下げる。


 (トータルで20、いや25分の遅刻ってところか)


 だいたい30分の遅れ、だが時間に厳しいメイドさんのこと。

 きっと表面クールでも内心メラメラ怒りを燃やしているはず。

 でもそんなこんなで目的地はすぐそこ。

 一層人口が増加していく中をかき分けていく。

 すぐそこから、もう着いたに。

 しかし待ち合わせの地では予想外の光景が広がっていた————














 (————遅い)


 東京で若者の街として有名だという渋谷に。

 お嬢様と話をしていて、一度行ってみたいと興味があった場所だ。

 それをユウに言ってみれば軽く承諾。

 この弱そうな犬の前で待ち合わせとなった。


 (年齢的にはもう高校生、となれば5分前行動は当たり前だというのに)


 携帯をチェックすればユウから言い訳のメッセージ。

 きっと急いでいるのだろう、誤字脱字のオンパレードだ。


 (まあ気持ちは伝わる、か)


 解読すれば寝坊したとのこと。

 もはや潔し、せっかく1日付き合ってもらうわけだし、あまり怒らないでやろう。

 ただ体面的なことを考えれば早く来て欲しいものだ。

 

 (……何故か周りからの視線が凄すぎる)


 今の恰好はメイド服ではない。

 参拝の時点で集まった好奇の目、メイド服が東京であまり流行っていないことは理解した。

 だから、というわけでもないが一応で持ってきていた世間的には普通とされる服を。

 お洒落、は分からない。

 センスというものを備えている自信もない。

 だがフランスで着た時に、お嬢様や他のメイドたちはマイナスなことを言わなかった。

 むしろプラス、誉めてくれたくらい。


 (安心するんだ私。大丈夫、大丈夫だ)


 髪型もいつもより、少し、少しだけ手を加えただけだ。

 最近長くなり始め肩下くらいまで伸びたそれ、軽く1つにまとめ左から前に流している。

 不審な点は無い、ただやはりそうは思っても、視線は相当。

 対して自分と年齢も変わらないような人間、男女ともに遠くから見られている。

 これでも戦闘を積んできた身、勘づかないわけがない。

 

 (別にメイド服でも良かったんだ。だ、だが、ユウを変な女を連れている男だと周りに思わせるのも嫌というか……)


 一体周りは私の何が可笑しいというのか。

 海外の人間、というのが大きく起因しているのかも。

 ただメイド服が目立つのは事実、それでユウに恥をかかせたくはない。

 この時だけでも、普通の、平凡とされる時間を過ごしたい。

 

 (精神的にもそうだが、できれば体面的にも早く来て欲しい————)


 この羞恥を共に味合ってくれ、そして半分に軽減してくれという気持ち。

 理由は幾つもあるが、最もなのは後者、体面的にだ。

 視線を送ってくるばかりで、避けていた連中の中には、いわゆる馬鹿と呼ばれる者もいる。

 そいつらが————


 「ねえねえお姉さーん」

 「もしかして今暇なかんじー?」

 

 (こうして話しかけてきたからだ)


 雑に染めたのだろう、黒混じりの金髪男。

 もう1人は、髪型だけ若い頃のアラン・ドロンの不細工男だ。

 初対面で馴れ馴れしい態度、けっして好印象を抱くものではない。


 「ねね、どこから来たの?」

 「外国っしょ! 金髪だし! てかメチャ美人!」

 「それそれー。アメリカとか?」


 日本人は金髪外国人がアメリカ人だけとしか思いつかないのか。

 それくらいにアメリカを推す、私はフランス人だ。

 しかし面倒には関わりたくないので、そんなことは言わない。

 なにせ言ったところで目の前の連中は頭が悪いだろうから。

 

 (しかし私の顔は国際戦で知られているはず、気づいていないのか?)


 自分で言うのもなんだが私は『冥土送り』と呼ばれ恐れられている。

 そこらに転がる人間が話かけてくることなんて滅多にない。

 普段との違いを考える、辿り着くのはメイド服装着の有無。

 きっとメイドの恰好ばかり先行して、私を私だと気づいていないのだろう。


 「って、なんのリアクションも無しかよ」

 「あれじゃね? 日本語が分からないとか」

 「それだ! ヘイお姉さん! イングリッシュ! 俺たちとレッツゴーショッピング!」

 「ゴーゴーゴーっしょ!」


 それを英語とは呼ばない。

 日本では英語が必修科目らしいが、これが先進国のレベルとは思えない。

 目の前にいるような、ごく一部の人間だけだと信じておこう。

 ただそれでも応えない私に痺れを切らしたか、強引な行動に。


 「っめんどくせえな! さっさと付いてくればいいんだよ!」

 「っしょ!」


 連れて行って何をしたいのか、その奥底に蠢く欲望は透けて見える。

 分かっていて従うはずが無い。

 飛んでくる男の手、そのまま腕を掴んで強引に持って行くつもりなのだろう。

 浅はか、触れらるのもお断り。

 ここまで来たら仕方なし、一撃決めて————


 「おい」


 ただ私の力を込め始めた身体は動かなかった、動かす目的を無くしたから。

 私に伸びてきた腕をギリギリで捕まえる男が現れた。

  

 「なんだぁお前? 俺たちこの娘と忙しいからさ」

 「へえ忙しいんだ」

 「そそそ。だからどっか行ってくんね。つか手離せや」

 「うーん」

 「っうぜえなあ!」


 きっと金髪男の能力は炎の放出系なのだろう。

 捕まれていない左手の中に小さな炎を産む。

 躊躇なくその力をぶつける動作。

 理由も無しでの能力行使は立派な犯罪、ただ、相手が悪かったようだ。

 当たる前に、その炎は青い塵となって消えていく。


 「な、なんで?」

 「ここで能力使うのは犯罪だぞ」

 「っうっせえ! おい!」

 「あいよ!」


 能力を消された男が、相方の方に加勢を求める。

 超劣化アラン・ドロン、まるで猪、それ以上に頭悪く突っ込んでいく。

 

 「後転(バック)

 「え」

 

 しかし全て任せるのもなんだか癪。

 突っ込んでいく工程を巻き戻し、来たときそのまま数秒前のポジションへと。

 戸惑う故の隙、そこに何処からか強い風が、叩きつけ地に伏せさせる。

 

 (絶妙な力加減、相変わらず凄まじい精密さ)


 ユウが腕掴んで居た方も同じくノックアウト。

 ただ意識までは落としていない辺り、手加減はしっかりしたようだ。

 

 「悪い、待たせたなシルヴィ」

 「はあ、お陰でとんだ災難に巻き込まれた」

 

 やれやれと言わんばかり。

 そもそもお前の遅刻が原因だろうに。

 もっと早く出会っていれば、現状は回避できたかもしれない。


 「というかメイド服じゃないんだな」

 「あ、ああ、変だろうか……?」

 「変? いや、普通に可愛いと思うけど」

 「そ、そうか……!」

 

 その目と声に偽りは感じない。

 正直、不安はあった。

 だがその一言で完全に拭う、しかし疑問が1つ、ならなぜ————


 「何故周りは私を見ていたんだ……?」

 「そりゃ可愛いからだろ」

 「か、可愛い!?」

 「むしろそれ以外どんな理由があるんだよ」

 「い、いや、か、髪の色とか! それに外国人だとか! いろいろ……」

 「東京には金髪も外国人もたくさんいるっての」

 「そうだ、が……」

 「今だってナンパされてたし、まあオーラが出すぎてて普通は近づけないけどな」


 なら今足元に居る連中はやはり普通では————

 いや、そんなことよりも。

 これは誉めてくれた、と解釈していいのだろうか。

 そもそも始めに『可愛い』と言ってくれたし。

 不思議だ、どんな現場に立ってもこんなに心が乱れることは無い。

 冷静沈着に物事に当たれるのが私の持ち味だというのに。


 「周りもだいぶザワザワしてるし、そろそろ行こう」

 「そ、そうだな。あとこの足元に寝ている連中はどうする?」

 「そのうち警察が来るだろ。まあ俺たちに事情聴取がくるかもしれないけど、雷槍の名前出して……」

 「こんな時だけ頼るのか?」

 「ダメか?」

 「いいや、素晴らしい案だ」

 「シルヴィならそう言うと思ったよ」

 

 無意識なのかどうなのか。

 ユウはこの手を握って進んでいく。

 人の波を分けて進んでいく大航海。

 冒険は一方的な乱闘からスタート。

 約束は、今ここに。

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