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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 9 -Dream to see on The Eve 《戦前夜に歌響く》-
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 「お、おい」

 「っ嘘だろ」

 「本物! 本物だよ!」

 「みんな可愛いなあ」

 「お母さんあの人たちだれー?」

 「こら! 指ささないの! あの人たちは……」


 ネクストイヤーじゃなくてニューイヤー。

 嫌とは言わず、初っ端には恒例、日本じゃ当たり前の初詣に。

 除夜の鐘からは結構時間経ち、日は真上近く。

 来たのは激戦区も激戦区、明治神宮だ。

 なぜそんなチョイスをしたのか、それは————


 「やはり有名所だけある」

 「うむ! おっきいな!」

 「へえ出店なんかもあるんだねえ」

 「案の定めちゃくちゃ注目されてる……」


 キャパをオーバーした参拝客。

 ごった返す人の波。

 かなり有名な神社、致し方ない。

 ただそんな有名な社だからこそ、シルヴィは行ってみたかったらしい。

 出店の情報を何処で知ったか、エイラも賛同するし。

 しかも何故かべリンダまで同行することに。

 つまるところ、ここには世間を騒がす最強の脳筋アルティメット・パワーズが4人揃っている。


 (まあそれは全然いいんだけど、周りの視線がな……)


 周りから来る様々な視線。

 好意、興味、恐怖、本当に色々だ。

 ただそのお陰で拓かれる一本道。

 こんだけ混んでいるというのに、周囲は俺たちを避けて通る。

 あり得ない話、常に視界も進路も良好なのだ。


 「主人! これを1つくれ!」

 「あ、あいよ」

 

 しかし気を抜くとすぐフラフラと消えるエイラ。

 仲の良いべリンダもいることでテンションが高い。

 

 「にしても本当に人が多いな」

 「なんだシルヴィ、後悔したか?」

 「いや、ただ忠告は本当だったのだなと。なにせ嘘つきの前科持ちだ」

 「そ、それは悪かったって」

 

 だからこそ断ることも出来ず、こんな所に来た。

 出来る者なら家の近くの小さな神社で十分だったのに。

 しかし見た感じ、他の3人は楽しそうだ。

 

 (それなら来た意味もあるってもんだ)


 まあレネと師匠は置いてきたけど。

 レネは他の神の社に参拝など絶対に嫌だと。

 師匠は酒を飲みす、いや、諸事情により来ること叶わなかった。

 家族についても俺たちと一緒に参拝は勘弁して欲しいそう。


 「それとユウ」

 「なんだよ」

 「聖剣使いと艦隊娘が消えた」

 「え!?」

  

 確かにさっきまで隣歩いていた2人が居ない。

 同調を発動、空間に能力を通す。

 あんだけ特徴的な奴等、すぐに見つかる。


 「どうやら食い物の方に行ったらしい」

 「まあ必然だな」

 「同調で監視も出来るし、俺たちは俺たちで行くか」

 「あ、ああ」

 

 そもそも神様に(こうべ)垂らすような思考はしていない。

 なんせ自分で全部何とかしようとする。

 まあ俺はよくレネに神頼みするけど。


 「ただ2人になっても視線は変わらないな」

 「そりゃ仕方ない。そもそもシルヴィはメイド服じゃん」

 「何か可笑しいか?」

 「いや、そんな当たり前ですみたいな顔されても……」

 「日本はメイドが多いと聞いたが」

 「それはホント一部の地域だから」

 

 むしろ辺りを見渡してメイド服で参拝してる人がいるだろうか。

 自信をもって言える。

 俺の隣に居る人物だけであると。

 

 「あ、あのー」

 

 そんな目立つ? ある意味有名な俺たち一行に声が掛かる。

 ここにきて初の外部アクションだ。

 目の前にはテレビマン、リポーター感満載の人が出現。

 カメラマンもすぐ後ろに控え、レンズが見つめてくる。


 「変幻の四道さんと、冥土送りのベルンクールさんですよね」

 「あ、はい」

 「マジテレビの佐藤と言います。少しお話を伺ってもよろしいですか?」

 

 おそらく参拝の様子を中継してたのだろう。

 まあこんだけ目立っていれば突撃してくるわな。

 シルヴィに目配せ、瞬間で言わんとすることを伝える。


 (どうする?)

 (構わない)

 (じゃあ————)

 (応対は私がしよう) 

 (頼むわ)


 「少しだけなら」

 「ありがとうございます!」

 

 リポーターの女の人、凄い嬉しそう。

 きっといいネタ掴んだ気満載なのだろう。


 「まず今回は2人だけで? 脳筋のフォードさんは?」

 「いえ、フォード様とドレイク様が————」


 切り換えが以上に早いシルヴィさん。

 外向き用の完璧メイドにチェンジする。

 ですます調が織りなす至高の存在へ。


 「あ、そうなんですか。てっきりお2人だけで来たのかと」

 「そのようなことは御座いません」

 「でも随分仲は良さそうですね」

 「確かに四道様には特に(・・)お世話になっています。本日も日本の文化を紹介してもらって————」


 マスコミへの対応は馴れたもの。

 まさに完璧なアンサーを俺の代わりに導き出す。

 改めてシルヴィのメイドとしてのレベルの高さを思い知る。

 確かに彼女ほど有能という言葉が似合う人物はいない。


 (ただシルヴィに様付けされるのは、いや、案外いいもんだな)

 

 一発目は少し驚いたが、言われてみるとなんだか心躍る。

 メイド喫茶に行く人の気分が分かったかもしれない。

 しかしそんな思考を読んだか、応対の最中だというのに目に冷たさが宿る。

 

 (調子に乗るな、そう語りかけている気がする)


 「ではこのへんで」

 「はい! ありがとうございました!」

 

 まさに流水のように美しい流れで終了。

 しかも今更だが翻訳の能力具がなくても、流暢な日本語だった。

 曰く大抵の言語は制覇しているようだ。

  

 (エイラに見習わせたいもんだ。アイツが日本語使えるようにするの大変だったし)

 

 なんせ強化同調で無理やり言語を積み込んだ。

 あの時の消費は途轍(とてつ)もなかった記憶が。

 もともと地がバカだからな、労力も割り増しである。

 師匠やレネも素で使えるし、いやはやエイラには参ったものだ。


 「終わったぞ」

 「急に戻るんだな」

 「当たり前だ。二君に仕えず、私の主はお嬢様だけだぞ」

 「そりゃそうなんだろうけど……」

 「あと様を付けられて喜んでいただろう?」

 「いやあ、どうだろうな……」

 「後で何か奢ってもらうぞ」

 「は、はいー」


 御神籤(おみくじ)なんか頼らずともお見通し。

 まあ奢るとは言うが、数日後にはシルヴィと買い物に行くつもりだった。

 約束は舞台を変え日本で。

 全力で付き合うつもりだし問題ない。

 それもこれもスポンサーがあってこそ、シャーロットお嬢様には感謝しないと————


 「あ」

 「どうした?」

 「いや、知り合いが————」


 ふと振り返った後方。

 そこに偶然、中学まで共に過ごした幼馴染、光太郎と朱里を見つける。

 どうやら来たばかり、こちらにはまだ気付いていないようだ。

 

 「行かないのか?」

 「いやでも……」

 「年明けにはキチンと挨拶をすべきだぞ」

 「マトモなこと言うじゃん」

 「これはマナーだ」

 「ごもっともです」


 シルヴィも同伴している、そう思ったが挨拶はすべきという結論に。

 共に光太郎と朱里の方へ向かう。

 俺の隣にはメイドさん、視線と共に接近していく。


 「光太郎、朱里、明けましておめでとう」

 「ん、誰————」


 聞き慣れた声が反射して。

 立ち位置と共に振り返り、そして予想通りの反応を。


 「ゆ、夕!?」

 「な、なんでこんなところに……」

 「そりゃまあ、色々あってな」

 「いや、え、本物か?」

 「当たり前だろ」


 身体をペチペチと触ってくる、俺は俺だ。

 ただこっちに来た理由を言えない。

 裁定者についてはまだ公にはなっていない。

 親しい友人だとしても、話すことは禁じられている。

 とりあえず話題を転換する。


 「でも2人で初詣なんて珍しいな」

 「そ、そうかな?」

 「今までは家族で————」

 「四道様、無粋な質問はされない方がいいかと」

 

 またも仮面の戦士以上の瞬間チェンジ。

 やはりある程度関係深めていない相手にはこの調子である。

 そして俺の言葉は途中で遮られる。


 「えっと夕、この人ってあの……」

 「シルヴィ・ベルンクールと申します。明けましておめでとうございます」

 「「お、おめでとうございます」」

 

 美しい一礼。

 その洗練された動作に光太郎たちは若干言い淀んでしまう。

 初見でこれ喰らえばそうなるわな。


 「ゆ、夕」

 「ん?」


 間髪入れず光太郎が顔を近づけてくる。

 コソコソ話の体勢。

 軽く口を手で押さえ外部に漏れないように。


 (なんで脳筋じゃないんだよ? 浮気か?)

 (まさか、シルヴィの日本観光に付き合ってるだけだ)

 (そ、そうなのか?)

 (そうだよ)


 数秒間の静寂を挟むが、嘘でないと分かったか離れてく。

 見てみろ、シルヴィが微笑んでいる。

 この笑顔は清純潔白を表しているぞ。


 「じゃ、じゃあそろそろ」

 「今度はもう少しゆっくり話そう」

 「ああ!」

 「そうだね!」

 

 今日はシルヴィ達のために来たようなもの。

 あまり長居しても申し訳ない。

 裁定者を何とかして、次会う時はちゃんと話たいものだ。

 手を軽く振りながら、距離と距離は段々と離れていき、そして群衆の中へと消えていく。


 「確か、彼らは国際戦に出ていたな?」

 「よく覚えてたな。日本代表で出てたよ」

 「やはりな。それで?」

 「え?」

 「あの男はお前に何を聞いていたんだ?」

 

 光太郎の静かな問いかけの内容を暴露しろと。

 その表情は何とも、満面の笑みだ。

 傍から見たら清純で潔白なのかも。

 ただ俺には————


 「さあ教えてくれ。それとも言えないのか?」

 「いや、ちょ、そんなゴリゴリ来なくても……」

 

 キレイな薔薇には棘があるという。

 だが完璧なメイド、シルヴィの笑顔は華と()を持っているように思えた。

 

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