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「「————強化同調」」
青の大気に黄金の嵐。
吹き荒れる2色の輝きが身体を包む。
リンクする思考、インクは混色、ウィング生えて何処までも。
シルバーのリングが誓い、視界は共有、証を打ち立てる。
「久しぶりに合わせたけど……」
「問題はないな」
接触不良を起こすマシーンみたいにはならず。
殺す慢心、研ぎ澄ましていく精神性、刀身は心、肉体は柄となる。
物心二元論も物質一元論も関係なし、デカルトも黙るオカルト怪奇現象。
脳筋流は公式を軽く踏みにじる。
「そしてこれが魔法か、私も————」
「っ待てエイラ!」
「魔法! 発動!」
強化同調はお互いの全てが共有される。
俺はエイラの強化能力なんかを一時的に使用できるように。
逆も然り、エイラは同調や魔風、そして魔法を使えることになる。
ただ簡単に扱えるわけではない。
繰り返す努力も必要、だが大前提となるのはぶっちゃけセンスだ。
なんでもこなせる器用な手管が必要に。
俺でも相当時間を有した魔法、基礎も何もない、初見でエイラが放とうとすれば————
「っぶほ……」
俺もやった、魔力の過度行使、つまりは爆発。
魔法は失敗、エイラが全体的に焦げ臭くなる
身体は強化で覆っていたからいいものの、服にはかけ忘れチリチリに、結構な虫食い穴が誕生。
「はあ、言わんこっちゃない」
「普通に使えると思ったんだがな」
「エイラ不器用じゃんか。そもそも同調も魔風もロクに使えないのに」
「むむむ……」
エイラの不器用さは今に始まったことではない。
近接戦闘においては野生の勘、天性の反射神経があるものの、他はからっきし。
同調や魔風という放出系の能力はてんでダメ。
一応使えはするものの、実戦では役立たず、突っ込んだ方が数百倍強い。
つまり強化同調の現状とは、2人で強化を掛け合い、視野の拡張、手数の倍増という単純なものになっている。
(エイラがもう少し同調なり魔法が使えればいいんだけどな……)
言葉には出さないが筒抜けに。
言わんとすることは既にエイラの脳内に。
「自分で言うのもなんだが無理だ。加減が出来ん」
「そうだろうな。もともと強化で身体を暴走状態にしてるようなもんだし」
「となるとユウは凄いな。普通に使えてる」
「まあな」
エイラには暴走と言ったが、自分自身、これで苦労したことはない。
普通に使えるし、普通に戦える、割り切りというのだろうか。
しかし出来ないは出来ないで仕方なし。
エイラの魔法発動も無事失敗したことだし、練習メニューを再構築。
あとはその焦げた服装を直さなければ。
「師匠、エイラの服を直してもらえませんかー」
「……私はユウ以外のことはしたくないんだけど」
「ししょー頼む!」
「貴方に師匠と呼ばれる筋合いは————」
「ししょー!!」
「分かった、分かったから。ただ師匠ではなく魔女王と呼びなさい」
どうやらエイラは師匠の魔法を直に見たいようだ、正確にはくらってみたい。
興味があるのだろう、なにせその腕は世界随一。
少し離れていた師匠から魔法陣展開、みるみるうちにエイラの服が修復されていく。
「おおー!」
「やっぱ凄いよなあ」
弟子たる俺でもここまで美しい式は立てられない。
四季折々を想起させる幾つもの組み合わせ。
魔法の完全体、完成体、関係ないものは排除した究極性。
「それにこんな空間も創りだせる。魔法というのは面白いな」
「だろ?」
「早くユウも出来るようになってくれ」
「そう簡単な話じゃないんだよ」
俺たちが居るのは何もない所。
正確には創造された疑似空間。
修練のため、俺の家をゲートとし、師匠に魔法で創ってもらった。
ここならどんな派手なことをしても被害は無し。
技を練習するのにこんな適した場もない。
(まあここまでの大きさになると、魔力の消費もとんでもないんだろうけど)
しかし当の本人は涼しい表情。
流石と言うばかり、無駄がない分こうして持続できるのだ。
俺も空間想像は出来はするものの、ここまで洗練されたものにはならない。
「それとユウ、謎の力とやらは見つかりそうなのか?」
魔法の次は危機を救ったあの力へと。
あの、と称してはみるものの内容は一片として行方知れず。
ブラックアウト、パンドラの箱みたいに異彩を放つ。
触れることも叶わない。
むしろ触らぬ神に祟りなしと解釈すべきなのか。
「面白いほど分からないな。何を起こす力なんだか」
「いや、私には分かる気がするぞ」
「は?」
「繋がっていて感じる。こうグググっと溜めてバンと決めるんだ」
「もしかして————」
確かに俺たちは今まったく同じ武器を持っている。
俺ではなくエイラが勘づき、発現する可能性は十分に。
まさかこんなことで導き出せるとは。
「じゃあやってみるぞ」
そう言ってエイラは本気モードに。
静かに目をつむり、気迫を高める。
これには遠目で見ていた師匠やレネも注目。
ここに居る全員がエイラの放つ答えを欲していたからこそ。
「————ふん!」
聖剣を上から下へ、揺れることのない美しい一直線を描く。
軌道は残像を。
世界にどんな影響を及ぼすのか、固唾も飲めない期待感。
感覚歓喜のカンターレ。
しかし変化は一向に、エイラが剣を振り切ったまま固まっているだけ。
「なにも、起こらない……?」
時間差で生じる能力と思いきや、何も変化は見えず。
これじゃ普段の素振りと一緒。
空気に劔が、注意はただの無口に、緊張感が段々と薄まっていく。
姿勢を起こすエイラ、真剣な顔で俺を捉える。
「はっはっは! ダメだった!」
「……」
「上手くいくと思ったんだがなあ」
出来そうと言った言葉に嘘は無かった。
なにせ感情は俺に伝わっているから。
だからこそ期待したのに、しっかりテンプレ通りのオチを。
師匠もレネもガッカリ顔である。
「まあいつかは出来るようになる!」
「いつかじゃ困るんだよな……」
「急がば回れという言葉があるぞ」
「……おお、エイラのくせに難しいこというじゃんか」
「ユウの頭に浮かんでたのを読んだだけだ。意味はよく分からん」
「……」
もう呆れて追いつかない。
ただ俺の頭を読んだという行為。
それが成り立つというなら、謎の力をどうやって発動させようとしたか、俺もエイラの脳から輸入すればいい。
しかしエイラはその力を独特独自の感覚で振るおうとした。
普通の日本人が古代エジプトの石板を読めないのと同義。
それは意味不明のカタログ、まったく参考にならない。
「そしてだ」
「そろそろお腹が空いてきた、だろ?」
「うむ!」
「……まあ今日はもう無理そうだし。潔く引き上げるか」
「そうしよう!」
国と国の時間差にはだいぶ馴れた。
再会初日であることだし、今日ぐらいは軽くでいいだろう。
強化同調を解除、師匠に旨を伝え元の世界へと帰る。
切り換え重要、一旦鍛錬のことは保留。
(この後もこの後で色々不安なんだよな……)
年末だけあって父親も出張から運よく帰還。
つまりは家族勢揃いというわけ。
そしてこの後にあるのはエイラが楽しみな夕食。
食卓に並ぶのは家族に加え、エイラ、レネ、師匠。
この面子で不安にならない方が可笑しい。
(何も起こらないでくれよ……)
しかもヨーゼフから大量のお土産を貰った。
その中には沢山の食べ物、そして酒がある。
新たな面子は大食漢のエイラ、そして酒癖が悪すぎる師匠が居る。
起こらないでくれと願いつつ、きっと思いは届くまい。
血生臭い戦いとは一味違う戦場が。
俺の中には悟りという名の諦めが渦巻き始めていた。