表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 9 -Dream to see on The Eve 《戦前夜に歌響く》-
152/188

122

 「行ってきますお嬢様」

 「気を付けなさいシルヴィ」

 「はい」


 西欧が主要国、フランスのとある地。

 豪奢な邸宅を旅立とうするのは1人のメイドだ。

 薄金色の髪はセミロング、肩まで真っすぐと。

 姿勢は揺ぎ無く、面は真向を、眼光にも曇りは見えず。

 まさにメイドの理想像、実力をかみすれば22世紀最強のメイドと呼べるだろう。


 「それと、言いたいこと、ちゃんと済ましてくるのよ」

 「どういう意味でしょうか?」

 「ムシュー変幻よ」

 「……ユウ、ですか」

 

 最強のメイドは研ぎ澄まされていた表情に暗さを宿す。

 脳裏には変幻のことが。

 

 「私は別に……」

 「やらない後悔より、やる後悔。あのニュースからずっと暗いんだもの」

 「……」


 あのニュースというのは四道 夕とエイラ・X・フォードの交際について。

 なんでも指輪まで渡したそう。 

 ただメイドの主たるマリー・エトワールは気付いていた。

 従者たるシルヴィが変幻と呼ばれる少年に、多少なりとも好意を抱いていると。

 これまで長年付き添ってきて、色恋沙汰なんてものは一切なかった。

 その中で唯一、度合は明確でないが遂にの訪れ。

 ただその希少な回も、挑む前に取っ払われてしまった。


 「ユウは、約束を守ってくれませんでした」

 「あのスケジュールなら仕方ないでしょう。戦いの後は留年に学園祭に任務まで、今度は魔女王に攫われて裁定者と戦闘」

 「それは、そうですが……」


 シルヴィ自身も、理解はしている。

 彼の人物が常に渦中の中心にいるということを。

 暇という暇はなく、日々戦いに巻き込まれ、巻き起こすの繰り返し。

 情報によればイタリアに居た時間も僅かなもの、それでは隣国だろうとフランスに来れるはずもない。

 そんな常識的なことは分かっている、ただそれでも————


 「でも、一報くらいは欲しかったかした?」

 「……はい」


 連絡先も交換はしている。

 もちろんシルヴィからアクション起こしてもいいわけだが、そこはプライドなり気持ちの問題だ。

 

 「それがね。貴方宛てにさっき届いたのよ」

 「え」

 「ユウ・ヨンミチから手紙? まあメッセージが来てたのよね」

 「ほ、本当ですか?」

 「まあ随分特殊な形ではあるけどね」


 そう言って主が懐から取り出したのは1つの封筒。

 そして開帳、しかし中には紙なんてものは入っていない。

 ただの空の封筒である。

 シルヴィは訝しむが、突然————


 『あーもしもし』

 「ふ、封筒が喋った……?」


 封筒が途端に喋り出す。

 すると薄紫色の映像? のようなものまで出てくる。

 クルクル回るまるで投影、録画した映像を流しているようだ。


 『実は師匠、魔女王の元で修業してまして、なんとか魔法が使えるようになりました』

 

 開始早々何を言っているのかこの男は。

 国連の調査では奪取されたとしていたが、勘違いだったのか。

 兎に角として、かくかくしかじか、本人曰くこれは魔法便というらしい。

 普通の手紙では届くのが間に合わなくて、この形になったそう。


 『えっと、シルヴィ』

 「……」

 『すいませんでした!』

 

 見事な土下座である。

 主たるマリーは感心気味、ただシルヴィは驚きで支配される。

 あの変幻とまで呼ばれる、自分を揶揄(からか)ってばかりだった男が額を下している。

 出会いを想起、寿司探しで路頭に迷い、シルヴィ自身が土下座して関係がスタートしたことを。


 『言い訳は、しても意味ないと思う。ただ約束守れなくてすまん。連絡遅れてすまん』

 「……」

 

 表情は見えないがちゃんと真剣なのは伝わってくる。

 フザケは無く、上辺うわべだけでも無い。

 その姿勢は誠心誠意の言葉が相応しい。


 『そこで、まあおこがましい話なんだが、日本に来た時にエスコートさせてくれないか?』

 「……エスコート」

 『日本も案内したいし、あとメイド服を買いに行こう! 可愛いやつ!』

 「……」

 『許してくれるか分からないんだけ————』

 『弟子はそんなことより私と修行をするべきよ』

 『んなことより我と剣戟しようぞ!』

 『あ、ちょっと待て! 今大事なメッセ、ぎゃあああああああああああああああああ!』

 

 どうやら途中で銀神、そしておそらく魔女王の介入が。

 本当に魔女王が陣営に加わったかと思う。

 ただ関心は紙越しの絶叫が響いて中断、まるで顔面に迫る銃弾、その大変さが伝わってくる。

 投影される身体からも焦げたのか、プスプスと煙を上げている。


 『ご、ゴタゴタしてるけど、今度会った時————』

 

 今度は大爆発、紫粒子が飛び散る。

 手紙の内容はそこで終了。

 了解も得ずに一方的に途絶えてしまう。

 ただ最後の台詞は掻き消され気味ながらも、色濃く鼓膜に轟いた。

 

 「デートしてくれ、だそうよ」

 「……ふふ。……相手がいるだろうが」

 「あら笑うの? それと素が出てるわよ」

 「失礼しました。ただ相変わらずバカだなと思いまして。それにこんな支離滅裂な手紙を寄こされても困るというものです」

 「その割には楽しそうじゃない」

 「そうですか? まあ愉快ではありますね」

 

 普通こんな中途半端で意味不明の文面は好まれない。

 ただシルヴィという人間は、送り主からの気持ちをしっかり受け取れていた。

 それは同じ天才という面からなのか、はたまた共に戦ったから。

 最もは強い力を持ちながら不格好で不器用、その人間性は自身と似ていると静かに本能が理解しているからか。


 「ユウの割には頑張った方でしょう」 

 「じゃあ日本で沢山買ってもらいなさい。なにせエリクソンが後ろに付いたそうだし」

 「ふふ。そうですね。思う存分絞りとってくるとしましょう」


 謝罪の気持ちは伝わったとは言え、反故は反故。

 愚か者が相手、その言葉に甘えて、相当の土産を積ませる気に。


 「それとお嬢様、彼を異性として好き(・・・・・・・・)なのか、まだ私には分かりません」

 

 マリーはそれを恋心と呼んでいる。

 だがシルヴィには、これまで主に付きっきりの人生。

 異性と触れ合う、それは最近ようやく訪れ始めたこと。

 この新鮮な感覚、聞いて何故か落ち込んだ日、答えを出すのは日本に着いてからでも遅くはない。

 

 「言いたいことは、山ほどあります」

 「そうね」

 「ですが考えすぎるのも馬鹿らしいですから、全部ぶつけて来ます」

 

 シルヴィの中の曇り空は完全に晴れたわけではない。

 ただ僥倖かどうなのか、変幻と呼ばれる男の手紙は確かに彼女を前進させた。

 それが良い方向か、悪い方向かは別としてだが。

 

 「行って参ります」


 冥土送りとまで恐れらるメイドは集いの地、日本へと向かう。

 エイラ・X・フォードによって名付けられた部隊、最強の脳筋アルティメット・パワーズ

 命名不適切だと風評された時もあった。

 ただ集う面子は文字通り、やはり二癖も三癖もある連中であった。















 ヨーロッパ中西部、軍制が最も強い、欧州における経済主要国、その国の名を————


 「「「「「ドイツ最高!」」」」」

 

 そう、ドイツである。

 我が国を最高と褒めたたえながらの行進。

 ここは軍制の能力育成機関。

 冬の寒さ、凍てつく雪にも負けず、祖国への愛を空に伝える。

 ドイツの未来を担う学生の一糸乱れぬ動きが大地に並ぶ。


 「————準備はいいかね、ヘルツガー君」

 「————問題ありません」

 

 そんな他国から見たら可笑しなれんちゅ、いや、意識が高い学園で1つの会話が。

 1人はこの学園の長、相対するのは、外の行進組の中でもトップの成績を持ち、変幻と同じく最年少でSS級に認定された少年(・・)

 天才、『鎖』のヨーゼフ・ヘルツガー。

 グレーの長めの髪を小さく1つに結ぶ、体格は小柄、一見美少女だが性別は男である。


 「敵についてだが……」

 「裁定者についての資料は暗記しています」

 「流石に仕事が早いな。ならば後は————」


 静寂訪れる空間に目が光る。

 言わずもがな、ヨーゼフは学園長の言わんとすることを既に理解している。

 いや、その心意気は常に掲げるもの。

 命忘れても、それだけは決して忘れない。


 「「ドイツさいこうううううううううううううううう」」


 数拍おいて何故かタイミングが合う。

 ドイツ国民には当たり前と言わんばかり。

 脳を揺らし腹から声をだす。


 「世界への貢献はドイツ愛を持ってこそ成り立ちます!」

 「うむ!」

 「私はドイツ国民の1人! ソーセージもビールも必ず守ります!」

 「うむ!!」

 「つまり! ドイツは最高です!!」

 

 これでもかという自信の表れ。

 傍から見たら変人にしか見えないが、学園長も納得した様子。

 常人、一般人には見えない何かがあるのかもしれない。


 「素晴らしい愛国心、合格だ」

 「ありがとうございます!」

 「君になら安心して任せられる」

 「はい!」


 彼もまた最強の脳筋の一員。

 色んな意味で有名な部隊の人間だ。

 国連の召集に応じ日本へ向かう。

 綺麗に反転する身体、部屋を出て宿舎へと、フライトへの最終チェックを行う。


 「————緊張したぁ」

 

 学園長との面会を終え、人いない廊下の道のりで吐露。

 ヨーゼフの言葉に嘘は無い。

 真の愛国心を胸に秘めている。

 ただ上手くはいかないイメージ図。

 もともと気が小さい性分、軍制を伴うここのシステムにおいて、学園長は中将という身分も持つ。

 そんな目上との滅多に無い機会、それに負荷を感じないわけがない。


 「明後日には日本、皆に会うの嫌だな……」


 なにせ自分兎も角、ドイツを叩く人間が多いから。

 脳筋とか、メイドとか、エクソシストとか、もう全員だ。 

 いや語弊、9割が正確な数字。

 

 「ユウだけは違うもん。僕のことしっかり見てくれる」


 最強の脳筋において唯一の同い年。

 この見た目に、そしてドイツに対しても全てを認めくれた人物だ。

 少なくともヨーゼフはそう思っている。

  

 「あ、そうだ。ユウにはお土産買って行ってあげよ」

 

 装備に抜けが無い万全耐性。

 そこには喜ぶと信じてソーセージ数百本、お菓子は数十キロ、酒も相当、それ以外にも諸々が追加された。

 後に別途荷物として積まれる多すぎるその土産たち。

 ちなみに、受け取った男はヨーゼフの満面の笑みに対し、なんとも引きつった笑みを浮かべていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ