10.5 with after class
「あーおはよう諸君」
俺の名はエイガー・グレフィス。
セント・テレーネ学園で教員の職についている。
勤務歴は今年で7年。
現在担当してるのは1年Aクラスだ。
毎年優等生が集まるこのクラスだが、 今回は話が違う。
日本からの編入生、 ユウ・ヨンミチの存在だ。
事前に政府から『厳重注意』とまで言われ、 ここ数日は観察をずっとしていた。
授業での模擬戦も、 実力を見るために編入初日ながら無理にやった。
だが政府が言うほど特に問題があるところはなく、 本人の能力、 人間関係、 どれをとってもあのエイラ・X・フォードのような変わっている点はない。
ただ、 模擬戦の最中、 能力を発動する前に一瞬、 一瞬だったが、 とてつもなく冷たい目をしていたのが今でも頭に残っている。
冷静な判断をしていたから、 といえばそれで終わりだが、 例えが悪いかもしれないが魔王にも似た殺気が含まれていたように感じた。
ただこれは俺の第六感、 生徒たちは感じていないようだし、 気のせいとも考えられる。
異常なし、 と今は学園長に報告している。
彼自身、 基本常識人らしく、 エイラ・X・フォードのような奇行には走らないだろう。
ま、 俺は俺の仕事をするまでだ
「では出欠をとるぞ」
ダンガス・ゴーデン、 ザック・エルフィン…………
ん?
「ユウ・ヨンミチは欠席か?」
ぽっかりと空いていたのは一番後ろの席。
そこはユウ・ヨンミチの席だ。
編入したばかりで疲れでも出たのか?
「トニー・モーガス、 ヨンミチとは同室だろう、 体調不良か?」
慣れない環境だ仕方ない。
にしても同室ならばモーガスも早く言えばいいものを。
「えーっと……」
「まさか知らんのか?」
「いや、 そういうわけじゃないんすけど……」
「なら早く言え」
なにか不都合でもあるのか?
モーガスは言葉を発しない。
「起きたときに、 もうユウの奴はいませんでした」
「なに?」
「……それで手紙が置いてあったんすけど」
「手紙、 だと?」
言葉を濁すモーガス。
にしても手紙、 一体内容は————
「ちょっと魔王を倒してくるって……」
「…………」
魔王だと?
なにを朝からバカなことを言っている。
まさか先日頭を殴ったせいでおかしくなったか?
「冗談はよせ。 本当のことを言えモーガス」
「いやホントですって! フォード先輩と一緒に!」
「フォード? エイラ・X・フォードか?」
「そうですよ!」
エイラ・X・フォードがここで出てくるだと?
いったいどうなってる。
頭が回らん。
ヨンミチとフォードが魔王を一緒に倒しに行く、 アイツらバカか……?。
手紙のことを聞き生徒たちがザワつく。
様子を見るに皆知らないようだ。
イタリアに来てまだ数日、 観察をしていたが、 なにかを企てているような雰囲気はしなかった。
となれば決めたのはいつだ?
まさか魔王討伐を昨日決めたということはないはずだ。
それで翌日出発など考えられんぞ……
「エイガー先生!」
「……ミレアム、 先生」
勢いをつけ扉があけられる。
焦ったように入ってきたのは、 ミレアム・ローディス。
俺の同期で、 2学年のAクラスの担当教諭である。
同じくしてエイラ・X・フォードの担任でもある。
「朝、 フォードさんの机に剣で彫られていたんですが……」
「なんと……?」
「ユウと魔王を倒してくる、 と」
「……まじかよ」
どうやら政府の見立ては正しかったらしい。
負けず劣らず、 やはり彼女と同類、 普通ではなかったようだ。
「とりあえず学園長に報告するしかないな」
「急ぎましょう!」
はあ、 ここで急いでも間に合わんだろう。
きっとあいつらは今頃、 空を飛んでるか、 はたまた海を渡っているのか。
やはり天才にここは狭すぎるか。
もう好きにやれってんだ。
(ただ減給だけは勘弁して欲しいぜ……)