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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 8 -Starting of the END 《魔女王の後継者》-
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 「し、師匠、許してください……」

 「これは無茶をした仕置きよ」

 「ううう……」


 魔法式石抱。

 ダメな弟子には鉄槌フルコースを与える。

 

 (ダメと言っても、出来が悪いとかそういう話じゃないけど)


 根本的な話、魔法の考え方、取り組み方については兎も角とし。

 真剣にやってる、努力していることも認める。

 しかしその才能、論理と非論理の合わさったスタンスが問題なのだ。

 

 「あの魔法を使うのは禁止よ」

 「わ、分かりました……」

 「まったく、お陰で魔力ゴッソリ持ってかれたわ」

 

 魔力を纏って殴るという横暴。

 魔法使いを否定する技法、美しいとは言えないし、理にも適っていない。

 しかし、形は成している。

 最高位の魔法壁で防げたから良いものの、未だに身体は痛みで軋んでる。

 出る杭は打つべきか、それとも見守るべきか。

 

 「私の経験からするに、あの使い方は『命』を削るわ」

 「寿命ってことですか?」

 「魔力を作る心臓への負荷が大きすぎるの。長くは持たない(・・・・・・・)

 「……戦闘的にも人生的にも、か」


 弟子が頂きの紫鎧(オーバー・ドライブ)と名付けたそれ。

 確かに一時的な攻撃力は私を超えていた、しかし燃料については酷いの一言。

 あんな使い方をしたことは無いし、考え付きもしない。

 相方たる聖剣使いを真似たようだが————


 「貴方には貴方の戦い方がある。模倣する必要は無い」

 「そうは言いますけど……」

 「ここまで修めただけ大したもの。落第点なんてつかないわ」

 「……」

 「だから今あるものを……」

 「師匠————」


 今以上の無理する必要はない。

 挑んでそのまま失敗してあの世行き、全然あり得る話だ。

 自分なりに止めているつもり、ここから先は危険だと。

 言葉で手渡す棄権の切符、しかし————


 「今のままじゃ裁定者・・・は倒せませんよ」

 「……な!」

 「師匠が裁定者を殺す気だってのは察してます。そしてその成功率が低いことも」

 「……」

 「何故っていう理由は知りません。だけど師匠1人で挑ませるには強すぎる相手だ」

 「まさか、ついてくる気なの……?」


 ここまで共に過ごして約1ヵ月。

 軽くは兎も角、明確に口に出したことは1度だって無い。

 しかし口振りは勧告のようにも援助のようにも。

 裁定者の強さを実感しているからこそか。


 「ハッキリ言いますけど、裁定者と師匠、7対3が良いところじゃないですか」

 「……根拠は?」

 「まず単純に基本スペック、地が違いすぎます。それと近接戦、突入すればかなり苦しい展開になる。それから————」


 ここまで考えていたのかと驚くくらい、ズラズラと考察を羅列していく。

 確かに裁定者は宇宙そのもの、前世界で戦った時も魔法が奥底まで刺さることは無かった。

 正確には、刺さるくらいの超魔法を撃たせてくれなかったことにあるが。

 そして回避についても、転移魔法が無限に出来るわけではない。

 長引けば長引くほどこちらが不利、相手にスタミナ切れなんてものは存在しないのだ。

 つまるところ真正面から打ち砕くしかない、力で上回る道だけが唯一の仕方。


 「真理を掴みたいってのあります。だけどまず、俺は師匠に負けてほしくない」

 「ユウ……」

 「相棒も恩人も、大切な人を失うのは嫌なんです。だから無茶でも目指さなきゃいけない」

 「……」

 「魔女王の隣に何が何でも。なんせ俺も一緒に倒しに行くつもりなんですから」

 

 誰が弟子の人間性を育てたか。

 親か聖剣使いかそれとも友か、私ではない。

 私はそんな真っすぐな瞳は持っていない。

 魔法使いとしての後釜、ちょっと気に入ってるだけの人間、だけだというのに————


 (そんな目を向けらたら、頼りたくなってしまうじゃない)


 ここまでの話を要約。

 つまりは決戦があると見込んで、裁定者を倒す新たな技を欲した。

 それは真理と同時に、周りを守るために。

 なるほどバカみたいに一直線、ただその線上にいるその言葉は心に響いてくる。


 「はあ、私の負けかしら」

 「負け? 何がですか?」

 「な、なんでもないわよ……」

 「そうですか」


 私の仕置きにも大分馴れた様子。

 何時もだったら追加を掛けるが今回は少し真面目に。

 

 「私と一緒に戦ってくれる、その認識に間違いはなわね?」

 「もちろん」

 「途中退場は受け付けないわよ?」

 「重々承知です」


 元々ソロで挑むつもりだったが、パーティーに追加メンバー。

 それは剣士でも商人でも盗賊でも、脳筋気味な魔法使いだ。

 こちらの人間に頼るつもりは毛頭なかった。

 むしろ嫌だった。

 しかし弟子ならば、ユウだからこそ認める。

 だとするなら打開策を、近接魔法が欲しいのも事実、あの鎧魔法に何を付け加えるか————


 「さっき私は、聖剣使いの模倣をするなと言ったわ」

 「でしたね」

 「魔法は進化する。あれを自己流にカスタマイズすれば、あるいは……」

 「使える見込みがあるってことですか!?」

 「まだハッキリとは。いかせん難しい式の組み合わせになるもの」


 聖剣使いのスタイルを真似るのは良し。

 ただ、そのまま持ってくるからダメなのだ。

 その脳筋スタイルを自分の中に消化、そして開花させる。

 ユウにはユウの戦い方、聖剣使いにないところに、ユウの天才性や器用さが混じればもっといい形になるはず。

 一層怪物性が増してしまうかもしれないが。

 寿命というものを消費しなくても、かなりの出力出せるエンジンになると思う。


 (近接に強い魔法使い、確かに居たら頼れること間違いないわね)


 強い魔法にはやはり詠唱は必要。

 今のユウの魔法練度なら多少は、しかも今は封印しているが同調(シンクロ)銀神(エレネーガ)もある。

 残る期間、少なくともあと1ヵ月間は、希望はまだ輝いているのだ。


 「これからの1ヵ月は、あの魔法の改良に費やすわ」

 「頂きの紫鎧(オーバー・ドライブ)にですか……?」

 「それが完成しなかったら、裁定者との戦いには連れていかない」

 「え!?」

 「当たり前よ。普通の魔法使いでは話にならないもの」

 

 自分の言っていることメチャクチャ。

 矛盾点ばかり、最初否定したのに流されてか肯定してしまっている。

 だがもうよしとしよう。

 私が受け入れなかった魔法使いスタイル。

 それがもし完成してしまうのであれば、信じるしかあるまい。

 予測不能という要素こそが、裁定を揺るがす一番のものなのかもと。


 「私も手伝う。でも脳筋は程々にして……」

 「あくまで自己流、俺には俺のやり方がと」

 「貴方は天賦の才があるもの。それをもってすれば違う真理がきっと見えるわ」


 どんな神がここまでの天才を生んだのか。

 そして私に引き合わせたのか運命はどう進むのか。

 あの日から初めての感覚、私はユウ・ヨンミチという人を信じてみようと思う。

 

 (お父さん、お母さん、エミル、私はようやく希望を見出せたのかもしれないわ)


 亡き両親と親友に捧ぐ。

 かたき討ちが成したこの形、生きた意味を体現させる。


 「……師匠、師匠、ししょー!」

 「な、なにかしら?」

 「いや上の空だったんで。そろそろ拷問止めてくれません?」

 「拷問じゃなくて愛の鞭よ」

 「それ一緒です」

 「まあ、そろそろ遅いし寝るとしましょうか」

 「わーい」


 夕食も今日はいいだろう。

 流石に疲れた。

 衝撃とか感動とか色々ありすぎて。

 そしてどうやら弟子は、寝るという休まる単語で解放をイメージしたらしいが————


 「明日の朝まで弟子はそのままよ」

 「はい!?」

 「逃げられないよう拘束魔法も強めておきましょう。あとは対空間魔法も」

 「ちょちょちょっと! 死ぬ! 死んじゃいます!」

 「これで死ぬようならなおさら裁定者は無理ね」

 「げえぇ……」

 「じゃあおやすみなさい」

 「お、おやすみなさい、です……」


 (まあ流石に明日に響くだろうし、後でコッソリ回復魔法かけてあげましょうか)


 手足拘束しての正座状態、下には三角柱の版が。

 いわゆるジャパンが江戸の創作物。

 ただ魔力を集中すれば痛みが軽減される仕様、気を張っていればそこそこの痛みで済む。

 まあ1度気を抜けば最後、痛みで絶叫することになるだろうが。

 これも基礎強化の一環である。


 (さてさて、明日からの修行はどうしようかしら————)

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